異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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第35話 自分にとっての勇者

「対神特化、次元操りし破邪の剣(ディ・ガランティン)!」

「キュァァッ!」

 

 少し前口の中に突っ込まれた薬草が効いているのか、特に酔う事も無くフローって名前らしい竜に乗って空を駆ける。同時に今の俺の最大火力の攻撃と、フローが火炎を吐くけど即座に再生されてしまう。

 

『あはハハ!痒い、痒いぞ勇者!!そんな力で僕は倒せなんてしないぞ!』

「さっきから煩いんだよニート以下!!掲示板にカキコしてるノリで話されてもウザいんだよ!」

『ダマァレェェェッ!』

 

 俺のやっすい挑発に乗った邪神が、陽光を反射してギラつく尾を薙ぎ払ってくる。子供レベルの精神で助かる。

 それに少なくとも今、俺に火力は必要ない。ロマン廃火力で殲滅とかは憧れるけど、こうやって敵を釘付けにする事が今の俺にできる1番役に立つ事だから。

 

「きゅ!」

 

 そして振り払われた尾は、圧倒的な機動力を持つフローが危なげなく回避する。剣を持つ右手を除いた全身でしがみつき、回避しきった所からが俺の出番だ。迫る鋭い爪付きの裏拳、迫り来る壁にしか見えないそれをどうにか対処する!

 

「展開時間及び範囲を最小に設定、代わりに強度を限界以上まで上昇。結界展開!」

 

 戦ってる中で思いついた砕かれ続けていた結界の1番良い使い方。それは結界を極限まで細く薄く展開し、動かせないそれを相手の動きの先に配置する事。

 

『ガァァァァァ!』

 

 先程から何度か試してる手に魔神はまたも引っかかった。手首辺りに配置した結界に直撃した裏拳は、見事魔神の拳を切り離し赤い血を噴出させる。

 

「風と氷と炎と土よ、撃ち落せ!!」

 

 闇と次元を除いた全ての魔法が纏まったらしい極光魔法。それで発生させた風が、斬り飛ばした魔神の拳を俺のアイテムボックスの中に叩き込む。こうしないとすぐくっ付くから、かなり減ってきた魔力を使ってまで斬った意味がなくなる。

 

「それに…血が出るなら、殺せる筈だ!虹よ刻め!」

「きゅっ!」

 

 傷口を抑えるもう片方の手が肩から無いせいか、滅茶苦茶に暴れだした魔神の計8つ目に俺が放った複合魔法・紅蓮の中に黒を内包した弾のようなブレス・おそらく龍特有の見える飛ぶ斬撃が直撃して視界を奪う。

 どうせ1分保たないだろうけど、それで他のみんなが攻撃する時間を稼げれば十分だ。何度目になるか分からない魔力回復の丸薬を噛み砕いて嚥下しながら、今の自分の状態を再確認する。

 

「体力魔力共に半分弱、装備は剣以外ガタがきてるし疲労は凄く溜まってる。フローちゃん?の方は俺よりマシだけどそれでも消耗は酷いか」

「きゅきゅう…」

 

 同意する様な鳴き声が聞こえるけど、アイテム類がもう心許ない以上分けられない。第一人間用のアイテムじゃ回復量が全然足りないし。

 そんな事を思ってる俺の近くに、鋭い風切り音を鳴らしながらロイド君が現れた。苦虫を噛み潰した様な表情をしてるけど何があったんだろう?

 

「イオリから伝言です。『ちょっとロイドとティアを借りるよ。その間少しだけ魔神を抑えてて欲しいな。起死回生の一手ってヤツだね。あと、今までありがとう。ごめんね』」

「ちょっと待った!一応了解するけどごめんねって」

「まだ終わってません!!『それと、もしもの時はティアの杖を回収するか、魔界のエスイルトの街のダンジョンに行って』だそうです」

 

 本当に待って、それって死ぬかもしれない時に言う様な言葉じゃん。それに、魔界のエスイルト?なんでわざわざそんな事を…

 

「あと『半分づつ貰ってくね』だそうです」

 

 疑問に思ってる俺の腕に尖った破片が刺され、ゴッソリと力が抜けた感じがする。これは…多分七元徳スキルを半分ずつ盗られた?

 

「俺だってまだ認めて無いですよ、これからやる事は…でも、それこそ俺の命に代えてもイオリは守ります。急いでるんで、それでは宜しくお願いします!」

 

 俺が質問を返す前に、一瞬でロイド君はいなくなってしまった。振り向いてみると、巨大な魔法陣の重なった球体の中に3人は立っていた。蒼矢とティアさんは両手を忙しなく動かしていて、ロイド君も何かに集中している様だった。

 

「どっちにしろ、俺がやらないといけないのか…」

『アァァァァ!!』

 

 再生が終わり始めている魔神がばら撒くブレスが、偶然こっちの方向に飛んでくる。背後の蒼矢達を巻き込む軌道で。こちらを試す様なタイミング、いいじゃんやってやろうじゃないか。

 

「俺にとっての“勇者”は決して“英雄”じゃない」

 

 英雄みたいに目的のために敵を殺戮して称えられる者じゃなくって、俺にとっての勇者って言うのは自分の大切な者を守りきる事の出来た者。何が違うのかって言われると、具体的な説明は出来ないけどそういう者だと思っている。

 迫るのは極大のブレス、今までのどの手段でも防げないだろう極大の破壊。だけど勇者って呼ばれてて、守りに特化した力を持ってる俺なんだ。

 

「大切な人を守れずして、何が勇者だっ!!」

 

 ーーー条件を達成しましたーーー

 ーーー七元徳スキルの干渉が始まりましたーーー

 ーーー職業:勇者が勇者(真)に進化しましたーーー

 ーーー新しい武技を習得しましたーーー

 ……

 

 その他諸々アナウンスが流れたけど、簡潔に言うと護るための力が手に入ったって事みたいだ。それならやる事はたった1つ。

 

「貫き目指す我が信条、理想をここに!

勇ある者の誉れをここに(グローリー・オブ・ザ・ブレイバー)』!!」

 

 顕現したのは剣の納まった、巨大な光の盾。それはブレスの直撃に微塵も揺るぐ事はなく、今までどう頑張っても使えなかった《忠実》スキルの反射を発動させた。

 《忍耐》と《忠実》が半分づつ混じり合った力、分不相応だった俺にとってはこれで充分だと、そう思うんだ。

 


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