俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsアスナ C

「―――5:4でリード! このまま押しつぶす! 戻れツクヨミ!」

 

「勝利の星が上がった今がチャンスだ―――!」

 

 ツクヨミがボールの中へと戻って行くのと同時にアスナがボールを繰り出してくる。勝利の星―――勝利のポケモン、元祖Vジェネレートのポケモン、ビクティニ。それがアスナの手持ちの中にいる。幻のポケモンである以上、その戦闘能力は通常のポケモンを凌駕している筈だ。

 

 もし、ポケモンの才能をVだけではなく振れる努力値で表現できるとすれば、

 

 伝説や幻のポケモンは1ステータスに対して500、1000と振る事が出来る―――。

 

 思考を素早く流しながら黒尾を繰り出した。それに対して相手が繰り出してきたのはメガバシャーモだった。その登場と共に決戦場に浮かぶ勝利の星が輝きだした。ビクティニの登場ではない、メガバシャーモの登場でだ。それはつまり、

 

「もどれ……!」

 

 迷う事無く黒尾をボールの中へと戻しながらメルトを繰り出した。直後、極限まで輝いた星がメガバシャーモの力へと還元され、最速で勝利を刻むための力を後押しした。一瞬で踏み込み、優先度を握りつぶす様に上から拳を叩き込み、メルトの体力を奪いながら一気に殴り飛ばした。メルトへと繰り出した拳の余波で爆熱が発生し、それがフィールドから漏れ出す様に広がる。そこでメルトがオボンのみを取り出して一気に飲み込むのを見た。体力のラインが一時的に危険域に突っ込んだという証だ。

 

『火力の向上―――いや、運命力の補強か? 勝利に必要な可能性を()()()()()()()()()な』

 

「ケツに火が点いたって奴でしょ?」

 

 ナイトとヒガナから補足の声がやってくる。なるほど、と納得する。勝利の星が消えない辺り、逆境か、或いは何らかの条件を満たした場合に強化が入る―――自分の決戦場のペナルティ化と同じような処理が入ると判断する。となると、真っ当に勝負していてもしょうがない。幸い、コータスは今ので潰す事に成功したのだ―――だとしたらやる事は決まっている。

 

「ここからはチャンピオンらしい蹂躙劇を見せてやる―――ヒガナ!」

 

「待ってました!」

 

 メルトがボールへと戻ってくる。そして次のポケモン―――ツクヨミを繰り出すのに合わせて謎の乱気流が発生する。風がヒガナを通してモンスターボールへと伝わり、ポケモンを前へと放つ動きを、ほとんど技の射出準備状態へと持って行く―――つまりはポケモンそのものを弾丸として放つ風の物理技、

 

ガ リ ョ ウ テ ン セ イ !

 

 乱気流を、暴風を纏ったツクヨミが放たれる。ガリョウテンセイが正面からメガバシャーモへと叩き付けられ、メガバシャーモが大きく吹き飛ぶのが見える―――抜群である筈の飛行・格闘相性はダイゴによって等倍に抑えられている。その為、メガバシャーモは吹き飛ばされてから体勢を一瞬で立て直し、立ち上がりながら勝利の星を輝かせる。その動きに合わせツクヨミをボールの中へと戻し、メルトを前へと向かって叩きだす。

 

 メガバシャーモのフレアドライブがメルトに突き刺さる―――気合いで食いしばったメルトが弾け飛ぶように戻ってくる。それに合わせてメルトをボールの中へと戻しながら、再びツクヨミの入ったボールを手に取る―――ヒガナを中心に発生した謎の乱気流が再び暴風と共にツクヨミの入ったボールに纏われる。正面、メガバシャーモへと向かってヒガナの後押しを受けて、ガリョウテンセイを放つ。風を纏って突き進むツクヨミの蹴りがバシャーモへと向かって一直線に進み、

 

「ぐ、ごめん!」

 

 アスナがメガバシャーモを素早く戻し、入れ替える様にキュウコンを繰り出した。ガリョウテンセイがキュウコンへと叩き付けられ、フィールドの反対側、壁へと叩き付けられてキュウコンが一撃で瀕死になる。赤い閃光がモンスターボールから伸び、キュウコンを戻す。それを見ていたダイゴが軽く唇を噛む。

 

「―――リソースをビクティニじゃなくてコータスに詰め込んだ理由がこれか!」

 

「鈍亀がいなきゃバシバシサイクル回せるんだ―――つまりガリョウし放題だな!」

 

「鋼っぽいチャンピオンは苦しんで死ね!」

 

「ま、まるで親の仇を見る様な目をしている……!」

 

 ちなみに()()ヒガナにそんな設定は欠片もない―――ただ単純に生物として相容れない二人組らしい。寧ろそちらの方がアウトなのでは、なんて事を頭の片隅で考えながらも、キュウコンが倒れた所でツクヨミをボールの中へと戻す。もっと居座らせろ、という抗議の声を全力で騒がせているが、そんな風に遊ばせるだけの余裕がない―――変に火傷を喰らえば火力が落ちるのだ、ガンガン廻して相手にプレッシャーを与える場面だ、ここは。

 

 アスナがボールを放ってくる。光と共にフィールドに出現するのはでんせつポケモン―――ウインディだった。此方は原生種、ポケモンの姿をしている。その出現と同時に黒尾をフィールドに繰り出し、

 

『せいしんりょく持ちっぽいな、やると一発受けるぞ』

 

「っと、欲張らない方がいいな」

 

 きつねだましを入れずそのまますてぜりふを吐かせ、決戦場に満ちる重圧を更に増しながら手元へと戻ってくる。激しく走り回っているせいか、少しずつ息が荒くなり始めるも、それもまた心地良い。そう思いながらメルトの入ったボールを繰り出す。既に一度、気合いで食いしばっている。その奇跡をもう一度期待するのはおそらく間違っている。だからメルトを繰り出し、フィールドに立った所で、黒尾を狙い、穿つ筈だったしんそくがメルトに突き刺さり、体力を完全に奪い去りながら吹き飛ばす。その吹き飛ぶ勢いのままボールの中へと戻しつつ、

 

 ―――暴風を、乱気流を纏ってツクヨミのボールを手に取った。

 

「止まらない―――!」

 

「流石としか言いようがないね―――けど耐えればサイクルは崩せる!」

 

 ツクヨミが再びガリョウテンセイを放つ。何度か放っている内に完全に慣れ切ったのか、射出の動きに合わせて完全に跳び蹴りのポーズをとり、乱気流と共に錐揉みキックを真正面、ウィンディの顔面に叩き付けて行く。等倍で、そしてヒガナが未熟である事を考慮しても威力は数値上でおそらくは140、150は出るだろう―――それにオリジンフォルムの攻撃力が合わされば、大抵そのまま超威力で押し切れる。シガナの使ったガリョウテンセイ、

 

 その本領は乱打出来るだけのスペックを持つレックウザか、或いはデチューンしてサイクル戦で上から押しつぶす様に繰り出す事にある。

 

「耐えて!」

 

 アスナの言葉にウィンディの瞳に闘志が宿り、押し切られそうな一瞬を爪をフィールドに抉りこみ、後ろへと滑る体を押さえ、そのまま一瞬で加速し、姿をブレさせる。次の瞬間、着地する前のツクヨミの真正面に、炎と共に出現し、そのまま炎と体を叩きつけて来る。片手でガードしながら後ろへと押し出される。ガードした腕、袖は破けて露出したツクヨミの肌が黒く焦げて火傷を負うが、次の瞬間にはラムのみを取り出し、それを食べて治療する。

 

「戻れ―――黒尾!」

 

 メルトが居なくなった今、受けに回れるのは疑似ダークタイプの黒尾だけとなった。だがそうやって受ける事も役割の一つだ、繰り出し、そしてウインディの巨体が踏み潰す様に迫ってくる。その動きに闇で生み出された薄暗い、半透明の衣をまとい、正面から受け止め、すてぜりふを吐きながらウインディに攻撃力の低下を強要し、ゴツゴツメットでのダメージを押し付けながらボールの中へと戻る。

 

「相当厭らしい性能に進化したな、そのキュウコンは!」

 

「羨ましいだろ?」

 

 黒尾の方向性は物凄く解りやすい。場の支配という一点にのみ特化している。初めはそれが天候という形で表現されていた。だが経験を重ね、チャンピオンの相棒として活躍し、やがてそれはフィールドという形から溢れ、そして決闘者としての在り方を追い求める為に会場―――つまりはスタジアム、戦う場を支配するというステージに上がった。敵にデバフを押し付け、観客を盛り上げて此方の力へと変える。やっている事はとてもシンプルだが、

 

 闇の衣(ダークヴェール)のおかげで高いレベルで安定する様になっている。少なくとも事故死はありえないレベルになっている。

 

「―――蹂躙しろ、ツクヨミ」

 

 再びガリョウテンセイを放つ―――サイクルが止まらない以上、ガリョウテンセイを止める方法がない。序盤でコータスを落としてしまったため、サイクルカットする方法がなくなっている上、アスナの手持ちにはステルスロックやまきびし等の交代を妨害する設置技が存在しない様に見える―――いや、手持ちのエントリーを考えれば設置は解除のみを意識しているのだろう。問題はカット役が6:6の状況で一人だけ、という事なのかもしれない。

 

 が、その考えは後だ。

 

 ツクヨミのガリョウテンセイがウインディへと叩き付けられ、その姿を今度こそ完全に吹き飛ばし、キュウコンがそうだったように反対側へと吹き飛ばし、壁に叩き付けて戦闘不能に落とす。優雅にスカートを広げず、ゆっくりと着地したツクヨミの足はしかし、軽く火傷を負っているかのように焦げていた。ウインディが蹴り飛ばされる瞬間に合わせた物だろう―――ツクヨミの火力が半減する。ゆっくりと着地するツクヨミをタイミング的に戻すことが出来ない。故に相手の一手を見る。

 

「ぐ、ここまで追い詰められちゃった、ごめん!」

 

 そう言ってアスナがボールを繰り出した。

 

 その中から登場したのは小柄な金髪の少女、Vの字のヘアアクセサリを装着しているのが特徴的な少女だった。ふわり、とドレスの裾を揺らしながら小さく溜息を吐き、視線をギラティナへと向けた。

 

「―――伝説の癖に人に使役されて恥ずかしくないの?」

 

「―――よもやここまで追い込まれてその態度とは厚顔無恥も甚だしいな」

 

「相性悪そうだなお前ら」

 

 腕を組んでビクティニがフィールドに到着するのと同時に、フィールドの頭上で輝く勝利の星が砕け散り、フィールド全体を包んだのを感じ取る。それをおそらくは成し遂げたビクティニが、笑みを浮かべながらいやしのねがいを託した。

 

「じゃあ、たっぷりと地獄を見てね」

 

 ビクティニが瀕死となり、倒れた。それに合わせてフィールドに散った勝利の星の気配が更に強くなる。

 

「それじゃ―――これで最後、行くよ……!」

 

 ビクティニがボールの中へと戻り、そして入れ替わる様にメガバシャーモが出現した。その出現と共に、あらゆる要素がメガバシャーモを勝利へと後押ししていた。あぁ、なるほど、こういうタイプか、とビクティニがどういうタイプのポケモンかを理解する。同時に凄まじいめんどくささを感じ始める。極端に説明すればナイトと同系統、しかし逆境に入れば入る程アクセルのかかるタイプだ―――つまり、ここから逆転できるタイプのポケモンと能力だ。

 

 加速し続けるメガバシャーモとその能力を考えれば―――少々ヤバイのかもしれない。

 

「あまり―――」

 

 ツクヨミを戻し―――そしてナイトを繰り出す。自身の役割をしっかりと理解しているナイトがフィールドへと降り立ち、避ける事さえもせずにスカイアッパーを喰らい、それをきあいのタスキで耐える。

 

「―――俺達を舐めない方がいい」

 

 いやしのねがいをナイトが使い、ナイトも倒れる。倒れたナイトをボールの中へと戻しながら、再び乱気流を発生させ、暴風と共にそれを前へと投げ飛ばす―――火傷とダメージから解放されたツクヨミがガリョウテンセイを発動させ、相手のいるフィールドへと乱気流と共にその体を叩き込む。

 

 勝利の星が輝き、メガバシャーモを勝利へと向かって導く。

 

 ガリョウテンセイによる暴風の爆裂と鋭い蹴りの一撃―――回避出来る出来ないの次元を超えたそれをメガバシャーモは飛び上がりながら加速し、風に()()()()()()()。そのまま、ガリョウテンセイを放った直後のツクヨミの姿へと勝利の星に導かれる様に必殺を叩き込む。

 

勝 利 か ら は(きゅうしょに) 逃 げ ら れ な い(あたった)

 

「ほうほう、これはこれは―――」

 

 ツクヨミの体が大きく吹き飛ばされ、体力が削れるのが見えた。伝説と言えども、競技用のレベルまでその能力を制限している。()()()()()()()()()()状態なのだ。当然ながら今のレベルの攻撃を喰らえば落ちる事もあり得るだろう。だけど残念ながら、

 

 この状態へと持ち込むまでに手札を残させすぎた。

 

 ツクヨミを戻す―――入れ替える様にシドを繰り出す。

 

「あぁ、グッドタイム―――死ぬまで聞いて行こうネ!」

 

 ほろびのメロディがフィールドに鳴り響く。死のカウントダウンがメガバシャーモに刻まれる。それでこの先の運命を察したアスナが小さくあっ、と声を零し、そして急いでメガバシャーモへと指示を繰り出した。しかし状況は既に決まっている。

 

 スカイアッパーがシドに突き刺さり、シドが倒れる。

 

 カウントが刻まれる。

 

 黒尾が出現する。きつねだましで怯ませる。

 

 カウントが刻まれる。

 

 勝利の星が輝いて後押しをする一撃を叩き込み―――タイプ差で耐える。

 

 カウントが削れる。

 

 メガバシャーモの拳が闇の衣を貫通して黒尾を殴り飛ばし、体力を完全に奪う。しかしその表情から笑みは消えず、その姿と入れ替わる様にツクヨミが歩いて登場する。

 

「それでは良い敗北を―――」

 

 守った。そして同時にメガバシャーモのカウントが0になる。滅びの運命に直面したメガバシャーモはその体力を全て奪われ、そして滅びる。敗北者が決まったことによって会場の熱狂が最高潮へと盛り上がる。決戦場の扉は閉まり、

 

 そして、

 

アスナとダイゴ は めのまえが まっくらに なった!




 今では中々聞かないめのまえがまっくらになった! まぁ、ポケセンへとダッシュする主人公も少なくなったよね……。学習装置が序盤から手に入るのが全ての元凶なんや……。

てきとーにしょーかい
ビクティニ
 元祖Vジェネ「ワイの出番は」。そんなものはなかった。ナイトと同じボールからサポするタイプ。種族値全部100とか使いやすいように見えて実は器用貧乏という悲しい現実。これに限ったことじゃないけど書いている人が種族値的に個性がヤバイとか発言していてシンオウの三匹も同じタイプになる可能性を秘めている。

シド
 反則ではアリマセーン。なおチャンピオンらしく戦えよと言われがちではあるが普段から手段を択ばない事で有名すぎるのでそもそも罵倒の言葉が切れていた。なおもっと死ぬまで聞かせたいらしく、登場回数に不満だったらしい。

ヒガナさん
 見たかよあのイケメンのボンボン、敗北してやがるぜ。ざまぁ。

メガバシャ
 勝利モード入ると必中しながら加速しただけ回避し始めるので命中100を普通に回避し始めるとかいうけしからん存在。クリ率も逆境であればあるほど上がるらしく、あとがない状態だとほぼ確実だとか。だけど死のゲリラライブからは逃げられなかった。

ヒガナさん
 名前は出さないけどイケメンのボンボンクッソざまぁ。

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