やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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どこの家にも喧嘩は存在する。

 八幡が修学旅行から帰ってきてから初めて迎える登校日の朝、いつもと変わらないはずの食卓は何故か微妙な空気に包まれていた。

 いつものように八幡が迎えに来てくれて、いつものように小町が挨拶をしてくれる。何も変わらないはずなのに何かがおかしい。その違和感の正体は俺も小町もわかっている。

 その違和感の発信源に目を向けてみても一向に目が合わない。小町も段々と目が細くなっていき、苦い顔で首を傾げる。

 「なんかあった?」

 少しの会話の末、ついに我慢できなくなった小町が八幡へ問いかける。

 しかし、いつもの無駄に長いどうしようもない軽口も更にどうしようもない。こういう時の八幡は調子が悪い、すなわち八幡が何かしらの問題を抱えているということだ。小町もそれをわかっているようで、はっきりと指摘する。

 そして、小町の口から雪ノ下さんとガハマちゃんの名前が出た時、八幡の機嫌が少しばかり悪くなるのを感じた。

 こりゃ、黒だ。

 その後も二人の会話は続いていき、小町は必死に何があったのか聞き出そうと絡む。それが繰り返されるたびに八幡の機嫌も徐々に悪くなっていく。

 そして、繰り返される問答は八幡の言葉によって打ち切られる。

 「……しつけえよ。いい加減にしろ」

 八幡のそんな言葉を聞いた小町は少しの間唖然とすると、肩を振るわせ大声で反論する。しかし、一度切れてしまった堰から水が止まることはない。

 八幡の語調にはイラつきが感じられ、それを隠そうともせず小町を突き放す。そして、小町も問いかけることをやめた。

 こうして、そうそう途切れることのない我が家の食卓の会話は途切れた。

 慌ただしく食器を片付けた小町はドスドスと音を立てながら部屋に戻り、まるで八幡にぶつけるように言葉を吐いて家を出ていった。

 小町のいなくなった食卓に響くのは、俺と八幡が飯を食べる咀嚼音と食器と箸が当たるときに起こる音のみだった。それに耐えきれなくなったのか、八幡は俺に向けて小さく呟く。

 「兄貴は行かないのか?」

 「もうちょっと時間あるからね。それに、八幡をあまり一人で行かせたくないし」

 「……怒ったかな」 

 「怒っただろうな。これから長いぞ」

 小町は怒りが持続し、静かに怒るタイプだ。怒った対象とは徹底的に話さないし、容易に話しかけられる雰囲気も出さない。これが意外にきつかったりする。小町が怒っている間、家の雰囲気は最悪だしな。

 「まあ、その期間が短くなるか長くなるかは八幡次第だけどな」

 八幡が動けばその期間は容易に短くできる。しかし、今の八幡にそこまでの決断ができるかと聞かれれば素直に頷けない。何かきっかけがあれば良いのだろうが、今現在で俺にできることはないし、黙ってみていることしかできないのだろう。

 「……兄貴は聞かないのか?」

 「聞いたところで八幡は答えてくれないだろ?それに、八幡が言いたくないことを聞く趣味もない。嫌われたくないからな」

 「そうか」

 八幡はそう呟くとそれきり黙ってしまった。

 そしていつもより長く感じた朝の時間は終了し、俺達は二人で会話もなく登校していった。

 

 

 学校へ登校した俺はクラスの仲間に挨拶を済ませ、今日も今日とて机に向かっているクラスメイトの邪魔をしないよう机に突っ伏した。

 朝からあんなことがあったからか、騒ぐ元気もないし、若干頭も重い為ちょうど良いといえばちょうど良いか。このまま寝てしまおう。

 徐々に周りの音が消えていき、やがて何も聞こえなくなった。

 

 

 「比企谷!」

 「うぉ!?は、はい!」

 大きな声と共に目を覚ますと、目の前には担任の山本先生が立っていた。

 やべえ、ついついホームルームまで寝ちゃったみたいだ。

 「や、山本せんせぇい。今日も格好良いですね!ハンサムですよ!」

 「そっかー!ありがとう比企谷くーんっ!……言い訳は?」

 「ありません」

 そのあと滅茶苦茶説教された。

 「はぁ、次からは気を付けろ」

 「了解であります!」

 普段の行いが良いと説教だけで済まされるから得だよね!俺は授業中寝ることがないからな。先生も最後は珍しがってたし。

 やがてホームルームが終わると、隣の席でずっと俺を眺めていためぐりが話しかけてくる。

 「ねえ颯君」

 「なんだ?」

 「一色いろはちゃんって覚えてる?」

 一色ちゃんって言えばあの一色ちゃんだよな。覚えてるも何も最近一緒に飯食ったしな。

 「覚えてるよ。一色ちゃんがどうかしたのか?」

 「えっとね、生徒会長の選挙のことで相談されたんだけど、私だけじゃ解決できないから颯君も知恵を貸してくれない?」

 そっか、そういえばもうそんな時期だったな。ん?一色ちゃんが選挙のことで相談に来たってことは……。

 「一色ちゃん、会長選挙に立候補してるのか?」

 「うん、実はそうなんだ。だけどね、なんか自分で立候補したわけじゃなくて、他人が勝手に立候補しちゃったみたいなの」

 おいおい、それって軽いいじめじゃねえか。あの子、やっぱり敵が多いみたいだな。

 「それで、他に立候補者がいればよかったんだけど、立候補者がいろはちゃんだけでね?信任投票なんだよ。クラスからもすっごく応援されてるみたいで、どうしようもないんだって」

 なるほどな。確かに信任投票で落選なんて、あの一色ちゃんが自分のメンツ的に許すはずがないもんな。クラスから応援されてるってんなら辞退も難しいか。

 うーん。頭が痛いな。

 「やっぱ難しい?」

 頭を抱え唸る俺を見てめぐりは心配そうに尋ねる。

 「まあな。よし、放課後一色ちゃんを連れて平塚先生のとこにでも行くか」

 「やっぱりそうなるかー」

 「こういう時は信頼できる大人に相談するのが一番なんだよ」

 周りで一番信頼できる大人と言えば平塚先生だからな。平塚先生自体が何とかすることはできなくても、わずかな希望位は見出してくれるだろう。

 「てか、めぐりこんな時期に選挙のことやってていいのか?」

 「あれ?言ってなかったっけ。私、指定校推薦取れたから」

 え?初耳なんですけど。

 「どこの大学?」

 「颯君と同じとこ」

 「なんで」

 「颯君と一緒がいいから」

 うっそやん!俺そんなの一言も聞いてないんですけど!まあ、気を使って進路のこととか聞かないようにしてた俺が悪いんですけどね!

 「本当にその学校でいいのか?って言われなかったか?」

 「それは颯君もでしょ?」

 ごもっともで。

 「颯君は私と一緒じゃいや?」

 「いや、嬉しいよ」

 「じゃあいいでしょ?」

 「お、おう」

 なんだかめぐりに言いくるめられてしまったな。まあ、驚いたけど大学でもめぐりと同じっていうのは、正直言ってありがたいし、まあいいか。

 「それじゃ、また放課後な」

 「うん。……颯君」

 「まだなんかあるのか?」

 「……無理しないでね」

 「……?」

 めぐりのそんな言葉に俺は首を傾げることしかできなかった。

 

 

 「ふむ、話はわかった。しかし、まさかこんなことが起こるとはな……」

 放課後、俺は約束通り、めぐりと一色ちゃんを連れて平塚先生の元へとやってきた。

 話を聞いた平塚先生は苦い顔でタバコに火をつける。

 「何か良い案はないですかぁ?」

 「ふむ、難しいところだな。やらかした生徒には指導を行う。しかし、それでは一色の件はどうにもならん。……比企谷」

 「はい」

 一瞬考える素振りを見せた平塚先生は俺の名を呼ぶ。

 「この件、奉仕部に任せてみようと思う。どうだ」

 平塚先生の提案にいつもの俺ならすんなり頷いていただろう。しかし、今朝の八幡の様子を見るとどうも不安になってしまう。

 「懸念事項があるのだな?」

 「まあ」

 「……それでも、奉仕部に依頼する価値が、私はあると思うがね」

 「それは、一色ちゃんにとってですか?それとも、奉仕部にとってですか」

 俺は平塚先生をまっすぐ見つめながら問う。

 「どちらにも……だよ」

 「そうですか。平塚先生が言うならそうなんでしょうね。……奉仕部に任せていいと思いますよ」

 そうだ、きっかけが必要だと言っていたのは俺じゃないか。そのきっかけとなりえるものが転がってきたんだ。それがきっかけになるかどうかはわからないけど、それにすがってみる価値はある。

 「ふむ。では、早速行くとしようか」

 「あ、颯君」

 「ん?」

 奉仕部へ向かうべく平塚先生が立ち上がったところでめぐりが俺を呼ぶ。

 「奉仕部へは私達三人で行くから。颯君は先に帰っていいよ」

 「え?いや、俺も」

 「いいから。私の言うこと聞いて」

 めぐりの目には絶対に譲らないという意思が宿っており、いつものぽわぽわとした雰囲気は一切感じられない。

 「……わかった。頼んだぞ」

 「任せて」

 めぐりの笑顔に見送られ、俺は職員室を後にした。

 

 

 「ただいまー……。誰も帰ってないか。おー。ただいま、カマクラ」

 学校から帰宅した俺を迎えてくれたのは我が愛猫カマクラだった。

 「飯はまだまだ先だからなー」

 俺はカマクラを一撫ですると、着替えを行うためにリビングを素通りして部屋に向かう。

 「ふぅわぁ……ねむ」

 制服からジャージへ着替えると、猛烈な睡魔に襲われる。

 今日は異様に眠いな。頭も痛いし、体も重い。

 「お?あれ?」

 少し力を抜いた瞬間、いつもなら踏ん張れるところなのに踏ん張れない。俺はそのままベッドに倒れてしまう。

 「おいおい、まじかよ」

 やがて視界がぐるぐると回りだし、体が熱くなり、瞼が閉じていく。

 そして、完全に瞼が閉じ切った。

 こりゃ、あれだわ……。

 そう思った時、俺は意識を手放した。




どうもりょうさんでございます!
さて、今作の中でもとても重要なお話がやってまいりました。いろんなお話を考えておりますので、楽しみにしていただけると幸いです!
話の内容上、少しシリアスが入ってくると思われます。どうか、我慢して読んでいただけると嬉しいです!


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ツイッターもやっております!是非絡んでやってください!仕事終わりや投稿後にお疲れ!と声をかけていただくと懐くと思われます。

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