異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
37度程度で私の動きが止められるかぁっ!
「念願の アイスソード を 手に入れたぞ!」
「それで、カリヨンとやらは出来たの?」
「……丸一日使ったのに出来なかった」
「まあ、そんなに簡単に2次元の装備が作れるわけないよね」
「あんなに演奏会みたいな事になって迷惑かけたのに完成しないなんて、チート鍛冶師失格だよ……」
ドーモ、昨日1日全てを掛けてカリヨンが一本たりとも作れなかったヘボ鍛冶師のイオリです。護符を作って、組み合わせて、どうなったかを確認して……なんかそれっぽい形にはなるのにそれだけ。いや、何も完成してないわけじゃなくて副産物はあるんだけどさ……
「あの綺麗な音、イオリちゃんが出してたんだ」
カリヨン的な物を作ってた時とか武器を試しに組んでいた時、原作で鳴ってたみたいに色々音がなってそこそこに五月蝿かったのだ。いや、綺麗な音なんだけどね?
「そうだよ、ミーニャちゃん。失敗しちゃったけどね〜はぁ……」
「少し前から思ってたんだけど、イオリちゃんはリュートくんの師匠に会ってこなくていいの?」
「あ」
私がミーニャちゃんにそう答えていると、不意にレーナさんがそんな事を言ってきた。
確か今日が私が大怪我をしてから丁度一週間だったはず。 絶対安静の期間は過ぎたって事だから、会いに行ってお礼はしないとね。……ロリコンだって話だけど。ロリコンだって話だけど!! 大事なことなので二回言ってみた。
「会いに、行かないとなぁ……命の恩人だし。リュートさん、案内して欲しいな! それで……いざってなったら私のこと助けてよ?」
「分かった。流石に師匠の目の前にイオリさんを置き去りにしたら、ナニされるか分からないけど、とにかくイオリさんが危ないからね、可能な限り助けはするよ」
「ありがと!」
なんだろう、リュートさんの言い方だと何ってナニになりそうで凄く怖いんだけど。皆揃った朝食は、もしかしたら今この瞬間が最後なのかもしれない……
◇
「師匠ー連れてきましたよー」
とても年季を感じさせる家の、まるで廃墟のようなドアをリュートがノックする。そして、それから数秒も経たずして、長い青髪の白衣を着た女性が飛び出してきた。
「おいリュート! あの子はどこだ!? いねえじゃねえか!?」
「理不尽!!」
開けられたドアの影にいた私には気づかず、勢いよくぶっ飛ばされるリュートさん。外開きなんて珍しい……じゃなくて、リュートさん痛そうだなぁ。
「あ、そんな所に居たのか。とりあえず上がっていってくれ!」
「アッハイ」
こっそりリュートを引きずりながら、家へと入っていく。
家の中は、もっとロリコン的アトモスフィアが漂ってると思っていたんだけど、思ったよりまともだった。普通にベッドやら薬品棚やらが置いてある病院風の室内は、ある意味コワイ。
「ちなみにこの建物は基本病院だ。私が生活してるのは地下だな」
「地下ですか!? 行ってみたいです」
「そうかそうか! じゃあ行ってみような、な!」
そして、私は地下へと降りていく。その途中の壁には、所狭しと薬品が並べられている。えーと、麻酔薬に風邪薬、胃腸薬に媚薬……ん? 媚薬? ……見なかった事にしておこう。
「痛っ、痛っ、イオリさん引きずるの止めて!」
「あ、起きたんだ、案内ありがとね。あとは壁として……」
「何やってんだ2人ともー、早く来いよー」
そう言われ少し開けた場所に出た途端、入り口の向こうで棚が倒れて帰り道が塞がれてしまった。
「ふっふっふ、舞台は整った!」
そう呟きながらニヤニヤしているクラネルさんを見て、先程の棚の中にあった媚薬という文字と、この人がロリコンな事が繋がり何か酷い身の危険を感じた。
「リュートさん!!」
「分かった! 天の鎖よ!!」
それだけでリュートさんには(ありがたい事に)伝わったらしく、即座に金色の波紋から鎖が飛び出してクラネルさんを拘束する!
「しゃらくせえっ!!」
が、次の瞬間にはそんなことを叫んだクラネルさんが、鎖を引きちぎってしまった。流石のこれには、私もリュートさんも固まってしまう。ねえ、それ宝具だよ? いくら劣化してるって言っても、バーサーカーも引き千切れなかったんだよ? あ、いや、神性がうんぬんって話が……あれ? え?
「で、リュート。師匠である私を拘束して、タダで済むとは思ってねえよな?」
ちょっと頼みの綱が全く効果を示さなかった所為で、頭の中がグルグルしてて考えがまとまらない。ああ、どうしよう? そう思って隣のリュートさんに目を向けると、何故か物凄い冷や汗を流してる。
「イオリさんを差し出します、見逃してください」
わ、私を売りやがった! 助けてくれるって約束してたのに!
「ちょっ!! リュートさん!? ナンデ!?」
「やっぱり人って、自分の身が一番大事だよね……」
そんな精一杯の私の抗議は、遠い目をしたリュートさんには届かなかったようだ。いや、天の鎖がダメだった時点で私もリュートさんには期待してなかったけどさ!
「それじゃあイオリちゃん、そんなバカ弟子は放っておいてこっちでお話ししようか?」
そんな風にとても楽しそうな笑顔……私から見れば、まるで悪魔のような笑顔……でクラネルさんが言ってくる。リュートさんは、パカッと開いた床に吸い込まれて何処かへ行ってしまった。
私の頭の中で薬品棚とクラネルさんの性的嗜好がグルグルと回る。スキルまで発動した高速の思考で出た結論は、どうあっても私は美味しくいただかれちゃうとの事だった。
(マズイ、それはマズイぞ……
くそぅ……考えろ、考えるんだ
「クラネルおねえちゃん」
「ブフッ、何かな? イオリちゃん」
「リュートさんは、どこに行っちゃんたんですか?」
「あのバカ弟子なら、今頃は家の前に放り出されてるだろうな。それがどうかしたのか?」
「ちょっとしんぱいだったので」
よし、条件は揃った。