はぁ……マーレちゃんかわゆ……
20
王都の探索や情報収集は、セバスとソリュシャン。
エ・ランテルでの情報収集は、冒険者チーム『黒の暴風』
それらとは別に、王国での情報収集、とりわけ「居なくなってもおおごとにならない、武技やタレントを持つ者」を捜索するグループがある。
その任務の内容から、よくナザリックに帰還することの多いグループだが、今回は数日かけての捜索の末に掴んだ情報を元に此処に来た。
「マリアさ──ん、この先が、例のガガンボの塒です」
「な、ナーベちゃん、その癖、治らないんだね」
マリアことマーレ、ナーベことナーベラルは、とある噂を頼りに、盗賊達の塒に赴いた。
ちなみに「その癖」、とは、敬称のほうと蔑称のほうと両方である。
「マリアさ─んが突入、私が入り口の警戒、でよろしかったでしょうか」
「うん、そうだね……いや、ふたりで入ろうかな。入り口は塞いじゃったらいいし」
「では、そのように」
女の子がふたり…いや、片方は、違うが、盗賊の餌になるような容姿の者が、盗賊の塒に立ち入った。
ブレイン・アングラウスは困惑した。そして、恐怖した。
「あ、あの、これって、武技、ですか?」
「マリアさm……ま、こいつは当たりですね。蛆虫からダンゴムシに昇格です」
「ナーベちゃん、いまサンマって言ったよね?言い直せてなかったうえに、へんなこと言っちゃったよね?」
「い、いえ。そのようなことは」
「その癖明日に治ってなかったら、御方にいいつけちゃうね」
「……申し訳ありません、マリアさん」
「は、ははっ……」
幾度となく太刀を浴びせ、その全てを何事も無いかのように受け流され、切り札である武技『領域』『神閃』を合わせた秘技『虎落笛』をも見切られた。
あのガゼフですら殺せると確信していた秘技。強さだけを追い求め、遂に手に入れた最強の一太刀。
…だった、はずなのに。
「俺は……弱いのか……?」
「っ、ナーベちゃん、捕らえて」
「はっ。確保!」
いっそ、逃げよう。と思って意識を切り替えた瞬間、彼の意識は暗くなった。
塒である洞窟から出ると、そこには人間が集まっていた。
「止まれ!何者だ!」
その人間のうちの1人が大声で誰何する。ナーベが殺気だち、構えようとした。が、それはマリアの杖による脳天への一撃で沈静化された。
「あ、あの、私はマリアといいます。こっちはナーベ。中の盗賊たちはみんな転がしてます。女の子たちは置きっぱなしなので、あとはよろしくお願いします…あの、もういいですか?」
冒険者らは眼前の女の子の証言に、困惑した。この子らがふたりで制圧したのか?ほかの人らと制圧し、すでに別れたのか?
来たばかりであるため、情報が少ない。だが、ナーベと呼ばれた女はともかく、マリアとやらに荒事に向いた気配は全くない。むしろよく此処に居られるなと感心するぐらいである。
まぁ、ともかく、危険はないだろう。と、冒険者らはこのふたりを警戒しなかった。
「あ、ああ。大声出して済まなかったな。俺たちは中に入る。おまえら、いくぞ!」
マリアの引きずる袋が蠢いた気がしたが、おそらくは盗賊の宝だろう。宝の取り分が減るのは痛いが、本当に戦闘がないのならそれに優る節約はないと判断し、中身を聞かずにすれ違った。
「口のなってないプラナリアどもめ、教育して差し上げても宜しいのではないでしょうか」
「だから、ナーベちゃん…いいつけちゃうからね、ほんとに」
「も、申し訳ありません。思っても口にしないよう、気をつけます」
それでいいのか、とは思ったが、今はそれでも進歩だろうと諦めるマリアであった。
「じゃあ、帰ろうか…………っ!?」
「いかがなさいまし……っ!?」
気配。強者の気配がする。
もちろん自分よりは弱いだろうが、自分が知覚できるレベルの強者の気配。これは、さらに良い手土産になるだろう。
マリアとナーベは目配せし、気配のほうへ向かう。慎重に、気づかれないように。
見つけた。あいつらだ。
複数いるが、とくに強そうなのは最前にいる槍使い。
そのほかには……あれは?
………………あれは。まさか。……そうだ、やはりそうだ。
「ナーベちゃん、あいつら、み、皆殺しで」
「宜しいのですか?」
「う、うん。全員生かさない。跡形も残さない。行動後、御方にメッセージを」
アレは、絶対に確保しなければならない。なんなら、いまからナザリックに連絡し、援軍を送ってもらうのも手だ。…いや、やっぱり、自分たちだけでやろう。成功したら、きっと褒められる。
まずは魔法で壁をつくって包囲、そして中を魔法で滅する。うまくいかなければすぐに撤退すればいい。
作戦をナーベに伝え、行動にうつす。
四方を分厚い土で囲み、それを推のように伸ばし、上部にも蓋をした。
そして、即座に範囲殲滅魔法を囲いの中を指定し発動させる。それも複数。MPの残りが不安だが、これでダメなら逃げる。
爆音やら風切り音やらが荒れ狂い、囲いの内部を消し炭と化していく。
中のモノは…漆黒聖典の者らは、この圧倒的な暴力になすすべも無く刻まれ、燃やされ、砕かれた。そのものらの中で最も強い、隊長ですら。
魔法のかけられた装備はその場に残ったが、それ以外はなにも無くなった。
警戒し、数分待ったが音沙汰がなかったので壁の上部を解放。バックドラフトを起こし、それが収まったところで壁を解除。
生存者が居ないことを再度確認し、ようやく一息つく。
そして、そこに残った複数の魔法の武具と……とある衣装を回収し、撤退した。
「こ、これで……アインズ様とNIKUYA様に、絶対に褒められる……っ!!やったよナーベちゃん、大手柄だよ!!は、はやく報告に帰ろう!」
「え、ええ。アインズ様にメッセージを送り、ゲートを開いてもらえる事となりました。暫しお待ちを。…して、その大手柄とは、いったい?魔法の武具を手に入れた程度では、手柄とはいえ、御方に…褒められる程の事ではないかと」
「ふ、ふふ。茶釜様が言ってたの。ボクに似合う衣装、自作もいいけど、やっぱり機能性も必要だなー、って。それでね、見せてもらった事があるの。これを」
「……それは、つまり、御方が認めるほどの機能がある衣装、だということですか?」
「み、認めるなんてものじゃないの!これは、魔法の武具なんて、それこそゴッズアイテムですら比較にならない程のものなんだよっ」
「……もしや」
「うん、そう。これは……」
白い生地に黒の縁取り、金の刺繍で竜の意匠を設えた、スリットの深いチャイナ服。
世界級アイテム『傾城傾国』である。
ブレインはゲイ設定になる予定だったそうです。どうでもいいですね。まぁ、がんばれ、ガゼフ。
ネタバレするとマーレちゃんが傾城傾国着ます。可愛い。見えそう。見せて(土下座)