俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーション トレーナーズ

 正面、対峙するビクティニの姿が見える。右手にボールを握り、それを後ろへと引きながら左半身を軽く前へと押し出し、左手を真っ直ぐ伸ばし、指をビクティニへと突きつける。

 

決 戦 場 の 扉 が 開 か れ た

 

「宣告―――1:1による最終戦を公式ルールに則り宣言する」

 

 異能の発動と宣言されたルールにより、1:1の決戦が始まる。最終決戦という後のない状況にビクティニの体が燃える様に輝き始める。美しい焔の色を見せながら頭上、光が集い、そして広がって行く。それがビクティニの能力だった。勝利ポケモン―――勝利すべき、勝利するべく生まれたポケモン。勝利という存在がポケモンの形をしている存在。それ故に勝利の星は生まれ、そして、

 

絶 対 勝 利 の 運 命 が 廻 り 始 め る

 

「……こうなるか」

 

 絶対勝利の運命―――勝利という要素を突き詰めればそこにたどり着く。運命というものは酷く曖昧で、そして解り辛いものだ。だがそれが戦闘に適応されれば、知らないうちに行動が制限されていたり、考えがズレていたり、或いは避けれるはずの攻撃を咄嗟の事で避けられなかった―――そんな事さえ発生する、ある種の理不尽が起こりうる。故にポケモントレーナーの中でも特に運命干渉型と言われる能力の使い手は発覚次第、かたっぱしから監視か制限、もしくは公式大会の出場停止が言い渡されている。

 

 運命、それを左右する能力はほぼ人間にとっては未知の領域なのだ。だがこの感覚は良く知っている感覚でもある―――対峙し、そして蹂躙されたことのある感覚だ。そして今、成長し、異能という才能だけでしかどうにもならない領域を裏技とバグ技の塊で突破した結果、そのカラクリの一端が見えてきた。大丈夫、

 

 ―――世の中、絶対勝利の運命なんてものは存在しない。

 

 ―――世の中、絶対のハッピーエンドなんて存在しない。

 

 ―――世の中、都合のよい主人公なんて存在させやしない。

 

「Go―――」

 

 左半身から右半身へと力を流し、前へと押し出す様に右手からモンスターボールを投げ、その中にいるポケモンを、黒尾を一気に繰り出す。不動の先発にして魂の伴侶、その姿を正面に叩き出すのと同時にシンクロメガシンカが発動し、姿が俺との関係と絆によって新たに生み出されたポケモン、黒爪九尾へと変化する。登場し、両手足を四足獣の様につけて着地すると、その姿勢のまま九本の尾を広げた。

 

P E N A L T Y !

 

絶 対 勝 利 に 死 を

 

「ま、こんな所だろ」

 

 輝いていた勝利の星が決戦場に一瞬で満ちた殺意の刃によって穿たれ、その機能を果たす事無く一瞬の内に砕かれ、消え去った。いや、それ自体はいいのだ。問題はビクティニの能力ではない―――ビクティニの能力が()()()()という事に対してだ。改めて何故ビクティニが育成を施されていないのかが解ってしまった。

 

「少し育てただけで絶対勝利か―――そりゃあ育成されない訳だ」

 

 ビクティニを育成するという事はその役割を引き出すという事だ。レベリング、わざ取得、フィールディングの指導、そして潜在能力の覚醒。育成とは圧縮するとこういう要素が詰め込まれているのが解る。つまり、ビクティニは育成すればするほど彼女の持っている力が引き出されるという事でもあるのだ。勝利という要素を突き詰めれば絶対勝利という結果へと到達するのは自明の理だ。つまりつまりビクティニは育成の行えないポケモンだ。育成してしまうとその結果、絶対勝利へと勝負を導こうとするからだ。

 

「これで私の凄さがわかったでしょ?」

 

 ふふん、と言わんばかりにビクティニが小さな胸を張り上げている―――そのすぐ後ろにいてボールを握っているアスナのモノと、そして立ち上がった黒尾のモノと比べる少々……いや、かなり哀れに思えて来る。それを口に出したらおそらくは遠慮のない、というよりは考えないで全力のVジェネレートを放ってくるだろうから、素直に黙っておく。ただ、まぁ、ビクティニの能力の問題に関しては良く解った。

 

「こいつなら俺で何とか出来るな」

 

「嘘ォ!?」

 

「なんで本人が驚いているんですかね……あ、本当ですかオニキスさん」

 

 マジマジ、と答える。

 

「言っておくけどな、準伝説と幻と伝説の育成経験がある上に育成に関しては5段階評価で評価規格外って認定されているんだぞ、この俺様は。運命の一つ二つ程度捻じ曲げずに何がチャンピオンだ。かつての俺はあまりの運命力の無さに嘆いていた。それこそそれを補給し、管理できる女を傍におかなくてはいけないほどにな―――しかし、歳を取って経験を重ねた俺は理解した! 運命とはぶち殺して従わせるものだと! チャンピオンという絶対頂点の君臨者の前には屈辱と共に頭を垂れるのだ!!」

 

 フフフ、ハハハ―――と三段階の笑い声を響かせながら自分には不可能はない、とアピールする。それを良く解っていないような様子ではぁ、とアスナは呟く。

 

「だけどほんと不思議よね―――それ(ペナルティ)、どういう仕組みなの? ただの人間に無効化されるのって地味に経験がない事なんだけど」

 

「あん? あぁ……そうだな、幻や準伝ぐらいになれば話も通じるか。いや、俺、会ったことはないけどアルセウスの存在を知ってるし。それが大体の答えになるだろ?」

 

「……あぁ……あぁ、なるほどね。そうね、確かにそうね。そういう事なら納得もできるわ」

 

 ビクティニが成程、と納得を見せる様な表情を浮かべ―――そして此方へと向ける視線の種類が変わったような気がした。今までは興味のない、しかし一目を置けるような相手に対する、好奇の視線だった。だが今、ビクティニがこちらに対して向ける視線は明らかに観察する、興味のある対象としての視線だった。

 

 あまり悪目立ちは―――と思ったところで、既に目立つ云々は無理だったな、と自分の所業を冷静に振り返りながら思った。そもそも盛大にスポットライトを浴びる様な人生をこの数年間は歩んできたのだ―――反省とか物凄い今更じゃないか? まぁ、目立てるなら目立った方がいいだろう、

 

 楽しいし。人生、楽しんでる奴が一番偉い。

 

「―――まぁ、アスナちゃん向けにこのセキエイチャンピオン様がちょっと異能に関して講義を行ってやろう。他の場所では聞くことが出来ない貴重なきちょーな経験になるから、レコーダーやメモの準備はしっかりしておけよー。ビクティニの能力の話にもなるからなー」

 

「あ、は、はい!」

 

 焦りながらアスナがメモ帳を用意しようと四苦八苦し、それをビクティニがからかっている中、ダイゴがメタグロスの背に乗って空から降りて来るのが見えた。その姿に片手を上げて挨拶すれば、向こうも手を振り返し、此方へと降りて来る。色違いの白い原種メタグロス、その白く輝く体はいつ見ても美しいものだと思える。磨かれ、そして美しくカットされた混ざりのない鉱石―――それがダイゴのメタグロスに対して抱く感想になる。

 

「ビクティニの能力実験かな?」

 

「それは今終わったところ。これから異能に関する講義をしようかな、って」

 

「へぇ、異能初心者に関しては大きく出たね。まぁ、こういう能力に関しては数年の長がある僕が間違いがないかどうかしっかりと確認しておいてあげるね? ん? なんだいその眼は」

 

「潰したくなるなぁ、って思って見てただけだよ」

 

「なんでそんなにお互いに喧嘩腰なんですか……?」

 

 これがチャンピオン式あいさつなのだとアスナには説明しておく。まぁ、実際にダイゴとの仲は別に悪くもない。ただお互い、生まれた場所や育った環境は違っていても、今の場所と、そして立場は一緒―――そして同格なのだ。同じチャンピオン同士、友人であるが、それ以上に自分たちはライバルなのだ。完全に仲良し、とは闘争心が許さない。ともあれ、と言葉を呟く。

 

「じゃあまず最初に話を始めるなら―――異能とはなんぞや? って訳だ。はい、そこデボンコーポレーションの御曹司ツワブキ・クソゴ君」

 

「君の実家も駐車場にしてやろうか……さて、異能とは簡単に言ってしまえば通常の法則には縛られない、理解を超えた法則で動く()()()()()()()()()()()()()能力の総称、それが異能だ。基本的にトップに立つ人間はこういう異能の類を習得しているよ。まぁ、習得せずにトップに立つ人間は……ほんと珍しいね。そういう場合、異能を保有しない代わりに技能の別の部分が異常に突き抜けていたりするんだけど……まぁ、最近その一例が法則をぶち抜いたからね」

 

 中指を空へと向けておっ立てる。一体何に対して喧嘩を売っているのか、自分でさえ解らないが注目を浴びた以上、ネタに走る必要はある。……ともあれ、ダイゴがほぼ満点に近い答えを出したので、そこから話を引き継ぐ事にする。

 

「まぁ、一般的な、大体の意識としてダイゴの話で合ってるぜ―――ただ異能ってのは理解の外の法則じゃねぇ。最近、いろいろ試しながら調べてみる事で解ってきたわ。()()()()()()()()()使()()()()()()()()()なんだろうな、って」

 

 アスナ、そしてダイゴが首を傾げる―――だが俺はそれを確信していた。詳細を話すにはそもそも俺が異世界出身―――つまりは地球出身である事を口にしなくてはいけない。だからそこは適度にボカして話を進めるとして、重要なのはナツメの俺に対して異能の才能が欠片もなく、そして目覚める可能性も存在しないという発言に関してだ。ナツメの言葉はおそらく正しい、俺という人間にその可能性が発芽する事はなかった。

 

「いいか―――数千年前、ポケモンと人間はより身近だった。そして3000年前の連中はAZにゃんを筆頭として凄まじいケモナーだった。やつらはハジケていて、当時原種しかいねぇくせに子供まで作っていた始末だ。ほんと古代人の性癖には驚きだよなぁ! まぁ……性癖はどうでもいいか。問題はな、3000年前の大戦争でたくさん死んだわけだが、生き残ったのも多いって訳よ」

 

「―――つまり僕達、異能を使える人間はそのポケモンと人間のハーフ、その子孫だって言いたいのか? でも現在ポケモンと人間の間で子供が生まれないという事は確認されているよ」

 

「出来ないようにしたんだろ、神が」

 

「また適当な……」

 

 いや、これは割と真面目な話だ。3000年前、最終兵器とかいう割と頭のおかしい兵器が生み出されたのだ、それも一人の男とポケモンの愛が原因で。そしてその兵器が原因で旧文明が一掃されかかったとしたらそれはもう怒るか驚くか嘆くかキレる。俺がゲームの管理者だったら、そのバグが発生しないようにしっかりとパッチを適応して原因をつぶすだろう―――つまりは人間とポケモンの間に本当の愛が成立しないようにする。少なくとも俺が管理者であればそうするだろう。

 

 そして、たぶんそうなった。だから今、ポケモンと人間の間では子供が生まれない。

 

 ―――それにしては、なぜかポケモンが人を姿をしていたり、どこか妙なものを感じる。

 

 まぁ、そこは一旦おいておく。

 

「まぁ、つまりは簡単にこの裏付けを証明するとなると―――」

 

 ちょいちょい、と片手で黒尾を招き寄せる。此方へと近づいてきた黒尾を軽く廻し背中を此方へと向けさせ、その細い腰に右腕を回す様に抱き寄せる。後ろから黒尾を抱きしめたまま、話を続ける。

 

「俺はおそらくこの世界で絶対に覚醒だとかそういうイベントから縁遠い奴だけどな、最近、ちょっとした裏技を使う事で異能を使えるようになった。才能を広げる……って表現は使ってるけど、でもよく考えてみろよ。結局その才能ってのはどこから来てる? その元は? 俺はリソースを黒尾に寄生して分けてもらっているだけだぞ?」

 

 あぁ、とダイゴが納得した様子で頷く。

 

「つまりポケモンと繋がってリソースを得ている状況で異能が解禁されたという事実イコール異能の元がポケモンの持っているリソースにイコールしている、という事だね。明確に誰かが調べたことじゃないし、専門分野でもないから僕からは特に言える事がないなぁ……でも先祖?にポケモンが混じっていると考えたらちょっと発狂しそうな人は思い至るかなぁ」

 

「それが俺が論文に纏めようとしない理由な。あと神」

 

「だからなんですか、その神というのは」

 

「というか私の能力の話はどうしたのよ」

 

 そういえば大きく脱線していた。本来はビクティニの能力に関して話そうと思っていたのだが―――そこで腹が減るのを自覚する。それを察したのか、黒尾が腕の中から抜け出し、

 

「それではお腹が空いたようですし、昼食にどこか行きましょうか」

 

「待って、私の能力に関しては!?」

 

「ダイゴー、どっかオススメないー?」

 

「私の……」

 

「地元の人間に聞けばいいじゃないか。という訳でアスナちゃん、何か知らない?」

 

「あ、アスナ……」

 

「……実は美味しい丼屋さん知ってます」

 

「アスナァ―――!」

 

 本日のフエンタウン、晴天にて平和―――。




 ケ モ ナ ー 王 A Z に ゃ ん 。

 性癖をこじらせた結果3000年前があると思うとアルセウスも軽く自殺したくなったんじゃないかなぁ。

 ※実際はもっといい話です、ご注意ください

 昨日は読者との対戦沼にはまった結果更新が遅れましたごめんしません。しかし一期エヴァの再現パを用意して対戦してくれた読者、一期いかくパ再現で挑もうとしてくる読者、ゴンさん再現してドラゴンだけ殺しに来てる読者、読者に凄い恵まれている気がする。

 あ、日本時間6時~8時ぐらい、夜の1時前後は対戦相手纏めてツイッター彷徨ってるので、ポケマス読者はオニキスパを持ち出すてんぞーと戦って、トレーナー気分を味わおう。

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