文化祭も終了し、俺達三年生は受験へ向けて一直線!と言いたいところだが、その前にもう一つ大きな行事がある。
そう、体育祭だ。
めぐり達生徒会にとっては行事の連続というのはあまり手放しに喜べないかもしれないが、一般生徒たちにとってみれば一大行事だ。とはいえ、めぐり達執行部も体育祭が嫌というわけではなく、めぐりなんかは最後の体育祭だから絶対に勝つ!と意気込んでいる。
まあ、唯一の懸念事項と言えば、俺がめぐりと同じ組ではないことだろうか。めぐりの奴、目に見えて落胆してたからな。
当初は実行委員長すら決まっていなかったり、目玉行事が決まっていなかったりなどいろいろ問題はあったようだが、めぐりが奉仕部と自ら協力して何とかしたらしい。
らしいというのは八幡から聞いたからで、俺は今回の案件について一つの助言すらしていない。というのも、委員長が決まらないということを聞いた時点で相談に乗ろうと思ったのだが、敵に相談なんてしません!とめぐりに一蹴されてしまったのだ。
あいつ、どんだけ組が離れたこと根に持ってんだよ……。
まあ、そんなこんなあって体育祭当日。
校内は文化祭とは異なるお祭り雰囲気が漂っており、皆のテンションは異常に高い。その中でも、毎年のことではあるが、高校生活最後の体育祭となる三年生のテンションは最高潮だ。
受験シーズンでピリピリしている三年生だ、こんな気分転換のできる行事があっても良いと俺は思うから気にはしていないが。
「颯太!勝つぞ!絶対だぞ!うははは!」
隣では先程から白組の誰よりもテンションの高い一が騒いでいる。とまあ、一が騒いでいるのに俺が黙っているわけもなく……。
「あったりめえだこの野郎!赤組に目にもの見せてやるぜぇ!者ども!声をあげぇぇい!」
と、白組全体を率先して鼓舞する始末である。
「三年生男子による百メートル走に参加する選手の皆さんは入場門にお集まりください」
「よし!じゃあ行ってくるぞ、一!」
俺が参加する百メートル走の選手の呼び出しを聞き、膝を叩きながら立ち上がる。
「おう!一位掻っ攫って来い!」
「了解!」
一の激励を受けると、俺は入場門へ向かって走り出した。
「次の種目は、三年生男子による百メートル走です!」
放送係のアナウンスと共に、数十人の三年生男子は駆け足で入場していく。そして、スタート地点付近で止まり、一組目がスタート地点に立ち、それを確認した平塚先生がピストルを天に掲げ勇ましい声に続けて引き金を引く。
『うおおおおお!』
それと共に静寂に包まれていた会場内が一気に盛り上がり、それを後押しするように定番の音楽が流れ始める。
「比企谷、今日は負けないからな」
順番を待っていると、隣に座る陸上部の男子が話しかけてくる。
実は何回か練習があったのだが、この男子には負けたことがない。というかこの組全員に負けたことがない。すなわち、練習では一位しか獲ったことがないということだ。
勿論、今回も負けるつもりはない。
「ははは!負けないぜ!」
そう答えると、俺達の前の組がスタートしていき、俺達はスタート地点へとつく。
「比企谷せんぱーい!頑張ってー!」
「負けないでー!」
「こっち向いてー!」
スタート地点についたところで、生徒達が待機する場所から黄色い声援が飛んでくる。悪い気持ちではないのだが、同じ組の奴等がこちらを睨んでくるのでちょっと控えてもらえると嬉しいなー……。
あの文化祭以来、後輩の女の子から声を掛けられることが多くなったんだよなー。やっぱ文化祭効果ってすごいな。まあ、めぐりの目がどんどん細くなっているし、あまり良いことばかりではないが……。
「位置について」
そんなことを考えていると平塚先生の声が発せられ、俺達はそれに従ってスタート位置につく。
陸上部の男子はクラウチングスタートの構え、野球部の男子は盗塁のような構え、様々な構えをする中、俺だけはたった一人ジョ○ョ立ちをする。
「……よーい」
平塚先生の眉がピクリと動いたが、気を取り直したようにピストルを天に掲げる。そして、引き金が引かれたと同時に俺達は走り出す。
「ぬはははは!」
俺はジョ○ョ立ちから素早く走行姿勢に入ると、全速力で声を上げながらトラックを走っていく。五十メートル地点で二位の陸上部君に三メートル程のリードをつけている状態だ。
七十メートルを過ぎても陸上部君が迫ってくることはなく、あっさりとゴール地点間近までやってくる。
「うおぁぁ!」
勝利を確信したその時、調子に乗ったバチが当たったのか足がもつれる。
「負けて……たまるかぁぁあ!しゃあおらぁぁ!」
完全に倒れる瞬間、咄嗟に地面に手をつき逆立ちのような格好になったあと、そのままブリッジの体勢へもっていきその足でゴールテープを切る。
「うおおおおお!腰がぁぁ!」
ぴきって、ぴきっていったぞ!
「おおぉぉうぅ……」
「だ、大丈夫ですか?」
腰を押さえる俺にゴール係が声をかけてくれる。
「だ、大丈夫!問題ナッシング!おーいてぇ……。腰折れるかと思った」
「あの、次の組がスタートできないので早くしろと平塚先生が」
「りょ、了解」
調子に乗ってすんませんでした……。後ろの組のみんなもごめんね。
俺は大きな笑い声の中、腰を押さえながら待機地点へと向かった。
「おーい、大丈夫かー。颯太君やーい。つんつん」
「おっほぉう!一君!今はやめて!お願いだから!」
競技が続く中、俺は一に連れられ救護テントへとやってきていた。
「あんなところで無茶するなよ、兄貴……」
「ふはは……。なんのこれしき……」
救護係である八幡の呆れた声を聞きながら、保健の加藤先生が貼ってくれる湿布を眺め苦い笑みを浮かべる。
うひょー……湿布貼るのは中学以来だなこの野郎……。
「弟君の言う通りよ。なんとか動けると思うけど……。棒倒しは危ないわよ?」
「それまでには治します……」
「いや、無理だろ。どんな回復力だよ」
「ふはは、我の回復力は果てしないのだよ……」
材木座君、俺に力を貸してくれ……。いや、無理でござるよなんて言わないでさぁ……。
「だめよ。ここで寝てなさい」
「ういっす……」
加藤先生に止められたらしょうがないな……。ここは大人しく引き下がるとしよう。
「一。あとは頼んだぞ」
「任せろ!ばっちり勝ってやるよ!」
一は寝たままの俺に頼りがいのある笑顔を向けてくれた。
くっそぉ……。なんか面白そうな競技だったのになぁ。悔やまれるぜ。
結果、白組の暫定優勝という形に終わった。
暫定というのは、最後の競技である棒倒しで反則行為があったらしく、両組とも点数の加算がなかったからだ。俺見てないよ?どこかの誰かさんが包帯でハチマキの色を偽装してたのなんか。救護テントからはグラウンド全体が良くみえたしー。良く見えすぎて、めぐりが見えるたび大声で応援しすぎて加藤先生に怒られたほどだし?
とまあ、暫定で何であれ、白組の優勝ということになった。
勿論、反論は多く上がったが、最後の体育祭であった三年生は楽しめたようで、それほど勝ち負けを気にしている様子もない。
わだかまりがないと言えばうそになるが、楽しかったのならこの体育祭は成功といえるだろう。
俺は腰の痛みが付随しているから何とも言えないけど。
「颯君、腰大丈夫?」
「おう。まだ痛いことには痛いけど、動けるし大丈夫だろ」
体育祭が終了し、俺は久し振りにめぐりと帰宅を共にしていた。最近は文化祭やらなんやらで忙しかったしな。なかなか時間が合わなかったのだ。体育祭は一切かかわってなかったし。
「もう、無理しちゃだめだよ?」
「気を付けるよー」
「むぅ!ほんとにー!?」
「ほんとほんと!だから腰をつつかないで!痛みは引いてないんだから!」
うへぇ……。こりゃ、帰ったら湿布貼り直さないといけないかなぁ……。
「ねえ、颯君」
「ん?」
腰から手を離しためぐりが俺の名前を呼ぶ。
「最近、女の子とよく話してるよね」
「お、おう?まあ、後輩の子から勉強でわからないところがあるとか、その他諸々相談されることが多いけど……」
「ふーん。今日もいっぱい応援してもらってたよね」
「お、おう……」
うーむ。これは、あれだ。嫉妬って奴だ。俺、鈍感じゃないからわかるよ。
まあ、それ以前につつけば大量の息が漏れ出そうな程膨らんだ頬を見れば一目瞭然だが。
「よかったねー。モテモテで」
「……はぁ。めぐり」
「な、なに?」
めぐりは俺の溜息を聞いて言い過ぎた?という風な顔を見せながら返事をする。
そーです。僕は不満なのです。
「確かに体育祭は楽しかった。でもな、俺は一つだけ不満だ」
「え?」
「今日、めぐりからの応援が一つも聞こえなかった。俺は騎馬戦の時めっちゃ応援したのに。てか、騎馬戦以外でも応援したぞ?聞こえなかったか?」
「聞こえた……」
先程の威勢はどこへやら、めぐりはしょんぼりと顔を落としてしまう。
「俺は後輩の女の子よりめぐりの応援の方が力が出るんだけどなー。めぐりは他の男子の応援の方が元気出るかー?」
「そんなことない!颯君の応援が一番だよ……」
一瞬上げためぐりの顔が再び下を向くと、俺はめぐりの頬を優しく包み顔を上げさせる。
「だから、お互い様ってことで。次からはこういうことがないように気を付けようぜ!あ、でも後輩ちゃんはどうすることもできないんだけど、どうしようか」
「……ううん。それはいい!もういいの!だから、応援しなかったの許して?」
めぐりはいつもと変わらない笑顔を見せた後、こちらを窺うような目で俺を見る。
「了解。じゃあ、この話はおしまい!さ、早く帰ろうぜ!」
「うん!」
まあ、最初から怒ってなんかないんだけどね。
そんなことを思いながら夕陽の沈む道を二人で歩き始めた。
どうもりょうさんでございます!
というわけで、体育祭終了です。さがみんの委員長再挑戦の件は奉仕部にお任せしました。
次回からは七巻に入りたいと思います!次回からもよろしくお願いします!
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