俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsセンリ

 トウカジム奥のバトルフィールドはジムには珍しく畳張りの道場風のフィールドとなっている。足元の感覚が普通とは異なる為、ポケモン達に対する指示もそれに気を付けなくてはならない。大事な所で踏ん張り方を間違えて転ぶ、それが原因で敗北なんてかっこ悪すぎる。だから靴の裏で足元の感触を確かめつつ、反対側にいるセンリへと向け、そしてピカネキと漸く復帰したナチュラルに部屋の隅で観戦する様に指示を出しておく。それに二人が大人しく従い、壁に沿う様に動きを止める。バトル前だから特にネタに走る事はしないらしい。ちょっとだけ安心する。いや、待て。おい、体育座りは止めろ。なんで寂しそうな表情を浮かべて体育座りしているんだあのゴリチュウ。おい、スクワットもやめろ。大人しく観戦してろ。

 

 良し、つまらなそうな表情を浮かべて普通になった。

 

 視線を反対側へ、センリへと向ける。

 

「待たせたか」

 

「いえ、それほどでも。それにしてもまた妙なポケモンを育てていますね」

 

「まぁ……妙なポケモンが集まる事は自覚しているよ。それを育てるのもまた楽しいしな。”強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手”、って奴だな」

 

「なるほど、四天王カリンの言葉ですか」

 

 彼女の言葉に対しては全面的に同意させてもらう。強いポケモンや弱いポケモンは存在するが、それは所詮人の側の主張であり、勝手な言葉だ。本当に強いトレーナーなら、強くなりたいポケモンで強くなるべきなのだ。だからそうしてきた。そして強くなりたいポケモンには手を差し伸べてきた。ポケモンにはそれぞれ、可能性が秘められている。それを開花させるのも、また育成家としての使命だと思っている。ともあれ、

 

 モンスターボールを握る。センリも既にモンスターボールを握っている。さて、と小さく言葉を吐いてからセンリへと視線を向ける。センリも視線を此方へと向けており、バトルの準備は完了している様に見える。

 

「じゃあ、始めようか」

 

「えぇ―――全力でッ!」

 

 それ以上の言葉は必要ない。握ったモンスターボールを静かに持ち上げ、そしてそれを掌の上で転がすようにフィールドへと向ける。素早くその中に納められたポケモンが出現し、フィールドの上へと黒い姿が出現する。九本の黒い尾を持ち、見た目は二十前後、昔よりも伸びた黒い髪を持つ黒い露出の多い着物姿のポケモン―――黒尾がフィールドに繰り出される。それと同時にフィールドに出現するのは巨大なカンガルーの様な姿をした怪獣の様なポケモン―――原生種のガルーラだ。そしてガルーラは場に出るのと同時に、光に包まれる。

 

「メガシンカ―――!」

 

 センリの言葉と共にメガシンカを果たし、ガルーラがメガガルーラへと進化する。

 

 メガシンカ。3年前まではほぼ、自分とサカキで独占していた技術だが、三年も経過すればそれなりに有名になり、広がる。ジムリーダー級やポケモンリーグ上位級となって来ればキーストーンを手に入れる為のコネが生まれてくるため、企業やスポンサーを通してメガシンカに必要な道具を揃える事が出来る。センリもそうやってメガシンカを可能にした一人だろう。

 

 今の環境、メガシンカをパーティーに組み込んだ編成はそこまで珍しくはないが―――メガガルーラは本当に厄介なポケモンだ。実機環境であればおやこあいにグロウパンチなどの鬼畜コンボが達成されたが、リアルポケモンバトルは更に辛い事になっている。しかし、黒尾が出た事によって天候が夜空へと変わる。

 

「―――夜の天候か。チャンピオンとしては少々、残念なところがあるのでは?」

 

「いや、まぁ、うん……そうだなぁ……」

 

 なんというべきか―――”天候融合が禁止制限”を受けたのだ。その代わりに夜と星天が独立した天候として認められたのだが。それでも天候を”二律背反”によって融合し、活用するという旧来の戦術をポケモン協会によって潰されてしまったのだ。事実上俺専用の戦術だから仕方がなかったのかもしれないが、それでもある程度戦術の根幹を揺らがせる大事件だった。

 

 まぁ、そうなってから2年間、一度もチャンピオンとしては敗北していない訳だが。

 

「解析―――完了」

 

 メガガルーラと相対した黒尾が相手の特性や能力を見抜き、そのデータをバトルスキャナーに送信して来る。そこに表示されるメガガルーラのデータは多少の変化はあるものの、大体自分が知っている通りのメガガルーラの性能だった。面倒な相手だ。そう思いつつ腹の袋から独立して、親の半分ほどの能力を保有した子ガルーラを確認する。

 

「対面不利―――戻れ」

 

 迷う事無く黒尾に行動を取らせる事もなくボールに戻し、そして別のボールを手に取る。夜空が展開されているので、最低限の役割は果たしてあるし、メガガルーラの能力は解析されている。どこまで動けるか、それを把握して手を打てる。故に迷う事無く黒尾を戻して、そして、ボールからポケモンを繰り出す。

 

「―――メルト」

 

 ヌメルゴンのメルトが繰りだされる。出現するのと同時にメガガルーラのグロウパンチが親子愛で放たれる。メガガルーラと子ガルーラのグロウパンチがヒットし、メルトのぬめり気の多い体が拳を滑らせる。拳によるダメージを大幅に軽減しながらメルトが出現し、攻撃を喰らった事によってだっしゅつボタンの効果が発動し、そのまま素早く、ボールの中へと戻ってくる。メルトの入ったボールを入れ替える様に次のボールを握り、転がし、そしてその中で活躍を待ち受けているポケモンを繰り出す。

 

「天候は夜―――」

 

「―――引きだす色は”紫”。タイプ・ワイルド」

 

 モンスターボールから放たれたポケモンは亜人種のウルガモスだ。上半身を完全に肌蹴させた、丈が股下までしかない橙色の和装を着ており、和装の下は黒いインナーを装着し、首には白い、もこもこのマフラーを巻いてある。背中からは赤と橙色が混じったような六枚の翅を広げており、髪は白く、無造作に伸びてる。整った顔の瞳の色は美しい水色をしており、頭からは二本の赤い角が生えている。黒いブーツで道場の床を踏み、

 

 背から生えているウルガモスの赤い六枚翅―――それが夜空に呼応するかのように紫色に、

 

 ゴーストタイプに染まり、色を変える。

 

「来たわ、見たわ―――じゃあ勝つわね」

 

 昔教えた、この世界には存在しないローマの言葉、それを意気揚々と告げながらゴーストタイプへと己を変質させたカノンが降臨した。ウルガモス特異個体種、カノン。ウルガモスの”たいようポケモン”が更に太陽を示す”天”の特性に近づいた結果、変種、或いは特異個体と呼べるウルガモスが生まれた。それが彼女、カノンだ。タイプ・ワイルド、天候に対応したタイプへと自分を変化させる事の出来る、非常に珍しいポケモンだ。恐らくはウルガモスと呼ぶことはギリギリ出来ないが、姿かたちはほぼウルガモスと一緒なので、ウルガモスと認定されている。

 

 ともあれ、

 

 ―――ゴーストタイプへと変化したことによってノーマル、格闘タイプが封じられた。

 

 対面有利。

 

「……セット」

 

 次の一手を読み、静かに指示を繰り出す。

 

「来た来た来た来たわよ―――!」

 

 メガガルーラが拳を構えて前に出るのと、天候が変化するのとは同時だった。夜の闇が消え、その代わりに砂嵐が発生し始める。あらゆる存在が砂嵐によってその身を削られる中で、カノンの翼の色が岩を思わせる茶色へと変化し、カノンのタイプが変化する。瞬間、踏みこんだメガガルーラと子ガルーラが揃って炎のパンチをカノンへと叩き込むが、

 

「―――手繰るタイプは岩―――」

 

 タイプが岩に変化されており、ダメージが今一つへと落とされる。そのまま、踏み込んで後ろへと下がれない状態のメガガルーラをカノンが片腕を持ち上げ、そして変化させているタイプを凝縮させた波動をメガガルーラへと叩き込む。さばきのつぶて―――伝説種アルセウスが放つ”タイプ対応攻撃”が放たれ、それがメガガルーラへと叩き込まれ、吹き飛ぶ。そう、アルセウスだ。シンプルに、カノンのコンセプトは”天候軸のアルセウス”だ。エアロックやデルタストリーム相手には極限まで無力となってしまうのが現状の天候パの弱点だが、

 

 読み勝つ事さえできれば、カノンは恐ろしく強い。

 

「なるほど、チャンピオンらしい凄まじくいやらしいポケモンを持っているようですね。此方が格闘かノーマル技を出すと読んだらゴーストタイプに、それ以外のタイプだと判断したら可能性が一番高いのを予想し、それに対応するタイプへと変化し、相性差で受けながら確実に潰すポケモンですか」

 

「”読み”を鍛えるって意味でもカノンの存在は最適だ。自分だけじゃなくて相手にも読みを強制させるからな、こいつは。さあ、頭を使って次の一手を考える時間だぜセンリ。―――俺の次の一手はなんだ? ドレパンでゴースト化か? 或いはまもって砂嵐で削るのを継続するかもしれないし、別のタイプへと切り替えて戦うかも、な?」

 

「改めてチャンピオンという存在が恐ろしく感じますが―――なるほど、ならこうしましょう」

 

 メガガルーラが動く。それに合わせてカノンも動く。後ろへと下がりながらさばきのつぶてを放ったカノンに対してセンリはメガガルーラをボールの中へと戻し、そして入れ替える様に次のポケモンを―――ラッキーを繰り出した。さばきのつぶてを交代の影響で避ける事も出来ずに直撃したラッキーはしかし、欠片もダメージを受ける様な姿を見せない。間違いなく輝石ラッキーだ。そして攻撃を受けたラッキーはそのまま中継ぎ、受けとしての役割を果たし、ボールの中へと戻りながらエースの為に道を作った。

 

 すなわち、

 

「私ならゴーストだろうが何だろうが関係なく殴り貫けるな」

 

 茶色と薄い茶色のミニスカートとパーカーを装着した、白髪の亜人種ポケモンが出現する。目に凄まじい闘志を宿し、一瞬の油断も慢心も見せる事のない、やる気で溢れたポケモンの正体は世間一般では怠け者の代名詞として知られている、ケッキングの存在だ。だがただのケッキングではない。センリの保有するケッキングは天賦の才のケッキングだ。その才能ゆえに現実を知り、そして怠ける事を忘れてしまったケッキング。

 

 能力として”きもったま”持ちだ―――つまりはゴーストタイプに関係なく、攻撃を通す事が出来る。

 

「超級エースの一角だな―――スタンバイ」

 

「超級エース、素敵ね! でもアタシの方がもっと素敵で素晴らしいわ!」

 

 ケッキングが一瞬でカノンへと接近して来て振るわれるアームハンマーが先制を奪って一瞬でカノンへと叩き込まれ、吹き飛ぶ。だがその瞬間には既に天候とタイプが変更されている。砂嵐を吹き飛ばすように風が吹き荒れ、天候を吹き飛ばす乱気流が発生し、カノンの翅が大空の青色に染まっている。

 

「手繰るのは空の色―――」

 

 さばきのつぶてがケッキングへと放たれる。が、ケッキングがパーカーの下から覗く瞳で敏感に攻撃の切っ先を感じ取り、床を蹴りながら素早く回避動作に入る。そのままさばきのつぶてを飛び越える様に正面から拳を握り、そして腕を振り被る。拘りスカーフか、次はないなと確信し、迷う事無くカノンをボールの中へと戻し、メルトを繰り出す。交代際に繰りだされたメルトに回避の手段はなく、正面から拘ったアームハンマーを喰らい、その15mを超える超重量級の体が僅かに浮かび上がり、後ろへと2m程吹き飛ばされる。それでも敗北しなかったメルトは、自身の体へと接触技で触れたケッキングの拘りを、持ち物を溶解液で破壊した。

 

 持ち物を破壊した事でバトン効果が発動し、メルトがボールの中へと戻ってくる。それに合わせる様にボールを転がし、そして繰りだす。

 

「黒尾ッ!」

 

 夜空と共に黒尾が出現する。出現し、狐火を浮かべる黒尾に対してセンリは迷う事無くポケモンを戻し、メガガルーラを繰り出してくる。出現したメガガルーラが狐火によって火傷を押し付けられ、その火力を半減させられる。物理型が多いセンリの構成ではこれはかなりの痛手だ。が、それに構う事無くメガガルーラに交代してきた。黒尾のみちづれを嫌がって切り替えてきて、まだ切り捨てる事の出来るメガガルーラを選んだのだ。

 

 メガガルーラと子ガルーラの拳が黒尾へと叩き込まれ、黒尾が倒れ、そしてみちづれが発動してメガガルーラが倒れる。これは予定調和とも言える状況だ。若干黒尾のタスキが腐ってしまったが、タスキは保険の意味合いが強い。完全に信用の出来るアイテムではないし、設置除去を持たないセンリ相手に狐火をばら撒く事が出来ただけ、大金星だ。

 

 目立った強さが黒尾にはない。

 

 だが確実に相手の足を引き、アドバンテージを捥ぎ取る、不動の価値が黒尾にはある。

 

 恐らく、どれだけ多くのポケモンを捕まえ、育成しようとも絶対にパーティーから彼女を外す様な事はしないのだろう。

 

「お疲れ黒尾。行け、カノン!」

 

「ケッキング!」

 

 ゴーストタイプとなったカノンが天賦のケッキングと再び睨みあう様に対応する。だが先程とは違い、展開された狐火によってケッキングは強制的に火傷を付与された。持ち物がラムのみではないことは拘りハチマキを破壊した事で解っている。ケッキングには自然回復能力の付与は難しいし、ラッキー以外でケッキングの治療を行うのは難しいだろう。だがラッキーを中継ぎ以外で繰り出そうとすれば、火傷から連鎖して迷う事無く殺す。

 

「―――チェック」

 

 詰みに行く。

 

 夜空は星空が浮かぶ明るい夜へと―――星天へと変化する。星天は竜を称える天候。

 

「手繰るのは竜の覇気―――!」

 

 ドラゴンタイプをカノンが自身に付与し、さばきのつぶてを放つ。見切ったケッキングが最小限のダメージでさばきのつぶてを受け止めながら突っ込み、ノーガードを強制的に発動させる。そのまま正面からカノンを睨み、アームハンマーがカノンに叩きつけられ、その姿が吹き飛ぶ。が、カノンは落ちない。火傷で火力が落ちている以上、必殺するだけの威力が足りない。

 

「ケッキング、眠れ! 寝言、アームハンマー!」

 

「ッ! もどれカノン―――受け止めろメルト!」

 

 迷う事無くカノンを戻してメルトへと入れ替える。立ったまま目を閉じたケッキングが眠ったままアームハンマーを繰りだし、メルトに攻撃を叩きつける。流石に小さくメルトの声から悲鳴が漏れるが、星天が、ドラゴンタイプを強化する天候がメルトに力を与え、その姿を倒れずに済ませる。そして天候適応能力によるバトン効果が発動し、メルトがボールの中へと戻って行く。

 

「ここだ―――ナタク!」

 

 ボールからナタクを繰り出す。勢いよく射出されたナタクが一切速度を殺す事なく一直線に眠ったままのケッキングへと向かう。素早くボールを切り替えたセンリがケッキングをボールの中へと戻し、そしてラッキーを繰り出す。だがそれでも一切速度をナタクは落とさずに、全力で敵の懐へと踏み込んだ。

 

 インファイトがラッキーに突き刺さり、その反動で浮かび上がったラッキーを追撃する様にとびひざげりを叩き込んで追撃し、マッハパンチでひっかける様に殴りながらラッキーの体を引き戻し、はっけいで逃れられない様に体の動きを痺れさせて停止させ、スカイアッパーで体を上へと殴りあげ、落ちてくる姿をゆっくりと捉え、

 

「破ァッ!」

 

 ばかぢからで捉え、吹き飛ばし、戦闘不能に追い込む。連続攻撃の反動で体力と集中力を使いきったナタクがゆっくりと息を吐く合間に、素早くラッキーを戻したセンリがケンタロスを繰り出す。原生種のケンタロスは血走った目でナタクを捉え、一瞬で接近し、すてみタックルを叩きつけてくる。反動で消耗していても、吹き飛ばされたナタクが空中で体勢を整え直しながら着地し、バックステップを取る。それに合わせてナタクをボールの中へと戻し、

 

「これでラスト、メルト!」

 

 メルトを繰り出す。再びケンタロスのすてみタックルが繰りだされたメルトへと叩きつけられ、接触技であるが故にメルトの粘液がかかり、ケンタロスの持ち物が破壊される。また同時にメルトが体力の限界を迎え、倒れる。

 

「お疲れ―――カノン」

 

 メルトを戻してカノンを繰り出す。両腕を組んで、その大きな胸を強調する様に持ち上げるカノンは、笑みを浮かべ、

 

「さあ、詰みよ」

 

 砂嵐が展開される。砂嵐に晒され、ケンタロスの体力がすてみタックルによる反動と合わせて大幅に削られて行く。それに構う事無く一直線にケンタロスが迫ってくるが、無常にもそれをカノンが守って回避し、体力が更に削られ、火傷によるダメージもケンタロスの体を容赦なく削って行く。

 

「はねやすめはねやすめ」

 

「くっ―――」

 

 狂牛型ケンタロスはすてみタックルを放ってナンボだ。火傷を受けた状態でメルトを沈めるだけの凄まじい破壊力を持っていても、火傷に加えて岩タイプへの攻撃となると流石に一撃でカノンを落とす事は出来ない。そしてはねやすめを挟んで休息を得ている間に、

 

 火傷、反動、砂嵐によってケンタロスが削り殺され、倒れる。

 

「さあ、出しなさい、エースを! ふさわしい戦場が貴方を待っているわ!」

 

「相手も弱っている、行くぞケッキング!」

 

「勝てない相手じゃないわね……!」

 

 ケンタロスと入れ替わるようにケッキングが放たれる。天賦エースは”まともに戦うのが負け”というポケモンだ。重要なのは”戦わない”事なのだから、

 

「さあ、来た! 来たわよ!」

 

 カノンの笑い声と共に砂嵐が消え、それと引き換えに濃霧が発生する。フィールドが、道場内が一切見えなくなるほどの濃霧の中、僅かに見える視界で、そして気配でカノンの存在を察したケッキングが先制を奪って一気に接近し、火傷で焼かれた体を無視しながらアームハンマーを繰りだし、カノンを吹き飛ばす。それを受けたカノンがさばきのつぶてを放ち、直感的に天井を蹴りながら移動したケッキングがカノンの背後へと着地し、反応できる前に腕を振るう。

 

「終わりよ―――」

 

 アームハンマーが急所に叩き込まれ、カノンが倒れる。油断すれば6タテを当たり前の様に行うのが天賦の、超級のエースという存在だ。だけど、

 

「終わるのはそっちだ―――」

 

 ナタクを繰り出す。

 

 盲目の武人が完全に姿と気配を殺して濃霧に紛れる。

 

 その存在をケッキングが知覚しようと目と耳を凝らすが―――無駄だ。目を失った事で波動を見る事をルカリオから学んだナタクには濃霧があってもなくても関係ない。焦る事も走る事もなく、散歩をするような気軽さで気配を殺し、天賦の直感でケッキングの死角へと潜り込み、

 

 確定された急所への一撃を殺意を拳に纏って繰り出す。

 

「―――」

 

「―――主から教わりました无二打の伝説、私にはまだまだ遠いようですね……」

 

 音を立てずに、そのままずるりとケッキングが倒れる。

 

 戦闘が終わったことでフィールドを覆っていた濃霧が完全に消え去り、元のジムの姿が戻ってくる。ゆっくりと歩いて戻って来たナタクの頭を労いに撫でてからボールの中へと戻し、視線をセンリへと向ける。

 

「私の負けです。まだまだチャンピオンには遠いようだな……」

 

 どこか、苦笑し、誰かを思い出す様にセンリはそう呟いた。




 カノンちゃんはアルセウスの特徴を天候を軸に再現したポケモン。ナタクの必殺コンボは体力の兼ね合いで1試合1度まで、徐々に数を減らして必殺度を上げる修行中、メルトは物凄い回しやすくて便利、黒尾ちゃんマジ正妻。なお今季のてんぞーの個人的なお気に入りはカノンちゃん。

 ピカネキは試合中ずっとスクワット。



 追記.書き終わってからねこだましの存在を思い出す。

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