異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
計画を伝えるだけ伝え、そのまま気絶したイオリを背負い村に帰ると、村人総出で迎えられた。
「本当に……本当に心配したんだからね!」
そう言ってレーナが飛び込んでくる。いくら戦闘がほぼイオリ任せだったとはいえ、受け止めきれず倒れこんでしまった。
「大丈夫だって。討伐も成功したし、二人とも怪我もしてないから」
「え? じゃあなんでイオリちゃんは、リュートくんに背負われてるの?」
「あ〜……これは魔力切れだよ。討伐した証拠も見せないとダメだからな……起きろー」
背負ってたイオリを降ろし、頬をペチペチと叩き始める。が、MPは回復している筈なのに起きる様子は無い。
「仕方ないな……。起きないと、オリハルコン全部没収するよ。3……2……1」
「そんなことさせるかぁっ!!」
カウントが0になる直前、イオリが跳ね起きてリュートに蹴りかかる。バシンッ という似つかわしくない音を響かせ蹴りを止め、リュートは話し始める。
ドシャッと落ちたイオリは、周りを見て状況を把握したようで、ホコリを叩いて起き上がる。
「討伐した証拠、見せないとダメだから起こさせてもらったよ」
「全く……あんな起こし方しなくったっていいじゃん……。えっと、証拠だっけ? はい」
そう言ってイオリは虚空に手を突っ込み、引っ張り出すと三枚下ろしのティラノが姿を見せた。
それを見て場の空気が一瞬だけ凍りつく。
「本当だったんだな……ありがとうなリュート。アイツを倒してくれて本当に助かったよ」
「いや、僕は殆ど戦ってないよ。アイツを倒したのは、ほぼイオリさん一人」
「ほ、本当なのか? 精霊術も使えない、あんなに小さい子が!?」
「本当だよ。その証拠にほら、僕には殆ど経験値入ってないから、レベル上がってないでしょ?」
経験値はパーティーを組んでいれば均等に配分されるが、組んでいない場合はその戦闘の活躍によって変わるのだ。今回ダメージを与えていたのは、殆どイオリだったためリュートには経験値が雀の涙程しか入っていなかった。まるでゲームである。
「本当にあんなに小さい子がねぇ……」
「まあいいでしょ? ユニークモンスターはもういない、村の危機は去って倒したのはイオリさん。もうこれ以上は……ね?」
イオリはふわぁと大きな欠伸をしながら、そのことを聴き安心していた。とりあえず人族だとバレるようなことはなさそうだ。
◇
その後は、なぜか村を挙げての宴会になった。簡単に纏めると、これで村の危機は無くなった。魔物に襲われずに済んだのだ。という事らしい。
まあ、当事者であ私はかなりの注目を集めていたのだけれど、出された料理が思ってた以上に美味しかったので、そちらは完全に無視しそちらを堪能している。
「ねえねえレーナさん。この際だから聞きたいんだけどさ、なんでリュートさんにはケモミミが無いの?」
ふと気になり、本人にもはぐらかされていた質問をレーナさんにぶつけてみる。まあ、答えてくれればいいかな? 程度の質問だったのだが、その言葉で場の雰囲気が変わった。
「っ、それは……」
「あ、いや、答えたくないとか無理なら別にいいんだけど……」
レーナさんが、辛そうな顔をしたので取り繕う。なんか悪い質問しちゃったなぁ……と思っているとレーナさんが意を決したような顔をして言う。
「リュートくんの耳はね、私を『人族』の人達から逃す時に片方は剣で、もう片方も魔法で切り落とされちゃったんだよ……私を庇って」
「それって、駆け落ち……な訳無いよね。逃げる……逃亡……奴隷?」
その最後の言葉に、ピクンとレーナさんが反応する。小説とかの異世界で、バッドエンドな事は少ないけど最悪な事……とりあえず、私自身は絶対になりたくないと思っている事の一つだったのだが、当たってしまっていたようだ。
「そう……だよ。私は価値が下がるからとかいう理由で叩かれたりはしなかったけど、リュートくんはね」
「やっぱり……【リフン】じゃ獣人も人族もあんまり関係なさそうだったのに、やっぱりそういうのはあるのか」
そう言って私は、若干暗くなった雰囲気の中溜息を吐く。うむむ……普通に重かった、どうしよう、この雰囲気。そう思っていると、レーナさんが口を開いた。
「それじゃあ、イオリちゃんはなんでわざわざ獣人界に来たの? 変装してまで」
「えー……あー……うん、私の事情ね」
クラス転移から除外されて一人だけTS転生させられて、まあ異世界を楽しもうと思ったら事件に巻き込まれてクラスメイトと再会して、多分バレたから逃げてきたって……リュートさんが一緒じゃないと、レーナさんが理解できる気がしないぞコレ……。そのリュートさんは、バイトさんと話してるし……いや、これは私が頼んだんだけどさ。
「TSなんてわからないだろうし……内容が濃すぎるから、今度リュートさんが一緒の時に……ね。絶対に言うって約束するから、それでもいい?」
「私は言ったのにズルい……。絶対に言うって約束だよ?」
「うん、約束約束!」
私はその言葉にコクコクと頷く。えっと、約束を証明できるようなものは……。私がそう悩んでいると、レーナさんが小指を立てて手を出してくる。
「それじゃあ、指切りしよっか」
「え? 知ってるの?」
「うん! リュートくんに教えてもらったんだ」
「なるほどね。それじゃあ」
「「ゆーびきーりげーんまーん、うっそついーたらはーりせんぼーんのーます。ゆーびきった!」」
「あ、呑んでもらうのは、イオリちゃんが持ってるその長い針ね」
「ふぇ!?」
ちょっとそれを千本とか、ヤバ過ぎない!?
◇
「そういえば、あの娘は何者なんだ? 獣人のようだが、お前達とは毛並が違うし、お前らの子供って訳じゃねえんだろ?」
指切りをしている二人を見て、バイトさんが俺に聞いてくる。やっぱり聞いてきたかという思いとともに、イオリさんの考えていた言い訳が役に立ったなとも思う。
「拾ったんだよ。銀狼族なのに、水系統の魔法の適性が無かったらしく捨てられたって話だね。今日の大爆発は、あの娘の火と土の複合魔法だよ」
「そうだったのか……中々重い過去を持ってるじゃねえか」
これでいいんだよね? と耳をピクピクさせて聞いていたイオリに目を向けると、サムズアップをしていたので問題は無いようだ。口の周りが色々汚れてるけど、拭かないのだろうか?
「そんな過去があったから、あんなに小さいのに強えんだな。まあ、AとCランクのコンビでオリハルコンティラノを倒すなんて聞いたことねえぞ?」
「まあ、僕も詳しい事は知らないけど、確かに規格外だよ……」
若干暗そうだった雰囲気が消え失せ、楽しそうに二人で料理を食べているイオリを見ながら、転生者とは言えどうしてあんなに強いのだろうと思うリュートだった。