異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
負けるつもりはない。それにさっきの戦いを見る限り京に一つくらいの可能性でしか負けないだろうけど、
「ダなんとかさん。戦うのは別にいいですし、確かにSランクの冒険者ではあるんですけど……私、非戦闘員ですよ?」
ダなんとかさん以外から、こいつ正気か? って感じの目が向けられてるけど、私の職業だけを見るなら完全に非戦闘員だもん。間違ってはない。
「ふん、それなら好都合だ。そして私の名前はダビルスだ!」
「それじゃあ私は2番手で戦いますね」
そう言って私はリュートさん達が待っている場所まで戻る。そして次の瞬間リュートさんから小声で質問が飛んできた。
「変な物でも食べ……いや、薬でも盛られた?」
「いや、なんでそんな結論になるのさリュートさん」
「だってイオリさん、バチバチするバトルって大好きじゃん」
うん。まあ、バトルとか体を動かすのが好きじゃなかったら、クトゥルフと戦ったりなんだりなんてことしないしね。
「イオリちゃん、熱でもあるの?」
「レーナさんまで……いたって健康だよ!」
レーナさんが私のおでこに手を当ててきたので、手をバタバタと動かして抗議する。むぅ……一応狙いがあってやったことなんだからね!
「うぅ……あいつを油断させようと思ってやっただけなのに……」
「いや、イオリ。言っちゃ悪いが、あいつは本当に雑魚だぞ?」
「まあ装備もそあ……いや、みれば弱いってわかるけどさ。さっきの話を聞く限りやり放題してるみたいだし、一回トラウマ刻み込んであげようかなって」
私が本当に小声でそう言うと、みんな納得したように頷いた。
あういう七光りのやってる事って大体碌でもない事だけど、実際に受付嬢さんから聞いちゃったせいでちょっと頭にきてるのだ。あの装備も他の冒険者からの盗品とか……
あの着てる装備はぶっ壊す予定だから、奪われた人には通常の10分の1くらいの値段で+10の同じような装備をあげようと思ってる。出血大サービスだ。
「ん。マスター、終わった?」
「終わったー。やっちゃえティアー!」
この前渡したばかりのカドケウスの杖持ったティアが結界の中に入っていき、奥でバトルアックスを構えているダさんと向かい合う。ダさんって、駄さんみたいで案外いいかも。
「ふ、魔法使いか。知ってるか? この鎧は「知ってる」ふむ、貴様鑑定のスキルを持っているのか」
「そう」
「それなら分かっただろう? この鎧には魔法を無効化する力が……」
……なんかそんな感じのことを長々と駄さんは話し始める。あんな中途半端なヤツの自慢なんて、聞く気は一切ないけどね。それに、見る限り魔法無効化とか言っても微妙なレベルだし。
「あ、そうだ。Sランク昇格おめでとーロイド」
「いや、毎日イオリ達が戦ってくれたお陰だよ」
さっき昇格したロイドの近くに寄って、とりあえずハイタッチする。流石に抱きついたりちゅーしたりは恥ずかし過ぎるから無しだ。
「そういえばロイドって、好きな食べ物とかある?」
「ハンバーグだけど……それがどうかしたのか?」
「いや、昇格祝いにロイドの好きな物でも作ってあげようかなーって。夜ご飯、それでいい? リュートさんレーナさん」
ティアには今もこの心の中が筒抜けだろうからいいとして、残りのリュートさん達に聞く。
「別に僕はいいけど……」
「私もいいけど、そろそろ始まるよ?」
リュートさんから謎の目線を向けられている中、レーナさんがそう教えてくれたのでティアの方に視線を戻す。まあ、さっきからティアイライラしてるからすぐ終わるだろうけど。
「で、あるからして、貴様は俺には勝てないのだ!
「チッ」
あ、ティアの目が
「それでは、デュエル開始です!」
2人の準備が終わったことを確認した受付嬢さんが、デュエル開始の宣言をした。私の時、滅びのバーストストリームでも撃とうかなぁなんて考えていると、ティアが小さく呪文を唱えた。
「行け」
「そのような魔法で、このよ──」
ティアが放った青い炎の弾を見て、駄なんとかさんは何かを言おうとしたみたいだけど、すごい速度で迫った炎弾が当たった瞬間、爆炎に包まれてフッと消えた。
ティアの宣言通り開始5秒で終わったね。
(今のはメラゾーマではない。メラだ)
(それやりたかっただけでしょ)
(もちろん)
ティアと念話でそんな話をしている間に、駄さんが結界の中に戻ってくる。
「つ、次はお前だ!」
「はいはーい」
大鎌を引っ張り出しながら、私も結界の中に入る。うーん……なんだろうこの護られてる感。若干気持ち悪いかも。
「そのようなひび割れ壊れた物程度、この俺の敵ではないわ!」
「調整開始。通常モードから特化モードへ。キラー設定。対人型 -100%、対金属500%」
一度バラけて空中に浮かんだ刃の破片が、綺麗な音を鳴らしながら同じ形に組み上がる。今回はちょっと細かく設定してみた。因みに、この状態だとそこそこ面白ことが起きる。
「そ、それでは。デュエル2本目開始!」
若干冷や汗を掻いている受付嬢さんの宣言が終わると同時に、適当な速度で近づき大鎌を二閃する。クロスするように振ったから、バトルアックスも鎧も巻き込む形でね!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ……あ? 斬れて……ない?」
「その代わり、しばらく動きませんけどね」
ニコっと冷たい笑みを浮かべながら私は言う。大鎌に斬られたバトルアックスとその延長線上にあった鎧は、許容できるダメージを大幅に超えたせいか細かい破片になってしまっている。けど、それらの後ろにあった腕には真っ赤な線が走っているだけだ。
「お、お前は非戦闘員じゃなかったのか!?」
「別に戦えないなんて、一言も言ってないですよ?」
「俺の腕に何をした!?」
「教えるわけないじゃないですか」
普通に大鎌で斬っただけなんだよね。キラーを-100%くらいにすると、斬っても痛みと斬られた感覚が走るだけでむしろ相手を回復するっていうよくわからない効果の賜物なのだ!
なんて思ってる間にヘボい魔法が飛んできたけど、髪が少し揺れる程度しか効果はなかった。
「ひっ」
「さあどうしました? まだ腕が動かなくなっただけですよね? 勝ちたいんならかかってきてくださいよ。もっと強い魔法を! 武器がないなら肉弾戦を! その間に腕を治して武器を取ってくださいよ! 仮にもSランクの冒険者ならそれくらいできるでしょ!? ハリー! ハリー! ハリー!」
「ば、化物幼女……」
そう言って、倒れたままの駄なんたらさんがずりずりと逃げていく。全く、こんな若干アーカードさんの真似をしただけで逃げ出すなんて……いや、私もテンションが上がってたのは否定できないけど。
「所詮こんなものですか七光りさん。じゃ、サヨナラです」
「うがっ」
冷たい目になるようにして大鎌を一閃する……んじゃなくて、刃の無い方で思いっきりぶっ叩く。
「勝負あり! 先の宣言通り、ダビルスさんは降格処分となります!」
シンと静まり返った闘技場に、受付嬢さんのそんな声が響いた。
イ「アーカードの旦那みたいな喋りで、しかも遊べて満足だった!」
ティ「マスター、ナイス」
リュ「イオリさん、やり過ぎだよ…」
レ「イオリちゃんの目、すごく生き生きしてたよ」
ロ「……」(何やら悶々としてる模様)