俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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予選結果と準備

 ―――開会式から数日が経過し、予選が終了した。

 

 場所はフエンの旅館で、出揃った映像や資料を前に対策と戦術を組んでいた。

 

 結果から言えばある程度予想通りの面子が予選を突破していた。まずは当初の予想通り、テッセン、ククイ、そしてギーマが予選を突破していた。予選を突破したのは全部で9人、それに自分を加えたトータル10人がキンセツロイヤルカジノ杯の最終出場者になる。出場者が決定した所で、そのリストを此方で手に入れる事も出来た。その中身はこうなっている。

 

 1:テッセン

 2:ヒムロ

 3:リッケン

 4:ギーマ

 5:トウコ

 6:エルマー

 7:アデル

 8:エリック

 9:ククイ

10:オニキス

 

 これがキンセツロイヤルカジノ杯、通称カジノ杯の参戦者だった。予選では二百を超えるトレーナーがいたのだから、これを見るなら予選でどれだけふるい落とされたのかが伝わってくるだろう。ともあれ、それぞれのトレーナーの評価を行う。全てのトレーナーに対して対策を行うのは不可能故になるべく自分らしいバトルを行う事が重要だ。故に相手の傾向、戦術を把握する事にする。この場合、テッセンとギーマは一旦横に置いて行き、個人的に注目している幾つかのトレーナーをピックアップする。

 

 まずはヒムロ―――前年度チャンピオンリーグでカントーベスト8入りをしたトレーナーだ。カントー出身であるが故、そのスタイルは育成タイプになっており、良く鍛えられたポケモンによって上から押し潰すというスタイルで戦ってくる。鈍重ではあるが火力の高いポケモンを使ってくるそのスタイルは()()()()()を思い出させる。流石にあの特徴的な口調はないが、サイクル戦術が主流な現在のカントー・ジョウトでは珍しい話ではない。

 

 それを流行らせたのは自分なのだが。

 

 サイクル構築、つまり交代する事でアドバンテージを稼ぐというスタイルだ。攻撃にとんぼ効果を付与する、或いは条件を満たす事によって任意の味方と交代する事によって有利な対面を作り、アドバンテージを稼ぐというスタイルだ。実はこのサイクル構築が今、一番主流のスタイルとなっている。その理由はシンプルに能力上昇や有利相性での対面を作れる他、()()()()()()からだ。

 

 見栄えが良いというのはポケモンバトル―――それもプロフェッショナルにとっては非常に重要な事だ。

 

 なぜならポケモントレーナーの活動には金がかかるものだ。その戦闘そのものが売りでもあるのだから。ポケモントレーナーが一定レベル以上の活躍を望むのであれば、必然的にスポンサーか、或いは資金提供を行ってくれる団体への所属が必要となってくる。それ抜きでトップ環境へと食い込める者はまさしく魔人の名に相応しいだろう。

 

 まぁ、そんなの自分が知るのでは一人しかいないのだが。赤い帽子を被っているアレ。

 

 ―――ともあれ、そんな事もあってサイクル構築は人気が高い。見栄えがいいし、戦術としても完成されたものはレベルが高い。基本的に環境はトッププレイヤーが構築し、カントー・ジョウトのトッププレイヤーである俺が其方に関しては生み出した。俺がサイクル構築をしていたので、自然と皆がそれを真似しているというのに近い。

 

 そう言う訳で同じカントー出身の彼に関しては注目している。何よりもエースがフシギバナというのが良く解ってる。いいよね、フシギバナ。厚い脂肪込みだと中々落とせなくて大変だよね、フシギバナ、と昔のトラウマを思い出しつつ、他のトレーナーの情報を見る。

 

 ―――トウコ・ホワイト。

 

 最終戦歴()()()()()()()()()。伝説種()()()()()()()()()()地下鉄(サブウェイ)に潜ってしばらく姿を消した後に浮上、真っ直ぐホウエンへとやってくる。若手の中でも最強の一角と呼ばれているルーキー。

 

 これ絶対レッドの刺客だろ。

 

 地下鉄から出てきたという時点で嫌な予感しかしない。地方リーグ優勝経験者という時点で腕前はかなりのレベルになるのが解っている。おそらく、この大会のダークホースはこいつになる。叩き伏せた上でレッドを見なかったどうか、ついでに聞き出してみる事にする。基本的な手持ちの情報は存在する。エースにサザンドラを持ち出してくる辺りに、親近感を抱ける。やっぱりサザンドラの安定っぷりは素晴らしいと思う。固有の戦術でどうやら特性やスキルを封印してくるらしい為、此方もかなりの強敵になりそうだ。

 

 その他にも注目すべきトレーナーはいる。その一人一人の事を考えながら、対策と戦術を練る。

 

 今回の構築はカノン・スティング・氷花が抜きの構築であり、意図的に()()()()()()()となっている。今までの構築が何度も何度も回転を行う完全なサイクル構築の中、これからは異界展開やそれに伴う効力を利用する為にサイクル速度を落とした、半サイクルとも呼べるような構築になる。その実験と、調整の意味合いが強い。それぞれの役割を記すと、こうなってくる。

 

 先発:黒尾

 アシスト:ナイト・ミクマリ・ダビデ・シド

 アタッカー:ナタク・ピカネキ

 バウンス:メルト

 

 ピカネキは育成した結果、より攻撃に特化した―――というより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()打撃力を手に入れたというのに近い。ピカネキ自身、モチベーションは高いが最優秀と呼べる領域に入れるかどうかで言えば、そこまで、という訳でもない。残念ながらスタメン争いとしては脱落が半分決定しているし、ピカネキもそれを十分理解している。その為、使ってやれるのはこのホウエンにいる間ぐらいだ。

 

 ホウエンでの旅が終わったらこの後どこで働きたいのか、或いはどこで活躍したいのか、それを相談する予定でもある。そして希望次第では居場所を用意するし、移籍交渉も行う予定である。基本的にスタメンから外れて使用機会のなくなるポケモンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは一つ、こだわりでもあり、そして一緒に戦ってくれたポケモン達に対する感謝と報酬とも呼べるものである。とはいえ、あのピカネキの事だからナチュラルの手持ちになりたいとでも言いだしそうなのだが。

 

 ―――閑話休題。

 

 カノンとスティングがいない以上、打撃力に関してはナタクとピカネキ頼りになる為、ナタクは確定枠として、ピカネキの選出優先度は非常に高い。こうなってくると確定枠は三つになる。黒尾、メルト、そしてナタクだ。こうすると編成は二種類にまで絞れる。

 

 ピカネキを抜いてアシストを増やした搦め手の強い編成。

 

 或いはピカネキを入れた上から殴って必ず殺す編成。

 

 編成A

 黒尾

 メルト

 ナタク

 ピカネキ

 シド

 ダビデ

 

 この編成は解りやすいスタイルだ。固有である殺意のフィールド、名称は『殺意満ちる最終処刑場』を最大限活用するスタイルだ。殺意の充填条件にスキルを一部育成しなおした結果、黒尾、ピカネキ、シド、ダビデが大量供給できるようになっている。それをナタクとピカネキへと供給する事で連続で消費しつつ相手を上から殴り殺すという形になっている。なおスキルに関する制限だが育成で習得する固有枠は()()()()()と決まっている。トレーナーの育成次第でこれが減ったりする。自分の場合は高い育成力があって、全員4枠埋められている。サンプルとして黒尾を例にあげればこうなる。

 

 黒九尾の魅了 場に出た時、相手をメロメロ状態にする

 

 育成して身に備わった技術(スキル)をシステム的に表示させるとこうなる。なお、デルタ因子や育成を通してトレーナーが付与する個性に関してはそれぞれ1枠まで、等と細かいルールが存在している為、ポケモンは大会前までに完成されたデータを提出しなくてはならない。

 

 ともあれ、これが編成Aになる。次に考えている構築が編成Bになる。

 

 編成B

 黒尾

 メルト

 ナタク

 ダビデ

 ミクマリ

 ナイト

 

 此方はどちらかというと従来の戦い方に近い編成になる。バウンス1の回転役2、と非常に回転率の高い構成になる。その上で新しく力を付けたナイトがボール内から支援する様になっている。問題はメインアタッカーの不足だ。この場合、メインで殴れるのはナタク一人になってくる―――とはいえ、全員、育成を通して種族値を可能な限りまで極めている。本来であれば大会へと持ち込める技も四つまでだが、それも六つまで広げる事に成功した。ミクマリ、黒尾の種族値は悪くはない。サブアタッカーとして勤められる程度にはあるし、相手の特防を減らしてから威力100超えの技を放てば落とせるだろう。

 

 編成Aが速攻で戦いを終わらせる事を重視したスタイルなら、

 

 編成Bはじわじわと確実に殺す方向性のシフトだ。

 

 今大会はこの二つの編成を相手に合わせて使い分ける。

 

 テッセン戦は脱出手段が欲しいので編成B、ギーマは素早く戦いを終わらせる必要があるので編成A、トウコは判断が付かないがA、ククイは……個人的に、凄く、物凄くアローラパに興味がある為、戦闘を長引かせたいという事もあってB編成で戦わせて貰おう。

 

 他のトレーナーに関しても予め、どちらの編成で戦うかを決めておく。土壇場で考えるのは醜いだけだ。段々とだがフィールドを、世界を支配するという領域に関して解りつつある事がある。その感触が確かならば、自分はおそらく、自分に相応しい戦い方に覚醒しつつある。

 

 最終メンバーも誰を選ぶのか、誰を脱落させるのか、それが見えてきている。

 

 必要なのは試合回数と経験だ。俺が本当に何を求めているのか、俺というポケモントレーナーが目指す完成されたスタイル、それを目指してこのホウエン地方で勝ち続ける。

 

「さて、持ち物をどうするか、だな。アレにひかりのこなを持たせるとして、こっちはタスキで……やはりナタクはラムを持たせておくのが一番安定するか。しかしピカネキはでんきだまの効果を受けるのが非常に納得いかないな、アレ……」

 

 やっぱりポケモンのアレコレを考えている間が一番楽しいなぁ、と苦笑しながらテッセンらの登録されている手持ちを確認する。自分も久方ぶりの大舞台でのバトルだ。カントーとジョウトに、そして何よりボスに対して恥ずかしい姿を見せる事は出来ない。

 

「さて、後は主要面子の専用を何とか用意しておくことが重要、か。まず確定でナタクは何とか用意しなくちゃな。まぁ、アレは感覚派の天賦だし、小難しい事を考えずに合わせれば行ける―――ん?」

 

 何か騒がしさを感じる。作業用に起動していたPCを一旦消してから椅子から立ち上がり、窓から外へと視線を向けた。見れば旅館の外で大量に積み重ねられたテレビ局の人間の姿が見えた。その姿を目撃し、静かに煙草を口に咥えて火をつける。それに気づいたナタクが此方へと振り返る。

 

「鍛錬の邪魔でしたから叩き伏せましたが」

 

「アポなしに遠慮する必要はねぇ。俺は邪魔なカメラマンだったら普通に割るぞ」

 

 ひっ、と音が聞こえた瞬間、一瞬でカメラマンやレポーターたちが逃げ出し始めた。だがその中の一部はめげる事なくその場で撮影を始めるので、指をスナップする。

 

「―――少し、戯れてやれ」

 

「Yes Boss」

 

「!?」

 

 物凄い流暢で黒人を思わせるような深い声と共に、旅館の天井を超えて出現する姿があった。それは黒いスーツ姿で、サングラスを装着し、葉巻を口に咥え、ショットガンを片手に握り、そして体に耐え切れず、スーツはピチピチの状態となっている―――ゴリチュウであった。

 

 お着替えゴリチュウだった。

 

 それはまさに視覚の暴力だった。

 

「コ゛リ゛チ゛ュ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛」

 

 そう言うと持ち出してきたショットガンをピカネキが捻じ曲げて小さいボールにまで圧縮した。途中で暴発しているのだが、まるでそれを意に介す様子はなく、手の中で爆発しながらそれを丸めると、横へと投げ捨て、咆哮を上げながらスーツの上半身を破り捨てた。

 

 ブラジャーを露出して。

 

 そして、テレビ局を指さした。

 

 ―――次は貴様だ、と。

 

 結果として、それ以降のアポなし突撃やパパラッチが来ることは一切なくなった、とその後の惨劇を記録しておく。




 落ち着きが見えてきた所で完全に落ち着けるかどうかは別の話である。ゴリチュウ、ソレ弁償な。

 という訳で次回からvsテッセン、ギーマ、トウコ、ククイで。他のトレーナーとの戦闘はダイジェストでやす。なおNとヒガナにはちゃんと給料が振り込まれているそうで。

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