異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
制服着たまま車とチャリで併走するもんじゃないね。
「イオリちゃん、こう?」
「いや、もうちょっと手をこうしていい感じにニコッと」
「それで爪先立ちしてくれれば<(゜∀。) って感じになるからOK!」
「イオリちゃん、それどうやって喋ったの?」
「分かんない!」
「まあ、イオリちゃんだもんね……」
実はすぐに着替えは終わったんだけど、今はレーナさんと登場ポーズを話し合ってる。もうなんか、クトゥルフな中に結構いた所為かこういうまったりしたのがやりたかったんだよね。ここは安全っぽいし。
「やっぱりパイルバンカーを使うなら、高速機動が必須だと思うんだよ。って、ロイド君は元々高機動戦法が得意なんだっけ?」
「はい、父さんと同じようには戦えないので工夫してみたんですけど……」
「いいと思うよ、色々と噛み合ってるしね。あいにく、このパーティーには教えられる人は……イオリさんは参考にならないしなぁ」
「ですよね……」
最初こそ文句を言ってたけど、こっちの着替えやらなんやらが長かった所為か向こうも違う話題で盛り上がっている。私だって高速戦闘は出来るからね?移動中に怪我して自分で治すのが前提だけど。
まあそれは置いておいて。
「リュートさーん、着替え終わったからもう行けるよー」
「はいはい、それじゃあこの壁退かしてくれる?」
「りょーかい!」
私はパシャパシャと足音を鳴らして私が作った壁に近づき、そのまま無限収納に放り込む。と、同時にレーナさんに目配せして同時にポーズを決める。
「艦長の指揮に入ります!」
「えっと、リュートくん…似合ってる?」
前のチャックは締まってるけど、レ級の格好をしたレーナさんがリュートさんに首を傾げて聞いて、私は私でいつぞやのイオナの格好でピシッと敬礼をしてみる。髪の色は違うけど、レーナさん案外似合ってるんだよね。
「色々突っ込みたい部分は有るけどイオリさん、まずはその雀卓っぽい何かとバケツは仕舞おうか」
「リュートさんも鼻血止めようか」
クトゥルフなんだから、雀卓とバケツはかなりいいアイテムだと思うんだけどなぁ、仕舞っておかないと怒られそうだから仕舞うけど。そういえばロイドは喋ってないけどどうしたんだろう?って思って見てみたら、なんか顔赤くしてワタワタしてる。
「全く、イオリさんが艦これっていうからてっきり艦娘だと思ってたけど、どっちも艦娘じゃないとは…」
リュートさんが呆れたようながっかりしたような声で言う。いや、一応ろーちゃんとかしおいとかのやつは有るけどさぁ……
「私でも、流石に人前でスク水着るのはちょっと……」
「リュートくんと2人っきりならいいけど……」
「流石の僕も、そこまで業は深くないかなぁ……師匠ならともかく」
そういう風にリュートさんと話しているレーナさんには、間にあわせの装備だからレ級の特徴とも言える尻尾は無い。だから実質見た目は黒いパーカーと穿いてる物が違う程度だ……私が着る時は生やせるんだけどね、尻尾。
「まあ、ゆっくりし過ぎちゃったし早く行こ? はい、ゴーグルとシュノーケル」
「イオリ達は無くて大丈夫なのか?」
「もちろん! この匠イオリちゃんが、見た目の雰囲気を壊すような無様な真似をする訳が無いのです!」
「そ、そうなのか」
ロイドがこっちにはゴーグルが要らないのか聞いてきたけど、ゴーグルについてる機能程度服に織り込み済みだ。ゴーグル&シュノーケルの艦娘なんて……あれ? 案外潜水艦娘ならありかも知れない。いやいや、まあとりあえず服にその効果は付いてるのだ、ロイドが若干引いてるけど気にしない。
「あまいいや、今度こそレッツゴー」
「「おー」」
リュートさんだけはこのテンションに乗ってくれなかったのは残念だけど、私は水没した階段を下りていく。きゅーそくせんこー。
◇
完全に水没して空気の残っている部分の無い広めの通路、そこに幾条もの閃光が走り、それを追尾するように金属製の槍が飛翔する。
その全てが迫ってくる多数の魚面の人形や稀に出てくる魚面の人魚っぽいナニカに直撃し、焼き焦がし消滅させていく。
「(ヒャッハー!!)」
水の中だから喋れないけど、私の内心はこんな感じだ。一応これ、私が楽しんでるだけじゃなくって、湧き潰しで敵を倒してる事でリュートさん達のSAN値が減らないように気を使っての事だったりする。本当に私が楽しんでるだけじゃないからね?
ここから先には絶対に進ませない、そんな意思を感じさせるレベルで湧いてくるインスマスとダゴンっぽい何かを、超重力砲で薙ぎ払いクルッと後ろを向いてリュートさん達の呆れ顔を見たときにそれは起きた。
「!?」
動かしていた足に何かぬるっとした生暖かい物が絡みついた。しかも若干先行していた私に対してだけ。下を見ると、ダンジョンの壁だった物の色が変わっていき、ウネウネとした触手のついた肉塊が現れていた。
「(く、くく
ちょっ、触手プレイとか誰得!?いやそれよりもR18展開とか!?
そんな風に私が混乱している間にも、耐え切れなくなったシールドを破り触手が絡みついてくる。ちょっ、どこ触って!? うひゃぁっ!?
リュートさんは王の財宝でこっちを狙っているし、ロイドとレーナさんも何かをしようとしているけどひゃうっ。この肉塊は私をうまく盾にしていて攻撃しようとしても出来ないみたいだ。つまりコレは一番対応し易いのは私って訳でひゃっ、あぁいいやもうやっちまえ!
ゴボゴボと口から空気の泡を出しながら、まだ服の機能が生きている間に私は詠唱する。
「(
あくまで私のできる範囲での再現。それでも私の大鎌から溢れ出てくる泥の様な闇に触れた水が腐って腐って腐っていく。あくまで範囲はリュートさん達に届かない程度、下の
「(
――
大鎌を中心に、闇が一瞬だけ爆発する。全体的な力量不足と集中出来ない状況のせいで上手く使えなかったが、それでも効果範囲内は腐り落ち床の部分にはヘドロのような物が溜まる。
このままじゃ私以外通ることすらままならないから、思いっきり浄化の魔法を使おう…と思ったら、さっきの創造もどきに巻き込まれた所為で天井に大きな穴が空いていた。光も差し込んできている。
とりあえず上を指差して、予定を変更して腐った水は下の方に押し出し穴に向かって上昇する。
「ぷはぁっ! ザッケンナコラー!」
「い、イオリちゃん、どうどう」
水面をバシャバシャとしていると、上がってきたレーナさんが私を落ち着けようとしてくる。でも落ち着けるかー!! クラネルさんからも守り抜いた場所をあんな変な触手に触られたんだぞ!? 滅したけど。
「イオリ、その、大丈夫か?」
「んなわけあるかー! まだクラネルさんにやられた方がましだわー!!」
「それって今度師匠に会った時に言ってもいい?」
「やめて下さいお願いします。なんでも言う事聞くから」
「そう言って聞くだけでしょ?」
「なぜバレたし」
次に、ロイドとリュートさんも浮上してくる。ちょっとやめないか、クラネルさんに言ったら本気に取られてんあー! になっちゃうでしょうが。
「全く、それにしても……うぇっ、何この門」
「見てるだけで気持ち悪くなってきます」
とりあえずこのふざけたやり取りのおかげで一旦怒りが収まったので周りを見渡してみると、どうやらここは大きめの部屋らしかった。そしてすぐ近くには、大小の丸が重なったような色々な図形が混じり合ったような暗い緑の気持ち悪い門が佇んでいる。
「イオリさん、コレはマズイ。今すぐ引き返そう?まだ多分間に合うから……イオリさん?」
「……」
意識は有るのに、何故か身体を動かせないし喋れない。そんな状態の私が一気に水から出て、門に向かって歩いていく。駄目だってこの気配、絶対に良くない! そんな思いも虚しく私の動きは止まらない。
「あの時と同じだ……」
「っ、天の鎖よ!!」
そしてリュートさんが咄嗟に私に天の鎖を放つが若干遅く、私はそのドアを思いっきり開け放った。