俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsアスナ B

『―――ダメージレースはこっちが有利だ! このまま押し込め! 後押しは俺がやる!』

 

「ツクヨミ!」

 

 ナイトの後押しがボールの内側から響き、ツクヨミの背中を押す。ギャラドスに追撃を叩き込む為に前へと踏み出す指示を受けたツクヨミの動きはその一瞬で加速し、威力が一時的に倍加する。攻撃に一度成功している為、フォルムチェンジの条件を満たしたツクヨミの姿が子供の姿から大人の姿へ―――オリジンフォルム、もっと攻撃力に勝った姿へと変わる。一気に接近し、そのドラゴンクローが突き刺さる手前、

 

「もどれ!」

 

 アスナの素早いボール捌きによって一瞬でデルタギャラドスがボールの中へと戻され、それと入れ替わる様に亀の甲羅が―――完全に体を甲羅の中へと隠したコータスの姿が出現した。デルタギャラドスと入れ替わる様に出現したコータスは甲羅の状態で回転しながらツクヨミのドラゴンクローに衝突し、その回転を加速させながら設置されたトリップワイヤーを破壊、そのままボールの中へと戻って行く。

 

「―――硬いッ! が、それもまた良かろう! 蹂躙する楽しみが増えるというものだ……!」

 

「うーん、この魔王チックな感じ。なんで普段から保てないんだこいつ」

 

 コータスがボールの中へと戻り、ツクヨミが次の手に備えて大きくバックステップを取る。それに合わせる様に此方も追走し、一拍遅れてツクヨミの背後へと回る。戦闘が行えるという状況に血を滾らせ、熱狂させ、そして伝説の畏怖によって会場そのものを盛り上げている。伝説ここにありという事が更に熱狂を刺激し、再び会場に殺気を充満させて行く。

 

「等倍で4……いや、5発か。ダイゴの奴、澄ました顔をして統率してやがるな」

 

『この様子だと()()()()を使ってそうだな』

 

 ダイゴの十八番、或いは異能、統率によって相性を掌握する―――ダイゴは自身のポケモンに対して発生する抜群効果を半減させる事が出来る―――つまり、抜群状態を実質等倍に持ち込むことが出来る。その上で鋼タイプという凄まじく堅牢な防御力を誇る統一パーティーを組んでいる。その為、ダイゴの通り名は最硬のチャンピオンとも呼ばれている……それはアスナのサポートに回っても部分的に発揮しているらしい。

 

 あのクソ野郎、何時か絶対に泣かす。

 

 そんな事を考えている間もバトルを続行される―――思考を加速でもしない限りは長考が出来ない。

 

「行け!」

 

 アスナが繰り出したのはキュウコンだった。此方は亜人種―――見慣れた姿だが細部は違うし、顔立ちも違う。何よりも色違いではない、白いキュウコンだ。登場するのと同時にフィールド全体を熱い日差しが襲い掛かり、一気に温度を上昇させる。ツクヨミが攻撃を叩き込むためにフィールドに影を生み出してそれに潜り込み、一直線にキュウコンへと向かう。

 

「回します!」

 

「まぁ、そう来るよな―――」

 

 キュウコンが素早くボールの中に戻され、そして再びコータスが繰り出される。シャドーダイブがコータスを下からかち上げる様に放たれるが、空中でも回転を維持したコータスがそのまま、アスナの方へと吹き飛んで行く。走る手間が省けたと言わんばかりにアスナはコータスを待ち構え、ボールの中へと戻して行く。

 

 動きと受けを入れてカットするのが上手い。

 

『が、二度も見れば十分だ。次は合わせられる』

 

「ツクヨミ」

 

「はいはーい! あなたのツクヨミちゃんでーす!」

 

 コータスが戻るのに合わせてボールへとツクヨミを戻し、乱れている帽子の位置を再調整しながらアスナがボールを繰り出す動作に合わせ、此方も素早くポケモンを繰り出す。先行と共に再びフィールドにポケモンの姿が降臨する。フィールドを揺らす様に出現するのはデルタギャラドスの巨体だ。それに合わせる様にフィールドにシドが出現した。青い瞳を燃やす様に爛々と輝かせながらシドのシャウトとギター音が鳴り響く。滅びのメロディによって死のカウントダウンがデルタギャラドスに強制され、

 

 目に見える死の形に無作為な殺意が会場に溢れる。

 

「なんというか、君は本当に性質が悪いね」

 

「伊達や酔狂でリーグから()()のチャンプなんて言われてないのさ」

 

 死のカウントダウンの付与と同時に殺意に紛れる様に再びトリップワイヤーが設置され、攻撃を仕掛けようとするデルタギャラドスの体にギチリ、と食い込む。だがそれを無視して中指を突き立てながらシドがステージから退場する。それに合わせてメルトを繰り出す。

 

 ひでりによって強化されたフレアドライブがメルトに叩き付けられ、デルタギャラドスの体にトリップワイヤーが食い込みながら、メルトのぬめぬめの粘液によって持ち物が破壊される。攻撃を受けた反動でメルトが滑りながら跳ね返ってくる。その流れを受け入れる様に横からメルトを回収し、

 

 ボールの中で繰り出せ、と主張するポケモンを解放する。

 

 ―――ボールから解放されるのと同時にメガストーンが輝き、スティングの変貌が一瞬で完了する。

 

 死針蜂(スピアー)の本能が死の運命にある極上の獲物を嗅ぎ取った。

 

 充満する殺意を針に纏わせ急所への可能性を捻じ曲げて引き寄せようとする。

 

 死の運命を前に足掻く獲物に対して殺す為の一撃を与える為に全力を込める。

 

消 え ろ(きゅうしょにあてる)

 

 デルタギャラドスの顔面からどくづきが突き刺さる。毒々しい輝きの必殺の一撃がデルタギャラドスを穿ち、死のカウントダウンをダメージへと変貌させて体内で爆発させる。圧倒的な体格差を見せられても一切ひるむことなく放たれたそれはデルタギャラドスを大きく吹き飛ばし―――しかし倒すには至らなかった。火力は足りていた。

 

 ()()()()()()。それだけだ。

 

「悪いけどリードは―――」

 

「―――此方が貰います! 行け―――!」

 

 デルタギャラドスが炎を纏い―――フレアドライブで全身をスティングへと叩き付けて来る。元から攻撃力に全てのリソースを割いているポケモン、タイプ一致の上で弱点への攻撃となると耐えきれるレベルを余裕で越えている。勢いよく弾き飛ばされたスティングが大地に叩き付けられ、転がり、瀕死となり、殺意と気力だけで立ち上がり始める。

 

 完全に立つ前にその姿をボールの中へと戻す。目の前、デルタギャラドスがフレアドライブの反動とトリップワイヤーによって刻まれて倒れる姿を見ると、これで状況は5:5、イーブンに落ち着いたようにも見える。が、実際は違う。此方のパーティーはアタッカー二人の構成に対して、アスナの構成は名前と種族値で判断するのであればアタッカー候補が3体になる。

 

 ―――つまり此方は攻撃の札を相手の攻撃の札と相打ちになる形で落としたのだ。

 

 無論、此方の攻撃札―――つまりツクヨミが落とされれば、一気に火力は下がる。

 

「ダイゴ貴様ァ!! やり口が狡いぞ!!」

 

「うるさい! ホウエンは僕の庭なんだよ! お前が勝っていいジムがあると思ってるのか!?」

 

「お前ら、絶対に、ぶち殺すわ。……ぶち殺すわ」

 

「気のせいかあの人マジギレした表情浮かべてるんですけど」

 

「大丈夫だよ、マジギレしてるだけだから」

 

 ダイゴが裏でラスボスを気取っているとはいえ、ここで未熟者のジムリーダーに敗北するなんてプライドが絶対に許しはしない―――となると本格的に頭を切り替えて本気を出すしかないだろう。とりあえず少しだけ深呼吸をして反省―――そして即座にメンタルを入れ替える。

 

「黒尾」

 

「一気に攻めるよケンオー!」

 

 黒爪九尾(黒尾)がフィールドに降り立ち、そしてそれに合わせる様に亜人種のバシャーモ―――長い白髪に赤いチューブトップと赤のホットパンツ姿のポケモンが登場し、メガストーンに反応した光に包まれる。それが砕けて登場する頃にはその姿はもっと大人びた姿へと―――メガバシャーモへと変化していた。黒尾とメガバシャーモの登場に、会場が湧き上がる。

 

 そして魅了されたような視線が黒尾へと向けられる。

 

 メガバシャーモが加速と共に動き出そうとする前に、きつねだましが優先度を奪って先行する。叩き付けられた両手にメガバシャーモが一瞬だけ怯んで動きを止める。その隙間に割り込むように黒尾が笑みを浮かべ、微笑み、そしてメロメロをメガバシャーモへと放った。

 

 性別の壁はギラティナの加護―――二律背反で突破する。

 

 心の強さは黒尾の色香が魅了し、一瞬で砕いて陥落させる。

 

 動こうとしていたメガバシャーモが完全に魅了(めろめろ)状態に陥り、何もする事無くぼうっとする様に視線を黒尾へと向けたまま動きを止める。その瞬間に一歩、踏み込むようにメガバシャーモの前へと降り立ち、その黒い尾の一つでメガバシャーモの頬を軽く撫でてからボールの中へと、メガバシャーモを魅了された状態のままにして戻ってくる。黒尾がボールの中へと帰還しても、そのメロメロとなった状態は変更しそうにない。

 

「チャンスだ―――確実に取りに行くぞ、ツクヨミ!」

 

 ツクヨミの入ったボールに生命力を混ぜ込む―――それは即ちメガシンカの法。だが発生する現象はメガシンカではない。限界を超えた進化であるメガシンカとは違う方向性、()()()()()()()()()()()()、それは、

 

B R E A K !

 

 黄金に輝いたモンスターボールから黄金の閃光と共に金色に染まったオリジンフォルムのツクヨミが放たれる。その姿に対する反応は早く、一瞬でメガバシャーモを戻したアスナがコータスを繰り出してくる。だがそれに勢いを止める事もなく、金色の残光を残しながら反物質をまとめ上げ、それを剣の形に束ねる。

 

『―――出てくる瞬間を待っていたぞ!』

 

 ナイトのエールがツクヨミの一歩を加速させる。瞬間、一瞬でコータスの懐へと踏み込んだツクヨミがはんぶっしつのつるぎを放つ。黄金の閃光がフィールドを満たし、そしてコータスをフィールドに陥没させる様に叩き込み、キラキラと燐光を残しながら反物質の剣が消滅する。また同時に、攻撃を終えた所で限界を迎え、BREAK状態が解除される。確実にコータスが倒れているのを確認してからツクヨミが後ろへと下がる。

 

「これだ、これこそ蹂躙の喜び! 湧き上がれ愚衆共よ! そして讃えよ! 伝説の輝きを!」

 

 観客が派手なパフォーマンスに湧き上がり、更に決戦場に重圧が募る。目では見えないプレッシャーがポケモン、そしてトレーナー双方に降りかかる。そうやって感じるプレッシャーは()()()()()()()()だと感じる。そう、バトルとはこうでなくてはならない。食うか食われるか。その感覚の中で勝利を模索する。強敵を前に切り札を切り終わってもまだ爪と牙で噛みついて勝利をもぎ取って行く。

 

 それがチャンピオンとの戦いというものだ。挑戦者との戦いとは常にそういうものだった。こうでなくては面白くない、興奮できない。これでこそ生きているという事を実感できるのだ。恐怖を感じる程の重圧の中で戦ってこそ、それでこそ生きていると実感できるのではないだろうか。いや、これを経験してしまったからこそそう言ってしまうのだ。つまる話、

 

 戦いたい。もっと強いやつと、もっと激しく、もっと戦いたい。その充実感が欲しい。

 

 それだけの異能なのだ。

 

「慢心するなよ。まだ5:4……バトルは中盤に入ったばかりの処だ。ここから終盤を有利に進めるためにも相手のアシストを確実に削いで行くぞ」

 

 ツクヨミをボールの中へと戻しながら左半身をやや前に倒す様に、睨むように笑みを浮かべながら視線を向ける。視線の先でアスナが少しだけ怯え、そして喝を入れ直しているのが解る―――それに対してダイゴの反応は解りやすい。

 

 ()()()()()()()()

 

 結局のところ、チャンピオンなんて生き物はやっている事は違っても根っこでは同じ―――死ぬほどポケモンとバトルが好きな腐れジャンキーなのだ。魔法の白い粉ではなくポケモンとその勝負の中毒になってしまった末期患者。

 

 追い詰められれば追い詰められるほど興奮するのだから変態ここに極まる。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()という話だ。

 

「―――中盤戦、取るぞ」

 

 ツクヨミの背中姿を見ながらそう言葉をし、コータスがボールの中へと戻るのを確認し―――勝利の星がフィールドに浮かび上がるのを見た。




 このシリーズ進めば進むほど戦闘が長くなっているような気がする(半ギレ

 という訳で序盤戦の流れ。序盤戦の目的は互いの起点作りと可能であればアタッカーの排除、中盤戦がイニシアチブの獲得で、終盤戦がガチンコという感じに進む。今回の序盤は完全に石ヲタクの描いたシナリオ通りに進んだという感じで。有名になる=情報と戦術が筒抜けになる、つまりメタ対策や動きの読みがある程度用意されているという訳でもある。ダイゴさんはそこらへん、過去のビデオを貰ってきて研究するタイプ。

 次回で終わったらいいなぁ、と思いつつOR、バトルリゾートの沼にはまりました。

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