やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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鶴見留美は打ち明ける。

 「くそ……!なんで俺だけこんな目にー!」

 「うわーすげぇ!玉ねぎがあり得ねえ速度で切れていく!兄ちゃんすげえ!」

 現在、俺達は夕飯の準備をしている。

 今晩の夕飯は皆で作るカレーだ。キャンプでは定番と言える料理だろう。

 俺以外の奴は小学生と仲良く料理をしているのだが、俺だけは各班を回って玉ねぎだけをひたすら切らされている。もう涙など枯れ果ててしまった。

 「一人だけ遅れてきたのが悪いのでしょう……」

 「それもそうなんだけどさー!」

 俺の叫びに呆れた表情と声で雪ノ下さんが答える。

 あの後ダッシュでゴール地点へと向かったのだが、そこに立っていたのは鬼と化した平塚先生だった。当然の如く叱られ、この玉ねぎカット作業を命じられたのだ。

 「それにしても、本当に早いわね……」

 「まあ、兄貴は小町と同じくらい料理が得意だからな。小町も兄貴に料理を習ったくらいだし」

 驚いたような顔をしながら俺の作業を見つめる雪ノ下さんの呟きに八幡が苦笑いを浮かべながら答える。

 今は小町が家の台所を担っているが、昔は俺の担当だったからな。小町に料理を教えたというのも事実だ。まあ、小町が率先して俺の手伝いをしていただけなのだが。

 「ヒッキーも料理できるし、小町ちゃんやお兄さんまで……。私、自信なくしちゃうよ」

 「大丈夫。俺も母ちゃんに習う前は全然だったから。ガハマちゃんも練習すればきっとうまくなるよ」

 「そ、そうかな!」

 「あ、俺に試食役を頼むのはナシな。死にたくない」

 「そこまでのものは作らないよ!」

 そこまでって……。そこまではいかないけど酷いものはできるんですね。

 「よっしゃ!この班終わり!次行くぞこるぁ!」

 俺の玉ねぎとの戯れはまだまだ終わらんのですよ。

 

 

 「あー……。目が痛い。死ぬ。涙の数だけ強くなれるって嘘じゃね?どんどん俺の目が弱っている気がするんですけど」

 既に玉ねぎを切り終えていた班以外の玉ねぎをすべて切り終えた俺は目を水で洗いながら独り言を呟いていた。

 「お、颯お兄ちゃんだー」

 「ん?おお、愛しの小町ちゃんと全ての元凶さんだ」

 「全て遅れたお前が悪いのだろう……。人のせいにするな」

 俺の元に現れたのはカレーの材料を運んでいる小町と平塚先生だった。

 この二人が一緒にいると何故か嫌な予感がするな。

 「小町、平塚先生に変なこと言ってないよな?」

 「うぇ?い、言ってないよ?」

 おいこら、君何を話したんだ!目をそらしても無駄だっつうの!

 「小町……」

 「わー!颯お兄ちゃんタンマタンマ!」

 「まあ、痴話喧嘩はやめたまえ。弟にもいったがほとんどが惚気話のようなものだったよ。小さいころからの話をね」

 「ひ、平塚先生!その話はナシってさっきも言ったじゃないですか!」

 平塚先生の告げ口に小町は顔を赤く染める。

 「小町、こっちへ来なさい」

 「は、はい……」

 俺が小町を呼ぶと観念したようにこちらへやってくる。

 そして、俺はびくびくと震える小町をぎゅっと抱きしめる。

 「颯お兄ちゃん……?」

 「小さい頃の話はやめて……。恥ずかしいだろ……!」

 「……颯お兄ちゃんの恥ずかしがるポイントが良く分からないよ」

 しょうがないじゃん!小町達の小さい頃の話なら幾らでも聞かせてやるけど、自分のとなると全く別問題だ。なんか恥ずかしいじゃん!

 「比企谷の意外な一面が見れて得した気分だよ。さて、そろそろ戻るとしようか。比企谷にはまだまだ働いてもらうぞ」

 「わ、わかりましたよ」

 俺は小町を離し立ち上がると、平塚先生と小町の持っている材料を奪い調理場へ運んでいく。

 小町と平塚先生はその場に立ち尽くした後、少しの間ひそひそ話をしていた。

 また何か話したのか……。もうどうにでもなれよ!

 

 

 カレー作りの役目が一段落したところで俺は各班を回りながらアドバイスをして回っていた。

 「おお?」

 その先で先程山道で話をした留美ちゃんが一人で作業をしていた。

 小学生の間ではそれが普通であり、留美ちゃんを気に掛ける者はそこに存在しない。まあ、あくまでそれは小学生の間だけであり、一般人は気にしてしまう。

 「カレー好き?」

 留美ちゃんに話しかけるのは、今回の林間学校に参加している高校生の中で一番目立つ存在である葉山君だ。同時にこの場面で一番話しかけるべきではない存在だ。

 葉山君に関しては善意のつもりなのだろう。だが、それは留美ちゃんからしてみればただの迷惑でしかない。

 小学生達の輪からぎりぎり外れたところでこの様子を見ている八幡と雪ノ下さんも呆れた表情をしている。

 まあ、話しかけること自体が悪いというわけではないのだが、いかんせん場所が悪すぎる。こんなにも他の小学生の目があるところで話しかければ目立って仕方がない。

 さて、黙ってみていても仕方ないし引き離しますか。

 「おーい葉山君!あっちの子達を手伝ってくれるか!」

 「あ、はい!」

 葉山君が俺が指さした方へ走っていくと留美ちゃんはそそくさとその場を離れる。

 そして、留美ちゃんが向かったのは八幡達の方。

 葉山君が行った先で隠し味の話を始めたことで留美ちゃんへ向いていた視線がそちらへ向いていく。

 俺が八幡達のところへ着いた時には、ガハマちゃんを含め全員の自己紹介が終わっていた。

 「おいおい、俺は仲間外れか?」

 「兄貴か。さっきは上手く切り離したな」

 俺の声に気付いた八幡がこちらを向く。それに呼応するように雪ノ下さん達も俺の方を向く。

 「俺がいなくても留美ちゃんは自分で離れていっただろうよ。あの場で話すことの意味を留美ちゃんが一番わかってるだろうしね」

 「だな。てか、兄貴はこいつと知り合いだったのか」

 「まあね。下の名前で呼び合う仲だぜ!」

 「あなた、小学生まで落とすつもり?」

 「そんなわけないでしょうが……」

 雪ノ下さんの冷たい視線に溜息を吐きながら反論する。

 確かに留美ちゃんは可愛いけどあり得ない。雪ノ下さんに似ている時点で無い。まあ、それ以前に年齢的にも無理だが。

 「あなたに年齢なんて関係ないのかと思ったわ」

 「俺をなんだと思ってるんだよ、君は!」

 「ねえ」

 「ん?どうした留美ちゃん」

 雪ノ下さんと言い合いをしていると、留美ちゃんが服の裾を引きながら俺を呼ぶ。

 「兄貴って?」

 「ああ、そこにいる八幡は俺の弟なんだよ」

 「……似てない」

 「ほっとけ」

 留美ちゃんはそういうが似ていないことはないぞ?ほら、このクセっ毛とか!超似てる!

 「ちなみにあそこの女の子も俺の妹だぞ」

 俺は今現在も調理をしている小町を指さす。

 「似てる。颯太には」

 「おい。お前は俺に恨みでもあんのか」

 留美ちゃんはその言葉を無視して小学生の集団を眺める。

 「なんだか颯太やそこの二人は違う気がする。あっちの人たちと」

 あっちの人か。おそらく葉山君達のことを言ってるのだろう。さっきもそんなことを言っていた。

 「私も違うの。あそこの人たちと。そして、上手く立ち回るのもくだらないからやめた。一人でもいいって思った」

 「小学生の間の思い出って大事だと思うけど……」

 「別に思い出とかいらない。中学校になれば新しい友達もできるし」

 案の定留美ちゃんは俺の思った通りのことを考えていた。甘い考えだ。まあ、それは俺が言わなくても指摘してくれる人がいるだろう。

 「残念だけれど、そうはならないわ」

 ほらね。

 その言葉の後に俺の考えていることのすべてを言ってくれた。

 「それくらい、あなたもわかっているのではなくて?」

 「やっぱり、そうなんだ」

 留美ちゃんからは諦めたような声が漏れる。

 留美ちゃんの口からは諦めたように今の状況になった理由があふれてくる。

 ハブっていた留美ちゃんがハブられる側になった。どこにでもあるような話だ。この連鎖は止めようがない。どこまでも続いていく。

 「中学校でも、……こういう風になっちゃうのかな」

 嗚咽混じりのその言葉を聞きながら俺は思った。

 なるだろうな。と。

 当然のことだ。わかりきっていたことだ。

 でも何故だろう。俺はこの子の為なら悪役になれると感じた。そして、俺の視線は留美ちゃんから雪ノ下さんへと移っていく。

 やってやろうじゃん。悪役上等。かかってこいよ、小学生。


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