異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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第10話 無事に済むとでも思ってたの?

「全員、動くんじゃねえ!!」

 

 ドアを突き破りそうな勢いで乗り込んできた4人組の男達が、そんな怒号を発する。一瞬、店内の全員が何が起こったのか分からなかったが、次の瞬間轟いた銃声にあちこちから悲鳴が上がる。まあ、姉ちゃん含め、私達の卓は除くけど。

 

『『『きゃぁぁぁぁっ!!』』』

「騒ぐな! 静かにしろ!!」

 

 男たちの格好は、全員が古典的な黒の目出し帽を被っており下はGジャンとか革ジャンって言うんだったかな? そういうのや、コートを着ている。リーダーみたいなの人が猟銃を、その他の2人が拳銃を持っていて最後の1人は大きなカバンを背負っており、魔眼で透視してみると大量のお札が入っているのが見える。

 

 へぇ、全員レベルは20あるかないかだし猟銃の弾なんて見えるのか……こんなのなら、私が最初に戦うことになったモブ(変態)の方がよっぽどマシじゃん。

 

「まさか、日本でこんな事に巻き込まれるなんて……」

「僕らのせいで……スミマセン」

「ここは安全なんじゃなかったのか?」

「ロイド君、リュートくんとイオリちゃんがいる時点で……」

 

 姉ちゃん達がしているそんな話を聞き流しながら、私はティアと高速の念話で方針を話し合う。食べ物の恨み+あるふぁは怖いのだ。

 

(マスター、あいつら、どうする?)

(殺s……はムリだから、精神だけでもぶち壊す)

(賛成。方法は?)

(神話生物見せてやる。できる?)

(余裕)

 

 大体10秒程度の念話を終えて、ティアがテーブルの下で魔法を構築し始める。サイレンの音が聞こえてきたからそろそろ警察が来たんだろうけど、大切な姉ちゃんを危険な目に遭わせた上に……まあこっちの理由はいいけど、とりあえず他人任せで終える気なんてさらさらない。

 

「警察に要求する! 人質を安全に解放して欲しけりゃ、車を用意しろ! 妙な真似はするんじゃねえぞ!」

 

 リーダーっぽい人がそう言って警官のいる方に向けて発泡してるのを見ていると、強盗の1人がこちらを見つめている事に気づく。そして私と目が合った事に気がついたのか、こちらにズンズンと近づいてくる。

 

「はっ、随分とまた上玉なヤツがいるじゃねえか」

 

 そう言ってまっすぐに姉ちゃんを見て、そのまま拳銃を向けて命令する。おい、ちょっと待ってよ。日本はロリコンの国って聞いた事が有るんだよ? なら私かティアにターゲットは行くはずじゃん。

 

「どうせ捕まるんだ。それなら最後にイイコトしてもらおうじゃねえか。服を脱げ、逆らったらそこの子供を殺す」

 

 まだギリギリ冷静さを保ってはいたけど、その言葉を聞いた瞬間私の思考は真っ赤に染まった。姉ちゃんが悔しそうな顔をしてる、強盗がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている……巫山戯るなよこのクソが。

 

「イオリさん、まっ」

「《神経加速(タキオン)》」

 

 そんなリュートさんの制止も空しく、私は焼け付いた思考のまま《もう一つの世界(アナザーワールド)》を開け、例の自作ナノマシンを操作する。形状は刃、薄さはマシン一つ分、用途は切り上げ、せーのっ! 

 

「はっ?」

 

 下から上に、目にも留まらぬ速さで振り抜かれた黒い線が拳銃を両断する。被害も天井と床が切れただけだから何の問題もないね。

 

(マスター、準備完了)

(やっちゃって)

 

 落ちてきた拳銃をちゃっかりナノマシンで巻き込んで回収していると、頼もしいティアの声が聞こえてきた。よし、やっちゃえ。

 

「《パーマネントマッドネス》」

 

 ティアがそんな声と共に魔法を使った瞬間、男達の様子が一変した。警察に要求を突きつけていたリーダーも、こちらを見張っていた拳銃男Aも、私達の前にいる拳銃男Bも、荷物持ちの男も、一様に脂汗を流し目の焦点がどこか違う場所を見てしまっている。

 

「あぁ、あぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁっ!」

「なんなんだよ! なんなんだよ!!」

「……」

 

 え、何あの最後の荷物持ちの人。段々白髪になっていってシワも増えていってるんだけど。リーダーの人は弾切れの猟銃をしっちゃかめっちゃかに振り回してるし、拳銃男Aは外に向かって拳銃を乱射した後外に飛び出していった。

 そして目の前のクソは……

 

「助けて助けて助けて助けて助けて助けて」

 

 そんな事を呟きながら、股間を濡らして地べたを何かから逃げるように動いているかロクに動けていない。ザマァってやつだね。

 

「イオリさん、何したの?」

「流石にこんなの相手には、戦う気にもなれないぞ?」

 

 呆れ顔のリュートさんと拳を構えていたロイドにそう言われて、そこそこ冷静になってる事に気づいた。うん、あの強盗共がこんなザマになるなんて爽快だね! 

 

「えっと……その……ね?」

「マスターがやれっていった」

「ちょっ、ティアぁ……」

 

 賛成してくれたのに、私にだけ責任押し付けるなんて……ぶーぶー、横暴だー。一応、全部ヒソヒソ声での会話だ。

 

「それで、何がどうなってこうなったの? イオリちゃん」

「だって、姉ちゃんが変なことされそうだったんだもん」

「えっとね、蒼矢。そんなに心配してくれたのは嬉しいけど、何をしたらこんなになるの?」

 

 姉ちゃんが強盗を憐れみを込めた目で見ながらそう言う。えっと……言っちゃったのは私だけど、実際は何を見てるんだろう? 

 

「全員が全員、旧支配者か外なる神を直視してる。あくまで、私の記憶の中の、だけど」

 

 ティアが言ったその言葉で、場に流れていた空気が固まった。神話生物って言ってたはずなのに、神様見ちゃったかーそうかー……洒落にならないね。

 見れば、実際に遭遇したリュートさんとロイドも顔が青くなってる。実際にクトゥルフ見てるしね。けど、1人だけ本物の欠片が来てるような……歳取ってるし。

 

「ゴメンね結衣姉、多分私達が居た所為でこんなのに巻き込んじゃって……あぅ」

 

 ペシッとチョップが頭に落とされる。

 

「そんなに気にしないでいいわよ。それに、蒼矢達が居たからって決まった訳でもないでしょう?」

「可能性は高い」

「それでもよ。2人とも、あんまり無茶はしたらダメよ?」

「「はーい」」

 

 そんな私達を見て、リュートさん達がヒソヒソと話しているけど突入してきた警察の人達が立てる音によって、何を言ってるのかは聞き取れなかった。

 ……あれ? 私達異世界組はともかく、姉ちゃん冷静過ぎない? 

 


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