異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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副題 第6章エピローグ

うん、知ってた。こういう話を書くとお気に入りがガッタガタするって。


第19話 終わりの始まり

 冬の冷えた空気が、私の茹で上がったように赤い顔を冷やしていく。ロイドが何か説明みたいなのをしてくれてるみたいだけど、正直心臓はバックバクだし色々と意識しちゃってるせいか頭に入ってこない。

 

(この前も手は繋いだけど、今は義手じゃなくて生身だからゴツゴツしてるのに柔らかくて暖かいし…)

 

 私もハンマーとか大鎌を振ってる以上どっちの手にもたこはあるけど、それとは違った感じの男の子って感じの手だ。元は私もそっちに近い手だったのに、今は何故か繋いでるだけで恥ずかしい。

 

「ーーで、あのお店には色々な物が売ってるんだけど…って、大丈夫かイオリ?」

「え、うん。ただ、ちょっと恥ずかしくって」

 

 私は照れた顔のまま笑う。服はこの前地球で買ったばっかりだし、一緒に回るとしたらそこら辺かな…って、小物?

 

「小物って言えば、この前ロイドが買ってた髪留めって何だったの?」

 

 この前薬を買いに行った時、同じ場所で四つ葉のクローバーのヘアピンみたいなやつを買ってたけど、アレってどうなったんだろう?

 

「アレは…本当はイオリにプレゼントしようと思ってたんだが、あの後すぐにモーブの事があっただろ?  だから、何というか渡すタイミングを逃してな…」

「それって、今も持ってたりする?」

 

 私のその問いにうんとロイドが頷く。私も多少慣れたから変な対応する事も無くなったし…

 

「それならさ、前髪伸びちゃって少し邪魔だし今欲しいな」

「プレゼント感とか何もないんだけど…いいのか?」

「うん!それでも私への()()()()()なんでしょ?」

 

 ロイドからのプレゼントっていうだけで嬉しくなってる私がいるんだ。この感覚に間違いはないし、それなら何の問題も無いだろう。

 若干納得いってないロイドからヘアピンを受け取り、若干左目にかかり始めていた髪の毛を邪魔にならないように留める。

 

「ど、どうかな?」

「選んだ俺が言うのも何だけど、凄く似合ってるし、か、かわいい…ぞ」

「あぅ…あ、ありがと」

 

 自分で聞いといて情けないけど、慣れたと思ったのに恥ずかしさでそんな答えしか返す事が出来なかった。道端で赤面して俯く男女1組、リア充爆発しろ。いや私たち爆発効かない。ロイドに抱きつけば完全無効。

 

「………」

「………」

 

 それをきりに、私達の間に何だか気まずい雰囲気が漂い始めた。な、何か言うかしないと…そんな風に私が思った瞬間、くぅと私のお腹が鳴った。

 羞恥心が最早どこぞの神器(セイクリッド・ギア)の効果並に毎秒跳ね上がっていくけどナイス暴食。食費は増えたし、リゼロでは許せない働きをしたけどナイス暴食!

 

「この前はモーブのせいで行けなかったし、お昼にするか?」

「う、うん!  行ってみたい所あったんだ!」

 

 幸いにもここから場所はあんまり離れてない。あそこはまあ、どっちかっていうと甘味処だけど、珍しくケーキがあったからお腹には溜まるから問題無い。それにこっちの世界特有の料理でも無い限り、クックパッ○を可能な限り書き写してきた私に死角は無い。

 そんな謎の優越感を覚えながら、私がロイドの手を引いていくのだった。

 

 

  そして到着した何故か洋風な店内の窓際の席、こんな世情なせいかほぼ人がいないからそんな良い感じの席は普通に空いていた。多分このお店、クラスメイトの誰かがやってるんだろうけど今は気にしない。

 

「ん、やっぱり自分で作ってないやつだとおいひい…」

「それなら別にいいんだが…イオリは本当に良かったのか?」

「ふぇ?」

 

 頬張ったショートケーキを飲み込んだ私に、心配そうな顔をしてロイドが聞いてくる。良かったのかってなんだろう?

 

「お腹空いてるみたいだったのに、大丈夫なのか?」

「うん!ケーキって結構お腹に溜まるからだいじょーぶ」

 

 因みに私が頼んだのは生クリームと苺の乗ったショートケーキ、ロイドが頼んだのはレアチーズケーキだ。正直ロイドのも美味しそうなんだよなぁ…

 

「信じられないなら、ほら!食べてみ……る………」

 

 そう言って自分のケーキを切って、ロイドの方に差し出してから気づいて赤くなる。え、これあーんってやつじゃ…それに結構乗り出しちゃってるから引くに引けないし、これさっき私が食べたフォークだし…

 

「お、おう」

「あっ」

 

 そう私が固まっていると、出したままだったケーキはロイドの口の中に収まり、つまり間接…あぅ。確実にこれ頭から湯気出てるけど………ああもう吹っ切れた!!

 

「わた、私のケーキあげたからロイドのもちょーだい!  ほら、あーん」

 

 そう言って目を瞑り、口を開けてから私の記憶はお店を出る辺りまで途切れてるけど、口の中に甘い味が広がったのは覚えている。

 

 

「もうちょっとなのに、間が悪い。間に合うかは五分…かも」

 

 全力で私は魔法を行使する。マスターの杖のお陰で何倍にも膨れ上がった魔力での魔法だけど、これでも何時まで保つか分からない。でも、そろそろいい雰囲気だから間に合うかも…

 

「頑張ってね。マスター、ロイド」

 

 

 あいにくと外は曇りになっていたし、最後の方の記憶はないけど食事を終えてお店を出た頃、ようやくオーバーヒートしてた私の頭が再起動する。

 

「うーん、曇っちゃったね。このあとどうする?」

 

 なんだかんだで、いつもより楽しかったからこれからどうなるのかなぁと思って、再起動したばっかりの頭で隣のロイドに聞いてみる。

 

「本当はもうちょっと色んな所を回りたかったけど…えっと、これを逃したらまたズルズル引きずりそうだし…よし!」

 

 何やら迷う様にそう言った後、何やら覚悟を決めた目線で私を見つめてくる。

 

(え、う、これってまさか…別にタイミングは私は気にしないけど、実はもうちょっとロマンチックなのがいいなぁって思ったりもするけどえとえと)

 

 絶賛大混乱に陥った私に構わず、目を逸らさずに、しっかりと私を見てロイドが言う。狙いすましたかの様に人通りは0だし、えっ、ちょっ、心の準備が。

 

「魔界で再会して助けられた時から、今までずっとイオリの事が好きだった!」

 

 付き合うとして、今と何が変わるんだろう? 今でも一緒にご飯は食べてるし、色々してるし…ほんの数瞬の間に、今までの事や言われた事が頭を巡る。

 

「俺と付き合ってくれ!」

「…………私、こんなに背ちっちゃいよ?」

 

 悩んだ末最初に出てきたのは、どっちかって言うと否定のことばだった。ロイドだったら、案外もっといい人を見つけるかもしれない。

 

「それでもだ!」

「年も結構離れてるし…」

「たった数年だ!」

 

 自分で気にしている事を、この際だから全部ぶつけちゃおう。もうあんまり残ってないけど、これはやっておかないといけない気がする。

 

「元男だよ?」

「今のイオリと話してたら、そんな事は気にならない!」

「胸もちっちゃいし」

「そんなの気にするもんか!」

「鍛冶が趣味の変な女の子だし…」

「そうじゃなかったら、きっと俺は今頃死んでた!」

「これからも多分、危ない事に巻き込まれたりするよ?」

「そういう時は、俺が一緒に戦って守ってやる!」

「本当に、本当に、私なんかでいいの?」

 

 最後の最後に出た言葉は、自分でも驚くくらい不安で震えていた。

 

「違う、イオリがいいんだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸がそのなんというかキュンとしたって言うか、少女漫画のトゥンクって気持ちが分かった気がした。そっか、私もロイドの事、多分…好き、なのかもしれない。

 

「こんな私でいいなら、喜んで」

 

 半分泣きそうになりながらも、満開の笑顔で私は言う。そしてこのまま、もうなんだかよくわからないテンションで一歩を踏み出した瞬間、

 

「すっごくいい雰囲気だけど、ゴメン、マスター。抑えきれなかった」

 

 すぐ隣に転移してきたティアが、荒い息で膝をつく。そしてそれと同時に、空を覆っていた雲が…否、雲のように見えていた異常なまでに濃い霧が晴れていく。

 

 そして、霧が晴れた時に見えたものは…

 

「何、あれ?」

 

 視界を埋め尽くすほどの魔物魔物魔物魔物魔物。ランクもバラバラ、中には死んでいるものもいるけれど、その圧倒的な物量で街を覆う結界が軋みをあげている。

 

「そして結界も、私の迎撃が無くなったからもう終わり。本当にゴメン、2人とも」

 

 そんなティアのセリフが終わった瞬間、上空から大量の魔物が街に降り注ぎ、街にサイレンが鳴り響いた。

 地獄が、始まる。

 




 甘い時間は終わりを告げ、街は地獄へと塗り替えられた。
 君は知るだろう。人の悪意はとどまる事を知らないという事を。
 そんな中でも私達は未来を求める。ほんの僅かでも、幸せに近い未来を。

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