やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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ついに雪ノ下雪乃は崩壊する。

 翌週、当然といえば当然だが、出席者は先週よりもさらに減った。今現在も会議室の中には執行部と他数人、そして自分から手伝いを申し出てくれた葉山君くらいだ。

 文実すら顔を出さないのに文実じゃない葉山君が積極的に参加してるってどうなのよ。いやまあ、それは俺も同じなんだけどさ。

 「少ないな」

 「まあそうだねー。こうなるのはわかってたけど」

 隣で黙々と作業を行っている八幡もこの状況には声を出さざるを得ないらしい。

 そりゃまあ、生徒会長であるめぐりが声をかけても集まらないんじゃ末期だよなぁ……。

 「相模さんの提案、やっぱダメっていたほうが良かったかなー……。うぅ……そーくん」

 「はいはい」

 八幡との逆の隣に座るめぐりは責任を感じて唸っている。別めぐりのせいではないのだが、自分が止められる立場にいることをわかっている為罪悪感を感じているのだろう。

 まあ、それでもめぐりに変化はあった。

 おそらく、あの話をする前までならばその罪悪感さえも自分の心に押し込み、それを誰にも悟られないように動いていただろう。しかし、今のめぐりにその動きはなく、今もこの前のように両頬を包み込めとせがんでくる。これは良い変化と受け取っていいと思う。

 「ほんと、仲いいよな。二人とも」

 「付き合いも長いしな。周りからは熟年夫婦と呼ばれてる」

 「呼ばれてないよー」

 こうして俺の冗談にも顔を緩ませながらふわふわと答えてくれる。

 俺もめぐりの助けになれていると実感できるし良いことずくめだな。文実のことがなければ。

 「ちょっといいか」

 「おう」

 八幡が葉山君に手伝いを頼まれ席を離れると、入れ替わるように八幡の座っていた席へ一が座る。

 「まずい状況だな」

 「そだなー」

 一は正規の文実が休んでいく中、一日も欠かさず委員会に参加している。仕事量の多い有志統制がなんとか回っているのは、一と手伝いをしてくれている葉山君のおかげといっても過言ではない。

 「特に雪ノ下さんは危ないぞ」

 「ああ、わかってるよ。俺も何度か注意はしてるんだけど、全くと言っていいほど聞く耳を持たない」

 一の言う通り雪ノ下さんの状態はかなりやばい。いつ身体を壊してもおかしくない状況だ。俺もそのことはわかっているから何度か注意をしているのだが、大丈夫と一蹴されてしまう。

 「書類を無理に取り上げても他の仕事を手に取っちゃうし、仕事をやらないように見張っててもどうせ家でやってるだろうしね」

 「頑固とかそういうレベルじゃないなそれ……。俺達じゃ、どうすることもできないってか」

 「そういうこと。こりゃ、流石の俺でもお手上げだわ」

 いくら考えても答えが出ない。ということは、俺にできることはないという結論を出すしかない。どうにもなんねえや。

 「雪ノ下、今いいか?」

 そこで作業を続けている雪ノ下さんに平塚先生が話しかける。

 聞こえてきた会話によると、雪ノ下さんが文理選択の希望用紙を提出していないということだった。そういえば、もうそんな時期だったな。

 「私は文系なんだよー。颯君も一二三君もだよね」

 「そうだな」

 「うん、颯太とクラス離れたくなかったし」

 え?何、一ってそういう系だったの?推薦の来てる学校が文系なのかと思ってたんだけど。てか、それは女子が言うセリフであって、一が言ってもドキドキしないぞ!まあ、ちょっと嬉しかったけど。

 「んー、文系なら教えられるけど理系はねー……。颯君ならどっちも得意だけど……。あ!はるさんなら……」

 「はいストップ、めぐり」

 「ふぁにふんのー」

 こんな時に陽乃さんの話題を出そうとするめぐりの頬を軽く引っ張る。これ以上雪ノ下さんに負担はかけられないしな。

 「なんとなく。ほら、そろそろ作業に戻るぞー」

 「うー、わかった」

 めぐりを連れてその場を離れる時、ふと雪ノ下さんの方を見ると申し訳なさそうに頭を下げてくれた。その顔はやはり疲れの色が濃く、もう手が付けられないことが容易に感じられた。

 俺はもやもやした感情を抱えながら軽く手を振りながらその場を離れた。

 

 

 そして数日後、ついに彼女は崩れた。

 雪ノ下さんが学校を休んだのだという。

 いつかはこうなることがわかっていた。わかっていたはずなのにどうすることもできなかったのだ。こりゃガハマちゃんに顔向けできねえな。

 「ここはいいから、誰か様子を見に行ってくれるかな」

 雪ノ下さんがいないという暗い空気の中でめぐりが八幡、そして葉山君を見ながら告げる。確かに一人暮らしの雪ノ下さんの様子を見に行かせるというのは大事だろう。

 しかし、となるとめぐり達の負担は計り知れないものとなる。でもまあ、めぐりの苦笑の中には確固たる意志が宿っているし心配ないだろう。

 「八幡、心配するな。めぐりの方は俺がサポートする。その他は一、指揮を執ってくれるか?」

 「任せろ。よし!ここにいる奴等に仕事を振り分け直すから集まってくれー!」

 めぐりの言に心配の声を上げている八幡に声をかける。一は俺の頼みを聞くとすぐさま今いるメンバーを集めて仕事の再振り分けを始めていく。

 最後にめぐりに目を向けると意思のある目で頷いてくれた。

 「そういうことだから。どっちが行くかは二人で決めてね」

 そしてめぐりは二人、いや八幡に目を向けた。

 めぐり自身どちらが雪ノ下さんの元へ向かった方が良いのか分かっていたのだろう。

 「会長!」

 そこで執行部の一人が会議室へ飛び込んできてめぐりを呼ぶ。

 その子の言によればスローガンのことで問い合わせがあったとのこと。それを確認しためぐりは大慌てで対応へと向かう。

 「颯君!」

 「ああ、わかった。俺も行く。八幡、葉山君。後は頼んだ」

 俺が二人へ短く告げると小さく頷きを返してくれる。それを確認し俺はめぐりの元へと歩みを進めた。

 

 

 「ふぅ……」

 「颯君、お疲れ様」

 「おう。めぐりもな」

 現在は夜の八時。ようやく仕事が一段落付き、今日はここまでということでようやく体を伸ばすことが出来る。

 スローガンに関しての問い合わせ。率直に言えばスローガンに関しての苦情だった。

 『面白い!面白すぎる!~潮風の音が聞こえます。総武高校文化祭~』

 そりゃ苦情も来ますわ……。

 執行部、先生、そして俺を交えた協議の結果、このスローガンは変更という形になった。こんな緊急事態だ。翌日には人が集められるだろう。

 それよりも今は疲れた……。

 協議を終えても仕事は残っているわけで、それをこなしていれば最終下校時刻はすぐにやってきた。しかし、平塚先生、厚木先生にも相談し今日は特例ということでこの時間までの作業を認めてもらった。まあ、俺とめぐりだけ、かつ平塚先生の監督付きという条件付きだが。

 「ふむ。もう夜も遅い。今日は私が送っていこう」

 「お、平塚先生の車久し振りー」

 「普通は教師の車に乗ったことがある方が珍しいんだがな」

 まあ、確かにね。俺達は少し特殊だからな。陽乃さんに連れられてどこかへ行くときは大体平塚先生の車だったしな。

 「おっと、電話だ。二人は先に行っててください。後で行くんで」

 「了解だ」

 「先に行っとくねー」

 二人を見送り、中庭に出て携帯を見るとディスプレイにはガハマちゃんの文字。

 ……意外とお早い連絡だったな。

 「もしもし」

 『お兄さん?』

 「おうよ。話すのは久し振りだな」

 最近は忙しくてガハマちゃんとも話してなかったからな。この声を聞くのも意外と久し振りだ。

 『あたしの言いたい事わかる?』

 「悪かったよ。おれもいろいろとやろうとしたんだが何も思いつかなかった」

 ガハマちゃんが電話をかけてきた理由。それは勿論俺を叱ることだろう。ガハマちゃんから雪ノ下さんが困っていたら助けてあげてと頼まれていたのに助けることが出来なかったんだからな。

 『うん。ゆきのんからいろんなことをして助けようとしてくれたって聞いた。だけど、ヒッキーじゃないんだからあたしに一言言ってくれたら良かったのに』

 「そうだな。確かに今考えればそうだ」

 ホウレンソウは常識のはずなのにな。それにしてもヒッキーじゃないんだからって意外と酷いな。

 『だから、次はそうして』

 「了解。肝に銘じておくよ」

 『うん』

 『由比ヶ浜さん。その電話、先輩でしょう?少し変わってくれるかしら』

 ガハマちゃんの短いが納得した返事の後、後ろからガハマちゃんとは別の声が聞こえる。なるほど、先に八幡は帰ったんだな。八幡、ナイス判断!

 『お兄さん。ゆきのんが』

 「おう、変わってくれ」

 『わかった。はい、ゆきのん』

 『ありがとう。……先輩?』

 耳に届いたのはガハマちゃんとは別の耳に入りやすい声。風邪を引いたと聞いていたから大丈夫かと思ったが、だいぶ調子は良くなったようだ。

 「うん。体調はどう?」

 『一日休んだら大分楽になったわ』

 「そっか」 

 『その……いろいろと迷惑をかけてごめんなさい』

 少しの間があったのちの言葉。その声は少し沈んでいて、いつもの覇気がない。

 「別にいいよ。……俺こそ何もできなくて悪かった」

 『先輩はよくやってくれているわ。……私のことをよく考えてくれていたことも伝わっていたし』

 「そっか。それならいいや。まあ、早く元気になって顔を見せてくれればそれでいいから。……待ってるよ」

 『ええ。……その、えっと、ありがとう』

 電話の向こうで顔を赤くしているのが容易に想像できるな。まあ、ここはいつもの俺らしく対応するのが一番か。

 「ゆきのんがデレた!もう一回言ってみ!もう一回!」

 『っ!さようなら!』

 あ、切れた。

 「……どうしたしまして」

 電話の切れた携帯を握りながら小さく笑うと、めぐりと平塚先生の待つ駐車場へと歩みを進めた。

 




どうもりょうさんでございます!
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