俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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コトキタウン

「―――つまりアレだ、雨パ自体は悪くはないけど、捻りがないのが辛い。ただの雨パや砂パ、天候パってのは構成が最初の2~3匹で予想出来るんだよ。特にダブルバトルだと見せる札が一気に増えるから、その分更に見えてくる訳だ。育成次第じゃあ色々と変化を与える事も出来るけど、テンプレに従ってると、テンプレなメタ用意されるか、読まれるかで終わるからな。今回は完全に読まれたパターンで」

 

「ふむふむ」

 

「基本軸が雨パってのは問題がないんだよ。ただ問題は”雨パそのまんま”って状況よ。特性だけに頼るんじゃなくて、工夫や新たな能力を開発して行くんだよここから。雨に反応して能力が上がるとか、雨に反応して優先度が上がるとか。そうやって天候に連動する様に能力を育成して、ドンドン尖らせてくんだ。一匹でアレコレ対応しようとすると広く、浅くって風になっちまうからな。だからどこまで趣味と個性をコンセプトに押し付けられるか、それを実行できるかが勝負になってくる」

 

「あ、物凄い参考になります」

 

「良し良し、まぁ、こういうポケモンの戦術構築は一年二年じゃあ構築できねぇ、四年、五年かけて漸く構想が完成するもんだ。俺だって三年前は若干力押しでぶっ飛ばした部分があるしな。重要なのは”戦術”と”育成”とバトルにおける”読み”だ。重点的に鍛えるといいぜぃ」

 

「どうもありがとうございましたぁ!」

 

「あいよ、見かけたら何時でも声をかけてくれ、バトルの相手だったら歓迎するから―――」

 

 手を振りながら、

 

 ―――103番道路の湖へと沈んで行くトレーナーの姿を眺める。

 

 というかトレーナーを運んでいたポケモンが波乗りをするのに飽きて潜り始めたせいで、トレーナーまで溺れ始めている。その光景を無視して、モビー・ディックでは大きすぎる為、ナチュラルがそのカリスマによって説得したギャラドスの背に乗って、103番道路をコトキタウンへと向かって移動する。ナチュラルと共に水没したトレーナーの姿が完全に見えなくなるまで眺める。

 

「動かないな」

 

「うん」

 

 そのままずっと後ろを見ながら先へと進んだが、結局あのトレーナーが浮かび上がる事は二度となかった。”ダイビング”でも発動させたのだと信じておこう。そう信じよう。ともあれ、視線を殺害現場から背け、前方へと向ける。予想よりもコトキタウンへの道のりは順調であり、夜にはコトキタウンに到着するかと思ったが、半分の時間で到着できそうだった。それに間違いなく貢献しているのはナチュラルによって協力してくれるようになったギャラドスの存在であり、当初は適当にハスボーを捕まえて運ばせようとでも考えていたので。10匹ぐらい捕まえればそれなりに座って移動できるスペースは出来るし。

 

 ともあれ、ギャラドスのおかげもあって移動は早く終わりそうだった。

 

「しっかしダブルバトルか―――やっぱ勝手がかなり違うな」

 

「僕からするとポケモンを戦わせてるんだからどれも一緒に見えるんだけどね」

 

「馬鹿野郎。お前、選手やってるポケモンと真面目にポケマス目指してるトレーナー全員に殴られるぞ」

 

 シングルとダブルのバトル環境は違う、かなり違うというよりは完全な別物だ。分散されたターゲット、増えたフィールド、増える攻撃回数、変わってくるアシストの仕方、変わってくるポケモンの役割―――ダブルバトルとシングルバトルでは環境が違いすぎるのだ。無論、野戦とも全く違う環境だ。ダブルバトルはシングル以上に慎重に、そして頭を使う必要な部分がある上に、同時にポケモンを二体指揮する都合上、指示タイプのトレーナーが物凄く有利なのだ。まぁ、元々指示能力はポケモンバトルに必須な項目というか能力なので、鍛えられていて当たり前なのだが、

 

 ―――三年前、俺にはそこまで高い指示能力はなかった。

 

 チャンピオンになったのはいいが、それは今からすればやや強引な戦い方だった。強く育成したポケモンでアドバンテージを捥ぎ取る。どこかで手持ちのポケモンに頼り過ぎていた戦い方だ。サザラを最後に残せば勝利してくれる……そんな考えは最後の最後でサカキが打ち砕いてくれた。だから面子を変え、環境を変え、慢心しないように、慣れない様に、指示能力を鍛えているのだ、今も。おそらく、それが自分に一番足りないものだったから。

 

「ホウエンではダブルやる回数が増えそうだなぁ……」

 

「大変そうだね」

 

「頂点とは何時だって大変なものさ、なんてな―――っと、岸が見えてきたな」

 

 ギャラドスの移動速度は風を感じ、髪が後ろへと流れて行く程度の速度だ。言ってしまえば小型のモーターボートと同じレベルの速度。本来はもっと速度が出るのだろうが、それでも背中に人間を二人乗せているという状況で湖を進んでいるのだ、あまり無茶は出来ない。それでも十分な速さはある。やっぱり旅は楽しいよなぁ、なんて事を思いながら見えてきた岸の方へと視線を向けていると、そこには一か所に集まっているポケモン達の姿が見える。灰色の姿は103番道路で比較的に良く見かけるポチエナの姿だが、なんだろう、狩りの途中なのだろうか。

 

 そんな事を思いつつ前方へと視線を向けていれば、

 

「―――ん?」

 

 人間が倒れていた。

 

 ちょっと太っていて、白衣姿の男が。ポチエナに舐められたりガジガジと甘噛みされている。どこかで見た事あるなぁ、と思ったら思い出した。

 

「オダマキ博士ぇ―――!!」

 

「え、えぇぇぇ!?」

 

 ポチエナに群がられているオダマキの死体? へと絶叫を響かせながら、オダマキへと近づく為にギャラドスを急かせる。

 

 

 

 

「―――いやぁ、フィールドワークしてたのはいいけど、お腹が空いちゃってね、それでも今やっていることを途中で切り上げるのもアレだし、終わらせてから食べに行こうと思ってたら気が付いたら何故か体が動かなくてね! あーっはっはっはっは―――」

 

「漫画ばかりの出来事じゃないんだよなぁ、お腹空いて動かなくなるのって」

 

 その経験がないのか、ナチュラルは口の端をヒクつかせているが、実際に、こうやってお腹が空きすぎて全く動けなくなるという事はあるのだ。俺も実際、一度だけ経験した事がある。その時は生死の境をさまよって、何とかポケモンセンターへと運ばれ、栄養剤を摂取しながら数日間安静する事によって何とか生き延びたのだ。あの時は本当に死ぬかと思ったものだ。まぁ、そんな訳で、

 

 コトキタウンのポケモンセンター内にある食堂でホウエン地方におけるポケモン研究の権威、オダマキ博士と和やかな食事をしていた。相当我慢していたらしく、皿に大もりになっていたチャーハンが簡単にその胃袋の中へと消えて行く。バトルしたり移動したりでそれなりに此方もお腹が空いていたが、それでもオダマキの食べる量を見ているとお腹がいっぱいになってくる。ナチュラルと横に並んでうへぇ、と表情を浮かべている。肩の上のダビデでさえ、食べる気をなくしているのだから凄いものだ。そのまま、数日分の食料を腹の中に溜めこもうとしているオダマキの姿を眺め、食べ終わるのを待つ。

 

 ―――結局、全部食べ終わるまでそれなりに待たされてしまったが、相手は良い表情を浮かべている。

 

「……さて、食べ終わったところで改めて自己紹介させてもらおうか。ホウエン地方でポケモンの研究を行っているオダマキというんだ。気軽に博士、とでもオダマキ君、でもオダマキ博士とでも呼んで欲しい。君は―――セキエイチャンプのオニキス君だね、さっきは助けてくれて本当にありがとう。いやぁ、これで妻に叱られずに済むよ」

 

「これ終わったらチクリますわ」

 

「!?」

 

 倒れたんだからそれぐらい義務だろう。オダマキが笑ってごまかそうとするが、この会話が終わった直後にミシロタウンへ連絡を入れれば問題ないだろう。少しは心配する側の気持ちを知れ―――と、思うのは自分がしてはいけない事なのだろう。どちらかというと心配をかける側の人間だし。

 

「と、ともかく、ここでセキエイのチャンピオンに出会ったのは幸運だったよ。ちょうど、知り合いのエリートトレーナーにでも頼もうと思っていた所だし、チャンピオンだったら依頼をする相手としては問題ないだろうし」

 

 オダマキの言葉に首を傾げると、オダマキが笑みを浮かべ、

 

「いや、実はね、とあるトレーナー―――というかトウカシティのトウカジム、そこに新しく就任したジムリーダーのセンリくんとはちょっとした親交が彼がジョウトにいる頃からあってね、新しくホウエンへと来たばかりで、調子を確かめる為には一戦、スパーを知らない相手と組んでみるのがいいんじゃないかと思うんだ。知らないトレーナーとの戦いが何よりもいい練習になるだろうし。という訳で、報酬はだすし、ちょっと協力できないかな?」

 

 で、どうするの、という感じの視線をナチュラルが此方へと向けてきている。トウカジムのセンリは情報として知っている―――ノーマルタイプのジムリーダーだ。元ジョウト在住で、つい最近ホウエンへと移ってきたという事は、彼の息子であるルビーがホウエンへとやってくるのもそう遠い未来ではないのだろう。となると色々と時間が足りないのかもしれない。が、それはそれとして、センリだ。この男の事は比較的に良く知っている、

 

 何せ、セキエイリーグ参加者だったからだ。それを理由にポケモン協会がスカウト、トウカジムのジムリーダーとして就任にする事になったのだ。つまり、本気になればポケモンリーグ級のトレーナーなのだ。そんなトレーナーと戦う事は良い経験になるし、修行にもなる。それにオダマキから報酬が出る事を考えると悪い話ではない。まぁ、それ以前に”最初からジムリーダーとは戦う予定だった”所もある。

 

 自分はまだまだ未熟だ。

 

 シロナ、グリーン、ワタル、レッド、カルネというチャンピオン経験者は何とか倒した経験を持っているが、それでもサカキ、アデクには敗北した所を見るとやっぱり”経験”と”読みが粗い”部分があるのだと思っている。こればかりは勉強ではどうにもならない領域だ。既に勉強で詰め込む事のできる知識は極限まで詰め終わった後で、後は勉強出来る部分もそれぞれの家やトレーナーが持つ”秘伝”と呼べる技術ぐらいだ。

 

 オニキスに残された成長の余地は全て、ポケモンバトルを通しての成長だ。だから強くなるにはバトルを繰り返すしかない。それだけがトレーナーとしての成長の方法だ。

 

「……受けるかなぁ。ホウエンのジムリーダーは一回、全抜きしておく予定だったし」

 

「お、受けてくれるかい、それは助かるよ。まぁ、チャンピオンだから裏切る事はないし、先払いで報酬は払っておくことにしようか―――」

 

 オダマキ博士が持ち歩いているバッグに手を入れる。その中から取りだされたのは一つのモンスターボールだった。それをテーブルの上に置いたオダマキは、そのモンスターボールを此方へと押すように渡してくる。

 

「その中にはピカチュウの”特異個体”が入っているよ。僕は野生のポケモンの生態研究の研究者なんだけど……流石に特異個体に関しては専門外なんだ、特異個体って群れを形成しないし、数が少なくて……だから、ここはスパっと育てられる人間に預けてしまおうと思ってね。悪くはないポケモンだと思うよ」

 

「ほー……まぁ、報酬を貰ったからにはキッチリしっかりとお仕事はするから」

 

 チャンピオンとしての名誉が存在するし。同じ格の相手以外では一切負けるつもりはない。とりあえず、オダマキからモンスターボールを受け取る。新しいポケモンを育てるのは何時だって育成家として楽しみな事なのだ。

 

「ふぅ……そろそろ家に一旦帰るべきかな」

 

「博士の家……ミシロタウンでしたっけ」

 

 うん、そうだね、とナチュラルの言葉にオダマキが頷く。比較的に研究者に対してトゲトゲしているナチュラルがオダマキに対してあまり言葉を放たないのは、オダマキの研究内容が野生のポケモンの生態調査だからだろうか。

 

「うん、ここ一週間ずっとフィールドワークしてたしね……そろそろ顔を見せて安心させておくべきかなぁ」

 

「まぁ、連絡すら入れてないのならそろそろ、って所じゃないかなぁ」

 

 その後、オダマキと適当に話をして時間を潰し、ポケモンセンターのタコ部屋に部屋を取る。

 

 カナズミシティへと向かう前に、トウカシティでちょっとした用事が出来てしまった……少しだけ、移動のペースを上げた方がいいかもしれない。

 

 そう思いつつ新しく手に入れたポケモンを明日確認しよう、そう思い、一日を終えた。




 オダマキくんからもらってポケモンが今季の”頭おかしいぞこいつ”枠です。

 別名フライゴンさん枠。

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