何故俺は鈍感と言われるのか解らない   作:元気

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今回はシリアスです。はい。


鈍感男の過去

 俺は現在、基の正面にいる。あのあと愛川から話を聞いて、とても辛い想いをしてきたんだと知った。だから俺は放課後に基を屋上に呼び出した。基の気持ちを知った今なら間に合うかもしれないと思ったからだ。そして現在にあたる。

 

「大切な用と聞いたから来たが……またお前か。」

 

 冷たくて、とても鋭い目で睨んできた。だけど……俺には『助けて……』と、言っているようにも見えたのだった。何故だろう、今ならそう感じる。多分、本当に多分だけど、基は俺に期待をしてくれているんじゃないか?コイツなら、気持ちを知って、辛さを知って、今の状況から助けてくれるかもしれない。そう思っているんじゃないか?と。

 

 俺は息をゆくっくりと吸い込み、基に向かって話を始めた。

 

「とても辛い想いをたくさんしてきたよな。基は。」

「……っ!お前に何が分かる!!ウチが言葉だけで惑わされるわけが「そんなことない!!!!」

 

 つい大声で叫んでしまった。そのせいで基はビクッと微動して黙って俺を見た。俺はもう一度ゆっくりと息を吸い込み、優しい声で基に話続けた。

 

「確かに俺はその時の体験は出来ない……だけど、その気持ちは痛いほど分かる。だって………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺も友達を失ったから。」

 

 それを聞いた基は驚いていた。俺は驚いていた基に笑みをみせながら語るように昔のことを話した。

 

「俺は小さいときからずっと一緒に居た友達がいたんだ。」

 

 そう、それは今みたいにとても綺麗な夕日が見える時だった。俺は空を見ながら昔のことを思い出しつつ、基に話続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はちょうど夏休みを迎える直前の出来事だった。ミーン、ミーンと、セミの鳴く音も、じわじわと肌が焼けるような暑さも。全部がその日で崩れていった。

 

「おーい、おっせぇぞまもる!」

「なんだとぉ~!かけっこでは俺に負けたくせに!」

 

 ソイツの名前は畠山 幸助(はたけやま こうすけ)。その時の俺たちはまだ小学四年生で、今とは違って、とても無邪気で素直でそんでもって、とてもバカだった。バカといっても頭のよさではない。むしろ小学生から90点以下を取ったことがない。まぁ、それは置いといて、バカというのは、人の気持ちまで考えることが出来なかったほうのバカだ。この事ができていたら、あの選択の時にキッとあんなことになることは無かったのに。絶望と後悔に自分で苦しめていくとは1つも…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時の俺達は学校の帰りにカブトムシを捕りに森に行った。その森はとても大きく奥に行けば行くほど道がわからなくなる。その事からこの森は『迷いの森』と言われていた。

 実際にあった事故では、ある大人が何かしらの用でここの森に来て奥まで入ったあげく、二度と帰らなかった。と言う説があった。その事も踏まえて、子供は勿論、大人だって入っては行けない領域まである。だからと言って子供たちの遊び場を無くすことにも繋がることから、最初の部分だけは入っていいようになっていた。

 

 

「知ってたか?ここの奥に行くと珍しいカブトムシが手に入るんだぜ?」

 

 ニヤリと笑いながら幸助は言った。その当時の俺はカブトムシが大好きで、誰も見たことがないような、すごいカブトムシを探していた。そんなこともあって入っては行けないとわかっているのに、珍しいと言う言葉に負けて聞き返してしまった。

 

「珍しい?それってどんなカブトムシなの?」

 

 幸助は座っていた切り株から立ち上がり「ついてこいよ」と良いながら歩いていった。

 

 少し奥まで行くと黄色いテープが木に巻き付いてあり、看板に【ここからは立ち入り禁止】と書いてあった。見るからに雰囲気がいつもと違うし、気温は30度に近いのに暑さは感じられず、むしろ背中から寒気がした。流石に不安になった俺は引き返そうと幸助の袖を引っ張った。

 

 

「こ、幸助、ここは不味いよ。俺、嫌な予感しかしねぇーし……。」

「へー、まもるはこんなとことーれないんだぁー。俺は通れるぜ?」

 

 

 黄色いテープをくぐり抜けて自慢気にする幸助を見て、『幸助が行けたから、俺も行けるはずだ!』と、思って俺もテープをくぐり抜けた。

 

 ここが俺の1つ目の過ち。嫌な予感がしていたのにも関わらず通ってしまったことだ。よくよく考えると、大人でも迷子になって出られない。と言う事は、その当時の俺達には死んでも出ることは不可能ってことになる。

 

 

 数分歩き回っていると、たしかに珍しい虫がたくさんいた、幸助は嬉しそうに「うわー!本当にいたー!」と言った。

 

 ここで第2の過ち。この時点で俺は可笑しいと思っていた。一回入ったことがあるのなら戻っては来られない、それに『本当にいたー!』と、言ったことに気づけなかった。来たことがあるなら、本当には付かない、つまり幸助も初めて来たと言うことになる。

 

 

 

 慌てて引き返そうと幸助を引っ張った。

 

「幸助帰ろう!ここなんかヤバいって!!」

「えー!良いだろ別に。だったらまもるだけ先に帰れよ。」

 

 珍しい虫に興奮しきっていた幸助の耳には俺の言葉は届かなかった。俺が焦っていると、突然幸助が俺の方を見てあることを告白した。

 

 

「まもるは知ってたか?俺、イジメ受けてるってことに。」

「えっ!?」

 

 俺はそこで初めての知ったんだ。幸助がイジメられていたことに。何で?幸助何か悪いことしたか?何で?

 

 

 

 俺が戸惑っているのを見ながらも幸助は虫をカゴにいれてから、静かに続ける。

 

「ウザイんだってよ、何でも押し付けるし先生来ると良いところを奪って褒められるんだって。」

 

 それは勘違いだ。俺は幸助をよく知っている。幸助は俺がやり残した部分を見つけて箒を代わってやってくれたら、たまたま先生が来て幸助を褒めただけだ。押し付けるも何も、幸助が俺のためにやらせてくれるのに………………あれ?何で俺が居るときだけ……。

 

 そして幸助は涙を流しながら

 

「子分にされてる、まもるがかわいそうだろ!! って、その日の放課後に殴られた。」

 

 ウソ……だろ?俺のせいで、何も悪いことをしていない幸助がイジメられる?可笑しいだろ?イジメを受けるなら俺の方だろ?何で、何で……何で俺じゃなくて幸助何だよ?

 

 涙が頬を伝った。色んな想いを乗せて沢山の涙がこぼれ落ちた。ゴメン、ゴメン、ゴメン、ゴメン。謝っても謝りきれない。何も気づいてあげられなかった。そんな自分が悔しい。泣いている俺を見た幸助は笑顔で言った。

 

「じゃあ、約束しようまもる。これからはイジメを受けている人を見つけたら、絶対助けてやってくれ。俺とお前の約束だ。」

「……勿論!!」

 

 俺達は固く指切りを交わした。これが最後にした会話だとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのあとは…………どうなったんだ?」

「……俺はそのあと気を失ったんだ、起きたときには病院にいて、幸助は…………教室で自殺していた。」

「っ!?」

 

 幸助は授業が終わってすぐに自殺した。だから俺と居た幸助は既に死んでいたんだ。もし、あの時俺がもっと森の奥に行ったらどうなったんだろうな。と、疑問に思うこことがある。でも、不思議と怖くなかった。だって俺、自殺した幸助を見て信じられなくなって、走って道路に飛び出した。そして車に引かれて病院に送られた。そのあと丸二日間目をさまさずに生死をさ迷っていたそうだ。奇跡的にかすり傷で終わったのも、全て幸助のお陰なんだと思う。それに、あの約束をするために幸助は森に俺を呼んで、助けてくれたに違いない、だって幸助は最後に

 

「助けてやったから感謝しろよな!そんで…………ありがとう真守。」

 

 そう笑顔で言ったんだから。

 

「でも実際には俺が幸助を殺したも同然なんだ、だから…………基を助けるんだ。幸助との約束のためにも。そして、基……いや、茜のためにも。」

 

 精一杯の笑顔で俺は茜に言った。茜は俺が助ける、絶対にだ。

 茜はうつ向くと、静かに泣いた。

 

「ウチの場合はまだ生きているから、仲直りすればその関係は取り戻せる……でも、お前の場合は…………もう、この世に居ないじゃないか…。ウチよりも辛い想いをしているのに……!!なのに……なのにウチは…………………………何も知らずに酷いことを……たくさん…。」

 

 茜は俺に言った言葉を思い出しながら謝罪をしている。涙をたくさん流して、顔がとてもグシャグシャになっているのに、俺の辛さを理解して、想像して、今、泣いているんだ。こんなやつが不良なわけがないだろう。だって、不良は俺の気持ちを知っても涙を流さないからな。俺と茜はとても似ていると思う。だから、幸助に言われたこともだけど、つい、手をさしのべて助けてあげたくなるんだ。

 

 そっと茜を抱きしめる、けっしていやらしいことは考えていない。ただ、泣けるぶん全て泣いて、スッキリしよう。と言う意味を込めて抱きしめた。それと共に、俺のために泣いてくれてありがとう。って意味も込めているんだけどな。

 

「もういい、茜が俺のために泣いただけで、とても嬉しいよ。ありがとう。」

 

 少しだけ強く抱きしめる。感謝の気持ちをたくさん込めたから自然と体が動いた。俺って変態なのかな?まぁ、今はそれで良いや。

 

「優しい茜ならキッとやっていけるから、だから、勇気を出して謝って、教室で沢山の人と関わりを持ってくれるか?」

「…………………………真守がそう言うなら、仲良くしてみる……。」

 

 俺から離れて茜は正面から俺に笑顔でそう言ってくれた。その時の茜は、夕日に手されて本当に綺麗だった。惚れそうなくらいにね。

 

「んじゃ、まず俺から仲良くなって欲しいね。さんざん罵倒を受けてきたし。」

 

 苦笑いを浮かべながら右手を差しだすと、頬を少しばかり赤く染めた茜が、俺の手をゆっくりと握った。

 

「本当は、心をずっと閉ざすつもりだった。でも、ウチの気持ちを知った上であの話をしてくれて……ウチだったら話さないよ、そんな悲しい記憶は、それなのに話してくれた。だからウチは、真守を信じることにしたんだ。」

 

 反則級の可愛い笑顔を魅せてきた茜に、ドキッとしながらも視線をそらさずに

 

「これからよろしくな、茜。」

 

 と、茜に負けないように、最高の笑顔を魅せたのだった。

 

 

 

 これでいいかな、幸助?

 空を見上げると、綺麗な夕日が俺達二人を包み込み、とても不思議な気持ちになった。ふと、

 

 《まだまだ助けるやつがたくさんいるだろ?お前ならできるぜ、真守!》

 

 そういっているかのように、優しくて、でもとても力強い風が俺の頬に触れた。それはまるで、幸助が笑っているような、そんな風のようにも感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回は茜の過去です。
指摘&感想よろしくお願いします!

ちなみに、幸助は時々過去編等で出てきます(笑)

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