やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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寄り添い、そして歯車は回りだす。

 かおりとの再会を果たした日の夜、俺は半ば死んだ目で携帯を耳に当てていた。

 「なんの用ですか」

 『敬語とかウケる!なんか懐かしいっしょ?付き合ってた頃は毎日話してたじゃん』

 「そん時はメールだったけどな」

 最近は無料通話アプリとか出たし、通話代を気にしなくていいからな。技術の進歩に感謝感謝。

 「それで、何の用だよ」

 『別に用はないけど、やっと新しい連絡先も貰ったことだし話したいじゃん?』

 「貰ったとか嘘言うなよ。強引に聞き出しただけだろうが」

 あの後、普通に別れようと店を出ると、昔と変わらぬ笑顔で腕を掴んだかおりが連絡先を聞いてきたのだが、いろいろと面倒なことになりそうだった為断った。

 しかし、そんなことでへこたれるかおりではなく、数十分粘られた挙句、渋々連絡先を教えてしまったのだ。こういう強引なところには昔から困らされている。

 『ウケるー』

 「おい、お前ウケるって言えばなんでもやり過ごせると思ってないか?」

 『ウケるー』

 ハイ確信犯!かおりさんギルティィ!

 『それよりさー』

 結構重要なことだと思うんですけどね。主に君の将来的に。あと会話のキャッチボール的に。

 『なんか颯太先輩疲れてない?』

 「……」

 俺の周りにいる奴は超能力者か何かなのかな。めぐりもかおりも目敏く気づきすぎだろ。

 『無言のこうていってやつ?だね』

 「肯定の発音が幼稚だぞ。お前、仮にも進学校に通ってんだろ?大丈夫か?」

 『ほら、そうやって都合が悪くなると話をそらそうとする。いろいろ変わってもそういうところは変わらないんだね』

 かおりの声に俺を咎める様子はなく、むしろ懐かしんでいるようにも思えるほどあたたかい。

 こいつはいつもこうだ。何か隠し事をしていても俺を咎めることはしない。ただこうして隠してるんでしょー?わかってるんだぞーと笑うだけ。それでいて事実を聞こうとしない。

 「整形で顔が変わっても性格が変わらないのと同じだ。結局根付いたものはなかなか引っこ抜くことが出来ないんだよ」

 『ははは、そうだねー。ウケる』

 何がだよ……。

 『ま、今度どっか遊びにいこーよ!颯太先輩のリフレッシュってことでさ!』

 「えー。嫌だよー」

 元カノと遊びに行くとか何その罰ゲーム。俺耐えられる自信ないんだけど。

 『ぷふ!即答とかマジウケる!』

 「お前のウケるポイントがわかんねえよ。……そろそろ寝るから。じゃあな」

 『はいはーい。あ、そうだ』

 笑いを堪えながら返事をするが思い出したように声を上げる。

 『比企谷、颯太先輩に似てきたね』

 かおりの言葉が良い意味でなのか悪い意味なのかはわからない。しかし、俺がその言葉に対して返す言葉は決まっている。

 「光栄だね」

 

 

 休日明けの月曜日、そんな週で一番憂鬱な日の放課後、俺は今年何度目かわからない職員室への呼び出しを食らっていた。

 「俺、何か悪いことしましたっけ?」

 「いや、そうではない。そうではないんだがな……」

 シチュエーションはいつもと変わらない。しかし、目の前に座る平塚先生はいつもと目に見えて異なっていた。

 「……比企谷」

 俺を呼ぶ声にもいつものハキハキさがない。目尻は下がり、タバコの煙も気のせいだろうがいつもより揺れ幅が大きい気がする。

 「なんですか?」

 「雪ノ下が選挙に立候補するようだ」

 「……誰かに言われたとかではなく?」

 「ああ、雪ノ下は自分の意志だと言っていたよ」

 陽乃さんに金曜日に何か言われたという線もあるだろうが、雪ノ下さんがそれに流されるっていうこともないだろう。雪ノ下さんの言に嘘はないか……。まあ、一色ちゃんの言を聞いて思い至ったという可能性が高いだろう……。

 「まあ、適任だとは思いますけどね」

 「そうだな。弟もそう言っていたよ」

 既に八幡にも報告済みか。なら俺を呼ぶ必要もないと思うのだが、平塚先生にも思うところがあったのだろう。

 「私はあの空間が壊れるのが怖いのだよ……」

 怖いなんて言葉を一番似合わない人から聞くとはな。それほどまでに先生がきっかけを与え、あそこまで発展したあの場所が好きなのだろう。

 「そして、あいつらが私の手元から離れていくのが寂しいのだよ」

 「独占欲が強いですね」

 「ん?知らなかったのか?」

 「……いえ、知ってました」

 この人、知っていて当たり前だろう?みたいな顔を平然とするなぁ。俺はあんたの幼馴染か彼氏か!まあ、知ってるんですけどね。

 「大丈夫ですよ。あの場所を大切に思っているのは先生だけじゃないですから」

 「……そうか」

 「はい。あの三人もきっと同じ思いですよ」

 当の本人たちがあの場所を大切と思っていないわけがない。八幡や雪ノ下さんが素直にそう言うとは思えないが、心の奥底ではそう思っているはず。

 「そうか、ならいいんだ。わざわざ呼び出してすまなかった。こういう時は無性にお前と話したくなる」

 「別に慣れましたよ。酒に酔ってウザ絡みされるよりはマシです」

 まあ、しょっちゅうは勘弁してほしいが、たまにならこういうのもいいんじゃないかと思う。

 「あれは愛だ」

 「あんな愛があってたまるかよ!」

 「じゃあ八つ当たりだ」

 「そうだろうけど直球過ぎる!もうちょっと濁せ!」

 やっぱ八つ当たりかよ!生徒に八つ当たりとか教師としてどうなんだ。

 「注文が多い奴だな。最終的に私は食べられるのか?」

 「俺は料理店を営んでおりませーん!食べるならめぐりを食べますよ!」

 「えっと……不純異性交遊はいけないぞ?」

 「本気で心配そうな顔してんじゃねぇよ!」

 「やっぱり私を食べろ!」

 「食べるか!なんで期待してんだあんたは!」

 「期待させるようなこと言ったのはお前じゃないか!」

 「言ってねえよ!都合の良い解釈してんじゃねぇ!」

 先程までのしんみりした空気はどこへやら、俺達はいつものように騒がしく口論を始めた。

 その後、ここが職員室だということを忘れて口論を繰り返した俺達は教頭にこっぴどく叱られ、俺は職員室を追い出されてしまった。

 教師陣の生暖かい目がつらかったです。あと一ヶ月もすれば年が明け、少し経てば卒業。二年半以上続いてきた職員室での口論もできなくなる。それを見てきた教師も思うことがあるのか、最近はあんな目を向けられるようになってしまった。心なしか教頭の説教も短かった気がする。

 「ありがとう……か」

 職員室を出る際に平塚先生からかけられた言葉だ。

 その言葉を放つ平塚先生の顔は、いつものようにきりっとしていながら優しさを兼ね備えた美人に戻っていた。あの様子なら心配はないだろう。

 安堵すると同時に、俺は思考を奉仕部の方へと持っていく。

 一色ちゃんの相談を受けた雪ノ下さんは、自分が生徒会長になることで問題を解決しようとした。おそらく奉仕部のほうも両立を考えているはずだ。

 しかし、それができるだろうか?文化祭の時だって雪ノ下さんは仕事に集中しすぎて崩壊した。

 一つのことに集中するタイプの人間が悪いとは言わない。一つに集中すればそれだけ精度も上がるからな。実力も伴っている雪ノ下さんならば学校をより良いものにしてくれると断言できる。

 だが、それは奉仕部の崩壊を意味する。だから、奉仕部を守るのであれば、雪ノ下さんの生徒会長就任を阻止しなければならない。更に、それに代わる代案を考える必要もある。

 やることはいっぱいあるし、難しいなぁ。

 八幡。そろそろなんとかしないと前に進めないぞ。

 俺は頭の中に八幡と部屋にこもって勉強をしているだろう我が妹の顔を思い浮かべた。

 「あと……。いや、これはなしだ。考えから削除削除」

 本来であればもう一つ考えなければならないことがある。もう一つの可能性のことだ。

 しかし、俺はあえてその可能性を排除した。時には間違わせることもしなければならない。俺にとっての一番の優先は八幡なのだから。

 

 

 比企谷八幡という人間は誰かを頼るということを極度に避ける。まあ、頼れる人間が極度に少ないということもあるが……。やだ、自分の弟が寂しい子にしか思えなくなっちゃったわ!

 とまあ、冗談はさておき、それは俺達家族であってもそうだ。

 ならば、八幡を頼らせるにはどうしたらいいのか。それは、こちらから歩み寄るという行動が必要になる。

 「よ、八幡」

 「兄貴か……」

 電気も点けずにリビングに座っていた八幡へ声をかける。

 「雪ノ下さん、選挙に立候補するんだってな」

 「知ってたのか」

 「平塚先生に聞いた。それでいいのか?」

 「……別にいいんじゃないか?それが一番手っ取り早いわけだし」

 八幡は何かを隠すようにカモフラージュの言葉を並べる。

 俺にそんなものが通用するわけがないのにな。八幡の中にあるもやもやと焦燥感が駄々漏れだ。寂しいなぁ。

 「なあ八幡。俺をだますのか?俺に嘘つくのか?八幡がそれでいいっていうならそれでもいいけど。寂しいぞ」

 「……」

 「家族ってそういうもんか?一歩踏み出せよ。立てないか?だったら手を貸してやる。歩けないか?だったらおぶってやる。困ってるのか?だったら……話を聞いてやるよ。家族ってそういうもんだろ。迷惑なんてかけてなんぼだ。そうだろ?」

 「……」

 「なあ八幡。俺、結構奉仕部好きだぜ?」

 その言葉を最後に俺は口を閉ざす。

 そして長い沈黙の末、八幡はゆっくりと口を開く。

 「兄貴、相談がある」

 「ああ、聞いてやる。と言いたいところだけど、その前にやることがあるだろ?」

 「……ああ、小町と話してくる」

 そう言うと、八幡は勢いよく立ち上がると階段を上っていった。

 

 

 二十分ほど経っただろうか、静かだったリビングに扉の開く音が響く。

 「兄貴」

 「颯お兄ちゃん」

 「待ちくたびれたぞ、おぬしら」

 扉の向こうに立っていたのは八幡と小町だった。

 二人の距離は近く、寄り添っているようにも見える。二人の間にあった溝はどうやら埋まったようだ。

 「えっと……」

 「あー、その」

 二人はトコトコと俺の元に寄って来ると、きまずそうに俺を見る。

 そして、二人は目を合わせると小さく頷き、申し訳なさそうに俺に頭を下げた。

 「ごめんなさいでした」

 「悪かった……」

 俺は二人の言葉を聞き、たっぷりと間を持たせ口を開く。

 「まったくだ。勿論、八幡や小町と二人っきりっていうのも好きだけどな、俺は、八幡がいて小町がいて、そして俺がいる。そんな三人でいる空間が好きなんだ。この数日、俺がどれだけ寂しい思いをしてきたか」

 俺の言葉を聞きながら二人は険しい顔を更に険しくしていく。

 「でもまあ、こうしてちゃんと戻ってきてくれるなら別に問題ない」

 そう言うと、俺は頭を下げている二人を力一杯抱きしめた。

 「よかった……。愛してるよ、二人とも」

 驚いた様子の二人だったが、顔を見合わせ小さく笑うと俺の背中をさすってくれる。

 「小町も愛してるよ」

 「俺も……愛していないこともない」

 「……ぷふ、なんだよそれ」

 俺は目の端に浮かぶ涙をごまかすように小さく笑い、抱きしめる力を更に強めた。

 これでやっと動き出す。

 カチリという音と共に歯車が動き出したような感じを俺は覚えた。




どうもりょうさんです!更新期間が少し開いてしまいまして申し訳ございません!次からはもっと頑張りたいと思います!
さて、本編では兄妹が仲直りしました。なかなか暗いお話が続いておりますが、我慢していただけると幸いです!
暑くなってまいりました、梅雨にも入り気分が滅入ってしまうかもしれませんが、体調など崩されないようにしてくださいね!それではこの辺で失礼いたします!


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ツイッターもやっております!是非絡んでやってください!リプ下されば喜びながら、満面の笑みでお返しします!見せられないのが残念!

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