やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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やはり俺のナンパイベントは間違っている。

 ナンパ騒動の後、俺とめぐりは軽く休憩を挟み再び海へと繰り出したのだが、時間も時間なだけあってすぐに腹の虫が鳴きだした為、お母さん達と合流し昼食をとった。

 現在は既にお母さん達と離れ、軽く砂浜を散歩している。

 食事後にすぐ遊ぶのはお腹に悪いからな。

 「あれ?颯太とめぐりんじゃん」

 「ん?おー。誰かと思えば一じゃないか」

 「ほんとだー!一二三君だ!」

 突然声を掛けられ後ろを向くと、そこには俺もめぐりもよく見知った人物が立っていた。

 こいつの名前は一二三一(ひふみはじめ)

 めぐりと同じく、俺と三年間クラスが同じな数少ない人物だ。サッカー部に所属しており、部内では葉山君と人気一位二位を争う程のイケメンでもある。それでいてサッカーの実力も兼ね備えており、既に大学からの推薦も来ているらしい。

 その為、大学受験を考える他の三年生とは異なり、冬の全国高校サッカー選手権を目指して引き続き部活を続けている。

 インターハイまでは部長として活動していたのだが、予選敗退を期に葉山君へその座を譲り、現在はその補助的な役割を果たしている。

 俺との関係は至って良好で、体育のペアを組む時はいつも一と組んでいるし、休日に二人で遊びに出かけたりもする。クラスの中ではめぐりに次いで二番目に仲の良い存在と言って間違いないだろう。

 「一はこんなところで何してるんだ?ナンパか?」

 「バカかよ。サッカー部の夏合宿でここら辺に来てて、今日は休養日ってことで遊びに来たんだよ」

 「なるほど。それで合宿中にナンパか?いいご身分だな」

 「だから違うっつってんだろ!」

 とまあ、このような冗談を言い合える程、俺はこいつに好意を持っている。

 「まあ、それは置いといて。そっか、もう合宿の時期か。てっきりお姉さんが帰ってきてるのかと思ったよ」

 「ああ、姉ちゃんはお盆に帰ってくるらしい」

 一には二歳年上の姉がいる。陽乃さんと同い年で、二年前まで俺達と同じ総武高校に通っていた。現在は卒業し、県外の大学に通っており、現地で一人暮らしを行っている。

 「そっか、寂しいだろ」

 俺がこいつと友好関係を築いているということは、すなわちこいつに何かしらの興味を持っているということだ。

 なぜいきなりこんな話をするのかって?そりゃ決まってる。それにはこいつの姉が関係しているからだ。

 「そうなんだよー!早く姉ちゃんと遊びたいし、膝枕してもらいたいんだよー!早く帰ってこないかなー!」

 そう、俺がこいつに興味を持った理由は、こいつが極度のシスコンであるからだ。

 「ははは、一二三君も相変わらずだね……」

 めぐりは見慣れた光景に苦笑いを浮かべている。

 一二三一という人間が葉山君と人気を二分しているにも関わらず特定の彼女がいない理由はこれだ。俺と同じでオープンシスコンである一は、誰の前だろうと姉への愛を語らずにはいられないのだ。

 しかし、それでも一の人気が落ちることはない。

 それではなぜ、一には彼女ができないのか。それは他でもない、一自身にある。

 一はシスコンはシスコンでも特殊なタイプのシスコンだ。

 姉が彼氏を作ろうが、恋愛をしようが口を出さない。それが一が持つ持論だ。実際、一の姉には高校の時から付き合っている彼氏がいる。一と彼氏の間に確執はなく、関係も至って良好らしい。

 そんなこともあって、一自身も恋愛には積極的だ。

 なのだが、絶対に譲れない条件があり、それが一番の問題になっている。それは、『姉よりも魅力的な女性』ということだ。

 まあ、どちらかと言えば一よりもお姉さんの方が原因かもしれないな……。

 一の姉は驚くほどスペックが高い。類まれな容姿や女性としての可愛さを持った仕草、言動、頭脳、運動、どれをとっても陽乃さんと同程度、いやそれ以上のスペックを持った姉に匹敵する人間などいないだろう。

 これが一に彼女ができない理由である。

 「それよりも、颯太達こそ何してんだ?デートか?」

 「まあな。婚前旅行ともいう」

 「言わないよー!まだそこまで進んでないもん!」

 そこまでって……。どこまで進んでるんですか俺達……。

 「ははは!相変わらず仲が良いな!でも、颯太も気を付けないと、めぐりんすぐにナンパされちゃうぞ?」

 「ははは!既にされたさ!ねえ、俺が悪かったのかな?」

 「あー、うん……。ドンマイ」

 「もー!ごめんってばー!その話は終わったでしょー!」

 いつ終わったと錯覚していたのだ!怒る気はさらさらないが、いじる気ならバリバリあるぞ!

 「ははは、おっと……。そろそろ戻らないと。じゃあ、仲良くな」

 「おう!頑張れよー」

 「じゃあね、一二三君」

 遠くで一を呼ぶ声が聞こえたところで一は去っていった。

 あっちの方からウェーイウェーイって聞こえてきたのは気のせいだろうな。うん。

 「なあ、めぐり」

 「どうしたの?颯君」

 「結局、なんでパラソルから離れたんだ?」

 「……颯君が逆ナンパされたら嫌だから」

 俺は全力でそっぽを向いた。そりゃもうすごい勢いで。はぁ、俺は何度海で顔を洗わなきゃいけないんだろう。

 

 

 「おー?」

 「あれは……」

 俺とめぐりの視線の先、そこにはいかにもチャラそうなお兄ちゃんが可愛い女の子に言い寄っている光景が広がっていた。

 間違いない、あれはナンパですわ。女の子めっちゃ嫌がってるけど、その取り繕った笑顔で相手が全然気づいていない。

 「ねえ、颯君」

 「ん?どうした?」

 その様子を見ていると、隣に立っているめぐりが俺を呼ぶ。

 「あの子、多分サッカー部のマネージャーだよ」

 「サッカー部の?」

 うーん、サッカー部のマネージャーって何人もいたからよくわかんないんだよな。一度一に告って振られた子じゃないのは確かだけど。まあ、あの子しか覚えてないんだけどね。

 「うん。一二三君に聞いたけど、一年生の子らしいよ?」

 ほう、流石生徒会長。もしかしたら、各部活のマネージャーを把握してるのかもな。

 「ということは総武高の子か」

 「うん。……どうするの?」

 「生徒会長さんの前で見捨てるというのもあれだよなぁ」

 ここで俺が見捨てると言ってもめぐりは向かっていくんだろうな。ぽわぽわしてるけど、これでも生徒会長なんだもんな。

 さっきはめぐりの策に乗ってやったんだし、今度は俺がやろうとしていた方をやらせてもらおう。てか、一日に二回もナンパイベントとか俺求めてないですよ?

 「あ、見つけた見つけたー。何やってんだよこんなところでー」

 「は?」

 おいおい、なんだよその低い声は……。さっきまでの甘い声はどうした。

 しかし、なかなか勘の鋭い子なのか、俺の少し後ろで自分の高校の生徒会長がこちらを見ているからかはわからないが、合点のいった表情で頷く。

 「もー!どこ行ってたんですかせんぱーい!いろは、探したんですよぉ?」

 あざとい。すっごくあざとい。ただまあ、それだけだ。小町には大抵及ばんよ。ははは!さりげなく自分の名前えを教えているところを見ると頭はよく回るみたいだけどね。

 「俺こそ探したんだぞ?勝手にいなくなるなっていったろ?」

 「はーい!ごめんなさいっ」

 あざとい。何敬礼のポーズなんてしちゃってんの?他の男には効くのかもしれんが、俺には効かんぞ。

 「それで?そっちの人は?」

 「さあ?さっきから話しかけてくるんですけど、知らない人です」

 「そっか、いろはが一人でいるところを心配して声をかけてくださったんですよね?ありがとうございます。それとも、俺の彼女が何かしましたか?」

 うわぁ、何俺調子乗っちゃってんの?彼女の部分を強調するとかありえないわぁ……。なんかめぐりの目がしょんぼりしてるんだが。……後が大変だぁ!

 「い、いや、別に。……チッ」

 そして舌打ちと共に男は去っていった。

 「……はぁ」

 「助けてくださってありがとうございました」

 俺がため息を吐くと、女の子がお礼の言葉と共に頭を下げてくれる。

 「別にいいよ。礼ならあっちの生徒会長に言ってくれ」

 「大丈夫だった?」

 タイミングを見計らったようにめぐりが女の子へ話しかける。

 「はい。ありがとうございました。わたしは一色いろはって言います。総武高校の一年生でサッカー部のマネージャーです。よろしくお願いします」

 「俺は三年の比企谷颯太だ」

 「私は言わなくてもわかるかな?生徒会長の城廻めぐりだよ」

 一色さんの自己紹介から俺達の自己紹介を終える。

 すると、一色さんが俺の方へ近づいてきて下から俺を覗き込む。いわゆる上目遣いというやつだ。

 「比企谷先輩、格好良かったですよ」

 あざとい。

 「あざとい。俺にはそういうのは効かんぞ?なんせ、君以上のあざとさを持った妹と天然物がいるからな。じゃあな」

 俺はそういうと、一色さんの頭をポンポンと軽く叩くと再び海へと歩みを進めた。

 めぐりは二、三言一色さんと話をすると、俺の隣へ並ぶ。

 「ねえ、本当に付き合ってるわけじゃないよね?」

 こいつがいる限り、俺はああいう子に引っかかることはないだろうな。

 「ねえよ」




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