俺がポケモンマスター   作:てんぞー

60 / 72
vs イベルタル

 ―――ポケモンバトルに欠かせない概念のひとつで”メタ”というものがある。

 

 メタ構築、メタ戦術、メタパ―――つまりは特定の対象に対して必勝の方法を用意するというやり方である。これを卑怯だという人間もいるが、そんな事はない。メタとはポケモンバトルを行う上では絶対に欠かす事の出来ない要素であり、ポケモンバトルの基本とはまずメタに始まるのだ。それを教える為のジムであり、それに頼りすぎない事を教える為のジムでもある。メタとはポケモンバトルでのパーティーの構築を考える上では絶対はずせない要素となっている。

 

 水ポケモンと戦うから電気タイプ、電気技を使う―――言ってしまえばこの時点でメタ構築は始まるのだ。故にまず最初は好きなポケモンを据えて、それを基本にメタを考え、そうやってジム戦を勝ち抜くことでポケモントレーナーはどうやって戦うのかを覚える。今もそうだ。たとえばエースにして中心が炎タイプなら、それが苦手な水タイプ対策に電気タイプのポケモンを手持ちに加える。事前に相手がどういうタイプを使うのかが解れば、これぐらいは当然の様にやるし、バトルではそれをやるのが普通だ。

 

 そもそも、ポケモンバトルの環境変化とはメタによって変わるものだった。メガシンカの解禁によって有名になった構築で”ガルゲンガブ”という軸がある。メガガルーラ、ゲンガー、そしてガブリアスを使った構築で、バトルの初心者でも簡単に勝てる様になる、という触れ込みだった。実際、それぞれのポケモンが強く、育成に特化したトレーナーじゃなくても高い能力を発揮する事ができた。だがこうやって一つのパーティーが完成してくると、それに対抗するメタ構築が完成する。それによって違う種族のポケモンがトップメタに躍り出て、

 

 その対策に新たなポケモンが台頭する―――こうやってバトルの環境は流動し続ける。

 

 そして停滞し始めると基本的にマイナーなポケモンを使役する一点突破型のトレーナーが出現し、環境に風穴を開けて行く。そうやってメタばかりの環境は壊されるものだが―――結局のところ、そこもメタによって王位は崩される。

 

 メタ、どこを見てもメタ―――だが間違ってはいない。結局のところポケモンバトルは勝利を目指す為の競技であり、勝者こそが正義の世界なのだ。強い者程その変化には敏感であり、ポケモンを入れ替えなくても能力や技、特性という形で環境への対策は仕込んでおく、という手持ちが不動のパーティーに対しては良く見られる形だ。そしてどんなポケモンに対してもメタが存在する様に、

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 オニキスというポケモントレーナーの技術、伝説殺しとは即ち()()()()()()なのだ。6vという実数値を理解する。ポケモンに備わった種族値を理解する。そしてポケモンに溜めこまれた努力値を理解する。その上で覚える技、レベル、タイプ、特性、そしてどういう設定を保有しているのかを把握する。事実、実機プレイヤーと呼べるポケットモンスターのプレイヤーの大半は気になればWIKIか図鑑でも見て、伝説のポケモンの生態や設定を調べたりするだろう。

 

 或いはこんな裏話もあったのだ、と楽しむ事もあっただろう。

 

 伝説殺しとは即ちその知識をベースに、存在そのものに対してメタを張るという技術になっている。プレイヤーが厳選する為に行う作業を等身大に反映する、そうやって作業として伝説を解体する。二十八という脂の乗った年齢になり、オニキスの技術は増々磨かれていると表現しても良い。その手腕も昔と比べれば力押し、物量押しの物から的確に急所を抉り抜くような手管へと進化していると表現できる。

 

 だからこそ、

 

 

 

 

 ―――()()()()()……!

 

 それが某所でヤベルタル神と呼ばれる存在―――イベルタルに対する感想だった。フーパの召喚によってまだ完全な顕現を果たしてはいなかったが、それでも既にそこから出現しようと、大量の生命力をドレイン能力を通して吸い上げ、急速にその力を吸い上げてきていた。スティングを出したまま、ボールの中からナイトを繰り出す。

 

「ゆびをふる、回復封じだ」

 

「チ……それしかないか」

 

 ナイトが指を振るい、その先にあるランダムの運命をチャンピオンの矜持で握り潰し、捻じ曲げて欲しい結果を引きずり出す。指示通りに回復封じが発動し、イベルタルの広域ドレイン能力が封じ込められ―――ない。その勢いは一気に弱まったが、完全な停止とはならない。体から少しずつ力が抜けて行く感覚と共に、まだ翼のみを出現させるイベルタルを見上げていた。そのサイズは目測ではあるが、40m近くはある様に見える。

 

『―――オニキス! そっちはどうした!?』

 

 ポケモンマルチナビからダイゴの声が聞こえて来る。腰にぶら下がっているマルチナビに声を返す。

 

「伝説・イベルタルだ―――死んでもこいつはここで止める。俺が死んだら後は頼んだ」

 

『……解った、任せろ』

 

「っつーわけだ。頼んだぜ」

 

 腰からボールベルトを抜いて、ボールが付いたままの状態でそれをナイトへと放り投げる。それを受け取ったナイトが頷き、倒れているアオギリを片腕で拾い上げる様に回収し、即座に人間には出せないポケモンの速度で急速に離脱する。そうやって残されたのは自分と、スティングだけだ。オボンのみを取り出してそれを齧りつつ、片手でかいふくのくすりを使ってスティングも回復しておき、ありったけのプラスパワー、スピーダーなどのドーピングアイテムを投入して行く。普段は使わないのだが、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

「ふぅ―――捨て駒になってもらうぞスティング」

 

「―――ヴ、ヴ、ヴ―――」

 

 スティングの羽音が返答になってくる、それはまるで気にするな、と言うかのようだった。

 

 伝説のポケモンイベルタル―――はかいポケモン。それは純粋な破壊を司るポケモンであり、ドレイン、石化、破壊、飛行、巨体、とまるでその為だけに生み出されたかのようなクソの様なポケモンだ。寿命を迎えた時、あらゆる命を奪って繭になり、新生するというまた凄まじいクソっぷりを誇る事がイベルタルの害悪さを加速させる。伝説のポケモンの一匹であるが故に、その戦闘力はざっと見積もってホウオウ、ルギア、ギラティナ―――自分が戦い、そして倒してきた伝説たちと同格なのだろうとは思う。

 

 ただ彼女達とイベルタルで全く違うのは()()()()()()()()()()()()()()()という点にある。

 

 ホウオウは無限の命を持っている。

 

 ルギアは海の守護神として君臨出来る。

 

 ギラティナは反物質と裏の世界を支配する。

 

 ギラティナを除けば直接戦闘力に直結する能力ではない。だがイベルタルはそうもいかない。イベルタルは純粋に命を壊す力を持っているのだ。まずドレインという能力。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。回復封じでドレインを弱体化させても、数がそのままドレイン数に直結するのだから、ボールに入れて持ち歩いているだけでも相手を回復させる手段となってしまう。だがそんな事よりも最悪なのが、

 

 デスウィングの存在だ。

 

 デスウィング、それはイベルタルにのみ許された破壊の奥義―――相手の命を喰らい尽しながら石化させるという徹底的に殺意しか感じさせない技だ。つまり触れるという前提で考えれば受けのポケモンはまずアウトになる。その上でキングシールドやまもるも使えない。そしてイベルタルの数十メートルの巨体を見ればデスウィングの範囲もすさまじいものを持つというのは容易に想像できる―――つまり陸で戦うポケモンは大体アウトだ。飛行しているポケモンでも大体イベルタルの巨体レベルとなってくるとアウトだろう。

 

 そうなると戦いは()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 その場合―――誰を捨てていいか、という判断をしなくてはならない。まず天賦、特異個体、変種は駄目だ彼女たちは替えが利かない。一番身近に、一緒にいるポケモン達は何よりも俺の考えと動きと知識が染み込んである―――俺が死んだ場合を想定すると俺の代わりの情報元として生存していてもらわないと困る。こうやって一つ一つ条件を出して手持ちを排除すれば、

 

 最終的に残されるのがスティングになる。原種ではない。天賦でもない。色違いじゃない。特異個体ではない。固有種でもないのだ。なんでもない、そこらへんにいるスピアー……メガスピアーに進化出来る、それだけのポケモンだ。少し相性がいいだけで、探せばもっと強いポケモンはたくさん存在する。

 

 つまり、ここで捨て駒として使い潰す事が出来る便利な存在だ。

 

「ま、欠片も死ぬつもりも負けるつもりもないんだがな、俺達は。しっかし惜しいなぁ、ダークオーラも悪タイプもなきゃあツクヨミを引っ張り出して全力で暴れさせてやったのに」

 

「えー。今から私を暴れさせてもいいんだよー?」

 

 直ぐ横、空間が割れて幼い姿のツクヨミが出現してくる。嗤ってはいるが、その眼には不安が映っているのが見える―――ギラティナという伝説のポケモンのタイプはドラゴンとゴースト。つまりダークオーラによって強化されたあくのはどうでも叩き込まれれば、伝説レベル同士の戦いであればそれが致命傷になりかねないし、それを耐えられたとしてもその後にデスウィングを喰らったりした―――なんて考えたくもない。保有している伝説のポケモンが絶望的にイベルタルと相性が悪い、というのもまた酷かった。

 

「お前を守りたいのさ」

 

「お、今の発言でちょっと濡れた」

 

「こういう時に下ネタやめろよお前……」

 

 笑い声を残しながら馬鹿(ツクヨミ)がやぶれたせかいへと戻った―――だがその馬鹿な振る舞いのおかげでいい感じに緊張は抜けた。息を吐いて心を落ち着かせて、そして上着のコートを火口の中へと脱ぎ捨てた。帽子が落ちない様にそれを片手で押さえつつ、軽く大地を蹴って、靴の調子を確かめてから空へと視線を向けた。

 

 イベルタルのその赤と黒の両翼が輪っかの端を掴み、それをへし折る様に空間を破壊し、出現する領域を広げていた。どうやらきっかけさえあれば後は道を破壊して勝手に飛び出してくるらしい。何ともはた迷惑な奴だ、ここでどうにかしないと本格的にヤバイだろう。少なくとも犠牲を出さずに勝てる様なタイプには見えない。

 

「が―――そりゃあいつもの事ですよ、っと」

 

 睨む。殺意が籠る。決戦場が展開される。未だ、完全に出現していないイベルタルの存在を決戦場の中へと飲み込み、自分が貴様の敵だ、という宣戦布告を言葉ではなくその気配と気迫と魂の全てで伝える。それに歓喜の声を零す様にイベルタルの咆哮が次元の向こう側から響いてくる。奴もまた、戦いを―――いや、破壊を求めているのかもしれない。

 

「悪と竜だったらシザクロがな……飛行混じりだと虫が等倍で若干辛いな……適応力で基本的な打点を上げれるだけいいか……クソ、もっと後に取っておきたかったんだけどな……」

 

 そう呟き、グラードンとカイオーガ用に用意した二つのマスターボールの内、一つを取り出し、それを左手で握る。口の中はぶつぶつと言葉を止める事なく呟き、常に対抗手段と攻略方法を呟きながらイベルタルから視線を外さない。流石にポケモン一体のみでの伝説のチャレンジは初めてだ。緊張しない、怖くない……そう言えば完全な嘘となってしまう。だがそれでもやる―――殺る。その為にここにいるのだ。

 

 そうだな、と呟き、

 

 スイッチを切り替える。

 

「殺るか、スティング。命、預けろ」

 

「―――」

 

 音による返答はなく、決戦場に殺意が満ちるのを返答とした。その合図と共にスティングは受けた最大限の強化と共に、弾丸の如き速度で音を砕き、イベルタルへと一直線に向かって行った。反応する様に闘争心を刺激する破壊の咆哮が空間を完全に破壊し、次元の裂け目からイベルタルが姿を見せた。一瞬で向ってくるメガスピアーを、スティングを敵だと判断し、その身にダークオーラを纏い始める。

 

「お前は」

 

伝 説 死 す べ し

 

「ここで―――死ね」

 

 殺意が矛に乗った。絶対殺害の意志がスティングの限界を超えてその体を突き動かす。あらゆる命を破壊する存在にスティングの怒りが限界を超えてキレた。今まで奪ってきた命に対する復讐と抹殺を誓った。

 

ぶ っ 殺 す

 

 あらゆる理不尽を伝説殺しが踏み潰しながらスティングに最善の可能性を示す。必殺のシザークロスが的確に悪タイプのみを打ち貫いた。効果が抜群の一撃に強制的な怯みをイベルタルの体に刻み込んだ。

 

ぶ っ 殺 す

 

 怯んだ軟弱者に死を乗せた蜂の針が的確に急所と死点を穿って貫いた。一撃必殺の一撃がイベルタルの生命を蹂躙する―――伝説のオーラが一撃必殺を無効化し、その命を最大の状態へと吸い上げながら一瞬で回復させた。

 

P E N A L T Y !

 

「観客に手を出すとはいい度胸だな、テメェ」

 

 禁忌に触れた愚か者を粛正する為の力がスティングに与えられる。復讐を誓った必殺の一撃がデタラメな軌道から放たれ、イベルタルから回避の概念を奪い必中する。その脳髄に恐怖と怯みを叩き込んで一撃を二連撃へと昇華させる。

 

早 く 死 ね

 

「ほんと、どうにもならねぇなぁ……!」

 

 ペナルティ効果による一撃必殺が付与されたシザークロスが連撃され、イベルタルが次元の裂け目を押し退ける様に落下するのが見える。しかし、その体はまだまだダメージを十分に負っているようには見えない。となると必殺系統そのものが意味がない、と捉えた方がいいのかもしれない。ふぅ、と息を吐きながら一切警戒も思考も緩めず、落下しながらも歪んだ笑みを浮かべるイベルタルを睨んだ。

 

 ―――動かれたら死ぬ。

 

 それだけは直感的に理解できた。故に―――イベルタルを行動させずにこのまま、死ぬまで封殺し続ける。

 

「さあ、始めようか。ポケモンバトルを……!」

 

 それでも笑ってしまう、楽しく思ってしまうポケモントレーナーのサガを、どうか許して欲しいとエヴァに祈りながら、

 

 バトルを始めた。




 殺意の波動のオニキスさんと殺意の波動のスティングさん。二人は殺意キュア。お前はぶっ殺す。お前もぶっ殺す。そしてぶっ殺してからぶっ殺して、更にぶっ殺す。とりあえずぶっ殺す。

 そんな感じの脳内。という訳でイベルタルの殺意を君達も感じてほしい。攻撃を一撃でも喰らったら全滅即死なオワタ式、始まります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。