俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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フエンジム

 ジム内の一室の中央―――テーブル、そこに今回のバトルの関係者が集まっている。先ほどまでいたホウエンリーグの監視者もバトルの様子を見て、報告を終えてリーグの方へとデータを送る為に去って行った。そうなると部屋の中に残るのは数人だった。大きなテーブルを囲むように自分、アスナ、ナチュラル、ダイゴが座っており、部屋の端の方ではツクヨミがビクティニを反復横飛びで煽っている。

 

 そしてダイゴの座っている椅子の背後ではピカネキに肩車されてトーテムポール状態なヒガナがタンバリンを叩き、ピカネキが反復横飛びでダイゴを煽っていた。お前ら煽る時は反復横飛びがデフォルトなの? タンバリンはどこから持ち出してきたの? 試合が終わってからずっとやってるけど疲れないの? ……等と質問は多くある。だがかっこいい男とはそれを一切表情に出さず、疑問を飲み込んでそれっぽいふるまいをしておくものだ―――黙って見えない事にする。

 

 ともあれ、アスナとダイゴはバトルが終わってから疲れたようにテーブルに突っ伏しており、必要な時以外はほとんど動くような素振りを見せてはいない。それもそうだ―――決戦場を展開した上での敗北は()()()()()()()()に近い。その為、敗北者であるアスナとダイゴは敗北した結果、敗北者として世界のシステム的に烙印を押され、すさまじい敗北感を叩きつけられている―――その結果が今のアスナとダイゴだ。自身の内にある敗北感で()()()()()()()()()()()()()のだから、立ち直るのには時間がかかる。

 

 ―――たぶんダイゴはもう復帰して、ただポーズだけ続けているのだろうが。

 

 バトルが終わった後、走り回って体を動かした分の体力を取り戻すためにバースナックを噛み千切りながらとりあえず、と言葉を置いた。

 

「反省会、はじめっかぁー」

 

「んじゃあ始めようか」

 

「ダイゴさん復帰早いです……」

 

「チャンピオンだからね」

 

「もはやチャンピオンって人類よりチャンピオンって生物だよね」

 

 それだけはナチュラルに言われたくはなかった。一番人間を止めているような少年にそんな事は言われたくはなかった……そんな感想を抱きながらもさて、と言葉を置く。やる事は簡単だ―――反省会だ。つまり先ほどの戦いを振り返って、何が悪かったのかを互いに確認していくのだ。今回の戦い、お互いに反省するべきところがあった。とりあえずは言いだしっぺだ―――自分から反省点を口にする。

 

「ちょっとスティング出す状況早すぎたな。ポケモンを信頼してるって聞こえはいいが、慢心や過信は禁物だわ。タイプ的に不利なのを解って選出しているんだから、変にもったいぶらず前半から馬鹿(ツクヨミ)を前に押して、奇襲要素を排してから出すべきだったわ。そこらへん、ちと勝負を焦ったかもしれねぇな、俺」

 

「というか僕を相手するペースで勝負しようとしたからでしょ」

 

 ダイゴが顔を持ち上げて言葉を挟んでくる。そしてそれは実際正しい。アスナの相手、というよりはアスナの背後のダイゴを相手にしている感じだった。そこは反省しなくてはならない―――スティングを早期に落とされたのは間違いなく自分のミスなのだから。それ以外に自分のミスを指摘するなら、

 

「全体的に手が定石すぎた事か? せっかくの練習試合なんだからもうちょい冒険して違う事に挑戦しても良かったかもしれないな。いかんせん、勝利する事を意識しすぎて勝つための手しか打たなくなっているわ。慢心や過信とは別に、もう少し心のゆとりを持っておきたいかもなぁ……」

 

「アレだけ暴れまくってそれでいてそれだけ言えるんですから凄いですよねー……」

 

 アスナが顔を持ち上げる。その口の中にはフエンせんべいが咥えられており、ちみちみかじっているのか上下に揺れている。完全に疲れているのか、まるでだれているかのようにテーブルの上に手を伸ばして倒れている。顔を持ち上げている感じ、話をするだけ精神力が回復したのだろうとは思う。それを見てダイゴも座り直し、背筋をまっすぐ伸ばしていた。

 

「それじゃあ地獄の酷評タイムだ」

 

「いえーい、ドンドンパフパフー」

 

「声が凄く軽いけど悪鬼の様な表情を浮かべてるよこの二人……」

 

 ダイゴと二人で並んでげらげらと笑い始めると、ヒガナとピカネキが煽りに飽きたのかタンバリンをしまいにどこかへと去って行く。それを見届けながらさて、と軽く声を零す。直ぐ近くにはスクリーンが設置されており、そのすぐ横に立っているシドが片手に映像の入ったデータを持っており、もう片手でスクリーンのアダプターを持っている。ロトムとしての性質の面が残っているのか、通常の機械ではありえない速度でデータをスクリーンへと接続させ、そのまま表示や編集を行う。

 

 地味に便利な奴だった。スクリーンの中でデフォルメのシドがギターを鳴らしている。

 

「じゃあまずは構成から話に入ろうか」

 

 アスナの今回の手持ちはデルタギャラドス、バシャーモ、ウインディ、キュウコン、コータス、ビクティニという構成になっている。とりあえずこの面子を列挙したところで、まず第一に言うべきことがある。ダイゴと同時に口を開き、同じ言葉を吐き出す。

 

「―――バランスが悪い」

 

 まずはその一言に尽きる。続きを喋るのはダイゴだった。

 

「基本的にバランスが悪い。致命的なのは6:6という状況で受けに回ることが出来るポケモンが一体しか存在しないという状況だね。コータスの性能は悪くはないけど、コータス一体に回転と受けの役割を集中させすぎだね。というか全体的に攻撃力過剰編成って感じなんだよね。手持ちのそれぞれの役割を確認して纏めるとアタッカーがデルタギャラドス、バシャーモ、ウインディ、サポートがキュウコンとビクティニ、そして受けがコータス一体―――この状況でコータスを落とされると一気に防御面において問題が露出する」

 

「まぁ、さっき俺と戦った時のアレだな。受けのポケモンってのは出現しなくてはいけないってタイミングが存在するからな。それに合わせてリソースをぶち込めば狙って落とすのは難しくはない。だからそれを見極めながらまもるかみきりで透かし、そして受けれる攻撃は受けて流すってのも必要な技術なんだよな」

 

 その為受けを意識するサイクル戦を6:6で行う場合、

 

「―――二体だ。現在の環境においてメインで受けを保つポケモンが一体、そしてタスキや食いしばりで攻撃を受け止める事が出来るサブでの受けに回れるポケモンがもう一体。これがサイクル戦における編成の理想となっているね。つまりアスナちゃんの場合、このキュウコンかビクティニに最低一撃、或いは二撃耐えるだけの耐久力かタスキを持たせたい所だけど……まぁ、役回りが違うよね」

 

「……はい」

 

 叱られていると思っているのか、少しだけアスナが落ち込み、俯く。実際は怒られているのではなく、指導が入っているだけなのだが、予想以上に素直な子なのかもしれない。ダイゴも困らせるつもりは―――いや、笑顔だ、俯いているアスナを見て笑顔を浮かべている。やはりただのボンボンの畜生(チャンピオン)だった。そんな事を考えながらダイゴとアスナを眺めていると、二人の横から金色の髪が姿を見せた。

 

「そんな畜生の話を聞く必要はないわアスナ。それは畜生の理論であって私達に必要な話ではないわ」

 

「そんな事言ってるから駄目なのよこの子」

 

「貴女……!」

 

 話に割り込んできたのはビクティニだった。その姿に後ろからツクヨミがダメ出しをする様に言葉を挟めば、ビクティニが怒りを見せながら視線をツクヨミへと向けた。ツクヨミへと向けられる視線は怒りに近いものを込めた睨みだった。やーん怖い、なんて事をおどけながらツクヨミは零すと逃げる様に此方の後ろ側へと回り込んでくる。その姿を追いかける様に、ビクティニの視線が此方へと向けられる。睨むような、此方を退かす様な視線、

 

 それを真正面から受け止め、

 

「あ゛ぁ゛、誰のモノにんな視線向けてやがる?」

 

「そ、そ、そそ、そんな視線を向けたってむ無駄よ! ……無駄よ! 無駄だからね!」

 

「ガチで怯えてるヨー。凄く怯えてるヨー」

 

 ナチュラルがそんな事を伝えてくれるが、ビクティニが名前の如くビクビクし始めてアスナの後ろへと逃げ込んでいるので、そんな事は言われなくても解っている。しかしこうやって対面して見ると幻のポケモン、ビクティニという者が一体どういう存在で、どういう育成を施されてきたのか、それが非常に良く解ってくる。勝利のポケモン、幻種ビクティニ、

 

 このポケモンはジムリーダーの手持ちにあるというのに、

 

 ()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「勿体ない……育成……幻……育成……もっと強く……最初から勝利の星を……これだけのポテンシャルを残しておいて育成されていないなんて育成家として許せない―――許せない……許せないなぁ……!」

 

「ひっ」

 

「うわぁ、ウチの子がガチで怯えるのは初めて見ました」

 

 ビクティニが震えながらアスナの後ろに完全に隠れた。その姿を見てツクヨミが後ろから指をさしてげらげら笑っているが、そんな事よりも自分の頭の中はビクティニの育成に関して既にいっぱいだった。

 

 ―――良し、落ち着け。

 

 自分の心を落ち着ける様に深呼吸をし、そして笑みを浮かべて視線をアスナへと向ける。

 

「いいか、アスナ―――戦術とか構築とか今はそんな事どうでもいいんだ。そんな事よりもまずは貴様のポケモンを見せろ。あぁ、俺に育成させろ、受けとか何とか言っているけど結局のところ育成すれば問題が解決するんだ―――さあ、勝利ポケモンとげらげら笑えてしまう状態から本当の勝利ポケモンを目指すために育成だ! ダイゴ帰っていいぞ!」

 

「お前がセキエイに帰れ! ビクティニ育成したいだけだろうが!!」

 

「珍しいポケモンを見かけたらとりあえず育成するだろ!!」

 

「しないよ!!」

 

「珍しい石を見つけたら拾って磨くだろ!!」

 

「……あー……」

 

「あ、ダイゴさんが納得した」

 

 ダイゴが両腕を組み、落ち着いた様子で頷きながらやるやる、と納得している。実際、石や鋼という分野に関してはダイゴは最高クラスの育成能力を発揮できる―――つまり彼の手持ちは全て彼自身が育成したものだ。高レベルのトレーナーとしては割と当たり前の話だが、

 

「―――割と真面目な話になるけど……アスナちゃん、トレーナーとしての能力はジムリーダーとして追いついてきているのは解ってるけど、ポケモンとそれがマッチするのとはまた別の話だぜ。今使っているポケモンの内、先代から受け継いでいるのはどれぐらいになる?」

 

 その言葉にアスナは言葉を止め、

 

「ウインディ、キュウコンとビクティニちゃんは……」

 

「あ、こら、人前でそんな風に呼ぶな! 呼ぶなぁー!」

 

 ぽかぽかとアスナを叩くビクティニを見て、ツクヨミが腹を抱えながらげらげらと笑っている。それを無視してダイゴがスクリーンへと視線を向けていた。その先ではスクリーン内でコンサートを開催しているちびシドの姿があった。本当に器用だな、こいつ、なんて事を思いながら、ともあれ、

 

「……そろそろネタ抜きで真面目な反省会を続行しようか」

 

「あーい」

 

 統率されたやる気のない返事が戻り、前よりも遥かに緩い空気の中、

 

 反省会は夜遅くまで続いた―――。




 伝説とか幻って威厳あるよな?(ベキバキィ

 ビクビクのビクティニちゃんとかいう謎の言霊を誰かが脳内で囁いた結果、幻のポケモンの方向性が壊れた。という訳でバトルが終わったので軽い反省会を挟んで再びイベントまでコミュですよー。

 なおピカネキとヒガナな子は外でダイゴ敗北! と書かれたポスターをフエン中に張り付けてましたとさ。


 ついき.ちびしどにんぎょーほしい。ぼたんをおすとほろびのうたがながれる。ふぁーぶるすこ。

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