異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
「とりあえずここなら、落ち着いて話ができるか?」
タク達を殴り飛ばした後、私達はギルド長の部屋に通されていた。街の中を歩いてる時は、若干のきいの視線? に晒されたけど、まあそんなのはいつもの事だからあんまり気にしない。
「久しぶりだな、坊主に嬢ちゃん」
「はい! お久しぶりです、ヒッグスさん」
「お久しぶりです!」
「私は初めまして」
ギルド長室って言うだけあって、かなり久しぶりにヒッグスさんと再会する事が出来た。今この場には私、ティア、ロイドと、アルさん、タク、柊とヒッグスさんの7人が居て少し狭い。
「そ、蒼矢? 少しは機嫌を……」
「プイッ!」
「はっはっはっ! 嫌われたなぁ、タクミ!」
「あなたねえ!」
「煩い」
ふーんだ、しばらくタクの事は許さないもんね! あれからもうちょっと八つ当たりしようと思ったけど聖剣は砕けちゃってたし、柊? ティアに杖突きつけられてるけど知んない。大怪我してたけど、タクが治してたし別にいいよね。
「賑やかなのはいいことだが、そろそろ本題に入っていいか?」
ゴホンと大きく咳払いしてからヒッグスさんが言う。あ、うん、そうだよね。元々私達がここに通されたの、今の人間界の事情説明って事だったし。
「あ、はい! よろしくお願いします」
「予想は出来てる、けど、正確な情報が欲しい」
大笑いしてるアルさんとタクは置いておいて、私達はヒッグスさんに向き合う。さっきみたいに頭がこんがらがってないし、ちゃんと礼儀は守らないとね!
「まず、今の人間界の状況だが……はっきり言って滅亡寸前だ」
「はい?」
ロイドがまるで訳がわからないって顔で聞き返す。うーん、改めて聞かされるとビックリだけど、これはティアの予想通りの展開になってたりするのかな?
「何が原因なのか分かりますか?」
「詳しくはわからないが、勇者の1人が暴走した。それも大罪スキルの効果を全開にしてな。他の街に行ったんなら見たろ? 異常な状態異常が大量に表示されてる街の人たちを」
真剣な目で言うヒッグスさんの説明の後、横からタクが説明を補充する。
「暴走したのは海堂で、今のところ残ってる街はこの【リフン】を含めて4つだけになっちゃってる。他の大陸がどうなってるのかは分からないけど、人間界はもう詰みに近いね。山ちゃんのおかげで街はダンジョン化してて、食料とかもギリギリだけど問題はあんまりないかな」
「魔界で似たような黒い煙を出してる人たちと戦ったし、もう手は広がってるのかも」
山ちゃんには後でお礼をしに……分かってくれなくても行かないとだし、ロイドの腕の件は後でメイさん達に話に行かないと行けないし……
そんな事を考えていると、少し考え込んでいる様子だったティアが口を開いた。
「ふむ。なら予想通り。洗脳は『色欲』、伝染は……変形した『嫉妬』かもしれない」
「そこまで分かるとはな。嬢ちゃん中々やるじゃねえか」
「それほどでもある」
どことなく誇らしげなティアを見て、年の功って思った瞬間足をグリグリされた。真面目な顔を保ってるけど、普通に痛い。心を読まれるって、こういう時は不便だなぁ……
「だが、そこの柊が言うにはもう一つ何か隠し持ってる雰囲気があるそうだ」
「そうなんですか……残りは『強欲』『傲慢』『憤怒』のどれか。強欲じゃなければいいですが……」
「その3つの中で、一番厄介なのは『強欲』なのか?」
はぁ……と軽く溜息を吐いた私に、ロイドがそう聞いてくる。いやー、だってその、ねぇ?
「ステータスとかスキルとか、一方的に奪われるんだよ? 極大の魔法とか、極大の物理的ぱぅわーよりはよっぽど戦いたくないよ……」
「それは確かに、絶対にやりあいたくないな」
「マスター、それあんまり言える立場じゃ……」
言っちゃいけない事を口にしそうになったティアの口を塞ぐ。私の切り札その3くらいのに似たような効果のやつがあるけど、あれはちょっと条件付きですー。
「ちょっと。情報源私なんだけど、聞くことはないの!?」
「うん。だって隠し持ってる雰囲気があるだけなんでしょ? 実際に見てないなら、意見の参考にもならないじゃん」
「それならまだ、自分達で推理した方がマシ」
突っかかってきた柊何某をバッサリ切り捨てる。だってアトモスフィアだけじゃ何の判断も出来ないもん。忍者ならもうちょっとこう、しゅしゅしゅーんって感じで取ってくれば?
「まあ雑な説明になっちまったが、質問はあるか? 答えられるやつだったら答えるぜ」
一応話が終わったのか、アルさんが仁王立ちでそう言う。質問、質問か……剣の長さ重さ素材は後にするとして。1つだけ思いついたことを口にする前に、ロイドが不安に揺れる目で問いかける。
「俺の父さん母さん……ストームブリンガーの人達は無事ですか?」
「あぁ。というか、今もこの下の闘技場で教官をやってるぜ!」
「そうなんですか!? 失礼します!」
アルさんがニヤッと笑いながら出した答えを聞いて、ロイドは部屋を飛び出していった。ちゃんとお辞儀をして言ってる辺り、地球で姉ちゃんに色々仕込まれてる感じがする。
いきなり飛び出ていったのはアレだけど、年齢的にロイドって中1くらいだし仕方ないと思う。見た目幼女の私が言うのは変かもしれないけど。
「嬢ちゃん達はなにかあるか?」
「はいはい! アルさんのレベルって幾つですか?」
「290だな」
「おぉー……時間が空いている時、模擬戦お願いします!」
「ああいいぞ」
私の2倍くらいある……ドヤァって感じの顔で言われたけど、本当に凄いからそんな顔でも凄いなぁってしか思わない。それにしても強い人がいるとすぐ戦いたくなるって、私バトルジャンキーじゃん。
「それじゃあ最後に1つ。あなた達は、今の状況を打破する気はあるの?」
私がバカみたいな質問をして緩んだ雰囲気が、一瞬にした緊張に包まれる。なに質問してるのさティア……
「勿論だ。戦力はまだ少し足りないが、生まれ故郷をこんな状態にはしておけねえよ」
「そう。ならいい」
その一言で緊張感は霧散した。ふぅ……怖かった。もう聞きたいこともないし、私は私でロイドを追いかけないといけないからもう退散しようかな。
「今の状況を教えてくださりありがとうございました。Sランク冒険者のイオリです。鍛冶師をやっているので、どうぞよしなに」
「マスターの精霊、ティア。コンゴトモヨロシク」
なんかティアの発音がおかしかった気がするけど、一先ずはこれで事情説明は終わった。とりあえず私は下にいったロイドを追いかけないと。そんな事を考えながら、私達は部屋を出ていった。