何故俺は鈍感と言われるのか解らない   作:元気

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今回は体育祭(前日)の続きです。



鈍感男の体育祭(前日②)

 茅根side

 

 ったく、何なんだよ…

 

 俺は、先程の光景が頭から離れずに、とてもソワソワしていた。先程の光景とは勿論、基の下g……ゲフンゲフン。…女の見られたくない部分だ。意外とシマシマだったな……

 

「あぁ、そうだ茅根、今度もう一度ウチのパンツを思い出してみろ?人生の記憶ごと消してやるからな♪」

 

 

 

 コイツ………………俺の心を読みとったのか?

 

 

 

 突然俺の思っていたことを当てられて、背筋に冷たい汗が伝った。それと同時に基が笑顔で俺の方に顔を向ける。裏のない笑顔が恐怖感を増加させ、この俺でさえ、身体中に鳥肌がたった。

 

 …コイツ、運動は飛び抜けて上手いわけでもないのに、喧嘩とかになると突然強くなるパターンの奴だな。

 

 今まで喧嘩の日々を送っていた俺は、気づかぬうちに洞察力と、観察力が活性化していた。なので、数分の出来事でどんな奴なのかすぐに特定できる。

 

 例えば、口調が荒いヤツは短気。鉄パイプなど、素手でタイマンを張ろうとしないヤツはすぐにナイフを取りだし襲いかかる。髪の毛を金髪に染めたての不良で、不良座り、更にツレが3人ぐらいしかいないヤツは、ただの初心者。などと、いろいろなパターンを知って、それを極めたこの俺は、だいたい見た感じで性格を読みとることができるようになっていた。

 

 チラリと基の横顔を見てみる。……何でコイツらは真面目にやろうと頑張るんだ?

 

 つり目で筋のとおった鼻、横顔でも美人と人目でわかるような容姿をしている。一見おとなしそうでおしとやかで可憐にも見えるのに、性格はまるでその逆。煩くはないが荒い性格で大雑把。不器用で怒りっぽい。冷たい言葉をへーきで言える毒舌。しかも自分のことは『ウチ』と言う。それでいて……優しい。

 

 

 

 なんだコイツ……?

 

 

 

 しかしそんなやつに俺は、何で屋上に連れていく必要があるんだ?

 

 

 

 階段の一段目に足をのせ、体重を上に移動させる。その繰り返しで階段を登っていく。タンタン、と、二人の足音が響き渡った。その音が無性に心地よく感じるのが、俺には理解できない。だが、【俺と基はどこか似ている】。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チッ、無性に自分にイライラする。

 

 最後の段を登りきって、少し乱暴にドアを開けた。そのとたん、ウザイほど綺麗な青空が歓迎する。肺には新鮮な空気が入り込み、清々しいのが更にムカつく。

 

 いつからだ、こんな風になったのは。

 

 

 ふと、思い出したくない光景が脳ミソに蘇る。それも新鮮に、くっきりと。

 

 

 

 

 

 

 

「頑張ったって、なにもてでてこねーんだよ。」

 

 低く、低く、そう呟いてみた。そうでもしないとあの記憶を思い出すから。

 

 俺の様子に気づいたのか、基が心配そうに近寄ってきた。

 

「お、おい?大丈夫か?顔が真っ青だぞ?」

 

 

 

 

 

 

 蘇る。蘇る。蘇る。蘇る。蘇る。あの時の記憶が、思い出してくない記憶が、蘇る。

 

 

「誰かが必ず邪魔をする。」

 

 

 俺が誰かになにかを言っている光景が蘇る。

 

 

「頑張ろうと努力しても、結果はついてこよーとしねぇ。」

 

 

 俺は一人でなにかをやっている。が、奪われて捨てられた。

 

 

「自分がとてもバカらしくなって、諦めた。」

 

 

 男と女は、俺を冷たく、鋭い目で睨み付けた。

 

 

「だんだんウザくなってきて、危険な道に進んだ。」

 

 

 その男と女の前である写真たてを叩き壊した。

 

 

「最終的には暴力だ。」

 

 

 男をボコボコに殴った。自分の拳は血で、赤く、朱く染まってしまっていた。

 

 

「そこで解ったんだ、何をしても獲られない。獲られるのは心に残る深い傷だけだ。」

 

 

 男と女は俺の両親。男の方をボコボコにしたあと、油断した状態で女を見ようと振り返った瞬間。ツツー、と、俺の頬をドロドロとした赤い液体が伝った。女の手には果物ナイフ。果物ナイフの先端には、俺の血がついていた。次の瞬間、俺は容赦なく女をボコボコに殴った。男以上に。

 

 

「殴って、殴って、殴って、殴ってっ!!獲られるのはなにもない!!!失うだけだ!!!!」

 

 

 俺の小さい頃の夢。それは、家族皆が幸せに暮らすこと。

 

 その夢が、意図も簡単に砕け散った。触った瞬間に破裂するシャボン玉よりも、とても簡単に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「辛いなら、泣け。泣いて、全部吐き出せ。そうすれば、きっと、違う見方が見つかるはずだ。」

 

 ふわりと、暖かい温もりが俺を包んだ。その正体は…基だった。

 

 自然と涙があふれでてきた。何で、何でお前はそんなに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺なんかに優しくするんじゃねーよ。泣き止まなくなるじゃねーかよ。」

 

 

 

 

 

 そのあとの記憶は残っていない。気がついたら床に横たわっていた。頭の方には何やら柔らかいものが俺を乗せてくれていた。すると頭の上から、優しい声が聞こえてきた。

 

「たくさん泣いたから、スッキリしただろ?」

 

 優しい声とは裏腹に、悪戯っぽい笑みで俺に言う基。俺に膝枕をしてくれていたようだ。

 

「お前、広めたらぶっ殺すぞ。」

 

 ヤバッ、ついいつもの口調で言っちまった。俺は後悔しながら起き上がる。……………泣いたの久しぶりだな……、最後に泣いたのは、何時だったかな……。

 

「分かてるって、そんなことぐらい。」

 

 にしし、と、嬉しそうに笑いながら言うが、全然信用できない。マジで言ったら殴るぞ…。

 

 頭を掻きながら溜め息をつくと、基は徐々に真剣な表情に変わっていった。そして…

 

「あのさ茅根、体育祭の事なんだけど。」

 

 基の真剣な表情から、心の底から勝ちたいんだなと、よくわかる。それでも、俺は自分の考えを変える気はない。俺が納得するような事以外は、聞く気は無いからな。

 

「俺は自分の考えを貫く。俺の考えに反論するなら、それに相応しい答えを出してみろよ。」

「うっ………………………………………………脳筋のクセに…。」

「テメーに言われたくねーな。」

 

 イラッとしたけれど、そこまでではない。むしろ、この何気ない会話が楽しかったりする。

 

「じゃあ、どんなに考えをもってるか、聞かせてもらおうじゃないか?」

「良いのか?脳筋には理解が難しいかも知れねーぞ?」

「ふんっ、ナメないでもらいたいね。こう見えて勉強は真面目にやってるんだからな。」

「授業何かやんなくたって、覚えられるし。俺とお前では脳みその出来が違うんでな。」

「殺るのかコラ?」

「俺だってヤンキーだ、ナメんな。」

「【無駄に】頭いいよな、一回死んでくれ。」

「死ぬのはオメーの方だっつっーの、死ね。」

 

 たくさん言い合ってからの沈黙。そして同時に笑いだした。

 

 今日は大変な1日だな、泣いて、笑って、忙しい日だ。………………でも、悪くないな。

 

「あはは、フゥ、それじゃ、言ってみなよ。君の理論を。」

 

 余裕の顔をしながら腕を組む基は、何処が自信げだ。俺の意見に反対する気満々なのだろう………負けてたまるかっての。

 

「それじゃ、いくぜ。俺の意見をな。」

 

 先程の沈黙とは違い、空気がピリピリとしている。俺は息をゆっくり吸って、言葉を放った。

 

「体育祭をやって、意味はあるのか?」

 

 ピクリと基の眉毛が動いたのを確認する。そのまま勢いをつけて終わらせてやるよ。基に向かって、自分の考えをぶつけた。

 

「ただ疲れるだけだし、勝っても負けても、トロフィーを獲られるか獲られないかだ。負けが見えてるんだったら、べつにやらなくてもよくねーか?」

 

 予想外の質問だったのか、眉間にシワを寄せて黙りこむ基。勝った。俺は心のなかでそう確信していた。

 

「どうだ?答えられるか?」

 

 勝利を目の前にして油断していた。だって、基が答えられなかったんだ、勝ちは貰ったも同然だった。第3者の発言を覗けば………

 

 

 

 

 

「仲間との団結力の大切さを、教えてくれているんじゃないか?悪魔でも俺はそう思うけどな。」

 

 重たい扉の向こうから、くろぶちの眼鏡がチャームポイントの塚崎が屋上に現れた。

 

 塚崎は、口角を持ち上げて、ニヤリと笑う。まるで、先程の俺の表情みたく笑っている。勝利に満ちた顔だった。

 

「それでは、俺の話を聞いてもらえるか、茅根?」

 

 俺の目の前に来て、笑顔で言ったのだった。

 

 

 

 

 

 




シリアスゥー。

次回からは少しずつ真守の鈍感を入れていきます!勿論イチャイチャ場面も入れますよ?(ニヤニヤ)

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