俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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102番道路

 ―――102番道路。

 

 コトキタウンとトウカシティをつなぐ、短い道路がある。この102番道路、というかトウカシティ、コトキタウン、ミシロタウン周辺は比較的に”ポケモンが弱い”。それはこの地方において、ポケモンの天敵である人間が、トレーナーが特にその生態系にはかかわらず、ある程度の距離を置きつつ共存をしているからだ。オダマキ博士からすればポケモンの生態研究をする為には理想的な環境だろう、なにせ自分の実家の様に人工的に作りだした環境ではないのだから。まぁ、そんな102番道路だが、ポケモンが弱いため、

 

 俺やナチュラルが生身で襲われても撃退できる、という事実があるのだ。

 

 実際、俺自身に関しては銃やナイフ、手榴弾とかを使う必要はあるが、場合によっては”レベル40”までは安定して狩れるし、伝説の加護をフル稼働すれば50レベルを殺せるところまでは行ける。その為、ある程度は安全な場所でもある。なおナチュラルに関しては野性のポケモンに対する問答無用のカリスマがあるので、武器とかは必要ない。

 

 今、102番道路にいる。

 

 オダマキと出会ってから一晩が経過し、トウカシティへと向かう道中。

 

「―――さて」

 

 オダマキからもらったモンスターボールを片手に握り、左手にバトルスキャナーを持つ。これはポケモン図鑑の劣化コピー品だ。近年のポケモントレーナーの育成用補助具の一つであり、ポケモンの能力をある程度データ的に解析をその場で行う事の出来る道具だ。無論、公式戦等での相手に対する解析行動はポケモンの能力でもない限り禁止である為、バトルスキャナーの使用は禁止されている。

 

 バトルでは使えないが、新しいポケモンの確認とかには便利な道具だ。肩の上のダビデがいるのを確認しつつ、視線をナチュラルへと向ける。

 

「んじゃ、新しく入ってきたポケモンをこれから繰りだして色々と確認を行うけど、”未解析言語”を喋る場合があるから、それに備えるのを頼む。ピカチュウの言語だったら解析済みで俺も理解できるけど、特異個体だって言われてるんだ、もしかしたら新しい言語を口にしてくる場合もある」

 

「その時に話すのは僕、って事だね。解っているよ」

 

 問題児である様なら、ダビデがその瞬間に制圧してくれるだろう。そう思いつつ、前方、空いている場所へとボールを向け、開閉ボタンを押してそこからポケモンを繰り出す。赤い閃光が白い光を生み、それがポケモンの形を生み出して行く。まず最初に生み出されたのは、

 

 ―――人の形だった。

 

「!?」

 

 黄色く、筋肉の盛り上がった肉体―――。

 

「ふぁ!?」

 

 つぶらな瞳に特徴的な耳、

 

「……え、えー……」

 

 まるで鍛えられた戦士の様な屈強なその姿はパンツ一枚であり、ビルドアップするかのようにポーズを決める黄色いポケモン―――ピカチュウの頭にゴーリキーの体という凄まじい姿をした、ポケモン? な存在がボールから放たれた。見事なビルドアップを決めて筋肉をアピールするピカチュウはそのままサムズアップを向け、

 

「ピ゛カ゛チ゛ュ゛ウ゛」

 

 物凄く野太い声でピカチュウと鳴いた。

 

 でも泣きたいのはこっちだった。

 

「―――」

 

「……」

 

「ピ゛カ゛チ゛ュ゛ウ゛ゥゥゥ、アァァァ……」

 

 無言で視線をポケモンというかバケモンから外し、そしてバトルスキャナーをバケモンへと向ける。ボタンを押す事によってバトルスキャナーがバケモンの解析を始め、そして数秒間、ポーズを変えて筋肉を見せびらかすバケモンを眺め、バトルスキャナーが解析を完了させる。

 

 名前、ゴリチュウ。性別、メス。特性、ノーガード。種族値は物理系が優秀。たぶん原生種。バトルスキャナーに”たぶん”とか表示されるのは初めて見た。

 

「メスかよぉぉぉ―――!!」

 

 そう叫んだ瞬間ゴリチュウが驚きながら両腕で胸を隠すように動く。

 

「ピ゛ッカ゛ァ゛」

 

「隠すのが遅いんだよ! さっきまでお前ビルドアップしてたじゃねーか! クソが! 開き直ってサムズアップ向けるんじゃねーよ!」

 

「ゴリィ……?」

 

「何だよその言ってる事が解りませんって表情は! しかもさりげなく鳴き声変えてるんじゃねぇよ! オダマキィ。オダマキィィィ! オダマキィィィィ!!! てめぇ、こいつ押し付けやがったなぁぁ―――!!」

 

 102番道路に絶叫が響く。隠れていたポケモン達が殺気にビクっと震えるが、ゴリチュウは恥ずかしそうに頭の裏を掻く。何でこの奇怪な生物は妙に、こう、仕草が、というか動きが感情豊かというか色々アレなのだろうか。切らした息を何とか整えつつ、頭の中を軽く整理し、すぐさま落ち着きを取り戻す。アレだ、最近ツクヨミと逢ってないのが悪い。最近、自分がボケを引き受けてばっかり、ボケを喰らう所がなかったから、咄嗟にツッコミに回ってしまったのだ。片手で頭を押さえながら、ナチュラルへと視線を向ける。

 

「やあ、ナチュラルくん。後は頼んだ」

 

「ふぅ、見た目でポケモンを判断しては駄目だと僕は思うんだけどね」

 

 ナチュラルがそう言って、気負う事無くゴリチュウへと近づいて行く。ナチュラルからすればポケモンの姿形は関係ない、全てのポケモンが彼の”トモダチ”なのだ。だからナチュラルは何時もの様にポケモンへと、ゴリチュウへと近づく。笑顔を浮かべ、

 

「やあ、僕はナチュラルって言うんだ。君の事をもっと知りたいんだ、少し話さないかな?」

 

「うるせぇ、引っ込んでろ。もっとプロテイン飲めよ肉無し」

 

「!?」

 

「ゴリチュウッ!」

 

 取り繕ったかの様なゴリチュウの鳴き声に、ナチュラルが完全にフリーズする。そうか、そうだな、ここまで理不尽な経験、中々できるものじゃないものな。今の内に経験しておけば後に備えて耐性を作れる―――頑張れナチュラル、諦めるなナチュラル、君のカリスマだったら未来を掴めるさ、たぶん。

 

「うーし……技幅はそこそこあるけど内容がなぁ……。お、ボルテッカーを最初から覚えているのはいいな、物理系統だからいい感じだし。クロスボンバー、クロスチョップ、メロメロ、ビルドアップ、じごくぐるま……空を飛ぶと波乗りが使えると出ていますが、これはどういう事でしょうか」

 

 最後の言葉をゴリチュウへと向けると、ゴリチュウが柔軟体操を始め、スクワットへと移行し、ナチュラルから数歩離れると、助走を付けて一気に跳躍し、そして大きく腕を広げながら羽ばたく様に腕を動かし―――数秒後、落下しながら踵落としを繰り出した。

 

 その光景をナチュラルと共に両手で顔を覆って見るのを止める。現実逃避したかった。だけどできない。視線を持ち上げればやり切った表情のゴリチュウが存在している。駄目だこいつ、完全に俺の手を超えている。ある意味で、問題児という分野で今まで扱ってきたポケモンを数倍のレベルでぶっちぎっている。ここまでカオスの権化とも表現できるポケモンと出会ったのは初めてかもしれない。

 

「なみのり―――いや、いい。たぶん精神衛生上見ない方が良い。じゃあとりあえず、ボルテッカーを見せてくれ」

 

「ピ……ゴリィ!」

 

「取り繕うのが面倒になって来たなお前!」

 

 完全にフリーズどころか白目をむいているナチュラルを引きずって避難させると、ゴリチュウが近くの木へと視線を向ける。右腕を天へと向けると、そこに雷が落ち、右腕が電気を纏ってスパークし始める。そこからクラウチングスタートに構えたゴリチュウはロケットの様に体を射出し、

 

「ゴリテッカァァァァ―――!」

 

 そのまま稲妻を纏ったラリアットを木に叩きつけ、真っ二つに叩き折った。倒れてくる木を背後に、良い汗をかいた、と言わんばかりにゴリチュウが額を拭いながらサムズアップを向けてくる。さわやかに決めようとしているところが悪いが、お前が何をしてもさわやかに見える事はねぇから。しかもゴリテッカーとはなんだ。ボルテッカーじゃないのか。バトルスキャナーを確認したらボルテッカーがゴリテッカーに変化していた。もうやだこいつ。

 

 過去最大の問題児認定。

 

「……まぁ、俺のポケモンになった以上、手放すことはしないし、しっかりと育成するから、そこらへんはしっかりと従ってくれよ、ゴリチュウ。つかお前にもニックネームつけなきゃな……。とりあえず、何か適当に良さそうな名前を見繕っておくわ。おーい、ナチュラル、ナチュラルくんやーい、おっきろー」

 

 軽くナチュラルの頬を叩くと、放心していたナチュラルが現実に戻ってくる様に復帰して来る。

 

「う、うん。うん、ちょっと呆けていたみたいだ。僕らしくもない」

 

「おう、トレーナーに迷惑かけてんじゃねーぞ貧弱王子」

 

 ゴリチュウの口から放たれた言葉に即座にゴリチュウへとナチュラルと合わせて視線を向けるが、ゴリチュウは筋肉を強調する様なポーズを決め、

 

「ゴリチュウゥッ!」

 

「ごめん、僕、人生で初めてトモダチになれないポケモンと出会ってしまったかもしれない。この子とだけはまともに話しあえない気がする」

 

 凄まじい悲しみとショックと敗北感をナチュラルが感じている中で、ゴリチュウへと視線を向け、良し、と決断する。

 

「お前の名前はピカネキ! ピカチュウである事を強調する名前だな! そしてこれからのバトル、積極的にお前をバトルに出して”ゴリチュウテロ”を発生させてやる! オダマキ、俺は忘れんからな、この仕打ちを決して忘れはしないからな!!」

 

 その言葉を聞いたゴリチュウ―――ピカネキが気合をいれる様にポージングを始め、やる気を見せる。

 

 まぁ、このゴリチュウとかいうピカチュウの特異個体、能力自体は悪くはないと思う。姿を一旦忘れてしまえば、ライチュウを物理特化型にしたような種族値を保有している。そこまで防御面が高い訳ではない。だがピカチュウという種族をベースにしているからか、それなりに高い素早さを保有し、ノーガードから様々な低命中技を必中させられる強みがある。その上、攻撃力がずば抜けて高い。多くの格闘、ノーマルタイプ技に適性を保有しているのは見れば解る事だ。それにまだ、才能の領域を多く残しているのを見ると、成長性、或いは将来性に多くが見込める。それにボルテッカーから変質したこのゴリテッカー、性能が面白い。ノーガードと組み合わせる事前提でゴリチュウが編み出した技かもしれない。

 

 つまり育成次第では面白いポケモンに育てる事が出来る、という事だ。それにここからまだ進化する可能性だって十分に残されているのだ。見た目と性格の事を抜きにすれば、育成してみるポケモンとしてはかなり面白い分類にジャンルできるのかもしれない。

 

「……うっし、ピカネキのレベルはまだ二十程度だし、軽くクセやコツを把握する為に、野生のポケモンを引き寄せて戦うとするか。センリ戦には間に合わないけど、カナズミジムだったら間違いなくある程度のレベリングを完了させる事が出来るし、そこでデビューさせるとするか」

 

 ピカネキの育成を考えると、ちょっとだけ楽しくなってくる。最近はバトル三昧だったし、変なポケモンを育成するのも育成家としては楽しいのだ。

 

 ともあれ、

 

「まずはトウカだな」

 

 ピカネキとナチュラルを引き連れながら、トウカシティへと続く102番道路―――野生のポケモンにおびえられながら進んで行く。




 ゴリテッカー/180/40/電/反動ダメ

 大体みんなが予想してた通りのゴリチュウ。オリポケ?改ポケ?勢に関してはどこまでが使用していいのかのガイドラインが解らない。一応アルシリ、ベガまではクリアしているのよね(´・ω・`)

 性能的にゴンさん級という訳じゃないんだ

 キャラのヤバさ的部分で総合的にゴンさん級なんや

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