またまた変なところあったら教えていただけると幸いです。
「お腹すいた…気がする。」
転移から丸一日。
睡眠不要、飲食不要の指輪を内装に装着しているNIKUYAであるが、何かを食べなければいけない感覚に陥っていた。
それもそう、転移前は毎日三食(味や質はどうあれ)食べていたのが、途端に食べなくてよくなったところで、リズムとして組み込まれていたそれをたった1日で無視できるはずがないのだ。
NIKUYAは悩んだ。
時刻は午前0時を少し回ったところ。
一般メイドの大半は就寝し、モモ…アインズはなにやらアイテムの整理や簡単な実験に忙しそう、守護者も皆、とくに暇そうな子はいない。
(もしかして、暇なの俺だけ?)
この部屋に常にいるこのメイド…名はわからないが、この子も今は一応仕事中である。
暇ならなにかやること探せ、と思うかもしれないが、元々モンスターを殴って鉱山を殴ってプレイヤーを殴ってユグドラシルを楽しんでいた身、実験やら勉強やらは選択肢に入ってすらなかった。
(やること…よりも飯食いたい。腹は減ってないけど食いたい。でもみんな仕事中なのに飯食うとか…守護者はともかく、モ、アインズさんも仕事中なのに…)
NIKUYAは悩みに悩んだ。
特に腹が減ってるわけでもないので構わないのだが、やはり飯を食いたい。
選択肢はみっつ。
ひとつ、我慢する。
ふたつ、アインズさんには悪いが飯を食う。
みっつ、アインズさんと飯を食う。
…これだ。そうだこれだ。
そうと決まればさっそく…と、そうだった、あのアイテムは宝物殿に放り込んだんだった。
じゃあやる事決定だな。
「シズ呼んできて。」
メイドにプレアデスのシズを呼ばせ、予備に渡されていたリングオブアインズウールゴウンを貸し与え、宝物殿に転移する。
「さあて…どの山にぶん投げたっけか…」
宝物殿。広い部屋の至る所には黄金に輝く小山が築かれ、よく見ればそれは金貨の山であることが伺える。
その山には金貨の他、様々な宝石で彩られた調度品、上品な刺繍が施された魔法のハンカチ、力強さを感じる強固な鎧など、およそ雑多に扱われるのが似つかわしくないであろう上質なアイテムが埋もれている。
その山が、10や20ほど。
周りの壁を見れば、雑多に積まれた上質に見えたアイテムの扱いに納得してしまうほどの、神々しいまでのアイテムが、ひとつひとつ、飾られている。
NIKUYAは金貨の山を、子供が砂山を掘り抜く様に、適当に漁っている。
この数十の山の中から、ある指輪を見つけなければいけない。
(うーん、無理。やっぱりあの子に聞くしかないか。)
山の探索を止め、宝物殿の奥にある『闇』の前に立つ。これは扉である。
パスワードを入れれば道が開ける仕組みなのだ、が。
(わからんな。)
ギミック担当とも戦闘の話以外はあまりしていないNIKUYA。
ナザリックのほとんどのギミックを理解していない。
知っているものといえば、問題児さんが作った風呂場のゴーレムの起動要因ぐらいか…
「シズ、開けてくれる?」
「…かしこまりました。」
かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、暗きものは全て汝より離れさるだろう。
シズの言葉に反応し、扉にかかっていた闇が消え去る。
満足したNIKUYAはシズを撫で、奥に進む。
開けた部屋に到達した。
部屋の真ん中にはテーブル、それを挟む様にソファーが置かれている。
そのソファーに、異形が座り込んでいる。
異形がこちらを振り返る。
咄嗟にシズが腰の銃を構え、NIKUYAの前に立つ。
それを笑う様な動作を異形が見せると、シズは銃のトリガーに置いた指に力を込め…俺の制止の合図に気付き、警戒態勢のままトリガーから指を離した。
「まさか俺の姿で俺を迎えるなんて。久しぶり、パンドラ。」
NIKUYAの姿をしたそれは姿を歪ませ、本来の姿に変形する。
ドイツのであろう軍服を着こなし、卵頭、目と口は黒く塗り潰しただけの異形、ドッペルゲンガーのパンドラズ・アクター。
「大変ご無沙汰しておりますNIKUYA様…ところで本日は、どういったご用件で?」
うっわ、だっさい…いちいち大袈裟なアクションとトーンで問い掛けてくるそれに、アインズさんには悪いが引いてしまった。
シズも表情には出てないが、半歩下がった。引いてる。
「ある指輪を探しにきたんだが、さすがにあの山から掘り起こすのは怠くてね。パンドラならなんか知ってるんじゃないかなって。」
「指輪ですか…ここには数千の指輪が眠っております故、ひとつひとつを確認するのも一苦労…よければその指輪の名、聞かせていただいても?」
だっさ…ともういいや、慣れてきた。
指輪の名前…正確な名前は覚えてないんだった。特徴をいえばわかってくれるかな。
この子はマジックアイテムフェチだったし。
「アインズさんに、あ、そう、モモンガさん改名してアインズ・ウール・ゴウンになったからね、アインズって呼んだげてね。」
「承りました…ンーアインズ様ですね!」
「あ、うん。でね、アインズさんと一緒に飯が食いたいから、人間化させたいんだけど、そんな指輪を宝物殿に置いた記憶があって…名前は思い出せないんだわ。」
「それはこちらでは?」
ソファー前のテーブルから木箱を持ってくるパンドラ。
木箱を覗くとそこには10ほどの指輪が並べられていた。
「これは…全部、人間化の指輪だな。どうして?」
「ナザリック新聞に人間の村に行ったという記事がありまして、人間の姿に遠い同僚たちも人間の姿になれたなら、偉大なる御方々のお役に立てるのでは無いかと思い、先ほどまで数時間ほど山を捜索していたのです。」
なるほど、聞きなれない新聞の話は後で聞くとして、さすがナザリックの頭脳の一人。
言われる以上の事を成すシモベ。だっさい動きとだっさい喋り方が無ければデミウルゴスの次ぐらいに使い潰されるシモベになっていただろう。
「なるほどな、パンドラの働き、その考え、確とアインズさんに伝えよう。よくやった。」
「お褒めにあずかり!光栄にございます。」
なんかすげーテンション上がっちゃってるパンドラから指輪をひとつ受け取り、少しの頼み事を伝え、宝物殿を後にする。
無表情なのに目が冷えに冷えたシズと共に、アインズさんの部屋に向かう。
「アインズさーん!飯食いにいこー!!」
アインズさんの自室の扉を蹴り飛ばし(勢いよく開くだけで壊れなかった)、シズと共に勢いのまま入室する。
「え、あ、NIKUYAさん…あ、まって。」
そこには全裸の…いや骨だからどう表現すればいいか。
そこには一糸纏わぬ姿のかっこいい形の骨格標本が、うさ耳と孫の手を手に中腰で存在していた。
「え、あ、ごめん。」
「あ、うん…クリエイトグレーターアイテム」
骨格標本は魔法でできた黒い鎧を身に纏い(身はないけど)、部屋の真ん中にあるテーブルにNIKUYAと掛ける。
シズは全身を紅く染め上げ、プルプル震えたまま動かないのでアインズの使用しないベッドに横たわらせている。
さっきの突然の来訪を詫び、アイテムの付加効果の実験をしていた旨を説明され、本題に入る。
「アインズさん、飯食いにいきましょう。」
「え、いや…わかってると思いますが、食べられないんですよ…」
露骨に悲しそうな声の骨にシュールを感じながら、アイテムボックスから取り出した指輪をアインズさんに渡す。
「人間化できる指輪を宝物殿から持ってきました。精神抑制が切れるのと、攻撃力がガタ落ちするデメリットはありますが…これで、二人で飯が食えます。デメリットがデメリットなので、決定権はもちろんアインズさんが。」
「…ええ、一緒に飯食いましょう。なぜか食べなきゃいけない感じがして落ち着かなかったんですよ。」
そういい、鎧を解除し、左手の薬指に『一時的に』指輪をはめる。
鈴木さんより多少かっこいい顔のアインズさんは、上位装備創造で衣装を装着する。
「よっしゃ、じゃあさっそく二人でいきま…あ、シズおはよう、大丈夫?」
さっきまで小刻みにしか動かなかったシズがアインズさんのベッドから降り、NIKUYAの横に来た。大丈夫そうなシズを撫で、アインズさんにこの子も連れてっていいか聞く。了承を得られたので、三人で大食堂に向かうこととした。
第九階層、一般メイド向けの大食堂。
深夜ではあるがそこそこの数のメイドが食事をとっている。
NIKUYAとアインズは何の気無しに食堂内に足を運ぶ。
それが大狂乱の元になるなど露知れず。
まず入り口。出てきたメイドに驚かれ、気絶される。
中に入る。あらゆる所で絶叫とガラスの割れる音。
注文口では言葉を忘れたかのような料理員達と、それを叱咤しつつ平常運転の料理長。
料理長も緊張していたようだが、流石はプロの中のプロ、なにがあっても動じない(設定である)。
阿鼻叫喚の中ようやく注文を済ませ、出来るのを待とうとすると席にお持ちしますと強く懇願され、渋々三人で席に着く。
なぜこんなに騒がしいのかと零せば、いつもはプレアデスまでしか訪れない、守護者ですら見えることがないここに、支配者たる二方が来られるなんて夢にも思ってなかった所為だとシズから言われる。
社員食堂に代表取締役と社長が来るようなもんか、と軽く理解し、料理を待つ。
5分ほどで全ての料理が運ばれ、漸くありつけるまでになった。
「さて、じゃあ…まって、『変形-人型』」
ゴーレムの種族特性の変形を使用し、人型のゴーレムになる。
見た目は筋骨隆々のスキンヘッド、アメリカンヤンキーをモチーフにしている。
通常形態と比べて指が細く、箸が使いやすい。
「おまたせ。じゃあ、いただきます!」
「「いただきます」」
NIKUYAの前にあるのは、エンシェントドラゴンのシッポステーキのミディアムレア、黄金米と黄金栗の炊き込み、エメラルドグリーンレタスとスタールビートマトのエングレイブゴマダレ和え。
アインズの前にあるのは、滝登り鮭の塩焼き、白金卵の出汁巻、水神ほうれん草とアダマンタイトカツオ節のお浸し、封印されし味噌と増え続けるワカメの味噌汁。
シズの前にあるのは、シズ専用ドリンクイチゴ味。
「うめぇ、なにこれ、こんな肉初めて食ったぞマジで!!」
「そりゃあリアルでドラゴンなんていませんでしたし…ってなにこの鮭、すごいんですけど!!」
「…甘い」
「ちょっとください鮭。…うっめぇ!!こんなとろける塩焼きあんのか!アインズさんも肉あげます!」
「え、いいんですか!…えっ、なにこれ、もう、向こうで食ってたのは生ゴミだったのか…!」
「うわ、サラダもなにこれ!身体の中が洗われてる感覚!!」
「いやいやそれは言い過ぎ…って味噌汁!身体中を駆け巡る味噌の香り!」
「あーもう足りねぇ!ぜんっぜん足りねぇ!旨すぎ!!」
「私も全然足りませんこれ!おかわりしましょう!」
「…シズも」
「次は…カレーもいいな!ラーメンとか、エビチリもあんのか!あー困る!すげぇ悩む!」
「次は海鮮とかもいいですかね!いや、あえてジャンク…中華にしても…あーもう!決まらない!もう!」
結局二人は騒ぐだけ騒いで決めかね、料理長のオススメに任せることとなった。
宴会の如く盛り上がる二人は昼まで食い明かし、NIKUYAが途中来店したプレアデスのルプスレギナとの大食い対決に勝利したころ、お開きとなった。
「あー、食った食った…旨すぎんだよ何だこの世界。」
「いやー、飯も凄かったですけど、NIKUYAさんとルプスレギナの大食いは爆笑モノでしたよ。」
食後にアインズさんの部屋で休憩する二人。
アインズさんは未だ指輪をつけたまま、メイドに持ってこさせた紅茶を楽しんでいる。
「アインズさんの精神抑制のない素のテンション凄かったですね。二人でやったオフ会思い出しました。」
「あー、あの時ほど酷くなかったでしょう?流石にあれは…ねぇ。」
「ええ、まぁ…今日はすげぇ楽しかったです。」
久しぶりの友との食事。
最初こそ一波乱あったが、とても、とても楽しかった。
それこそ、シモベの前にも関わらず素で騒いでしまうほどに。
「また明日も行きましょう、NIKUYAさん。」
「そうですね。明日はなに食うか考えときましょう。」
幸せな悩みが増えた。
紅茶を飲み終え、軽い談笑を切り上げ、アインズさんの部屋を出る。
(ああ、待たせてたの忘れてた)
待機を言い渡していたシズが、命令時と一寸狂わぬ場所に待っていた。
「おまたせシズ。じゃあ、俺とお仕事しよっか。」
「…かしこまりました、NIKUYA様。」
表情は変わらないが、声が柔らかくなった気が…気のせいか。
俺とシズは今から、アインズさんのお手伝いとして、ナザリックのギミックが正常に動作するかの確認作業をする。
「なぁシズ、また俺らと飯行きたいか?」
「…是非!」