やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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八幡、部活に入ったってよ。

 「それで?部活をするってどういうことなんだ?」

 「ああ、話せば長くなるんだが……」

 衝撃のあまり固まってしまった俺達だったが、その後場所をリビングに移し八幡の話を聞いていた。

 八幡の話を聞くと、やはりというかなんというか平塚先生が関わっていた。

 端的に言えば、あの犯行声明をダシに呼び出され、諸々の罰として奉仕活動を命じられた。その奉仕活動というのが八幡の言う部活だったらしい。

 なるほど。平塚先生の言っていた手段とはこれのことだったのだろう。

 「なるほどな。その部活はなんて名前なんだ?」

 奉仕活動をするとなればボランティア部だろうか?そんな部活あったかな?

 「部長が言うには奉仕部と言うらしい」

 おぉう。なかなかに直接的なネーミングだったぜ。それって部長さんが考えたのかな?

 「困っている人に救いの手を差し伸べるのが活動らしい」

 「そりゃ、殊勝な心掛けをした部活だな」

 「ああ、俺には似合わない部活だよ」

 八幡は自嘲的な笑みを浮かべてそう言うが、俺はなかなか八幡にぴったりな部活だと思っている。自分は認めようとしないが、八幡は優しい人間だし面倒くさいと言いながらすんなり解決してしまいそうだ。まあ、その解決法が部長さんのやり方と合うかは別問題だが。

 「そういうわけで、これから少し帰りが遅くなるかもしれねえ。……兄貴」

 八幡が何かを懇願するかのような顔でこちらを見る。おそらく小町のことを気にしているのだろう。

 昔、家に帰っても一人だった小町が寂しさのあまり家出したことがある。それから八幡はなるべく早く家に帰るようになった。小町のことを思ってとかそんな意図はなかっただろうが、小町としては嬉しかったらしく、それからは寂しそうな顔をすることはなくなった。

 まあ、八幡にそのような意図がなかったとはいえ、家出したことは覚えているのだろう。おそらく俺に早く帰れと暗に言っているのだ。

 「わかった。まかせろ」

 八幡の意図を汲み取り返事をする。

 別に学校へ残って何かをするとかそんなことは特にないしな。勉強なら家でも充分できるし。

 「ありがとな」

 「ああ」

 まったく、こういうときだけはまっすぐ俺を見て礼を言う。さすがシスコンだな!あ、俺もか。

 小町はなんのことかわからず首を傾げているが、何が嬉しいのか可愛い笑みを浮かべている。

 「よし!小町!腹減ったから飯にしようぜ!」

 「うん!今から用意するね!」

 話が一区切りついたところで小町に飯の催促をすると、小町は元気よく返事をして台所へと向かった。

 「なあ兄貴、本当に小町のこと頼んで良かったのか?」

 八幡は小町が台所へ消えていったのを見て俺に話しかけてくる。

 俺も小町と同じく受験生だ。八幡にも思うところがあったのだろう。

 「大丈夫だよ。八幡も言ってたろ?よっぽどのことがない限り俺は落ちねえよ。俺のことは気にしないで大丈夫だ」

 「そうだな。サンキューな」

 そういって今度は目をそらす八幡。

 俺と二人になって急に恥ずかしくなったのだろう。本当に可愛いやつだな、こいつは。

 「ははは!気にすんな!可愛い弟の為だ!俺は兄貴だからな!兄貴は弟の為なら死に物狂いで頑張れるんだぜ」

 俺はそんな言葉と共に八幡の頭を撫でる。

 「別にそこまで頑張らなくてもいいんだが……。あと頭撫でるな、鬱陶しい」

 「やぁん!八幡のいけずぅ!そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに!」

 「気持ちわりぃ……。離れてくれ」

 八幡はいやそうな顔をして俺から離れていく。

 はぁ……。昔は自分からせがんできたのになぁ。今では手も繋いでくれないしさ!お兄ちゃん寂しい!

 「小町ぃ!八幡が逃げるー!小町は逃げたりしないよな!」

 「あーうん。今、料理してるからまたあとでね」

 小町まで!?はぁ、兄離れが始まったというのか……。八幡達にはもう俺が必要じゃないってのか!?

 「うわぁん!母ちゃんと親父に言いつけてやるからな!」

 「多分、呆れられて終わると思うぞ。主に母ちゃん」

 「そうだねー。特に機嫌悪いときに言うと殴られる可能性もあるよ?」

 くそう。二人から総反撃を食らってしまった。言い返せないのがつらい!

 「あと、親父に言ってもざまあって言われるだけだぞ」

 「うん。お前も仲間入りだー!って言いそうだね」

 親父……。いつも心の中でざまあって思ってごめんな?だから手招きしないでください。まだ仲間入りしたくないです。

 「いいもん!ふて寝してやる!」

 「あ、颯お兄ちゃんご飯いらないの?作らないよ?」

 「嘘っす。なんでもないっす」

 空腹には勝てないのだよ。

 

 

 「そうか。比企谷から聞いたか」

 「はい。手段ってこれのことだったんですね」

 翌日の昼休憩に俺は平塚先生の元を訪れていた。

 国語教師なのに白衣が似合うってすごいよな。美人はなんでも似合うんだな、すげえや。

 「まあな。比企谷を更生させるという目的以外にもいろいろあるのだが、それはゆくゆくわかるだろう。お前のことだから関わるなと言っても関わるのだろう?」

 「よくわかっていらっしゃる」

 こんな面白いことに関わらないというほうがおかしい。まあ、面白そうという以前に八幡が関わっている時点で、関わるのは確定事項なんだがな。

 「お前とは三年間の付き合いだからな。いやでもわかってしまうよ……」

 「熟年カップルみたいですね。はっ!結婚できないからって生徒にまで!?」

 「殴るぞ」

 「ういっす」

 平塚先生が拳を握ると同時に頭を下げる。

 このやり取りも三年目だ。もう一年しかできないとなるとやはり寂しいものがあるな。

 「そういえば部長って誰なんです?八幡に聞くの忘れちゃって」

 八幡は部長としか言ってなかったしな。肝心の名前を聞くのを忘れていたのだ。

 「ああ、二年の雪ノ下だよ。お前でも名前くらいは知っているだろう?」

 なるほどな、これで合点がいった。

 おそらく雪ノ下さんが特別棟にいたのは奉仕部に行っていたからだ。特別棟のどこかに部室があるのだろう。

 「知ってますよ。陽乃さんの妹さんでしょ?」

 「そうだ。優秀だが、いろいろなものを抱えて生きている人間だよ」

 平塚先生は意味深な表情で呟く。

 まあ、陽乃さんの妹なら何かを抱えていてもおかしくはないか。はぁ、あの人の妹ってだけで確信できるって、あの人は本当に……。

 「何度か見たことありますけど、かわいい子ですよね。……陽乃さんによく似て」

 おそらくこれを雪ノ下さんの前で言えば、間違いなく冷たい目で見られるだろう。確認をしたわけではないが俺の勘がそう告げている。実際、平塚先生も苦々しい顔してるしな。

 「少しでいい。あいつらのことを気にかけてやってくれ」

 「了解です。がっつり気にかけときます」

 「助かるよ」

 

 

 「さて、どうするか」

 平塚先生との話を終え職員室を後にしたのはいいのだが、昼休憩はまだ充分残っている。

 「行くか」

 俺の足はゆっくりと特別棟の方へと向かっていった。

 ふむ、特別棟に行くのはいいが、どこへ行けばいいのだろう?特別棟は特別棟でも多くの教室がある。彼女にはどこに行けば会えるのだろうか?

 特別棟で使える場所……。

 「あ」

 俺の記憶の中に一つだけ思い当たる場所があった。

 確かあそこは空き教室で倉庫として使われていたはずだ。おそらくあそこだろう。

 「行くか!」

 俺はまるで八幡や小町に会いに行くかのようにスキップで目的の教室へと向かった。

 

 

 俺の前には白い扉。プレートには何も書かれていない。

 俺はその教室の扉を静かにノックした。

 「……どうぞ」

 少しの間をおいて落ち着いた綺麗な声が返ってくる。

 その言葉を聞いて扉を開ける。

 そこには小さな弁当箱を太ももの上に置く綺麗な少女が座っていた。

 「こんにちは、雪ノ下さん」

 「こんにちは、先輩」

 


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