『―――さあ、ついに始まりました本戦! 今年最大規模となるキンセツロイヤルカジノ杯名前がながぁーい! 略してカジノ杯! ホウエンのみならず全国から強豪と呼べるトレーナー達だけではない! 最強と呼べる領域にいる四天王やチャンピオンまでいるぞ! どうなってんだこれは! これからの試合から目が離せない! 引き続き実況と解説は私、リ・リリ・リーランドと!』
『キラキラピカピカ! バトルというステージでポケモンもトレーナーも輝いて見えます! 完全燃焼ポケモンバトル、という感じで! ルチアでーす! 今回は解説のゲストとして来ています! よろしくねー!』
「ルチアチャァァァァァン!!」
「ルチアホァッホァッ!」
ホウエン地方ナンバーワンアイドル・ルチアをゲストとして呼ぶとはかなり気合いが入っているな、とは思うが観客の動員数を見れば既に商業としては大成功しているのは見えている。やれやれ、商業である以上は仕方がないが、人が多くて煩わしい視線も多いな、と思いながら溜息を吐く。しかしボールの中からはその視線すら楽しんでいるだろう、とツッコミが入ってくる―――まぁ、確かに事実なのだが。そう思いながら通路の壁に背を預けながら実況と解説の声に耳を傾ける。
『さぁ、そしていよいよ始まります本戦! いやぁ、予選も予選で非常にアツいバトルの連続でしたが……これは本戦を見ると予選でさえまだまだと思わされてしまいそうですね』
『はい! 何と言ってもイッシュ地方四天王のギーマさん、そしてセキエイチャンピオンのオニキスさんが参戦していますからね。おそらく今大会の出場者で最も経歴が熱烈な二人と言えばまず間違いなくこの二人でしょう。ギーマさんは
『それに食らいつくは若いエースたち、そしてキンセツシティではお馴染み、ジムリーダーのテッセンさん! いやぁ、この時期にこれだけの規模、これだけのトレーナーが集まるとは夢にも思いませんでしたよ。それに何よりもアローラからの刺客、ククイ博士がこの大会をどう乗り切るのか実に楽しみでしょうがない!』
『ですねー。アローラという未知の環境は間違いなく存在自体が奇襲となる筈です。対応を間違えれば一瞬でパーティーが崩壊しちゃうかも!? まぁ、それもこの後解ってくるでしょう』
「アイドルだって話は聞いていたけど、頭の緩いタイプじゃないんだな」
こう、アイドルというのはいかにも馬鹿っぽいイメージばかりだったのだが、話を聞いている辺り、ルチアはそこらへんのトレーナーとしての知識をちゃんと習得している様に聞こえる。リーランドの解説の話をちゃんと聞き、そしてそれに補足を入れている。こりゃあどっかでまともな教育を受けているな、というのが解る話し方だった。しかし話は基本的な解説へと移り始め、そして最初の試合の紹介へと移る。
そろそろ出番か、と背中を廊下の壁から持ち上げる。ゆっくりと歩き始める。
『さぁ、もう説明もいい頃でしょう? 皆もそろそろ待っているだけでは退屈だろう!』
『それでは第一試合のトレーナーさん達に入場して貰いましょう! キンセツシティのキンセツジムのジムリーダー! テッセンさん、そしてセキエイリーグのチャンピオンとして君達を待っている、オニキスだー!』
歓声の爆発を受けながらゆっくりとスタジアム中央、フィールドへと向かった移動する。既にスタジアムは新フィールドルールに従って改築を終えられており、新しいレギュレーションでその効果を発揮する様に設定されている―――問題はないな。そう思考を作り、フィールドに入る。正面、反対側にテッセンが入ってくるのが見えた。片手で帽子を押さえながら、軽く頭を下げる。
「お久しぶりです」
「なぁに、そこまで畏まる必要はない。公式の格付けでは其方の方がトレーナーランキングでも上だからな! そう、気にしなくていいぞ。トレーナーには年功序列なんて概念はない。あるのは敬意、そして闘志だ」
「……では、その言葉の通り、何時も通り勝たせて貰おうか」
「はっはっはっは! そう、お前がチャンピオンなのだから、見下す程度に傲岸不遜でなくてはな!」
相変わらず中々のキワモノだった。とはいえ、ステージでは軽くキャラを作っているのも事実だ。さて、と、と息の下で呟きながらバトル用に思考の切り替えを完全に完了させる。相手は一つの完成された戦術の使い手だ。つまり完成度の高い動きを取ってくる相手だ。伸びしろはない。だがその代わりに高い適応力が存在する。そう言うタイプの相手だ。油断してれば殺されるのは―――どんな勝負であろうと、一緒だ。
『さあ、選手両名ともかなりヒートアップしています! もう待ち切れない様子です』
『それではポケモンバトル! 3! 2! 1―――』
腰からボールを手に取る。それを掌の上に乗せる。ボールは静かにその瞬間を待ち、
『―――バトル! スタート!』
「魅せろ、黒尾」
ボールが弾けた。閃光と共にフィールドに黒尾の姿が出現し、そしてフィールドに降り立つのと同時に新たなメガシンカの形―――キズナ進化が発動する。白く輝いた黒尾は次の瞬間、その姿を妖艶な婦人の姿へと変貌させた。それと同時に反対側のフィールドに出現するのは原種のライチュウだった。その姿が出現するのと同時にコートを大きくはばたかせ、戦場を支配する。
「―――チャンピオンの名において宣告する! これよりここは
「さぁ、始めましょうか」
黒尾の言葉にライチュウの脳髄が犯される。性別を無視してメロメロが一瞬で発動し、ライチュウが呆けた顔を浮かべる。くすり、と笑う黒尾の仕草に観客たちが魅了される他、その登場と共に殺意のボルテージが充填される。決戦場に殺意が二段階まで充填されたところで、ライチュウが何かで正気を取り戻すのが見えた。
「メンタルハーブか―――」
ライチュウが即座に復帰した事を認識した瞬間、迷う事無く思考加速による疑似タイムを捻出する。
―――ポケモンバトルにおける一手目は非常に重要だ。特に先発同士の対面は。
ポケモンバトルにおける一匹目の役割はペースメーカー、つまり試合全体の流れとペース配分の作戦、或いはリードを作る事である。試合全体の流れを生みだす事によって、自分が倒れた後でも動きを作るという意味がある。その為、一手目で大きなミスを作ると、そこからズルズルと試合を引きずられて行く可能性がある。それを踏まえ、ここから取るべき一手目を考える。まず相手、テッセンのライチュウは即座にメロメロ状態から復帰した。つまりはメンタルハーブを持ち物として持たせていた事から、
『ほぼ確実にフエンジムでのバトル、映像が漏れてると考えた方がいいな』
ボール内部からナイトの声が聞こえる。トレーナーのサポート特化に育成されたナイトはこの思考加速の中、思考クロックを合わせて、アドバイスが行えるようになっている。その為、冷静なナイトの声に心の中で頷きを返す。
黒尾の特性はやみのころも、タイプの耐性部分をダークタイプ化させるという特性だが、これはあくまでも特性だ。かたやぶり、或いはテラボルテージを持ち出せば
堂々とメンタルハーブを使って居座っている辺り、おそらくは
『……対面で此方に対して鋼タイプによる上書きが発生しない辺りも怪しい。やっぱり奇襲か、或いは専用メタとしてライチュウを用意したかもしれないな』
なら選択肢は一つだ。
『まずは一手目だ。序盤は此方の流れを作ろう』
―――高速思考を解除する。瞬間、世界が本来の時間で動き出し始め、無言で一心同体の相方へと指示を繰り出した。その動きを作り出す中で、ライチュウが動いた。
素早く加速しながら霞むような動きを見せるライチュウは充電状態となっており、それがテラボルテージを誘発させていた。それが阻まれる事もなく一直線に黒尾へと向かい、その行動にテッセンが気が付いた。
「しまっ―――」
「遅い」
下した指示は実にシンプル―――みちづれ、それを使うだけだった。ライチュウとキュウコンのS比べになるとややきわどい領域になるが、キズナ進化が入っている分には此方で追い抜くだけの自信がある上、指示に関しては声を出さなくても自分と黒尾は通じ合う―――十分に間に合うだけの余裕はあった。とはいえ、もし高速思考を展開していなければ今の動き、完全にテッセンに潰されていただろう。
「良くやった黒尾。殺意+4、状況は5:5イーブン。さ、次のラウンドだテッセン」
「やってくれるな! いや、だからこそか!」
次のボールを手に取る。ここで自分が出す事の出来るポケモンは一体だけだ。黒尾の入ったボールを戻しながら次のボールを取り出す。
「蹂躙しろナタク」
「行けぇい! ジバコイル!」
空となったフィールドに二つの人型が立った。コジョンドの天賦ナタク、そして相手が亜人種のジバコイルだった。フィールドに立った瞬間、ジバコイル側から波動の様なものが広がり、それがナタクを包んだ。そのタイプが鋼に上書きされるのと同時に、
磁力による交代不可が発生する。ただ、それにも抜け道はある。
「スイッチ」
ジバコイルよりもナタクの方が動きが早い。素早く接近した所でとんぼがえりを放ち、ボールの中へと戻ってくる。こういう逃亡、交代禁止の抜け道はとんぼがえり、ボルトチェンジ、或いはスキルによる交代効果の利用にある。とんぼがえりによる交代効果が通じ、ナタクが手元に戻ってくる。そのまま、次のポケモンを取り出す。
「メルト」
「ジバコイル! そこでそいつを倒せ!」
ジバコイルが狙い穿つようにラスターカノンを放った。そこに鋼のジュエルが消費されるのが見える。向こうも此方が交代受けすると呼んできたのだろう、交代で出てきたメルトを狙い穿ったラスターカノンが炸裂し、メルトを包む粘液が飛び散り、ジバコイルに降り注いだ。本来であればそれは道具を破壊するが、既にジュエルが消費されている以上、破壊する道具はない。攻撃を食らった勢いでメルトが滑りながら跳ね返ってくる。その姿をボールの中へと戻しながら、
「ナタク」
「御意に」
ボールから出して対面を作るのと同時に指をスナップさせる。
「
決戦場に充満する殺意を三段階消費し、場に出たナタクの急所率を三段階上昇させる。
「これでC+
「はっはっはっは、また一段と悪辣さが増したな、若造!」
笑いながら相対するテッセンを見極め、ナタクへの指示を繰り出す。それに対して当然の様にテッセンがボールを取り出し、そしてポケモンを交代してくる。
「すまんマルマイン!」
原種のマルマインが繰り出されて来る。その弾きやすい姿を見れば役割はメルトの様なバウンスだろう。交代からの対面が入った事によってナタクのタイプが鋼タイプで上書きされる。だがそれは関係ない。1ターンに1度だけ行えるとくせいの変化、特性をちからもちからスキルリンクへと変化させる。それを持って、
「ここで沈みなさい」
れんぞくパンチを放った。タスキ、頑丈殺しをスキルリンクで確定で五回発動させる状況まで持って行き、確定急所による攻撃。それが一瞬でマルマインへと防御スキルを貫通しながら叩き込まれて行き、その姿を一瞬で瀕死にする。熱狂するスタジアムと決戦場に殺意が充填され、
そして―――マルマインが大爆発を起こした。
『おぉっとぉ、マルマインだいばくはつをしたぁー! 瀕死になってからだいばくはつ、これはレギュレーション的にありなのか?!』
『たぶん制限かかっているタイプですね。指示を先行して与えて、瀕死になった場合発動するタイプの。もしそれで落ちなかった場合は試合中では使えないとかの類いの』
ナタクの高火力を逆に信用した、というパターンか。瀕死になったマルマインの横、きあいのタスキの効果でギリギリ耐え抜いたナタクが後ろへと跳躍し、着地した。交代系統のスキルは再育成の結果、外してしまった為、ナタクには残っていない。つまりこのまま居座るしかない。つまりは、
「行け、ライボルト!」
亜人種のライボルトが出現した瞬間、メガの光に飲まれてメガライボルトへとその姿を進化させつつ、雷光と共に発光した―――読み通り、登場と共にダメージを発生させる類いのスキルだ。テッセンはそうやってあっさりとタスキ潰しを行った。モンスターボールの中へとナタクを戻す。
「今のは俺のミスだな、良くやった。次だ、行くぞミクマリ」
ナタクの入ったボールを戻しながら、入れ替える様にミクマリを繰り出す。ボールから飛び出す様にフィールドに出現したミクマリが水の飛沫を舞散らして、フィールドを水の芸術で美しく染め上げて行く。
「マルマインの瀕死、ナタクの瀕死、これで+2だな……さて状況は4:4―――使い時だ、ナイト」
『任せろ』
ボール内のナイトへと合図を送るのと同時に、思考の加速が始まる―――そのギミックはワダツミの加護に似たようなものだが、育成と専用スキル枠を利用する事でナイトが獲得した特殊能力だった。それにより、ナイトの導きで思考加速に入る。ナイトがパーティーに参加している時限定で、疑似タイムの回数が2回になる。
使い慣れた思考加速。本来であれば負担がかかると一度しか試合中には使えないが、今はその負担をナイトが軽減してくれている為、何とか考える。とりあえず、この状況をどうするかを考える。今残されているメンバーはメルト(オボン)、ダビデ(ひかりのこな)、ミクマリ(たべのこし)、ナイト(スカーフ)となっている。
『メインでアタッカー張れそうなのが相性の悪いミクマリ一人という事実』
絵面を見ると最悪―――の様に見えて、実はまだやりようがある。そのカラクリはダビデにある。ダビデの専用として組んだスキルがこうなっている。
『小さき勇者の挑戦』
戦闘に参加する手持ちから一体を選択する
攻撃を行う時、攻・特攻の種族値をそのポケモンのものに合わせる
つまり一時的にナタクか、或いは黒尾のACの種族値を借りる事が出来る。これに加えてダビデに付与したキリングオーダーは相手の能力を下げる事に向けられている。
キリングオーダー 場に充填する殺意を消費する事が出来る。相手の任意の能力を下げる
ナタク等のアタッカーは能力の上昇、黒尾はスキルの破壊、アシストは能力の低下を決戦場のリソースを消費する事で行う事が出来る。つまりはダビデを使えばおそらく、ほぼ確実に一体を落とす事は出来るだろう。ただダビデのこの専用が1試合で使えるのは1回まで。つまり奇襲は一回までしか通じない。そうなってくると別の攻撃方法が必要になってくる。
『ピカネキかシドを仕込んでおけばこんな事にならなかったのになぁ……』
ナタクに対する奇襲に関しては本当にしてやられた、としか言いようがない。テッセンはああやって笑っているが、手段を選ばずに勝ちに来ている部分が見える。あの男もどうやら、アローラでのPWCに関しては本気で狙っている部分があるのだろう、となると此方も手を休める事は出来ない。おそらくテッセンの次の行動は攻撃。それを誘発させる為にミクマリを出した。となると此方はシンプルにそれをいなしてカウンターを叩き込む準備をすればよい。
『やるべき事は見えてきたか? 俺もそろそろ流れを掴んだ。タイミングを合わせるさ』
プツリ、と加速が途切れるのと同時に世界が再び速度を取り戻す。ここで取る選択肢は簡単だ。
「
「任されたわ」
直後、メガライボルトの雷撃を纏った一撃―――ワイルドボルトがミクマリの姿に命中した。それを両腕を交差させるように歯を食いしばりながら抜群の攻撃を耐えきった―――そのまま、たべのこしで体力を回復しながら尾の様なその長い髪を振るい、メガライボルトを叩きだした。ドラゴンテールだ。その衝撃に叩かれてメガライボルトがボールの中へと戻って行くのと同時に、ミクマリがボールの中へと流れる様に戻って行く。順番的に出てくるのは相手の方が先だ。
「流れを変えて来たか―――デンリュウ!」
メガライボルトと入れ替わる様にデンリュウ亜人種が出現してきた。可愛らしいその姿はピカネキを出す事が出来れば凄まじい殺意と共にボルテッカーを叩き込んでいただろうあぁ、と思いながらも、瞬間的に殺せるというのを理解した。
「挑戦しろ、ダビデ」
「む―――」
ボールの中から入れ替わる様に
「キリングオーダー」
ダビデが出て電気相性ダメージが発生し、小さき者が挑戦するという意思に殺意が充填する。そうやって充填された合計三段階の殺意を全てつぎ込んで、ダビデのキリングオーダーを稼働する。それにより、デンリュウの特殊攻撃に対する防御力が一瞬で三段階削られ、ダビデの電気攻撃に付与された10割怯み効果にこの瞬間のデンリュウの動きが停止している。
奇襲成立。
「小さき勇者の挑戦だ」
キズナ進化を行った黒尾のAとCの数値がダビデの小さな体に宿る。そしてそれをそのまま、
むしのさざめきで放った。
降下した能力と、タイプ一致の高種族値による攻撃を受け、デンリュウがそのまま倒れ、殺意が充填される。テッセンが頭の後ろを掻きながらやれやれ、と呟く。
「対策をしてきたつもりだが、戦い方がガラっと変わっておる……そのおかげでまるで此方の戦術が通らんな! はっはっは! いや、これもまた一興! チャンピオンの実力、見せて貰いはするがこのまま返す訳にもいかん……!」
「まだ闘志は萎えてはいないか―――スイッチバック」
ダビデがボールの中へと凱旋を果たす。先に繰り出すのは此方。迷う事無くミクマリを繰り出す。そしてそれに合わせ、テッセンがジバコイルを繰り出してきた。
相手の後出し対面、タイプが鋼に染まり、ミクマリの交代が封じられる。無言の指示を繰り出し、ミクマリがそれに応える。その場でじこさいせいを始めたミクマリに対してジバコイルが鋼鉄破壊の技を繰り出す。鋼を鋼で制するテッセンの奥義が一直線にカッターの様に放たれ、ミクマリを穿った。じこさいせいした体力では不足し、ミクマリが落ちる。
「これで+2、3:3だな―――ダビデ」
ミクマリと入れ替わる様にダビデが再び登場した。登場と共に電気が迸り、それがジバコイルを穿ち、怯ませる。そして再び決戦場に殺意が充填され、+3まで用意が完了した。ここから先は終盤戦、リソースの切り所を間違えれば一瞬で崩壊すると認識しながら、フルアタッカーがいないこの状況、そのスリルを楽しむ。これだからポケモンバトルは止められない。
とはいえ、
「テッセンさん―――詰みだ」
「むっ」
言葉を放つのと同時にダビデがクモのすを張った。ジバコイルの交代が封じられ、行動後の凱旋により磁力を無視してボールの中へとダビデが返ってきた。それと入れ替わる様に素早くメルトをフィールドへと出した。その凄まじい巨体は決して飾りではない事を今から証明する。
「じしん」
『ここで流れを完全に掴む! 全力でぶち込め!』
指示と同時にボール内部からメルトに対して激励が飛んでくる。それを受けたメルトが、機嫌よく吠え、
「きゅぅ―――!」
凄まじい勢いでメルトが飛び上がった。それこそそらをとぶを使ったのではないかと言わんばかりまで跳んだ。
そして次の瞬間、何をするのかを理解したジバコイルが迎撃のラスターカノンを放つが、それを受けてもビクともしないメルトが落下を完了させ、フィールドへとその凄まじい巨体を叩きつけた。フィールド全体を破壊するような激震と共に大地が砕け、ジバコイルが一気に大地に殴られたフィールドの外へと殴り飛ばされた。
派手な動きと演出に観客たちが一気に湧き上がる。
「ロトム!」
洗濯機の形をしたロトム、ウォッシュロトムがテッセンの方から投げ込まれてきた。その登場と共にメルトのタイプが鋼で上書きされ、そして同時に鋼殺しの奥義が放たれた。メルトの姿が大きく弾かれながら、オボンのみが消費されるのが見え、そのまま反動で叩き戻されながらメルトから飛散したぬめぬめがロトムの持ち物、ゴツゴツメットを破壊するのが見えた。ゴツメミトム―――おそらくはスティングの対策辺りだったのかもしれないと思いながら、ボールに戻ってきたメルトを素早くダビデと入れ替える。飛び出してきたダビデから雷撃がほとぼしるのを、
「よけろ!」
ロトムがテッセンの指示に従って回避した。
「クモのす」
「落すんじゃロトム!」
タッチでクモのすが張られる方が早い。クモのすが張られるのと同時にロトムのハイドロポンプがダビデに命中し、その姿をフィールドの外まで弾き飛ばした。その姿を回収する様にボールの中へと戻しつつ、お疲れ様と告げる。
「高乱数を引かれたか。お前に対する命中は常に8割ぐらいの筈なんだがな……まぁ、仕方あるまい。詰みに入るぞ―――ナイト」
ダビデから入れ替わる様にナイトを繰り出す。
昔は黒一色のブラッキー―――だった。だがその姿はもうない。大量のリボンと紐を巻きつけた様なワンピースドレス姿の、ウェーブのかかった桃色の長髪に、頭から延びる長い二つの耳。人の形をした姿に青い瞳はニンフィアの特徴を良くとらえている姿だった。アリス・イン・ワンダーランド。ただしピンクとヒモリボンマシマシで、と心の中で自分はイメージを言葉にしていた。育成が完了してこの姿になった時は思わずえんとつ山から飛び降りそうだったのを思い出しつつ、
「いつもの」
みかづきのまいを奉納した。ウォッシュロトムが動き出す前にみかづきのまいは完了し、その攻撃は空ぶった。その結果、最後の一匹が無償で降臨できる。
「さ、お前が受けて耐えるだけの子じゃないという事をここで全国に証明しようか、メルト」
みかづきのまいを受けて完全回復した状態でメルトが降臨した―――状況は後出し、死に出し。テッセンからの交代でないと鋼化のロックは出来ない。つまり必然的にロトムからの奥義を放つ事は不可能である。
「メルト、ヘビーボンバー」
「おにびだ!」
メルトが勢いよく飛び上がった。その姿を追いかける様におにびが放たれた。ウォッシュロトムの技幅では確かにそれが唯一の有効打だろうが、忘れてはならない。
メルトは
「きゅいー!」
ヘビーボンバーが炸裂した。メルトのヘビーボンバーがロトムをそのままステージの中へとクレーターを生みだす様に叩き込んで埋めた。もはや確認するまでもない。当然の如く瀕死である。メルトがいそいそとロトムから離れ、ずりずりぬれぬれと体を引きずる。そんな愛くるしい行動とは裏腹に、会場のテンションは上がり続けていた。一度始まった熱狂は中々消えず、残り続ける。
カウント、+6。
息の下で吐きながらテッセンを見た。最後のボールに触れ、そしてポケモンを出してくる姿を。そうやって出現するのはメガライボルトであり、その登場と共に鋼タイプへの上書きと磁力拘束が発生する。とはいえ、この段階に来ると手遅れだ。
「キリングオーダー」
素早さ、そして防御力をメガライボルトから奪いながら、メルトが再び大跳躍を行った。空へと飛びあがり、出てきたメガライボルトの姿めがけて一切の躊躇や遠慮を行う事もなく、キリングオーダーで足が停止したメガライボルトを素早さで逆転するという異常事態で、
―――クレーターを新たに生み出しながらヘビーボンバーで大地に沈めた。
「まだだ、まだこの程度の強さで満足はできない。次はもっと余裕を持って磨り潰す」
試合終了のブザーが響くのと同時に歓声が爆発し、キンセツロイヤルカジノ杯の第一試合の終了が告げられた。
久しぶりにバトル書いた! データを明確に使っているからどこかシステマチックになってきたけど書いてる側としては凄く動きやすくなってきた。そして事故死には気を付けよう。
その内データ纏めて公開予定でやす。たぶんその方が読者も動きを追える。とはいえ、どーしたもんか。次回休憩と評価、んで準備。