~ある日の発令所~
「こりゃまた、凄いな」
「ああ、予想数値を遙かに超えている」
青葉と日向がモニターを見ながら驚きの声を出す。先の使徒が消滅して、現在ネルフ本部は第二種警戒態勢。職員はそれぞれ配置につきながらも、どことなくリラックスした雰囲気を醸し出していた。
「しかしこれは……あまりに多すぎます」
「そうね」
マヤの言葉にリツコはアゴに手を当てて思案顔をする。この結果は彼女にとっても予想外であった。
「ふむ、因みに全てを注ぎ込んだ場合、どの様な結果になる?」
「シイちゃんが窒息しますよ。確実に」
「MAGIも、全会一致で同様の結論が出ています」
「やれやれ、まさかこれ程集まるとはな」
冬月は青葉の後ろからモニターをのぞき込み、軽くため息をつく。
そこには、
『シイちゃんにお見舞いの花を贈ろうカンパ募集中』
と銘打たれたカンパのお知らせと、今までに集まった金額が表示されていた。
その額は、既にお見舞いの花には過ぎたレベルまで到達している。
「数値は依然上昇中です」
「どうしますか副司令。好意を無下にするわけにも行きませんし」
「止むを得ん。必要な金額のみ使用し、残りは貯金する」
「貯金……ですか?」
「名目を『シイちゃん応援基金』としておけば、カンパしたスタッフも納得するだろう」
冬月の妥協案に、リツコを含むオペレータ達も賛同する。
「現状ではそれがベターな選択ですね」
「流石に、お見舞いの花で窒息させては、元も子もありませんし」
「祝い事ならともかく、花輪を送るわけには行けませんからね」
「うむ、青葉二尉。直ぐに処理したまえ」
「了解……って、これは……」
素早く端末を操作していた青葉が、思わず顔を強張らせる。
「どうした?」
「か、カンパの金額上昇が、加速してます!」
「不味いわ。口座システムがパンクするわよ、マヤせき止めて!」
「駄目です。入金が続いているため、システムが停止できません!」
「け、経理課より緊急連絡。給料引き落とし申請が多数来たため、業務が一時停止してます!」
「……まさかこれ程とは」
まるで戦闘中の様に、慌ただしく端末の操作と各部署との連絡をとるオペレーター達。だが、その甲斐無くモニターのカンパ金額は上昇を続ける。
そして、
「駄目です! 後三十秒後に口座システムがダウンします!」
青葉が絶望的な報告を絶叫した。
「……赤木君、頼めるか?」
「他に方法はありません。マヤ、MAGIの七割を口座システム維持に回して」
「通常業務に支障が生じますが」
「構わん、最優先だ」
MAGI。ネルフの中枢を担う三台のスーパーコンピューター。非常時は勿論のこと、平時もネルフの業務を影ながら支えている。その能力の大部分を一カ所に集中させる事は、他の業務に影響を与えてしまう。
「恐るべきは、シイ君の人気だな」
「碇司令の悪役ぶりで、より一層彼女の味方が増えている様です」
「非公式ですが、ファンクラブ設立の動きもあるみたいですし」
「知らぬは本人ばかりなり、ね」
病室に飾られていたお見舞いの花には、ネルフスタッフの想いが込められていたのだった。
凄まじい短さで申し訳ありません。
本編は平均で3000文字以上をキープしますので、どうかご勘弁を。
今後小話は、本編と共に投稿しようと思っています。
次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。