俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsアスナ A

 フエンタウンのフエンジムはジムリーダーが代替わりをし、若い世代へ、つまりは現在のジムリーダーであるアスナへと代替わりを果たしたばかりのジムである。幼いころからフエンタウンとえんとつやまで修行し、鍛えられている為にフエン流のポケモンバトルを学んでおり、カナズミよりは経験があると言われている。とはいえ、それでもまだ()()のは事実だ。基本的にジムリーダーとなると、ポケモンリーグ参戦級の実力者であるのが基本だが、それでもジムリーダーとして信頼がおけるようになるのは最低でも二十代のラインを超えてからだ。その為、未成年のジムリーダーに関しては定期的に強者、四天王やチャンピオンからの指導の依頼が入る事がある。

 

 ―――ここら辺、昔の犯罪記録を丸ごと協会の方にもみ消してもらっている以上、断る権利がない。

 

 その為、自分は多くのチャンピオンの中でも特に生真面目な部類に入る。あくまでも職務に対する態度で、個人としてはそうでもないのだが。

 

 ともあれ―――こうやってフィールドを挟み、アスナと相対するのはその依頼、或いは業務の一環だと言っても良い。

 

 フィールドは既に新世代型、つまりはフリーフィールド型へと改装済みであり、フエンジム全体が少し広くなったかのように拡張されている。観客席には攻撃が当たらないように少し距離が置かれており、高所となっている。そしてそれとは別にフィールドの外側にサポーターが入れる場所が設けられており、反対側、アスナの側のそこにはインカムを装着したダイゴが立っている。むろん、此方側のサポート席にも同じようにインカムを装着した人の姿が見える。

 

 ―――ヒガナだ。

 

 もう既に開幕からダイゴに中指立ててファックユーと発言しているので見ていないフリをしたいのだが、どうしても視界の端でチラチラしている。ダイゴもそれをしっかりと受け止めたうえで、流星の滝を潰して世界最大規模の駐車場をデボンコーポレーションの力で生み出すとか宣言して喧嘩を売り返しているので、あの二人は原作云々イベント云々立場云々以前に本能的に、生物として相容れる事の出来ない存在なのだと理解してしまった。ともあれ、そんなクソな二人組から視線を外し、視線を反対側のアスナへと向けた。臍を見せるスタイルの黒いシャツにジーンズ、そして燃える様に赤い髪の持ち主だ―――残念ながら面識のある相手では無い為、これが初のバトルだ。

 

「さて、改めて名乗り上げるがセキエイチャンピオンのオニキスだ。今回は調子に乗ったセキエイからの要請で君の指導を目的として対戦相手を務めさせてもらう。よろしく頼むよ」

 

「あ、アスナちゃん見てる? 聞いてる? アイツああやって澄ました顔をしているけど頭の中ではどれだけ効率的にぶち殺すかという事しか考えていない生粋のウォーモンガーだから気を付けた方がいいよ」

 

「ヒッ」

 

「ガキを怯えさせるなよチャンピオン(キチガイ)……!」

 

 これだから社会的地位と財産と顔を持った強いキチガイはいやなんだ、と吐き捨てながら、小さく笑い声を零す。ともあれ、よろしく、と声をアスナへと向ければ、少しだけおびえた様子を見せる。

 

「え、えっと……まだまだ先代には届きませんが、それでもフエンの火山と、そして温泉に囲まれて鍛えあげたこのホットな技、チャンピオンにもお見せしたいと思います!」

 

「いいぞアスナちゃ―――ん!」

 

「アスナさん頑張れ―――!」

 

「フエン商店街一同応援に来てるぞアスナちゃん―――!」

 

「あ、ども、どうもです!」

 

 観客席から飛んでくるエールにアスナが恐縮しながら返答し、その姿を見て更に観客席が盛り上がる。今回のバトルは公開練習試合の様なものだ。その為、入場料を払えば一般人でも自由に見ることが出来る。そしてこれがフエンタウンというアスナの地元で行われている以上、見ている人間は9割フエンタウンの人間―――つまりはアウェーの状態だ。こちら側の人間なんてナチュラル、そして試合に参加しないから観客席で観戦に回っている残りの手持ちぐらいになる。

 

 審判もフエンジムのジムトレーナーが行っているが、そこまで心配する必要はないだろう。

 

 ともあれ、

 

「準備はいいか?」

 

「あ、はい、此方は何時でも行けます!」

 

 アスナからの返答があったので良し、と答える。では、と言葉を口にしながら片手で帽子を押さえる。意識した途端、会場全体に緊迫した空気が流れ始め、血液が興奮で沸騰し始める。それは予兆、そして実感。戦場に立ち、そしてこれが最後だ、これこそが雌雄を決する、そういう戦いに赴くときの舞台の空気、

 

 即ち、

 

「―――決戦場への扉を開ける」

 

 異能が発動し、決戦場が開かれた。帽子を押さえていない片手、左半身を前へと突き出す。

 

「頂点に挑む者には常にその重圧と法を求められる! 互いに全てのポケモンは公開され、ルールは100フラットへと調整される」

 

「えっ、ちょっ」

 

 ルールを順守する為の、正々堂々と食い合う為の決戦を繰り広げる為の異能。それが発動するのと同時にボールベルトのポケモン達のレベルが全て強制的に100フラットで固定され、そして直ぐ近く、バトルを映す為に存在する大型スクリーンが異能によってジャックされ、そこに自分とアスナの保有する手持ちのポケモンが表示される。それは本来のリーグルールであればチャンピオンの手持ちは常に開示され、そして挑戦者の8体、9体も常に開示されるという事から発生する現象だ。

 

 故に、スクリーンに今回のバトルに参戦する全てのポケモンが表示される。

 

アスナ   オニキス

 ギャラドス  キュウコン

 バシャーモ  ヌメルゴン

 ウインディ  ブラッキー

 キュウコン  ムウマージ

 コータス   スピアー

 ビクティニ  ギラティナ

 

「え、えっ、え―――!?」

 

 何らかの奇襲を狙っていたのか、一瞬でアスナが表情を崩して慌て始め、

 

「慌てるなアスナちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ? 小細工、小技なんてものは通じない。公開されたのは能力じゃなくて名前だけだ。育成次第でコンセプトなんてものは直ぐに変わってくる。手持ちの情報を飲み込んで理解するのもバトルだ」

 

「は、はい! 落ち着きましたすいません!」

 

「良し、それでこそホウエンのジムリーダーだ」

 

 が、ダイゴの声が一瞬でアスナに落ち着きを取り戻させた。普段はちゃらんぽらん、というか遊んでばっかりいるのが印象だが、腐ってもダイゴはホウエン地方を代表する()()()()()()()()()()()()なのだ。最強として君臨して漸くチャンピオンを名乗ることが出来る。猪武者にチャンピオンを務める事は出来ない―――アスナの未熟な精神面をダイゴが即座に持ち直させたことから、其方方面に関しては期待しない方が良い。故にやる事はいつも通り、

 

頂点(チャンピオン)として常に先を歩む―――黒尾!」

 

 先手を取る。アスナに短い時間だが先発を入れ替えるチャンスを与える。真っ直ぐ此方のボールから放たれた黒尾はフィールドへと黒いキュウコンの亜人種姿で登場し、光に包まれる。自分の胸が熱く燃え上がるのを感じ、メガストーンを必要としない、魂の、意識のシンクロを使用したメガシンカを果たす。その姿は髪を長く伸ばした、艶やかな九尾の毒婦へと姿を変えた。登場するだけで視線を観客から奪い、アスナ応援ムードだった会場全体を一瞬で飲み込む。また同時に、闇を衣の様に纏う。

 

「さて、先手を取ってあげたんですから、どうぞご挑戦を―――」

 

「アスナちゃん!」

 

「解っています―――未熟だけど舐められたくはありません! 行け、ラーヴァ!」

 

 アスナのボールから朱い閃光が放たれ―――そしてフィールドが大きく揺れながら20mを超える赤い巨体が降臨する。輝きを放つ姿は色違いとしての証であり、赤いうろこに包まれたギャラドスは一回大地に当たって跳ねてから浮かび上がり、その視線を鋭く、自分の十分の一程度しか大きさのない黒尾へと向けた。

 

「―――正規の先発登用じゃないね! たぶんこちらに対応して切り替えてきた。私の見立てだとデルタ炎の炎・飛行! どうでもいいけどギャラドスって見た目が妙にドラゴンっぽいよね。私も初見でドラポケだと思った」

 

 インカムを通してヒガナの鋭い解析が飛んでくる。自分もヒガナの言葉に頷きながら、即座にフィールドで視界を確保できるように走り出す。おそらくアスナの本来の先発はキュウコン―――ひでりで始動して炎タイプのポケモンの火力と弱点を同時にカバーするもっとも基本的だが強力な戦術で始めるつもりだったはずだ。それをデルタギャラドスに変則登用するというのは()()()()()()()()()()と判断したからだろう。

 

 ―――ダイゴから闇の衣に関して入れ知恵されたな。

 

 そう判断しながらデルタギャラドスと黒尾の姿がクリアに見える場所を確保し、いつもと変わらない速度で切り込むように指示を繰り出す。決戦の空気が流れており、観客を一瞬で黒尾は魅了した。きつねだまし―――その普通の動作だけでも観客は彼女に視線を釘付けにし、そして会場全体のテンションが、熱狂が上がって行く。それに呼応する様に決戦場に敵を倒せ、バトルを進めろ、早く敵を滅ぼせという観客たちの剥き出しで無造作な殺意が募って行く。

 

「ともあれ、やって行く事は変わらない―――有利を作って刺し殺していく、それだけだ」

 

 ぽん、と優しいようで鋭いきつねだましが赤い鱗のデルタギャラドスに突き刺さり、その動きが一瞬だけ怯む。その事に激怒して攻撃力が上がって行くのが解るが、それに気にする事無くすてぜりふを吐きながら尻尾を巻き、闇の衣に紛れて黒尾がボールの中へと戻ってくる。ボールを滑らせれば、飛び込んでくるように次のボールが手の中へと入ってくる。それをそのまま、外へと向かって叩きだす。

 

「シド!」

 

 ボールが開かれ、その中から閃光と共に、

 

 ―――V型ギターが投げ飛ばされ、デルタギャラドスの額にザクリ、と音を立てて突き刺さる。

 

「Fu―――ck!」

 

 ギャラドスの額に突き刺さったギターからほろびのメロディが鳴り響き、死のカウント4が付与される。両手の中指をギャラドスへと向けて突き刺し、そのままギャラドスに対して挑発をシドが続行する。ブチり、とギャラドスの中でなにかがキレるような音が聞こえる。しかし手を伸ばし、ポルターガイストで突き刺さったギターを回収しながら充満したばかりの殺意を利用し、ギターの弦をトリップワイヤーの様に張った。

 

「ア―――ンド、サヨナラ! 早く地獄に落ちろヨ! グッドバイ!」

 

 最後まで中指をデルタギャラドスへと向けたまま、シドがボールの中へと戻った。ボールが転がり、手の中に次のボールが飛び込んでくる。自分の手を伸ばす必要はない。繰り出そうと手を動かせば、それに自然についてくるようにボールが手の中に納まる。そうやって手にする三つめのボール―――その中のポケモンを繰り出す。

 

「でーんでーんでーん!」

 

 異界を展開せずにツクヨミ、アナザーフォルムの状態で出現する。直後、放たれたフレアドライブをその小さな身体でツクヨミが受け、後ろに一気に吹き飛ばされる。あーれー、なんて声を放っているが、纏っている雰囲気は真剣そのものだ。600族の領域を超えている能力を保有しているが、それでも競技可能レベルまで能力が落ちているのには変わりはない。油断して遊べば落とされる。それをツクヨミが今の一撃で実感しているのを感じる。

 

 そしてまた、それを楽しそうに受け入れているのも感じる。

 

「こうかはいまひとつだ、なんちゃって―――」

 

 ダボダボの袖の中で、おそらくは隠されている爪が赤く、そして白く輝く。吹きとばされた状態から切り返す様にデルタギャラドスへと向かって飛び込んで行く。その体は直前に設置されたトリップワイヤーによって鱗が刻まれ、防御力が下げられている。

 

「はいどーん!」

 

 ドラゴンクローがデルタギャラドスの顔面に叩き付けられ、今度はデルタギャラドスが吹き飛ばされる番だった。その小さな体に一体どれだけの腕力が隠されているかは一切想像する事が出来ない。が、アナザーフォルムでは火力不足がたたり、デルタギャラドスは落とせていない。吹き飛ばされ、フィールドに叩き付けられ、しかし再び浮かび上がったギャラドスを前にしながら楽しそうな声と笑顔をツクヨミが零す。

 

「まだまだ私はやれるぞー!」

 

 未だに公式戦での参戦は不可能だが、競技としてのポケモンバトルに思いっきり参加できるという事実―――それはどこまでも彼女を楽しませている様に思えた。その姿に小さく笑みを零しつつ、足を止めて視線をアスナとダイゴへと向けた。そこから相手の動きを読み取ろうとして―――バトルを続行する。




 という訳でお待たせ、vsアスナ&ダイゴダヨ。互いに最初から手持ちを開示という条件で開始するので情報的アドバンテージが存在しなくなるというのは公式の大会に出場するのと同じルールに沿ったものである。つまりズルい事は何もない。

 今回は前哨戦にすらなってないので、本格的に勝負するのは次回で。基本的に体力計算は等倍で2~3回、抜群で1~2回、いまひとつで4~5回は耐える風に大雑把にカウントしてまふ。耐久特化、受け役割、ドラポケでここら辺+1~2な感じで。

せんしゅしょうかい
シド
 合言葉はファック&サヨナラ。はた迷惑度が加速度的に上がっている最悪のギタリスト。一体どこで情報を得たのか不明だが、パンクロックやデスメタルを参考にパフォーマンスを考えているらしい。とりあえず歌を聞かせて喧嘩を売ればいいのではないか? というロック魂が全て。ロトムと合体した結果頭がぶっ飛んだ子。座右の銘はギターは壊すもの。

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