異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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 本来今日更新するはずの話は、作者が砂糖を吐いてダウンしたため延期されました。
 デートもどきとか、作者にはキツかったよ…(ガクッ)


閑話-17 営倉の中で

 ピチャンピチャンと、薄暗い中に水が滴る音だけが響く。朝夜に普通のご飯は運ばれてくるけど、牢に掛けられてる魔法のせいか自分が出す音以外先の水音しか響かないこんな空間にいると、気が狂いそうになる。

 私、柊鈴華は今、ギルドの地下にある営倉の中にいた。

 

「なんで私がこんな所にいなきゃいけないのよ…」

 

 薄暗くてジメジメしてるし、寝る所はあるけどベットは硬いし毛布もペラッペラだ。営倉だから仕方のない事ではあるけど、近くの牢に例の強姦未遂をやらかした奴がいるらしいのは気にくわない。

 いつも食事を持ってきてくれる青いツナギの男の人が、なぜか時折とてもツヤツヤしてる事とその犯罪者に何らかの関係はありそうだけど、暇つぶしに暴いてしまったら死ぬ気がする。

 

「それは私だって、感情的になりすぎたって言えなくもないけど…」

 

 それに白沢君が、言っていた通りの異世界生活の始まり方をしたのなら私達勇者と違って野宿とかも普通にしていたんだろうし、文句を言ったとしても負ける気がする。

 

「仕方ないから、やっぱり、謝った方がいいのかしら? 気にくわないけど」

『キミは本当にそれでいいの?』

 

 そう思った瞬間、暗闇の中からそんな奇妙なエコーのかかった声が響いてきた。なに…この凄く気持ち悪い気配。

 

「あなたは誰? いや…なに?どうやってここに入ってきたのよ!?」

『そうだね…わかりやすく言えば海堂君と契約した存在かな?』

「あんたが!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私が魔法の代わりに使える忍術を全開で発動した。声のした方向に炎や水や風を飛ばすけど、一切の手応えがない。

 

『酷いなぁ、危ないじゃないか』

「あんたが今の人間界をおかしくした奴に加担してるっていうなら、どうなろうが知ったことじゃ無いわよ!」

 

 そう言っては見るものの、気配には何の揺らぎもない。いっそこうなったら、拘束される期間が延びること覚悟で牢を壊してでも…

 

『ふーん、僕の契約者が色欲と嫉妬に塗れた憤怒なら、君は差し詰め勇気を履き違えた傲慢かな』

「誰が傲慢よ!」

 

 なにを言っているのかよく分からないけど、途轍もなく良くないことを言われたことは分かる。それに、私は傲慢なんかじゃない!

 

『君の心を覗けば、一目でわかるさ。ついこの間の暴食の少女達にした行い、それなんか最もたるものじゃあないか』

「私の心を覗くなぁぁぁっ!」

 

 牢を壊す勢いで遠心力を乗せた回し蹴りを放つけど、形容しがたい不快な感覚が足首を包んだだけで、気配の主にも牢にも何の変化も訪れなかった。

 

『それに、件の白沢君とやらがいなくなってせいせいとしてたんだろう?愛しの天上院くんを取られることが無くなるから』

「違う!」

『違わないだろう。戻ってきた暴食の少女の意見を聞きもせず、あんな事をいえるんだからねぇ』

「あれは! あの子がどうしても信用できなかったから!!」

 

 そうだ。あんな何もかも変わった子を白沢君だなんて信じられないし、他のみんなは気にしてない風だったけど目の前のコイツと似通った…つまり大罪スキルの雰囲気も漏れていた。おまけに私達と同じような元徳のスキルも持ってるみたいだし…そんなわけわかんない子を信じるなんてどうかしてるわよ!!

 

『ほらその考え方だよ』

 

 ピシャリと冷水を浴びせられたような言葉に、思考が停止してしまった。いや、違う。私は海堂なんかと同類じゃ…

 

『へぇ…なんか、ねぇ? ますますらしくなってきたじゃあないの』

「あっ…」

 

 一瞬途轍もない殺気を浴びせられ固まってしまい、その後の手叩きでも聞こえてきそうな声音での発言に顔が青くなるのを感じる。

 

『ふーん、へぇ。なんだ暴食の子って、キミの命の恩人なんだ。その様子だと、忘れてるみたいだけどねキミは』

「なに…を」

『迫るオークキング、いきなり現れた炎の鎖と光の輪、その首を斬り飛ばした銀色の流星。本当に覚えがないなんて言うなら、あぁ、なんてあの子は不憫なんだろうか』

 

 ケタケタと笑う声まで聞こえてくる。確かにその記憶には覚えがある、だけどあの時の子は特に変なスキルもないごく普通の女の子だったはずだ。あの頃から私達を騙していた? いやそれはない、という事はつまり私達は命の恩人を殺しかけた上に、向こうの善意を邪推して拒絶していた? そんなの、そんなのって…

 

『いい顔をするじゃないか。それに素晴らしい絶望の味だよ! やはりキミには、この《傲慢》のスキルを授けよう』

「い、いや。来ないで! うっ」

 

 呆然としてへたり込んでしまっていた私に、暗闇から滲み出てきた黒い煙の様なナニカが纏わりつき、喋るために開いた口から無理やり体内に進入してくる。口を閉じようとしても何故か金属でもあるかの様に閉じれず、確実に何かが書き換えられ…違う、書き加えられていく。

 そして、そのナニカが書き換えられる直前、

 

『ちっ、時間切れみたいだね。でも種は植え付けた、キッカケも作った。キミがこれからどう変わって行くのか、僕は楽しみで仕方がないよ』

 

  そう言い残して、謎の気配はすぅと消えていってしまった。私の中に、よく分からないどす黒いモヤモヤを残して。

 

「違う、私は傲慢じゃ…あんな、海堂とか白沢君みたいな奴じゃ…」

 

 今言ってる言葉が先程となんら変わりのない事に気付かず、急いでる風の足音が聞こえる中、私は意識を闇へと落としていくのだった。




| 壁 |Д†)

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