異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
「やっと、帰ってこれたぁ……」
そう言って私は、当てがわれている部屋……まあ、リュートさんとレーナさんの部屋なんだけども……のベッドに大の字で倒れこんだ。
みんなとの夜ご飯も終わり、本当にやることが無くなった時間帯が今だ。リュートさんは多分訓練場にいるし、ミーニャちゃんは多分レーナさんとか、ラファーさん? と一緒にお風呂タイムだ、いつもなら身体を軽く拭くか風呂に入って、髪を手入れしてそのまま寝るのだけど……
「約束したし、腕輪作らないとね。《ディバインスペル》!」
そう呟き私は、今まで呪いがかかっていたということで外すことの出来なかった腕輪に解呪の魔法をかける。MPを大量に
「あっ……うっ……くぅ……んっ……」
今更すぎることだが、銀狼の腕輪の魔法によって作られていた私の獣耳&尻尾は殆ど感覚が無かった。それは《変身》のスキルを入手して変身してる最中でもそうだったのだが、どうやらそれはこの腕輪の所為だったらしい。
普通の人間……いや、人族か……まあ、普通にはない第二の耳や尻尾が存在する感覚がいきなり出てきて、そのムズムズするというか気持ちいいというか……なんかそんな感じなのだ。SAOの小説で、シノンが尻尾を握られたときにあんな反応をしてた理由がよく分かった。
「はぁ……はぁ……びっくりしたー」
私は乱れた息を整えながら、今しがた外した白色の腕輪を見る。大きな破損こそ無いものの、大小様々な傷が付いている。
「今までずっと一緒だったからなぁ……」
今までの私の戦いの軌跡? のような物だと考えると、なにか感慨深いものが込み上げてくる。私が買った物の中で、最初の形を留めているのは服とか下着とかを除くとこれだけなんじゃないだろうか?
「それは置いといて、リュートさんの腕輪だよ腕輪」
自分に言い聞かせるようにそう言い、腕輪に解析をかけ、何がどうなって変装なんて効果を発揮していたのか観察する。
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変装道具・銀狼族タイプ
属性 無
耐久 自動修復
《スキル》
変装・銀狼族 LV ── 霊体化 LV ── 五感強化 LV 5
着脱不可 LV ── 水・氷適性極大化 LV ──
《備考》
ユニーク装備。装備すると、銀狼族に変装することができる。
変装先の銀狼族の特徴を模倣し、水・氷の魔法の適性が上昇する。が、呪いにより着脱不可になる。
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買った当時では見ることの出来なかった情報が浮かぶ画面越しに、腕輪が彫り込まれた10個以上の魔法陣がそれぞれ発動し、更にそれらがやたら複雑に組み合わさって出来ているのが見えた。
「これはまた再現もアレンジも難しそうな……」
ついついそうボヤいてしまうが、そんなことを言っていても始まらない。私は文字の映る画面を消し、魔法陣1つ1つを調べ始めた。
◇
「ここが呪いだから変えるとして……魔法系の機能はオミットするでしょ? で、こうすると安定しなくなるからここを繋げて……」
「何してるの? イオリさん」
僕が日課の素振りを終えて一風呂浴びて(勿論男湯)部屋に戻ってくると、ベッドの上でイオリさんが何かをしていた。その手元には小さな白色の腕輪と、対照的に大きな黒色の腕輪があった。
「んー……で、ここをこうして……。あ、おかえりリュートさん。昼間話した腕輪を作ってるんだよ、もう少しで出来るよ!」
そう尻尾をぱたぱたさせながら言ってくる。あれ? イオリさんの尻尾ってあんなに動いてた? まあ、気にすることじゃないか。
「やる事が早いね。凄く嬉しいんだけど……イオリさんって、獅子族の人の耳を見た事あるの?」
「あっ」
ぱたぱたしていた尻尾がピタリと止まり、イオリさんが「忘れてた」っと読み取れる表情になった。タラタラと冷や汗が流れているのが幻視できる。
「そうか……そこだ。なんか微妙に違ってたのは……。ど、どどどどうしようリュートさん! 私見た事無いしそんな知り合いも居ないよ!?」
「いや、最近毎日会ってるでしょ?」
「ふぇ?」
イオリさんがキョトンとした表情で固まり首を傾げる。珍しくポニーテールじゃない長い髪がサラサラと流れる……くっ。とりあえず鼻血のでそうな鼻を押さえて僕は言う。
「知らなかったの? ミーニャ様とかラファー様って獅子族だよ? まあ、王家以外にも居るといえば居るけど、イオリさんに一番身近なのはミーニャ様なんじゃない?」
「なん……だと」
「知らなかったんだ。イオリさんなら真っ先に解析を使ってそうだと思ったんだけど……」
「だって失礼だし……」
そう言ってイオリさんはプクーと頬を膨らませる。あざとい。この人元男なんだよね?
「まだ三人ともお風呂だろうし、上がってきたら行ってみるかなぁ……」
「いや、今から行ってきてもいいと僕は思うけど?」
「それは、私を元男だと知ってて言ってるの?」
イオリさんがキッと睨みつけてくるけど、我々の業界ではご褒美です。そして僕は決定的な一言をイオリさんにぶつける。
「こっちの世界基準だとなんとも思わないけど、日本人としては少し臭うよ? イオリさん」
「そんなっ……」
そう呟いた後イオリさんは少しの間目を瞑り、考えた末か目を開けて言った。
「仕方ない……か」
「行ってらっしゃい」
「はぁ……」
テキパキと腕輪を片付け、重い足取りでイオリさんは大浴場へと向かっていった。