俺がポケモンマスター   作:てんぞー

57 / 72
チャンピオンという生き物

「―――コメットパンチ」

 

 たった一つ、シンプルな命令を繰り出した。コメットパンチ。それ以上の言葉は必要としなかった。その言葉と共にその巨体に似合わない素早い動きでゴルカイザーが拳を後ろへと引き、地面をえぐる様にアンダーブロウをアッパーを放つような、横に倒れそうな姿勢で放ってくる。その速度は凄まじく、マッハパンチ、或いはバレットパンチを思わせる様な、そんな凄まじい速度が出ていた。一瞬で加速を得た必殺の拳は一瞬で標的へ―――一番前にいたグラエナへと衝突する。これが亜人種ではなくてよかった、とダイゴは軽く嘆息した。

 

 なぜなら次の瞬間、ぐちゃり、という音と共に拳に衝突したグラエナは殴り飛ばされる前に平べったく潰され、勢いのままミンチになり、そして衝撃が発生してミンチになった肉が液状化し、そして血さえも風だけにして殴りぬかれた。大地を大きく抉りながら放たれたコメットパンチ、ゴルカイザーの放ったその後には一切、グラエナの姿は残されていなかった。グロテスクな死体も、悲鳴も、抵抗も、そんなものは残りはしなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。ひたすら心を折る様に圧倒的力で蹂躙し、完全には皆殺しにしないオニキス。そのやり口は陰湿で、絶望的で、そして残酷だ。その根元にあるのはロケット団での活動経験と、残虐非道な教えだ。街へと飛び出せ、蹂躙しろ、絶望させろ、そしてその心を徹底的に折れ。オニキスの中にあるのは魔王と破壊神の在り方だ。その為、オニキスは最後の一人まで虐殺するという事をしない。絶対に誰かを生かし、大切なものを破壊し、蹂躙し、それを見せつけて絶対に立ち上がれないように、逃がさないように徹底して壊してゆく。それがセキエイの魔王(チャンピオン)のやり方である。

 

 だからこそ()()()()()()()()()()()()()()とも表現できる。ダイゴのやり口は簡単だ。オニキスとはまた違ったベクトルでの徹底だ。やるとしたらオール・オア・ナッシング。それしかダイゴの中には存在しない。故に始める前は警告するし、冗談も言うし、そして少しは説得しようと試みる―――それはこの先、一切容赦せず、誰一人として生きて帰さないどころか形さえ残さないというダイゴ流のサインだからだ。デボンの御曹司として育て上げられ、そしてその帝王学を身に着けたダイゴが学んだことは一つ。

 

 企業と企業の戦いは戦争だ。

 

 可能性を残してはいけない。

 

 最後の一人まで狩りつくさないと復讐される―――その可能性すら殺す。

 

 故に最後の一人まで絶対に殺しつくす。始めたら最後、そこに一切の手抜きを許さない―――絶滅させるまでは一切止めない。圧倒的力で蹂躙し、蹂躙し続け、そしていなくなるまで続ける。即ちそれがホウエンの帝王(チャンピオン)という存在になる。帝王に逃走はない。帝王に敗北はない。帝王に慈悲はない。

 

 故に殺しつくす。

 

 宣言してしまった以上、ダイゴの言葉は覆らない。

 

 ゴルカイザーの拳が超高速で振るわれる。説明する必要もなく、それはコメットパンチだ―――流星と表現される拳が一切の容赦を見せる事無く全力で集団の中へと叩き込まれる。大地をえぐる様に放たれるアンダーブローは硬いえんとつやまの大地を抉っているはずなのに、その拳は一切衰える様子を見せず、そのまま抉り上げる様に三人、形を残さずに消し飛ばした。形さえも残さず、そこにいたという存在さえ残さない圧倒的な暴力―――そこに対して抱くのは自然な恐怖だった。命令を口にして繰り出せる前に、それを先読みしたダイゴが動き出しそうなポケモンを即座に察知し、その動きに割り込むように熟達された指示でゴルカイザーを導き、

 

 大地をえぐりながら再び、ポケモンをトレーナーごと消し飛ばした。

 

「なんだ、こいつはがっ―――」

 

「おっと、しゃべる余裕なんてあるのかな?」

 

 ゴルカイザーが巻き上げた土砂の中から小石を一個掴み取り、投げ飛ばしたそれを即座に補充しながらそんな言葉を口にする。銃でなら人を一撃で殺せるが、相手が混乱し、怯えた方がポケモンの動きは鈍りやすい―――つまり死なず、生きていてくれた方が一掃しやすいのだ。それを理解し、ダイゴは殺さず、淡々と始末する為に手順を取って行く。小石を投げてトレーナーの目を潰し、怒りをあおりながら的確にゴルーグに削り殺させる。

 

「ひっ―――」

 

 それに気づいた冷静な敵は既に配置し、噴煙の中に隠れる様に身を潜ませているメタグロスがテレキネシスで逃げられないように浮かべ、そしてゴルカイザーがコメットパンチで消し飛ばす。冷静に考えることが出来る人間がいなければ、ただのハンティングゲームだ。邪魔して、煽って、そして的確に穿って殺す。逃げようとしている者はなぜ逃げられないのかが理解できず、そのまま狩り殺され、そこで乱れた足並みを集めて更にもう一度穿つ。

 

 ただそれだけの繰り返しの()()

 

 そうやって五分も経過すれば、四十を超える数がいた精鋭の団員達も、もはや数を残すのは片手で数えられる程度に減る。そこまで来ると戦意を残すものはおらず、目を瞑って祈る姿もあれば、泣きわめいて発狂しそうな姿も見える。だがすべてに共通するのは一つ―――これから、生きるという可能性を一切見出す事が出来ないという点だ。そしてそれは正しい。まだ生きているのであれば最後の一人まで終わらす―――その意思に変化はない。

 

「―――おっやぁ、ツワブキんちのダイゴくぅーん、まだ終わってないのはちょっとかっこ悪いんじゃなぁーい?」

 

 作業を続行しようとしたところで、ダイゴの耳にオニキスの声が届く。その登場にダイゴは一切振り返る事はなく、その必要性すらもなかった。心配なんて感情を抱くことはありえないし、安心する事もない。ただ淡々とした思考で、ダイゴはオニキスが作業を完了させている、という事だけを理解していた。

 

 そしてそれは正しい。オニキスが相手した団員の数はダイゴのそれよりも多いが、心が完全にへし折れたり発狂した人間は見逃している為、処理が早く終わった、それだけだった。ダイゴの様に数を0にすることを目指さない分、それだけ早く終わる―――とはいえ、それでも隣に浮かんでいるメガスピアーを含め、返り血の一つも浴びていないのはあまりにも不気味すぎる事実だろう。

 

 そうやって歩いてえんとつやまの頂上へと上がってきたオニキスがダイゴの横へと並び、

 

 ―――その並ぶ姿はもはや地獄の使者が二人並んだようにしかマグマ団やアクア団の平団員には見えなかった。

 

「今終わる所だよ」

 

「手を貸すか?」

 

「必要に見えるかい?」

 

「じゃあ俺は先に行かせて貰うぜ。好きなだけゆっくりして行けよ、その間に終わらせておくから」

 

「言ったなこいつ」

 

 そう言うとオニキスがメガスピアーを連れて団員の間を抜けて行くように歩いて更に奥へ、えんとつやまの更なる火口付近へと向かって移動する。ダイゴとオニキスの方針という意味では決定的に食い違う部分がある―――だが悲しき事か、どちらも分別のある大人であり、その基本的な思考は一緒だ。

 

 ―――自分でやったこと、選んだ事は自分の責任だ。始めたら最後まで自分でやれ。

 

 故にダイゴは生き残りを残す事を甘いとは言わないし、何かあったらそれはオニキスの不始末だというし、オニキスはダイゴのやり方を甘いとは言わない。殲滅した結果恐怖が広がらなくてまた活動が再開してもそれはダイゴの不始末だと言う。決定的な部分で相容れない所があるが、それを含めてチャンピオンという生き様に関しては、

 

 お互い、尊敬しあっている。故に交わらなくてもそれはそれで別にいい。方針が違っていても冗談を言う事は出来るし、同じ釜の飯を食うことだってできるし、ポケモンで盛り上がる事は出来るし―――勝つことだって出来る。誰よりも互いは敗北する事がない。そう信じているからこそ、互いに干渉を行わず、

 

 オニキスは誰に邪魔される事もなく、堂々と動くこともない残った団員達の間を抜けて、ボスの処へと向かって。そしてダイゴは宣言した通り、自分の責任を果たすために残りを全て始末しようとして、

 

 自身へとめがけて放たれただいもんじを、ゴルカイザーに防御させた。片手でダイゴを守る様に伸ばされた手がだいもんじを掴み、それを大地へと叩き潰す様に消し去った。僅かな炎の残滓がダイゴの髪と頬を撫でる。

 

「―――ヒョッヒョッヒョ……さすが最硬のチャンピオン、まるで効いてませんね。これちょっと勝ち目あるんだろうか……? あの、カガリさん? なぜ目を輝かせているんですか」

 

「……エクスペリメント……チャンピオン……どこまで……耐えれるか。これは……イけそう……!」

 

「こまけえこたアいいんだよ! 硬くてもぶっとばしゃあいいんだろ」

 

「相方がコレで不安になってきたわ……」

 

 褐色のアクア団の女、そして太ったマグマ団の男が状況に対してよりも一緒に行動している仲間に対してそんな感想を送っているらしい。こんな状況なのに場違いな、軽いとも取れる雰囲気に対して、安全に絶望しているわけでも楽観しているわけでもないのはダイゴに見て取れた。それ故にダイゴは一回、ふむ、と言葉を吐いてからネクタイに軽く触れて、そしてゴルカイザーをボールの中へと戻した。

 

()()()()()()()()()()()かな?」

 

「えぇ、ここで死ぬのはごめんですし、ボス達を守る方法はただ一つ―――ポケモンバトルで延々と時間を稼ぐことでしょうからね。徹底してはいますが、それでもチャンピオンだ。ポケモンバトルという枠の内ではその神聖さを穢すような事は絶対避けるでしょう」

 

「加えて僕の基本的な戦術は持久戦術だからね。ステロ、まきびし、すなあらし、多重展開しながら耐えて耐えて耐えて自滅させるのが僕の十八番だからね。良く調べているよ。無法者ならともかくトレーナーとの勝負なら僕は無駄に命を奪わない……その代わりに敗北したら捕まってもらうけどね。あ、逃げたら殺す」

 

「これだからチャンピオン(キチガイ)とかいう生き物は……」

 

 巨漢の褐色の男が首を傾げる。そしておぉ、と声を漏らす。

 

「つまり勝てばいいんだな!?」

 

「エクスペリメント……!」

 

「駄目だ、勝てる図が見えない。こいつら連れてきたの誰だ」

 

「私達だよ……」

 

 褐色の女と太った男―――アクア団幹部イズミ、そしてマグマ団幹部ホムラが揃って溜息を吐く。それに合わせる様にダイゴが先発用のポケモンが入ったモンスターボールをその手の中に握り直す。それを見て、若干ふざけていた残りの幹部の表情から笑顔が消える。それをダイゴは確認しつつ口を開いた。

 

「さて―――ルールはどうする? シングル? ダブル? トリプル? ローテーション? どれでもいい、かかってくると良い。もう二度と立ち上がる気概を奪うからね。ポケモントレーナーとして、ね」

 

「ハッハッハッハ! コイツは楽しそうな奴だ! もっと早く喧嘩を売りに行けばよかったぜ!」

 

「ウシオォ……」

 

「と、いう訳で一番乗りは俺だ!」

 

 アクア団幹部、ウシオが前へと出る。それに合わせてダイゴの目つきが鋭くなり、そして今までとは違う、バトルを戦う者としての気配に自身を変質させる。先ほどまでは戦争、ここからはバトルだ―――神聖なポケモンバトル、決闘に殺しはご法度だ。故に細心の注意を払いながら、

 

 全力で蹂躙する。

 

「さて、それじゃあポケモンバトルを始めようか。悪いけど……昼食を早めに取りたい気分なんだ今日は」

 

「じゃあさっさと終わらせて昼食にしようぜ―――お前の敗北でなア!」

 

 ダイゴ対アクア団・マグマ団合同幹部四連戦―――開始。




 鬼畜ダイゴマン。チャンピオンは大なり小なり唯我独尊な部分あるというかやっぱまともじゃねーわこいつら。

 という訳で次回、我らの主人公視点に戻ってvsマツギリ戦。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。