異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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夏休み、今年は随分忙しくなりそうだ。


第19話 人間界は衰退してました

 ほんの少しの間浮遊感に包まれた後、私達はきちんと魔界から人間界の橋への超長距離転移には成功した。けど、それは完全な成功はじゃなくて……

 

「あいてっ」

「むぎゅっ」

「うわっ」

 

 地面から10mくらいの高さに放り出された私達は、そのまま街の大通りと思われる場所に落下した。うぅ〜……多分これ鼻赤くなってるよ……

 とりあえず転移には成功だね! そう言おうと思ってロイド達のいる方に振り向いた私は、街に尋常じゃない異変が起きてる事に気付いた。

 

「なに……これ?」

 

 大型の馬車も楽に通れそうな大通りなのに、露店は一個もないし人通りも皆無に見える。そして極めつけに、家とか宿があると思われる場所から真っ黒な煙が立ち上っている。火事じゃ……ないみたいだし、なんだろう? 

 

「どうかしたのかイオリ? 確かに人が全然いないのはおかしいが……」

「いや、そうじゃないんだよロイド。あの黒い「マスター!」え?」

 

 かなり焦った声音でティアが指をさす。ティアが焦るなんて何事!? って思いながら指差す方向を見ると、そこには黒い煙に包まれた人型の……多分女の人がフラフラとした足取りで歩いていた。

 

「ステータス見て!」

「え、うん」

 

 そのティアの半端じゃない焦りようが気になって、私も歩いている人に魔眼で解析を掛ける。

 するとそこには、いつだったか見たロイドが片腕を失った時にも見た文字が並んでいた。【洗脳】【催眠】それに【傀儡】とか【精神支配】なんて物騒な物まで状態異常の欄に書かれている。

 

「っ! ロイド、家はどっち!? ちょっとこれは尋常じゃなくマズイ! ティアはいつでも逃げられるように準備してて!」

「あ、あっちの角を曲がってすぐだ」

「了解」

 

 私はロイドの手を引いて走り出す。そういえばさっきの状態異常は、感染するみたいに移っていくことを思い出し、走っている少しの間に私達全員分のステータスを確認する。するとロイドだけ状態異常の欄にさっきのやつが点滅し始めていたので、回復の魔法でそれを打ち消していく。

 

「よく分からないけど、大変な事になってるって考えていいんだな?」

「うん! もしかしたらメイさん達と戦う事になるかもしれないから、戦える準備だけはしておいて!」

「父さんと……? とりあえず分かった!」

 

 そういいながら私も、地球で拳銃を斬ったナノゴーレムを取り出して私の周りに浮かばせる。ついでに《神経加速(タキオン)》を使うのも忘れずにね。

 

「マスター、転移場所はどこに?」

「私がこの世界に召喚された時の丘! できる?」

「造作もない」

 

 足音がしないと思ったら、ティアは空中に浮かびながらついてきていた。って、そうじゃないそうじゃない。今はもうちょっと集中しないと。記憶にあるメイさんとシンディさんになら時間稼ぎは出来るけど、多分あの時は本気じゃなかっただろうから油断は出来ない。

 

「あそこだ!」

「2人が攻撃してくるかもしれないから気をつけて!」

「え? わ、分かった」

 

 目に困惑を浮かべたロイドが、そう疑いながらも返事を返してくれる。まあ、ロイドが動けなくても私が最悪どうにかするんだけどね! 

 そして見えた家は、ありふれた一軒家で黒い煙は他の家と比べると少ない。

 

「父さん! 母さん!」

 

 そう言ってロイドが入っていった家には、誰も人は居なかった。というか、ここしばらく人が住んでないような感じまでした。埃がかなり積もっているから多分それは確実だと思う。

 

「誰も……いないっぽい?」

「マスター、手遅れだったかも」

 

 そう言って肩を落としていると、魔界では某ワンコが強くてOFFにしていた魔眼が反応して、視界に赤い線と文字が現れる。

 

 ===《物理攻撃/威力 低/範囲 小/棍棒/危険度 極低》===

 

「《(シールド)》! カウンター!」

 

 家の奥の暗がりから現れた男の振った棍棒を防ぎ、カウンターで大きな板状にしたナノゴーレムの塊を叩きつける。ナノゴーレムは、魔力さえ通せば形の変化も硬度も結構自由自在だ。火力はあんまりないけど、対人なら凄い効果を発揮してくれる。

 

「殺……すべし」

「ロイドは何か置いてないか探してきて! 今みたいなのには気をつけてね!」

「分かった!」

 

 その間に私とティアは、周りの警戒と逃げる準備をしておく。オフェンダー=サンみたく、サヨナラーして爆発四散はしたくないからね。それにしても、一体なんなのさコレは。帰ってきてそうそうこんな変な事に……

 

「イオリ! こんなのがあった!」

 

 そんなことを考えてる間に、ロイドが奥から何やら手紙のような物を持って戻ってくる。えっと、内容は……? 

 

「『いつか戻ってくるだろう息子へ。色々と気になる事は有るだろうが、これを読んだのならリフンへ来い。お前が正気を保っている事を祈る』か」

「父さんと母さん、無事なのかな?」

 

 もう半年は前の事になるのか……懐かしいなぁって思っていると、玄関の方からバゴンッという物音が聞こえた。

 慌てて振り返ると、無残に壊されたドアの向こう側に、虚ろな目をして(くわ)のような物を持った男が立っていた。そしてその奥には、何かしら物を持ったこの街の住人だと推察できる人達が延々と続いている。

 

「マスター、転移場所は変更する!?」

「しない! このまま緊急脱出!」

 

 左手を振って《(シールド)》を人混みに叩きつけ、ティアの転移の魔法が完成するまでの時間を稼ぐ。これが魔物なら、攻撃用の魔法を全力全壊で撃てばいいんだけど、人だからそんなのはしたくない。

 

「イオリ、ティアさん、これって一体どうなって……」

「多分リフンに行けば分かる!」

「転移準備、完了」

 

 若干呆けているロイドの手を握り、反対側の手でティアの手も握る。これで一応、適当な転移でも逸れることは無い。若干ティアから抗議の念が届くけど、妨害とかがあるかもしれないじゃん。

 

「《緊急テレポート》」

 

 そのティアの魔法で、私達は本日2度目の転移でこの街から逃げ出すのであった。緊急テレポートだけど、私達はサイキック族じゃないよ。

 




次回、ホモ疑惑のある親友と合流するかも

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