俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーション ナイト

「あー……体の疲れが抜けてくぅー……」

 

 マッサージチェアに座りながらそんな言葉を吐き出す。横のマッサージチェアを見れば同じように座っている浴衣姿のナイトが目を細めながら息を吐いている。あぁ、なんかこの光景、横に座っている奴を変えたら見たことあるぞ。ほら、エンジュあたり―――なんてことを考えもするが、割とどうでもよかった。ただ重要なのはやはり、風呂上がりにマッサージチェアという組み合わせはなかなか凶悪なコンボなのではないかと思う。今度ポケモンバトルでねっとうからばくれつパンチを叩き込んでみよう。色んな意味でポケモンが昇天しそうだ。

 

「しっかしオニキスよー……」

 

「なんだよー……」

 

「お前まだ強くなるんだなぁー……」

 

「そうだなぁぁぁぁー……」

 

「あぁぁー……」

 

 だらけた声を零しながらナイトに返答する。そうだなぁ、と少しだけ気を引き締めて答える。そうだ、ダークライの時に少しだけ強くなった。自分の力だけではどうにもならない異能という領域に、黒尾にこの魂を食わせて共有する。そうする事で無理やり才能の幅を広げたのだ。だがこれで限界だ。黒尾も元はただのロコン、ポケルス、デルタ因子、隕石、メガストーン、様々な道具やトレーニング、そして相性や裏技を駆使し続けた結果、彼女の種族値と呼べるものは戦闘時限定で600族を抜くレベルになった。そう、メガシンカと呼ばれる現象を引き起こし、圧倒的な種族値の暴力を見せるその領域に。その恩寵で自分も異能の才能を拡張させ、異能を獲得した。

 

「だけどな、おそらくこれが最後の異能だ。自分の中で感じるぜ、才能が枯渇するのを。あとは経験と技術と知識の積み重ねだ。覚醒みたいなイベントはもう()()()()()()()だろうな。あとはこの芽生えた異能を研究して、そしてメンバーに合わせて慣らして行く……それだけだろうな、俺の才能に関しては」

 

 指示の勉強に関しては最新の情報をチェックし、情報は全部頭に叩き込んだ―――ここからは実際に体を動かし、そしてそれを理解するだけの経験が必要になってくる。むろん、技術も必要になってくる。だが大半は経験だ。オニキスというトレーナーは才能に頼れる部分で成長できる限界に到達してきている。だからあとは時間をかけて経験で相手の考えを読み、体を鍛える事しかできない。

 

 統率力に関してはもう完全に頭打ちだ。おそらくこれ以上延ばす事は難しいだろう。そもそも相性の良いポケモンを探して、それにこだわってパーティーを作成しているという時点で限界を迎えている、という事の証明になっている。まぁ、それでもパーティーに完成形は見えてきているのだ。だから統率力に関してはもはやこれでいい、としか言うことしか出来ない。まあ、しょうがない。そもそもこの世界へとやってきてから十年間、大人しくしていたわけではなく、

 

 常にポケモンバトルの最前線ですべてを絞り出す様に走り続けてきたのだ―――才能は枯渇するリソース、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「んで、決めたのか?」

 

「何をだよ」

 

 その返答にナイトが言葉を止め、視線を此方へと向ける事無く、天井を見たまま答える。

 

「―――()()()()()だよ。結局のところ、俺達は全員それを狙っているんだからな」

 

 公式大会におけるレギュレーションはやや変動するが基本はスタメン6人+サブ2人という編成になる。そしてチャンピオンが一番目立つチャンピオンズリーグ、つまりはタイトル防衛戦ではこのスタメン6人が不動の枠となって挑戦者を迎撃する事となる。つまり、この六つの枠こそが、真の手持ちとしてその名を連ねる事の出来る場所なのだ。むろん、チャンピオンの手持ちとなった以上、すべてのポケモンがその場を狙っていると断言しても良い。本気でそこを狙おうともしないポケモンはそもそも手持ちから外し、二度と加える事もない。

 

 そういう領域の話なのだから。

 

「俺も黒尾程じゃないが、お前とは割と長い付き合いだ。お前の考え方は解るし、やりたいことも大体解る。まぁ、正妻様に勝てる程じゃないがな―――それでもずっと戦ってきた。そして一緒に戦い続けてきた。そして俺はこれからもずっと戦い続けるつもりだ。こんな体になる覚悟をしたのも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。だからお前の中で今、レギュラーやスタメンに関してどうなっているかはすごく気になっているのが事実だ」

 

「……」

 

 ふぅー、と息を吐く。通りすがりの旅館のスタッフを呼んでフルーツ牛乳を頼み、無言でそれを運んできてもらうのを待つ。これから話す内容を考えると、少しは喉を潤しておかないと話し続けるのは難しいだろう。ナイトもそれを察してくれたのか、しばらく黙っていてくれる。それから数分間、従業員がフルーツ牛乳を運んできた。それを受け取り、蓋を指で弾くように取りながら、一気にその中身を喉の中へと流し込む。様々なフルーツの混ざった牛乳の味が喉の奥に引っかかる。甘いと感じながらも息を飲み、口を開く。

 

「―――レギュラー確定枠は現在二人いる」

 

「聞かせてくれ」

 

「一人目は―――黒尾だ。たぶんアイツなしでパーティーを組むというのは俺には無理だろうな、ってレベルの話だ。最近開眼した新しいメガシンカ……そうだな、シンクロメガシンカとも呼べる現象、アレで完全に地位を不動の物にした。これ以降俺が別のポケモンに先発を譲る事はないだろうなぁ」

 

 これに関してはそれ以上話す必要はない。ナイトもおそらくは黒尾がレギュラー入りするのは解っていた事だろう。俺が一番最初に手にしたポケモンであり、そしてこの世界における()()()()()とも言える存在だ。俺がロケット団にいた頃の時代から今まで、こうやってチャンピオンになった時まで一切離れる事無くついて来てくれている無二の存在、彼女の支えがあってこそ自分は今、この舞台にいるのだと本気で思っている。

 

「じゃ……二つ目は誰だ」

 

 ナイトの声に、どういうべきか一瞬だけ困る。だが答えないのはナイトに対して失礼だろうと判断し、答える。

 

「―――メルト」

 

「そうか……そうかぁー……アイツかぁー……」

 

 ヌメルゴンのメルト。異常の領域には踏み入らないが、それでも確認されている中では最大級のサイズを誇るヌメルゴンである。簡単に言ってしまうと()()()()()()()()()()()()なのだ。ポケモンの役割で受けを意識する上で、一番重要なのはタイプ相性ではなく、ポケモンの持つ体力になってくるのだ。タイプ、防御力、相性、そんな事は異能でも育成でもどうにかすることが出来るのだ。だけど体力だけは生まれた肉体によってその上限が決まっている。コイキングにボーマンダ級の体力を要求する事は出来ない。

 

 なぜか?

 

 それだけのポテンシャルを詰め込む肉体がないからだ。

 

 ボーマンダのサイズのコイキングであればそれは出来るかもしれない。

 

 だがヌメルゴンという種族で、そして恵まれている肉体を持っているメルトは自分の育成を絡めれば世界最高クラスのサイクル戦用の受けポケモンとしての役割を持つことが出来る。最硬となるとそこはどうしてもダイゴに譲らなくてはならない事になるが、それでもサイクル戦用のポケモンでメルト以上の受け向けのポケモンは見る事がないだろうと確信している。その為、パーティーが大前提としてサイクル戦構築をしている以上、確定レギュラーメンバーはメルトの()()()()()()事になるのだ。

 

「アタッカーは割と悩ましい所なんだよな……天賦アタッカーのサザラもナタクもかなりぶっ飛んだ方向性を持っているけど、スティングもアレでまだ伸びしろを残しているって点があるからな、その点を完全に見切るまではそこらへんは選べない。アシスト枠はぶっちゃけ供給過多でここら辺、割とどうしようもない程に激戦区になってるんだよなぁ―――」

 

 まぁ、と付け加える。

 

「……不動枠でお前がほぼ内定しそうってのも事実なんだけどさ。スタメンか、それともサブかって所で今すごい悩んでる」

 

「おいおい、付き合いが長いからって理由で選ばれて欲しくはないぞ」

 

「贔屓はしないさ」

 

 ―――ただ付き合いが長い=息が合う、という事でもある。そう考えると付き合いが長いナイトはパーティー内の、戦闘中の息継ぎや細かい調整役として入れておくとズレそうな歯車の修正等で非常に活躍できるのだ。そう考えるとスタメン起用でいいのかもしれない。だがナイトの役割はフィールドに出る事ではない。フィールドに出るのはいやしのねがい、或いはみかづきのまいで次に繰り出すアタッカーを万全で終盤へと繰り出すための一手の為だ。つまりナイトを起用すると回転率が残りの五体に圧縮されてしまうのだ。そう考えると状況によって切り替えられるサブ起用の方が安定して仕事を果たせる気もする。

 

「……となると今後の俺の活躍は新戦術との馴染み具合が直結する、という訳か……」

 

 そこまで呟いたところでナイトは顔を上げ、此方へと視線を向けてきた。

 

「―――良し、明日のフエンジム戦、俺を起用してくれ。ジョウトに残っている連中には悪いが、ここで手を抜くのは性に合わない。お前を一番理解し、戦闘でサポートできるのが俺だっていう事を明日、証明しよう」

 

「やる気であふれてるなぁ、お前は」

 

 だが、それなら丁度良い。誰をどう登用するかは困っていたのだ。

 

 ―――明日のアスナ戦は若手のジムリーダーに格上との戦闘経験をつける為のものだ。そして新たに芽生えた俺の異能が競技という領域の中で、どこまで使用できるかを試すためのチェックでもある。その為、アスナには()()()()()()()()()()()()()()()()()を使用する事が許されている。そしてそれは自分も、ツクヨミを異能に当てはめる様に使用する事を言われている。

 

 形式は6vs6のフルマッチ、道具被りは禁止、メガシンカは許可、勝ち抜き戦仕様の6vs6のシングルマッチ制だ。

 

 現状は新しくなった能力を試したい気持ちとリーグからの要請もあって確定枠は黒尾、シド、ツクヨミだった。ここにアシスト枠でナイトを入れるとする。そして必然的にここにはメルトを入れる必要もあるので、これで5枠の選出は確定された。

 

「……残り1枠は……んー……火力を優先するか」

 

 となると水タイプである為に相性で有利を取れるミクマリ、シガナ戦で新しい戦い方を見つけたナタク、それとも相性の良さ故に覚醒を通して発展性を見込めるスティング、この三人のどれか、という風になってくる。その中でも今、誰を動かしたいか、という話になってくると―――迷う事無くスティングだと答える。まだ成長、発展性が見えるのだから、ここで戦わせない理由はない。炎で抜群を取られた場合、一撃で落ちる可能性があるが、そこはナイトによるアシスト、そして自分が読んでメルトを回せばある程度はカバーできる。

 

 そういう事もあり、選出は確定する。

 

 黒尾:ゴツゴツメット

 シド:ヨプのみ

 メルト:オボンのみ

 ツクヨミ:ラムのみ

 スティング:メガストーン(スピアーナイト)

 ナイト:きあいのタスキ

 

 先発:黒尾

 

「纏めれば明日の面子はこんな感じか。個人的にカノンの異界と異能の相性を実戦で確かめてみたかったけど、今回は見送りかなぁ……まぁ、バトルをする機会は何時だってあるし、次回に回すとするか……」

 

 黒尾はダークタイプを特性で疑似的に再現しているので、いえき等の特性上書きの能力が来ない限りは受けにも回せる。そう考えたらサブの受けとしても繰り出すことが出来る―――フレアドライブ等の接触技に対して有利に動くことが出来るだろう。シドのヨプのみに関してはデルタ因子悪+追加タイプはがねという事もあり、格闘が4倍で通ってしまう。ここは炎ジムらしいアスナの炎技に警戒して2倍弱点のオッカのみでも持たせるか悩むところだが、どうせゴウカザルか加速バシャーモを手持ちに入れているだろう。それに対する事故対策で持たせておく。いや、本当はここ、炎と格闘を確実に一度は耐える事の出来るきあいのタスキが一番なのだが、事故死で一番怖いのはナイトの存在だ。きあいのタスキがナイトで確定している以上、シドの持ち物はヨプのみかオッカのみで確定している。

 

 ……と、まぁ、こんなものだろう。火傷対策でメインアタッカーにラムのみを持たせるのは安直だが基本だし、スピアーという種族自体、ほとんど突き抜けていない限りはスピアーナイト以外を持たせる選択肢を知らない。

 

「ふぅー……お前も実は相当悩んでいるんだな」

 

「馬鹿野郎、候補は全部で20人近くいるんだぞ。その内選出できるのは8人……すっげぇ悩むわ。本格的に考え出した夜は俺一睡もできずに朝を迎えたからな」

 

 それでもまだ、選出が終わっていない。スタメンの選定、本当に悩ましい話だ。トレーナーとして、チャンピオンとして君臨している以上、それは仕方のない事なのだが―――まぁ、それはそれとして、明日はアスナとのバトルだ。

 

「サポートにダイゴが入るらしいけど、とりあえず勝つぞ」

 

「勿論。俺達には勝利以外存在しないからな」

 

 ナイトの言葉にけらけらと笑いながら、マッサージチェアに深く体を沈み込ませた―――とりあえず、スタメンの考えから逃げる様に。




 という訳でオニキスさんも実は裏ではすっごい悩みながら最終的なスタメンを選出していますよ、という話。ピカネキ? アレは事故が事故って更に事故を起こした生物だからスタメンへ狙いながら自由に生きたいだけだから……。

せんしゅしょーかい

ナイトくんちゃん
 性別に関しては世界の永遠の謎なのでシステムに触れてはならない(戒め)。きっとアルセウスにはTS趣味があったとかそういう感じのサムシングだがメタモンと卵の関係を見るだけでもうあっ(察し)という。大型新人にポジションを尾焼かされながらも、それでも最後の最後まで一緒にバトルし続けたい、という想いからそこらへん一切躊躇とかなかった実は心のイケメン。

 次回はvsアスナwithダイゴよー

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