俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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104番道路

 トウカジムで3日程滞在してからトウカシティを出る。しっかりとセンリのスパーと調整の手伝いをするだけではなく、ジムというちゃんとした環境があればポケモンを育てる事も出来る。カナズミジムではピカネキを真面目な話、運用したいので、彼女の調整をする為にも、ジムの環境を使えるのは悪くはない事だった。それにナタクもまだまだ成長途中だ、技を磨く為に同じ天賦のポケモンと語り合うのは決して悪い事ではない。そういう事もあり、トウカジムでの三日の滞在は悪くはない事だったが、他にも用事があるので、先へと進まなくてはならなかった。

 

 そういう訳でトウカシティを出て、104番道路に出る。ここ、104番道路はムロタウンへと繋がる105番水道と隣接しており、海岸が存在している。ムロタウンへと行くには4番道路、105番水道、106番水道を経由するトウカルート、或いはカイナシティから109番水道、108番水道、107番水道を経由するカイナルートが存在する。基本的に定期便が出航するカイナルートの方がトレーナーには人気があり、トウカルートはあまり人を見ない。

 

 砂浜と隣接する様に伸びている104番道路を、砂浜で遊んでいる人達を軽く眺めながらナチュラルとピカネキの二人と一体で歩く。ピカネキのレベルもトウカジムにいる間に50レベルまで上げておいた、ここら辺の野生のポケモンに敗北する事はありえないだろう。

 

「で、ナチュラル的にはどうなんだよ」

 

「理解できないからそういうものだって妥協する事にしたよ」

 

「いや、そっちじゃねぇよ。人間とポケモンの関係に関してだよ」

 

「……」

 

 キャリーケースを引きずっているナチュラルへと視線を向けると、ナチュラルが無言で帽子を深く被り、そして黙る。

 

 ―――ナチュラルは不幸な少年だった。

 

 ゲーチスという吐くまで腹パンを喰らった挙句水車に巻きつけられて拷問された男によって幼い頃から育てられた。それはナチュラルが先天的に保有するポケモンに対する絶対的なカリスマ、どんなポケモン―――伝説であっても語り合う事の出来る会話能力、そして人間の過去や未来を見る事の出来る能力、ナツメやマツバすら超える超能力を保有したナチュラルをその家系から見抜き、洗脳し、育ててきた。

 

 ポケモンは解放されるべき、だと。

 

 本来であればイッシュ地方を大きく巻き込む大事件をゲーチスとナチュラルは巻き起こしていただろうが―――そこはそこ、自分とレッドのタッグである。大体の居場所は把握していたし、プラズマ団も本格活動の前の状態だった。だったら後は幹部やボスの居場所を確実に把握し、ゲリラ戦術で散発的に攻撃を仕掛けながら緩んでいるところを狙って喰い千切る。ゲーチスとナチュラルさえ落とせば、プラズマ団はほぼ死体と同じ状態だ。そうやってプラズマ団や他の悪の組織は潰してきた。伝説のポケモンが表舞台に上がる前に、

 

 ダイヤモンド、パール、ブラック、ホワイト、エックス、ワイの主人公達が旅立つ前にケリを付けたのだ。

 

 ただナチュラルだけは事情が異なる。ナチュラルは洗脳された被害者であり、放置する事も豚箱に叩き込んで置く事も出来なかったため、拉致したのだ。洗脳を解除する必要があった。ポケモンが人間によって一方的に虐げられていると思うのはあまりにも悲しすぎたからだ。確かに、ポケモンを道具として見て、扱う人間がいるのは事実だ。だけどそれは寧ろ少数派なのだ。それが大多数であり、この世界の現状だとゲーチスは長年かけてナチュラルに思わせる事に成功した。それをそのままにしておくのが、どうしても嫌だった。

 

 だから嫌がるナチュラルを連れ回し、今のこの世界の現実を見せつけて、そこから判断させる事にした。

 

 それで人間に愛想をつかすのならいい。その時はナチュラルの新しい考えを尊重し、敵として正面から立ちはだかって戦い、捻り潰す。それだけの話だが―――そういう風にはならない、ナチュラルの変化を見ていればそう思える。まぁ、それでも今回はデボンコーポレーションの”闇”を見せるのだ、少々不安になってくるのは事実だ。

 

 そう思って軽く探ってみようかとナチュラルへと話しかけたのだが、ナチュラルは言葉を選ぶように小さく沈黙し、そして顔を上げてくる。

 

「僕は―――僕の今までは一体何だったんだろうね……」

 

 小さく、呟くようにそう言葉をナチュラルが零した。それだけ聞けば、ナチュラルが現実と教えられた事の違いを理解した、してしまったという事が解る。

 

「トモダチ達は虐げられ、無理矢理使役させられ、解放しなくてはならない。僕はずっと、ゲーチスにそういう風に教えられてきた。人間は敵で、信じられるのはゲーチスとトモダチ達だけだって。でも実際に自分の足で世界を回ってみれば、見えてくるのは全然違う景色だった。奴隷の様に働かせられていたと思っていたトモダチ達は人間と共存していた。無理矢理戦わせられていたと思っていたトモダチ達は自分から戦いを求めていた―――」

 

 それが現在のスタイルだ。

 

 確かに野生のポケモンは存在する。野生のまま、自然に暮らしているポケモン達が。だけどトレーナーと一緒にトップリーグで戦うポケモン達の大半が”スカウトされたポケモン”というのも事実だ。というのも、

 

 ―――モチベーションがポケモンの育成には凄まじく重要なのだ。

 

 ポケモンバトルは娯楽ではなく、生きる為の手段であり、スポーツであり、競技であり、決闘であり、そして生存競争なのだ。ポケモンバトルを魅了するのは人間だけではなく、ポケモンもそうだ。ポケモンは基本的に、本能的に”強さを求める”性質を持っている。その為、ポケモンバトルを求める傾向がある。それゆえに、ポケモンからトレーナーに対して”雇ってほしい”、或いは”捕まえてほしい”と言って来る事は珍しくはないのだ。そうやってポケモンは自らをトレーナーにスカウトさせ、トップを目指すのが今のスタイルでもある。事実、自分の手持ち、ミクマリは”スカウトしてほしい”と自分から申し込んできたポケモンだ。

 

 そしてモチベーションだが、同じレベル100でもモチベーションがそこそこと最大のやつでは、能力1~2割、つまりは積み技を1回繰りだす分ぐらいには違って来る。その為、必然的にやる気が、モチベーションの高いポケモンを優先するのは当たり前であり、無差別にポケモンをボールで捕まえ、そして鍛える時代は終わりを迎え始めていると言っても過言ではない。

 

 今の時代、ポケモンとトレーナーが協力し、契約し、そしてバトルをするのだ。

 

 そしてそれはナチュラルが教えられてきた現実とは違いすぎる。

 

 ナチュラルへと視線を向けるとナチュラルは溜息を吐き、そして視線を105番水道の方へと向ける。つられる様に自分も105番水道へと視線を向ければ、浜辺でハスボーと追いかけっこをする少年の姿が見える。楽しそうに笑って浜辺を走り回る子供とポケモンの後ろを、ゆっくりと両親らしき人物が追いかけて歩き、穏やかな時間を過ごしている。ポケモンと、そして人間は生活に密接にかかわっている。切っても切れない存在だと言っても良い。ポケモンは人間と寄り添い、人間はポケモンと寄り添う。ポケモンが人間から離れようとする事はないだろう。そして人間はポケモンから離れる事が出来ないだろう。

 

 それがこの世界の今の姿なのだ。奴隷でも道具でもなく、対等な隣人にしてパートナー。それがポケモンと人間の、自分からの視点による考えだ。

 

「トモダチ達の解放を……なんて考えていたけど、本気でポケモンバトルに魂を注いでいるトモダチ達からすればそれは冒涜であり、きっと、迷惑でしかなかったんだろうなぁ……まぁ、君との旅は楽しいよ。色々と見れるものは多いし、知る事の出来るものも多い。自分がどれだけ狭い世界にいたのかを思い知らされるよ」

 

 そう言ったナチュラルの肩の上にピカネキが手を置く。それを感じてナチュラルが顔を上げ、笑みをピカネキへと向ける。それを受け、ピカネキは、

 

 視線を横へと向け、痰混じりの唾を道路へと吐き捨てた。

 

「ピッピカチュゥ!」

 

「挑発してるのは解った。そして理解したよ。君にだけには容赦しちゃいけない事を」

 

「ピ……ゴリッ」

 

 ナチュラルへと開いている片手で中指を向けると、流石にキレたナチュラルが動きの良い拳を繰り出そうとするが、ピカネキがブリッジ状態へと移行し、拳を回避したらそのままバク転で後ろへと連続で移動し、綺麗に着地するとしっかりと背筋を伸ばしてフォームを取る。肩の上のダビデの足を軽く撫でながら、そのままトムとジェリーの様に走り回るナチュラルとピカネキの姿を見る。あんな姿をして、軽く異次元な存在のゴリチュウ、ピカネキだが、

 

 その性格に関しては”割とまとも”な部類に入る。

 

 トウカジムで調整を手伝う合間に軽く育成したが、バトルの指示には素直に従い、ポケモンバトルの選手としてはモチベーションが高く、育成を完了させる事が出来れば普通にエース級として活躍するだけのポテンシャルを秘めている。その上で、細かい部分を理解するだけの賢さも持っている為、あんなナリで優秀なのだ。

 

 あんなナリで。

 

「……まぁ、ナチュラルの事が心配だからピエロってくれているのかもな」

 

「ちゅらら」

 

 ダビデの頷く様な声は、同じ電気タイプのポケモンとして何かを感じ取っているのかもしれないな、と思いつつ逆立ちで逃亡するピカネキとナチュラルを呼び戻す。段々とピカネキの煽り芸がひどくなってきているが、これはこれでポケモンバトルに組み込めるだろう。登場と同時に挑発を繰り出して変化技を禁止―――なんて事が出来たら、恐ろしく優秀な先発として活躍する事が出来るだろう。何せ、挑発による変化技封じとなればステルスロックやまきびし、どくびしを封じ込める事が出来るのだから。

 

 攻撃よりも設置や牽制が多い先発の中で、変化技封じとおいうちゴリテッカーを繰り出す事が出来たら、多分物凄い奇襲になるんじゃないかと思う。

 

 一番すごいのはビジュアルだけど。

 

「おーい、お前らー、今日中にトウカの森前まで到着したいんだから、遊んでないで行くぞー」

 

 未だに鬼ごっこを続けるナチュラルとピカネキを呼ぶと、ピカネキがスライディングからナチュラルを掬い上げ、肩の上に乗せながら逆の手で荷物を握り、此方へと走ってくる。疲れた様な、諦めた様な、そんな死んだ様な表情を浮かべているナチュラルがいるが―――心なしか、少しだけ、笑っている様な気もする。

 

「さて、目指すはカナズミ……デボンとカナズミジムだ。トウカの様な田舎と違ってカナズミは都会だからな、良い部屋で眠れるぞー」

 

「ゴッゴリチュゥ!」

 

「もうなんでもいいからコイツと違う部屋で眠れたら僕はもうそれだけでいいかな……」

 

 はっはっは、と笑い声を響かせ、波の音をBGMが割にトウカの森へと向かって進む。

 

 今日も、良い日だ。




 繋ぎの回という事で若干短め、次回はトウカの森

 道中、野生のピーコちゃんを発見したのでピカネキが噛んで食おうとしてました。生で。

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