俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーション ????

「完! 全! 復! 活!」

 

 拳を握り、力を籠め、リンゴを握り潰しながら自分の完全復活をアピールする。それを見ていたヒガナがえー、と声を零す。

 

「本当に三日であの大怪我を治しちゃったよ……」

 

「流石伝説だ、不死特化の加護は伊達じゃねぇな」

 

 右腕を持ち上げて自分の健在っぷりをヒガナに見せつけると、ヒガナが此方の脇腹を指先でつんつん、と突き刺してくる。あふぅん、と声を漏らしながらもそれを耐える。実際、体に軽い倦怠感はあってもダメージの方は再生し終わった。目、両腕、両足共に完全に治療は完了しており、それを見たタブンネがフーディンを呼んでスプーンを月へと向かって投げさせていた。あのタブンネ、芸が細かくて面白いからスカウトするか真剣に悩む。ともあれ、ホウオウの加護―――つまりカグツチに三日間、休むことなく加護の強化を頼んだ結果、急速に再生する事で治療は完了させた。無論、数年単位で治療するレベルの怪我だったりするので、それ相応の激痛はあるのだろうが、

 

 スティングが受けた分と比べれば軽い。

 

 スティングの事に関してはいったん放置せざるを得ないが―――ともあれ、体は回復し、他のポケモンに関してはノータッチだ。しかしセキエイの方からは大事を取って更に数日間休め、と言われている為、本当はミナモシティへと移動したいのだが、それが出来ない所にある。とはいえ、やりたいこともあるといえばあるのだ。だから好都合と言ってしまえば好都合なのだが、さて、どうしようか、と片手で頭を抱える。

 

「だいじょうぶ?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「そう」

 

 場所は再び旅館のポケモン用の広大なスペースへと戻る。そこで色々と確かめる事もある為、更に金を出して貸し切りの状態にさせて貰っている―――これは某所のタブンネの様な発狂の犠牲者を生まないための措置である。秘密事ならデコボコ山道やえんとつやまでやれとも言えるが、あそこは完全に地形が変わってしまって割と危ない。その為、ここでやらなくてはならないのだが―――。

 

「だいじょうぶ?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「そう」

 

 同じ会話がループしている。その声の主は背後から来ている―――とはいえ、背後に立っているわけではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。個人的に予想外というか、どうしてこうなってしまったのか、若干そこらへんが非常に頭の痛い所なのだが、ともあれ、いつもの調子で伝説を屈服させようかと思ったところ、

 

 ―――イベルタルはチョロインだった。

 

 いや、そうとしか表現が出来ないのだ。なぜなら、

 

 今、背中にぶら下がっているのが人の姿を取っているイベルタルなのだから。これ、どうなってるの? とナチュラルに聞きたい所だが、目を離している隙にナチュラルは野生のブーピッグの群れに捕獲されて拉致されている最中だった。ブーピッグがオークで、ナチュラルが姫騎士枠なのかなぁ、アレ、そんな事を考えながら去りゆくナチュラルの姿に手を振る。

 

「夕飯までに帰って来いよー」

 

 ナチュラルの悲鳴が返答の代わりとなった。今日も今日で割と平和だなぁ、と後ろにぶら下がっているイベルタルを見ぬふりして脳内で完結する。だがヒガナが露骨にイベルタルをガン見しているので、無視する事も出来ない。溜息を吐きながらちゃんと向き合うか、そう思ったところで目の前の空間が割れ、ツクヨミが着地する。

 

「お、処す? 処す? 処しちゃう? なんか瞬殺されたクソザコ伝説が変に媚び売ってるし処しちゃう?」

 

「ゴーストまじりのクソザコだ。どうする? はかいする? はかいする?」

 

「お前ら変な方向性で気が合うなぁ!」

 

 どっこいしょ、と声を漏らしながら後ろからしがみついていたイベルタルを引き剥がし、それを目の前へと運んだ。姿はカグツチやワダツミとは違い、ツクヨミの様な幼体だ―――つまりは幼い少女の姿になっている。服装はフリルの多い朱いゴシックロリータであり、腰の裏にはイベルタルの尻尾をモチーフとした地面に引きずる様に伸びる黒いリボンが存在し、髪も黒と赤が混じった先端で白く変色するグラデーションの様になっている。頭からはイベルタルの二本の黒い角が出現し―――その手には首のないゼルネアスの人形が握られている。

 

 ―――何時の間にこやつそんなものを……!

 

「ゼルネアスははかいする。クソしかをゆるすな。ジオコンもはかいする。フェアリーとかいうくそタイプもがいあく。はかいする」

 

「何言ってんだこいつ怖い……こんなキチガイが同じ伝説とか……」

 

「お前も同レベルだからな?」

 

 ショックを受けた様子でツクヨミが首の、はっきんだまで作成された鎖で遊び始める。そしてそれを唐突にイベルタルに自慢し始める。悔しそうなイベルタルが首なしゼルネアス人形を眺め、それを大地に叩き付けた―――同時に破壊の力がゼルネアス人形をこの世から完全に破壊して消し去った。

 

「ますたーにはわれをトレーナーとしてあまやかすぎむがある」

 

「おう、そこヒガナ、げらげら笑ってるんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ」

 

 ツクヨミとイベルタルが此方の周りをぐるぐる走り回りながら処す? 処す? と露骨な処刑アピールをし始めるのを見て、ヒガナが無言でラティオスを取り出し―――メガラティオスへと進化、そのまま空へと向けて全力で逃亡を始めた。そこまでやって逃げ出すなら初めから煽らなければいいのに、なんて事を思わなくもない。ただ煽りというのはライフワーク染みた部分があるのも事実だ。となるとやはり、ヒガナをあっぱれというべきなのかもしれない……?

 

「かまってー」

 

「構って構ってー」

 

「えぇい、このツインロリうぜぇぞ!!!」

 

「うるさい!! 今私はロリという明確なアイデンティティを失いそうな事に対して必死にアピールする事で保っているんだ!!」

 

 ツクヨミの必死な訴えに泣きたくなってきた。寧ろツクヨミって大人と子供がフォルムチェンジで自由に変更可能だからそこが一番おいしいポイントなのではないか、と思っていなくもないのだが―――というかそんな場合ではなかった。気づけばいつものぐだぐだとした空気に突入していた。違う、そうじゃない、これからイベルタルに対して尋問を行おうとしていたのに、なぜこんな空気になってしまったのだ。

 

 ―――ともあれ、ここまでの間、イベルタルという伝説の”はかいポケモン”は人間、生物に対してその破壊の力を振るう事をゲットされた後から見せる事はなかった。それどころか全面的に此方に従うような、そういう素振りすら見せているところがある。ホウオウ、ルギア、ジョウトの伝説のポケモンの時は完全にその心をへし折って主に相応しい事を証明する必要があった。ギラティナの時も初めは全く言う事を聞かず、そしてポケモンマスターとしてその証明を見せる必要があった。

 

 だがイベルタルはそんな事を要求せずに従っていた。それが自分にとっては何よりも不気味だった。交渉も、尋問も、拷問も、そういう事を一切必要としない恭順―――それがイベルタルが自分に対して向けていた事だった。故に、率直に質問する。すぐ傍にはツクヨミがいるし、周囲にはボールから出して自由にさせている手持ちの他のポケモンもいる。何より、この伝説は暴れないだろう、という自信があった。

 

「なんでお前はこんなにも俺に従うんだ?」

 

「……?」

 

 その質問にイベルタルは幼い表情でぽかん、とし、首を傾げた。

 

「マスターはあかしをみせた」

 

「証……?」

 

 イベルタルは頷いた。

 

「あくをすべるのはあくのみ。さついによるとうそつを。はかいによるじゅうりんを。ひつようなときはきりすてられるひじょうさを。マスターからはわれをひきいるにたるあるじのそしつをみた。それがさいのうとかポケモンマスターとかそんなものよりももっとだいじなもの。はかいすべきときにちゅうちょせずにふみころせるか。それがわれをしえきするのにひつようなそしつ。……かんたんにいえば、あくのそしつ」

 

「直訳するとクソ外道の素質があるって事だよだーりん!」

 

「お前ら二人揃って今からえんとつやまの修復作業に送り出してもいいんだぞっ!」

 

「わぁー!」

 

「きちくだー!」

 

 ツクヨミがイベルタルの顔面にハイキックを叩き込んでからやぶれた世界へと逃亡を開始する。一瞬だけフラっとしたイベルタルは直後、尻尾リボンでビターン、と虚空を破壊してやぶれた世界への入口を強引に開けて、ツクヨミと殴り合う為にそのまま突撃していった。今、異世界が物理的にアツい。ただ異世界で最終戦争をする分にはこっち側の世界に一切被害が出ないので、好きなだけ暴れていろ、としかいう事がない。しかしもう、こうなってくるとどうしようもない。

 

 スティングを捨て駒にして、それでイベルタルを容赦なく蹂躙した。その非道さがイベルタルを使役するのに必要な素質、資質らしい―――つまり遠まわしに人でなしと言われているようなものだ。しかも伝説による認定。

 

 少しだけ辛い。まぁ、本当に少しだけだ。誰の背中を見て育ったのか、それを思い出せば自分が根本的にどういう存在なのか、それを良く理解できる。だからそこまで深く落ち込むことはない。イベルタルもツクヨミもどこかへと消えてしまったし、

 

「このジョウト地方第二級姓名判断師資格を持っている俺が新たなNNをつけてやろうと思ったのになぁ……」

 

 まぁ、ヤベルタル以外にニックネームがある訳がないのだが。寧ろヤベルタル以外に相応しいニックネームが存在するのなら此方が知りたい。ヤーティーの神として降臨したイベルタルに相応しいのはその名だけだと思っている。まぁ、神聖なるヤーティーの神なのだ、しょうがない。うん。

 

「ふぅー……まぁ、若干制御不能な気もしてくるけどいっか……とりあえずリーグへと報告書を書いて、手持ちへの申請を行って、それで狙ってくる研究機関への牽制もして……あー……仕事が増えるなぁ……」

 

「大変そうだなぁ、おい」

 

 聞き覚えのある声に振り返れば、ナイトの姿が見えた。いつ見ても真っ黒だよなぁ、とブラッキーなんだから当たり前だ、と自己完結していると、ナイトが切り出してくる。

 

「おう、オニキス。ちょっと頼みがある」

 

「うん? どうした、またエーフィーちゃんでもひっかけたか。お前、そういやぁ赤帽子のエーフィーに粉をかけてなかった?」

 

「可愛かったらとりあえず子孫繁栄するのが動物的本能だろ!! ―――いや、合ってるけど違う、そうじゃない。お前の周りの連中が最近は濃いから忘れがちだけどお前も十分にキャラが濃いんだよ!」

 

 こっちも最近はキャラが押され気味だから少しはっちゃけたい気分なのだから許してほしい。トレーナー的に考えて。ともあれ、

 

「どうしたんだ?」

 

 その言葉にナイトが答えた。

 

「ウチのパーティーを全体的に見直してみてな、思った事があるんだよ―――絶望的にフェアリータイプが抜けてるな、って」

 

「まぁ、そりゃあな」

 

 フェアリータイプのポケモンとはそこまで気質の相性が良くないのだ。フェアリーとは子供や夢を見る者の味方なのだ。現実を生き、悪逆の道を選ぶ人間には寄り付きにくい生き物になっている。だから自分とフェアリータイプの相性はそこまで良くない。だがドラゴン対策、そして数の多い格闘技への対策としては素晴らしいタイプではある。

 

「あぁ、だからな、思ったんだ。今回の対イベルタル戦、フェアリータイプのポケモンが居ればきっとダークオーラにある程度対抗出来たかもしれない―――少なくとも後方からの支援に特化したフェアリーが居れば、ある程度は負荷を軽減出来たんじゃないか、ってな」

 

 それはつまり、

 

「オニキス―――俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「マジか」

 

 その言葉にナイトは頷く。

 

仲間(スティング)を見てて思った―――やりたい事があるのなら、届きたい場所があるのなら、時に好き嫌いを超越してでも届かせるべきなんだ、ってな。という訳で近い内にニンフィアへの進化を頼む―――出来れば服のフリフリは少ない方で」

 

「いや、そこは増量させる」

 

「なんでだよ……!」

 

 半ギレで食って掛かるナイトをいなしながら、このイベルタル―――いや、ヤベルタルとの戦いはどうやら、ただ彼女を手に入れてスティングを再起不能にしただけ、という結果を残した訳じゃなさそうだった。ナイトの様子を見て解る様に、

 

 きっと、他の皆も―――本気を見せてくれるだろう。




 ヤーティが解らない知らない? んん……ごほんごほん……異教徒……異教徒……ぐ、ググろう! ともあれ、ヤベルタルちゃん……通称ヤベ子加入、そしてナイトのブラッキーからニンフィアへの転向ですな。ツイッターを見ている読者にはちょっとだけ早い公開でしたとさ。

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