異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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ふと『苦手を無くす』と言う言葉を聞いて思った。
それは決して悪い事じゃないし、むしろ良い事だと思う。
けど、その『苦手』をただ『平均的に』とか『普通に』
程度まで出来るようになっただけで、
『普通』以上に昇華出来ないのならばそれは、
自分を自分たらしめる個性を無くす(・・・・・・・・・・・・・・・・)
と言う事なんじゃないかって。



つまり私が言いたい事っていうのは


無理して苦手な英語を克服する必要なんてないよねっていう事だ!



閑話-11 独断専行、そして

「ちっ、クソが」

 

 何度目になるか分からない悪態をつきながら、夜も明けきらぬ王城の中を一人の男が歩いていた。その左腕は包帯のようなものに包まれて吊られており、よくよく見れば他の四肢にも包帯のようなものが巻かれている場所が多数ある。

 

「あぁもうやってらんねえ、何が安静にだよクソが」

 

 王国の軍、そして戦闘系のスキルを持った勇者達がこの城から去ってはや数日、海堂は毎日城の中を放浪する生活をしていた。

 

 

 

 獣王の娘の暗殺依頼を受け、その時に受けたイオリからのカウンターにより、海堂とモブAこと藻部島は重傷を負っていた。

 イオリがなけなしの魔力を使って放った、破片手榴弾と焼夷手榴弾が一緒くたになったような地味に凶悪な魔法が目と鼻の先で炸裂したせいで、レベルが30弱ほどしかなかった藻部島は未だ寝たきりで、レベルが40中盤程の海堂も、動けはするものの咄嗟に庇った左腕はかなり酷い状況になっていた。それこそ、軍医の回復魔法ですら瞬時には治らないほどに。

 

「ぜってえに、生きてる事を後悔させてやる。あのクソ幼女が」

 

 実はこの徘徊も、本人なりに考えたリハビリの一環だったりする。ただし城に残っている人に発見されると面倒なため、それこそ深夜から明け方までとなっている。

 だが今日は、それ以外の目的が海堂にはあった。

 

「今日、今すぐになぁ!」

 

 城のテラス、そこで両目を瞑りここ数日の成果と視界を繋げる。隣で寝かされていた藻部島から何体かの式神を拝借し、自分の視界を確保した上で様々な場所へ向かわせていた。

 海堂の目に映る幾つもの風景、それは火山の火口、霧深い谷の奥地、大森林の奥深くから繋がる地下、雲を超えた上空などのSランク以上の魔物の巣窟だ。そんな死地のような場所で式神が残っているのは、ひとえに式神があくまで生き物ではないという事と、海堂の操作が上手かったことが理由だ。

 

「こんな時間だ……城門くらいは機能してるだろうが、その程度でこいつらは止めらんねえだろうなぁ!」

 

 そう言った海堂は、飛ばしていた式神の上に小さく転送用のゲートを開いた。そしてそこから、アイテムボックスから取り出した幻誘蝶の体液というアイテムを素材とした魔物を呼び寄せる薬品を、式神に盛大に被らせる。

 途端に変化は起こった。本来の使い手とは違うため音声を拾うことこそ出来ないが、視覚だけでも分かる程の殺気をぶつけられ、海堂は獣王国への(…………)ゲートを続けざまに開いた。

 

 

 火山の火口からは獰猛そうな炎龍が、谷の奥地からは霧を纏った大亀が、大森林の地下からは何なよく分からない目玉に触手の生えた生物が、 上空からは真っ白な大鷲のような魔物が、そしてそれらを追って魔物の群れが。それぞれ北、西、南、東に開いたゲートから式神を追って獣王国へ侵攻する。

 

「あはははははっ!! どこもランクSSがいやがる。俺の、俺の勝ちだぁ!」

 

 獣王国へ向かわせていた式神を消し去り、自分の視界だけを残した状態にし、四方と上空から獣王国を観察できる状態で狂ったように海堂は笑い声をあげる。

 城門の警備隊が迎撃の準備を始めるがもう遅い、そんな程度じゃこいつらは止められない。そう確信していた海堂の視界のうちの一つ、北に異変が起きた。流星が降り始めた。

 

「あぁ? なんだよこの流星は! ……っ、んでいやがるんだよクソ幼女がぁ!」

 

 北にある視界には、羽の生えた杖に跨り空を駆けるクソ幼女ことイオリが映っていた。なんてことを考えている内に、一瞬で炎龍は拘束され、銀色の光に包まれて消滅した。

 

「なんだよいつもいつも邪魔しやがってぇっ!!」

 

 怒りのままに欄干に右手を叩きつけると同時に、北の視界に隕石が映り、視界が散らされて消滅した。

 

「ふぅ……だがまあ、よくよく考えればいいことじゃねえか。あいつが北にいたってことは他の方角はっ!?」

 

 続いて、東の視界は真っ白な閃光に包まれて繋がりが断絶した。そして南にも金色の浮遊する船という異物が現れた。そしてこれは、余りアニメに詳しくはない海堂が、珍しく知っている物の一つだった。

 

「まさか、ヴィマーナ……王の財宝(ゲートオブ・バビロン)か?」

 

 そして、その考えを頷けるように縦横無尽に空中を動く船には多数金色の波紋が纏わりつき、そこからは宝具かは分からないが大量の武器が射出され魔物を次々と屠っていく。そして殆ど時間をかけず、SSランクの目玉触手を除き全滅させた。

 そして、その頼みのSSランクの魔物も金色の鎖に絡め取られ、本来の実力を発揮出来ずに……かは分からないが、針山のようになり消えていった。

 

「あぁ! なんで俺のやる事なす事こうも上手くいかねぇんだよっ!」

 

 残っている西の魔物群も、謎の光を使ったと思しき人物やヴィマーナ、 間に合うかは分からないが今まで全てを邪魔してきた幼女がいるせいで成功しないだろう。

 全ての視界との繋がりを切り、海堂は目を開く。

 

「勇者として称えられるのは天上院達だけ、俺らだって依頼はこなしているのに信頼は向こうに全部掠め取られてる。クソが! このままで終われるかよ! クラス転生だ、なら俺だって主人公の筈だろうがよ!」

 

 そんな海堂の憤怒に惹かれて、なにやら良くない物の気配が寄ってくる。それにまだ本人は気づいていない。

 

「天上院も! アイツの仲間も! 王国も! クソ幼女も!! 許さねぇ……」

 

 ──全部何もかも、ぶっ壊してやる!! 

 そう言おうとした時、何処からともなくエコーのかかった、奇妙な声が聞こえてきた。

 

『いいねぇ、君。結構気に入った』

「誰だ!」

『そうだね、魔神とでも名乗っておくよ』

 

 いつの間にか黒い煙が周りに渦巻いている。

 

「そんな魔神サマが俺みたいな奴になんの用だ?」

『言ったでしょ? 君が気に入ったって。だがら契約をしてあげようじゃないか、君が望む力をあげるよ。誰にも負けない、ね』

 

 そんな自称魔神の問いに、ほんの一瞬たりとも迷わず海堂は答えた。

 

「はっ、いいだろう。魔神だかなんだか知らねえが、力が手に入るっつうんなら契約でもなんでもしてやるよ!!」

『それじゃあ、契約成立だね』

 

 そんな言葉と共に、黒い煙が海堂を包んでいく。

 

 ──スキル 七大罪・憤怒 を入手しました──

 ──スキル 七大罪・嫉妬 を入手しました──

 ──スキル 七大罪・色欲 を入手しました──

 

「『あはははは! あはははははははは!』」

 

 そんな奇妙な笑い声が響く中、魔神と海堂の契約が交わされた。

 


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