「これより、報告会を始めさせていただきます。概要は資料に纏めさせていただいておりますので、そちらを参考にしていただければ。」
「うむ、ありがとうアルベド。ではまず、アルベドの報告から聴こうか。」
「はっ。まず、ナザリック地下大墳墓の防衛に関してーーー」
アルベドの報告は、手元の書類にある通りだ。数人の守護者とプレアデスが抜けた穴を、高レベルのシモベでできるだけ埋める。それでできた歪みを、多数の雑魚で埋める。
「戦力は1割ほど落ちたままですが、警戒網を充実させ、外敵や異常の早期発見を重視しました。なにか、ご意見を頂けると幸いにございます。」
「うん、良くやってくれてると思うよ。ただ、こことここ、コキュートスの負担が大きいと思うんだけどどうかな?」
俺は資料を見て、意見する。
「そちらに関しては、コキュートス本人からの要望にございます。先日ご命令いただいた、休憩や自由時間なども加味した上で、限界までお役にたちたいとのこと。シモベ一同同じ気持ちでございますが、コキュートスには現在他に割り振れる仕事が無かったため、その点での負担が多く見えるのでしょう。」
つまり、他のシモベもたいして変わらず過労なのかよ。いや、ちゃんと休憩と自由時間も命令したけどね?それでももうちょいゆとりを持っても…って、命令しなきゃ休み無しなんだから、これでもマシか。
「ふむ、今後も現場をよく把握し、さらなる効率化を図れ。ゆとりを持てば、いざという時に打てる手が多くなる。言ってる意味はわかるな、アルベド?」
「はっ。削れるところは削り、各員の休憩時間や休息日を拡大させます。」
「よろしい。」
おお、暗にもっと休ませろって伝えたのか。さすがアインズさんかっこいい。
「では、続いては私が。隠密に長けた者、探索に長けた者を調査に当てたところ、この大陸にはーーー」
まず、トブの大森林には、ハムスター、ナーガ、トロルが王として君臨しているらしい。ハムスターは傘下に収めたが縄張りはそのままなので、陣営に変わりはないだろう。
それとは別に、大森林内部の湖の周辺に、いくつかのリザードマンの集落が存在したようだ。暮らしは原始的、特筆するほどの点はないが、とある部族が魚の養殖をしていたり、別の部族の長が色素欠乏、アルビノのメスだったりと、生物としては観察しがいのありそうなケースだ。
人間の生息域に関しては、アインズさんがカルネ村の村長から聞いた、王国、帝国、法国の他、竜王国、評議国、都市国家連合が確認された。他に、聖王国、空中都市、海上都市なども存在するようだ。
竜王国、評議国は人間のみの国家ではないそうだ。国として付き合うなら、どちらかがいいかな。
「蜥蜴人については、小規模ながら社会性が人間に近しいため、様々な実験に利用しやすいかと。竜王国は現在、ビーストマンという種族に侵略されつつあります。評議国には、強者として警戒すべきである竜が確認されております。法国には、未確定でございますが、プレイヤーの末裔の存在、ワールドアイテムの存在が、可能性としてございます。」
蜥蜴人は確かに、ナザリック陣営が社会に対してどう動くかの実験に使えそうだ。
竜王国は、潰せば人類の危機感を煽れるだろうが、方向性が違うのでパス。どちらかというと手助けしたほうがいいだろう。国の主が竜王の末裔だと資料にはあるので、異形にも…多少はマシな反応だろうさ。
評議国と法国は要注意だな。特に法国は人間至上主義だそうなので、できれば近寄らないようにしたい。最終的には潰すか従えるかになりそうだけど。そういえば法国の部隊を潰したって話もあったな。敵対しちゃいそうだ。評議国はもっと情報がほしいな。資料には危険な存在が複数、可能性として書かれているが。
「うむ、よくここまで調べてくれた。そうだな、蜥蜴人は後日、私の実験の駒として侵略しよう。私の許可なく、手を出さないように。他の国にも、な。竜王国に関しては、手を差し伸べる方向で検討しておけ。善寄りのシモベ達の意見を取り入れ、できるだけ恩を感じさせるような演出を企画してほしい。法国、評議国に関しては、安全第一で情報収集に徹しろ。法国に関しては既に手を出されているが、あれはあの場で終わったことだ。今はこれ以上は不確定な要素を増やしたくない。」
冒険者としての活動がひと段落したら、蜥蜴人の侵略、次いで竜王国への救援。法国と評議国の情報を集めつつ、王国を裏から支配、帝国は良き隣人として協力関係を築く、そうだ。
なんかスケジュールみっちりだけど、俺の頭の中ではなにも上手く噛み合ってない。なにをどうすれば王国を裏から支配できて、帝国とパイプが出来上がるのか。アインズさんと頭脳班すげぇわ。どうすごいのかわからんぐらいすごいわ。
「では、続いては私、ルプスレギナ、ベータが報告させて頂きます。カルネ村の監視、観察に関する資料をごらんくださいーーー」
ルプーの話は、有意義ではあるが、特筆すべきことはなかった。生活リズムや食生活、娯楽や労働、商人との取引などの話など、まさに観察レポートの様相だ。
「ではこれらから読み取れる、人間らしい仕草や生活様式を別途資料にし、ナザリック外での活動を担当するものや、担当するであろうものに配布せよ。小さな綻びが破滅に繋がることもあるのだからな。」
「はっ。ユリね……ユリ・アルファとともに、制作にかかります。」
「そうだな、ユリなら細かなところも気付くだろう。」
人間らしく、かあ。元人間だからわからなかったけど、異形が人間の真似をするのって大変、なんだろうなぁ。そんなところに気付くなんて、やっぱアインズさんすごいわ。
「では最後に、私、ソリュシャン・イプシロンが報告させて頂きます。」
ソリュシャンの報告は俺でもわかるほど有用だった。
王国はいま、貴族派と国王派で分裂寸前、それぞれ、とくに貴族派が様々な悪事や叛逆的な外国との取引などを行い、遠くないうちに国としては破滅するそうだ。国王は愚鈍ではないが優良寄りの凡夫、生まれる時代が悪かったと言われている。バハルス帝国との毎年の小競り合いで生産力も落ち、後がないそうだ。
さらに巨大犯罪組織、八本指とやらに裏から支配されているとも噂されている。既に傀儡なら、主を挿げ替えるだけで支配ができそうだが。糸の持ち主が国を保たせようとしてないなら、面倒が増えるだけか。
「大規模に工作する必要があるか…。そうだな、いっその事貴族派を全て潰して、国王派の次男三男に貴族派が治めていた土地を任せるのはどうだろうか。いや、それまでに帝国に潰されそうだな。」
「ねぇアインズさん。」
「なんですかNIKUYAさん。デザート追加ですか?」
なんでや!そんなん俺が食いしん坊みたいやんか!
「あ、料理長、わらび餅追加で。ってそうじゃなくてね、いっそ、ナザリック周辺をうちの国にするのはどうかね?」
アインズ・ウール・ゴウン魔導国とか、かっこいいと思うんだけどなあ。
「うーむ、そうですね……。国として王国と帝国を相手にした場合、王国はどうとでもなりますね。帝国は王国ほどではなくとも然程戦力が高くない。仮に戦争吹っかけられても問題はない。ただ……」
「法国かぁ。」
「人間国家として立国できるなら問題は少なそうですけども。でも国家と呼ぶには足りないものも多い。」
「じゃあ王国を表立って支配、リ・エスティーゼ王国改め、アインズ・ウール・ゴウン魔導王国、でどうですか?」
「え、なにその名前。いや、いいんですけど…じゃあ、そういう方向で進められるか、デミウルゴス、検討しておいてくれ。できる限り周りの国を刺激しない方法を模索せよ。」
「はっ、早急に検討いたします。」
よし、なんか仕事した気分。掻き乱しただけ?いやいや、俺の意見でも無いよりはあったほうがマシだと思うんだよ。脳筋からの目線とか、頭脳班には無理でしょ。できないならできないで案が捨てられるだけだし。
「そういえばソリュシャン、セバスはどうだ。」
セバスなぁ。あの子…子と呼ぶには渋いが。善に振り切ってるから、面倒なことに巻き込まれそうな気がするんだわ。主人公体質っていうか。まぁ、たっち・みーさんの子だから仕方ないんだけど。あの人いっつもなにかに巻き込まれてるんだよな。
「今の所、なにも問題はございません。市場の動向の把握も的確、人気もあり、お求めになられた役目を全うしているものと存じます。」
「なら良い。なにか面倒に巻き込まれたら、些細なことでもすぐに報告するように言っておけ。たっちさんは、なにかあっても心配かけまいと口を開かない事があったが、それではなにかあった時に取り返しがつかなくなる可能性もあるからな。」
「しかと、承りました。」
今の所、どこで何を食べたかとか、誰をどう助けたとか、全部報告させている。報告の行くアルベドにも、疑問点があれば小さなことでも早合点せずに俺に報告するように言っている。問題の早期発見、早期解決は組織としてはとても重要なのだ。末端の末端でも、燃えれば大木ですら灰になることが珍しく無いからな。
「さて、報告はもうないな。当面の行動指針は各員、皆に滞りなく通達するように。勝手な行動をしないようにも、しっかりとな。それとデミウルゴス、この前言っていた『牧場』の件、NIKUYAさんが手伝ってくれるそうなので後日2人で話し合え。」
「なんと!NIKUYA様、寛大なるご慈悲、感謝の極みにございます!」
ああ、そういえばそういうことも言ったような…牧場ぐらいならね。
「では、報告会を終了する。私とNIKUYAさんは村に戻って休むので、皆も良く休息を取るように。」
さて、状態異常無効化の指輪で酔いは無効化されているので、このまま村に戻るかな。
と、ああ、忘れてた。
「アインズさん、指輪、指輪!」
「え?ああ、また忘れてた。アルベドよ。」
「はっ。」
「この指輪を、お前にやろう。」
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。ナザリックのほぼすべての場所に転移できる、ギルドメンバー専用だった指輪。職務上、アルベドには必要だからな。
「ありがたき幸せ……この指輪に恥じぬ働きを、御身に誓います……。」
うん?すごいプルプルしてるけど。まぁ、嫌がってはないだろう。
「では、我々は出立する。」
「いってきまーす。」
転移でアインズさんの自室に飛び、部屋の前で待機させていたユリに指輪を預ける。それから、アインズさんがアウラ…アイリにメッセージを送り、村に異常がない事、来客がない事を確認し、ゲートを開いてカルネ村に転移した。
アイリとティアに迎えられ、冒険者としての活動に移る。
「さて、冒険者モモンとニックとしての活動に戻りますかね。」
「目指すはアダマンタイト級、ってね。頑張りましょう。」
アダマンタイト級…青の薔薇とやらは女の子だけのパーティだったよな。一回会ってみたい。
そのころ、ナザリック、バーにて。
「さて、では私は休息を取りましょうかね。図書館か浴場か、どっちにしましょうか…」
「私はカルネ村の監視に戻りますかねー。」
「私も王都に…アルベド様、如何なさいました?」
「アインズ様…指輪……指輪…アインズ様………ハッ」
「アルベド?」
「これって、もはや結婚なのではないでしょうか!」
「なんでやねん!……失礼。」
「さすがにそれは……」
「きついっすね……」
最強チート異世界転生か、時間操作能力か、1億円が欲しいです。毎晩神様にお願いしてます。無神教なのでどの神様でもお願いします。
※追記
1話のPVが1万を超えていました。長らくお休みを頂いていたうちに皆様にお読み頂いていたようで、申し訳なくもあり、ありがたくもあります。
これからまた更新速度が落ちるかと思いますが、構想が出来次第、書き続けたいと思います。
これからも是非、よろしくお願いします。
ナザリックに栄光あれ。