やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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そうして俺は彼女を受け止める。

 あの委員長ちゃんの提案からというもの、文実内では持ち回りで休む者が出てきた。

 まあ、八幡の所属している記録雑務の人間などが一日休むくらいは問題ない。だが、有志の数が徐々に増えてきた今、それに関する仕事が比例するように増えている。

 それに伴い、それを管轄する部署には若干の人員不足が生まれた。

 人員不足に関しては執行部でカバーするわけだが、減らない仕事に気が滅入ってしまっているようにも見える。大きな戦力である雪ノ下さんの介入や俺がサポートに入ってもその状況はあまり変わらない。

 そのしわ寄せは本来仕事が少ないはずの記録雑務にも及んだ。

 名前に雑務と付いているだけあって、彼等、彼女等には多くの雑用が回っていく。今日も今日とて律儀に八幡と担当部長がせっせと仕事をしている。

 他の記録雑務の生徒が休む中、この二人だけは毎日顔を出して仕事をしているのだが、やはり年功序列というものはなかなか崩せないもので、どちらかと言えば八幡の方に仕事が集中しているようにも見える。

 あ、今も目も合わせず湯呑を高く掲げ『お茶』とだけ言われてる。

 流石にそれは俺も見過ごすわけにはいかないし横やりを入れさせてもらおう。

 「お茶なら俺が入れてくるよー」

 「え、ひ、比企谷?」

 八幡にお茶を入れてくるよう命令した三年生男子は困惑したように俺を見る。

 「俺はサポートという立場だし、みんなが気持ちよく、快適に仕事ができるようにしないとね。それに、誰がお茶入れようと関係ないよね」

 「あ、えっと……」

 「じゃあ、行ってくるよー」

 気まずそうな顔をする三年生男子を横目に、俺は八幡から湯呑を掻っ攫うとお茶を入れに行く。

 「あ、颯太ー!私もお茶ー!」

 俺が彼女、もとい魔王の前を通ると、魔王は何も気にすることなく声を上げる。

 この状況を作った元凶である陽乃さんは当然のように会議室へ居座っている。

 「はいはい」

 まあ、陽乃さんのお茶を入れることくらい慣れているしどうってことないんだけどね。いやまあ、慣れるっていうのはおかしいとわかってるけどさ。

 そんな何とも言えない空気の中、俺は二つの湯呑をもってポットへと向かった。

 

 

 それから数日。

 会議室に集まる人数はさらに減った。遂に、記録雑務の担当部長ちゃんも休むことが多くなった。

 しかし、仕事は増えるばかり。なのに仕事は回っている。勿論それは執行部や雪ノ下さん、めぐりや俺、そして陽乃さんの尽力の賜物だ。

 そして、仕事が回っているからこそ人は減っていく一方だ。

 仕事が回ってるんなら私はいなくていいか。あれ?意外に仕事増えてないんじゃね?私たちがやるより優秀な人がやればいいし。

 理由なんてものはいくらでもつけられる。崩壊の時は刻一刻と俺達を追い詰めてきていて、早々に手を打たないと完全に崩壊する。

 そんな考えを巡らせていると、見知った顔二つが珍しくも会話をしていた。

 「よ、お二人さん。珍しい組み合わせだな」

 「あ、颯君」

 「兄貴か」

 そう、わが愛弟八幡とわが親友めぐりだ。

 「そういえば、ちゃんと紹介してなかったな。めぐり、こいつが俺の弟の八幡。で、八幡には紹介しなくてもいいかもしれないけど、我が校の生徒会長で俺の親友、城廻めぐりだ」

 「うん。さっき少しだけお話したから知ってるよ。雪ノ下さんが比企谷君って呼んでたから、もしかしてと思ってんだ」

 「まあ、先輩に関して知らない奴はいないだろ」

 だよね。朝礼とかで壇上に上がってるのを見てるだろうし。

 「それにしても、さっき弟君にも言ったけど、あんまり似てないね!」

 めぐりん?すこーしストレートすぎないですかね。まあ、確かに見た目がそっくりというわけじゃないんだけどさ。意外と似てるところもあるんだよ?ほら、揺れるくせ毛とか、内面とか。

 「すんませんね……」

 ほら、八幡拗ねちゃった。可愛いなもう。……いやいやそうじゃなくて。

 「まあ、なんだ。これから話すこともあるだろうし、仲良くしてくれよ」

 「うん!了解だよ!」

 「善処する……」

 八幡は苦笑いだけど、二人の相性はそれほど悪いと思わないんだよね。俺の勘だけど。

 それにしても、だ。

 「めぐり、お前疲れてんだろ。あまり無理するんじゃないぞ?」

 「わかってるよ。でも、人数が少ないんだし頑張らないと!」

 うーむ……。

 「めぐり、今日文実終わったあと家行ってもいいか?」

 「え?う、うん。お父さんもお母さんも喜ぶと思うけど……」

 「なら決まりだな」

 「いきなりどうしたの?」

 俺の突然の提案にめぐりは不思議そうに首を傾げる。可愛い。

 「いや、別に意味はないよ」

 「そっか、了解。お母さんに連絡しとくね」

 「おう」

 そこまで会話をしたところで八幡からの視線に気づく。

 「八幡、どうかしたか?」

 「いや、兄貴とめぐり先輩って……その、付き合ってんの?」

 「ふぇぇ!?」

 若干顔を赤くしながら目を合わせず聞く八幡の質問にめぐりは顔を赤く染め上げる。

 「どうしたんだ?いきなりそんな質問して」

 「反応薄くない!?」

 いやだって、この手の質問は散々他の男子にされたからな。女子の間ではそういう話にならないのかな?

 「いや、あいつ以来そういう話聞かなかったし。それこそ、あの女の先輩くらいしか。だから、そういうことだったのかと思って」

 「あー、なるほどね。まあ、付き合ってはいないよ。ちなみに、八幡の言う女の先輩ってのは陽乃さんな」

 「それは二人の会話見てたらなんとなくわかった」

 ですよねー。

 「そっか、付き合ってないのか。了解。変なこと聞いて悪かったな」

 「構わんよ。慣れてる」

 「あぅぅ……」

 こら、めぐりさんや、そろそろ戻ってきなさい。

 「まあ、そういうわけだから小町にはよろしく言っといて。あ、くれぐれも女友達のところに行ったなんて言わないでくれよ。後が面倒だから」

 「了解」

 

 

 そして、文実終了後、俺は約束通りめぐりの家へとやってきていた。

 「それじゃ、部屋で待ってて!飲み物持っていくから」

 「了解ー」

 リビングの方へ走っていくめぐりを見送りながら俺は階段を上っていく。

 「ふむ……」

 部屋に入り、まず目に入ったものは書類の山だった。おそらく学校から持ち帰り、家でも作業をしていたのだろう。その量はやはり多い。

 「お待たせー。ごめんね、散らかってて」

 書類を眺めながらめぐりを待っていると、コップの乗ったお盆を持っためぐりが部屋へ入ってくる。

 「いや、別にいいよ。家でも作業してんだな」

 「うん。少しでも進ませとかないとね」

 そう言って笑うめぐりの顔にはいつもの輝きがない。必死で作り上げたもののように見える。

 めぐりは必死で隠そうとしているのだ。焦り、疲れ、不安、様々な感情を外部に見せないように。俺達に悟らせないように。

 寂しいな。

 ただそう思う。俺の前でもそんな感情を必死に隠そうとするめぐりを見て、俺はそう感じてしまった。

 でも、だからといってこのまま放っておくわけにもいかない。

 だから俺はゆっくりとめぐりの両頬を包む。優しく、ほぐすように撫でてやる。

 「ふぇ?えっと……颯君?」

 めぐりの困惑した表情に笑みで返す。

 「頑張るなとは言わないよ。めぐりが頑張ると決めたなら精一杯頑張ればいいさ。だけどまあ、疲れたらこうしてほぐしてやるよ。俺はいつでもお前の傍にいてやるから」

 「……でも、弟君や妹ちゃんが優先でしょ?」

 「そりゃそうだけど、事情を話せばすぐに家から追い出されちまうよ」

 特に小町にな。

 「何それ……」

 徐々にめぐりの顔が歪んでいく。でも、両頬の手は離さない。

 「颯君は、颯君は本当に何でもお見通しなんだね」

 「ははは、何でもはわからないさ。わかることだけ」

 「それ、誰の受け売り?」

 「バサ姉」

 「……?」

 うーん、やっぱり伝わらないかー。まあ、しょうがないよね。めぐりだもん。

 「……ずるいなぁ、颯君は」

 「俺はいつも正々堂々だぞ」

 「どの口が言うのかな……。もう……」

 一つ溜息を吐くと、めぐりは俺の手をすり抜けそのまま倒れこんでくる。そして、顔を俺の胸へ埋めこすりつけてくる。

 「辛いよ……疲れたよ……不安だよ……」

 「ああ」

 「……助けてよ」

 「任せろ」

 俺はめぐりの絞り出した言葉に力強く頷いた。

 

 

 あの後、めぐりが落ち着いたところでいつも通り夕食をごちそうになり城廻家を後にした。

 「ただいまー」

 「おかえりー颯お兄ちゃん!……むふふ」

 帰宅した俺を迎えてくれた小町だったが、何故か怪しい笑みを浮かべている。なーんか嫌な予感するなぁ……。

 「お義姉ちゃん候補はいつ紹介してくれるのかな?」

 「……ハチメェァン!」

 俺はリビングから歩いてきた八幡に非難の目を向ける。

 「……てへっ」

 「くっそぉおお!」

 でも、可愛いから許す。長い夜になりそうだ。とほほ……。




どうもりょうさんでございます!
更新がなかなか出来なくてすみません!ここからは一つの山場なので頑張りたいと思います!
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