俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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コミュニケーション ????

「これで適当に遊んでおきなさい。明後日はフエンジムでバトル予定だからな……っとこれ、アシスタント代だから、自由に使っていいぞ―――あ、それ俺のアシとしての適正金額だからな」

 

 そう言ってオニキスはポンとお小遣いに百万入った通帳とカードを自分とヒガナに渡してきた。ちゃんと給料が発生する様にセキエイ、ポケモン協会の方で登録されているらしく、其方方面からも振り込みが今後発生するらしい。明らかに頭のおかしい金額だが、危険手当も込みらしいのでこれぐらいが妥当なのだろうか。基本的に金銭に関するアレコレはゲーチスに俗すぎるという理由で遠ざけられてきたので、良く解らない。ただ高いと安いという判別はつくし、トレーナーの生活はなるべく安く済ませる物だというのも解る。その概念に真向から叛逆しているという状態であるのも解った。

 

「足りなくなったら適当に言えよ? 出してやるから。あとポケモンはボールばかりに押し込めてないで、偶には出してあげな。基本的に幻だとか伝説だとか、力さえ押さえてりゃあ解る人間とか一切いねぇから。そんじゃ、専用の風呂があるしちょっくら入ってくるわ……黒尾ー行こうぜー」

 

「はいはい、今参ります」

 

 そう言って黒尾とオニキスは借りている家の奥にある温泉へと向かった。トモダチと人間という間柄の中で、仲の良い組み合わせは何人も見てきた。だがその中でもあのオニキスという男はポケモンに近い場所にいる様な気がする。そもそも種族差、という事自体を考えていないような、そんな部分さえある。そんな事を考えながら背中を見送っていると、虚空から出現した小さい姿―――ツクヨミが背中に抱き付き、そのまま三人で温泉へと向かった。その姿が消えるのを見送ってから、横に並ぶヒガナへと視線を向けた。

 

「……どうしよう、これ」

 

「うーん……ラティ達をボールから出してやれ、って事だよね」

 

「うん、まぁ、そうなんだろうけど」

 

 本当にいいのだろうか、というのが個人的な感想だった。伝説とはつまり()()なのだ。伝説としてその名を残すには相応の理由がある。だからこそ自分はボールから出す事を今まで、ずっと、ためらってきた。だけどバンバン、というかほぼ自由にしているギラティナの姿を見ていると、自分が本当にこれでいいのか、解らなくなってくる。ただ、ホウエンに到着してから一度もボールの中から出したことがないのは事実だった。だとしたらちょっと、酷いんじゃないのか、とも思わなくもない。

 

「じゃ、私もラティとどっか適当に回ってくるよ。宅配頼めるなら里の皆にお土産をここから送る事もできるだろうし」

 

 そう言うとさっさと外へとヒガナは飛び出し、ボールを投げると青い幻のポケモン―――ラティオスを繰り出し、その背に乗ってフエンタウンの歓楽街へと一直線に飛行して行く。中々目立つ行動だが、どうせその後で人の姿へと変わるのだろうから、あまり問題はないだろう。フエンタウンの様に人の集まる街では空を飛んで移動している人もそれなりに見る。

 

 ……というのは、オニキスに連れられた自分が世界を見て回った結果覚えた事なのだが。

 

「……どうする? 君も外に出るかい―――ゼクロム」

 

 黒く、そして青白い稲妻を放つ伝説のポケモン、ゼクロム。この服装と名前を除けばそれが唯一、自分がイッシュ地方から持ち出したものだった。それ以外は全て、赤帽子の悪魔と黒帽子の悪魔の二人が一切躊躇する事もなく焼き払って、プラズマ団が存在したという痕跡ごと破壊しつくしてしまった。洗脳、誘拐、そういう類の事はどうやらあの二人の逆鱗に触れる行為だったらしい。

 

 ―――ゲーチスは最期、言葉にも出来ない地獄をあの反物質の女帝の世界で味わい続けたらしい。

 

『……自分で決めろ、ナチュラル』

 

「参ったな……あんまり、得意じゃないんだよなぁ」

 

 自分で色々と決めるのは、と言葉を付け加えない。そこまで言ってしまうとゼクロムに軽蔑されてしまう、そんな気がした。だがきっと、そんな言葉を口にしなくてもゼクロムは解っているのだろう。もはや無二の相棒と言っても過言ではない彼女なのだ。だが仕方がないのだ―――ずっと、ずっとゲーチスに言われるがまま、生きてきた。必要なものを選んで与えられ、そうやって生きてきたのだから。ただ、

 

 それを言い訳にするのもかっこ悪い、と思うのは黒い方の悪魔と行動して思ったことだ。いや、かっこいいかっこ悪いという考え方も昔の自分にはなかった―――そう考えると意外と感化されているのだなぁ、と思える。だからそうだね、と小さく呟く。

 

「せっかく給料とか言い訳までしてお小遣いをくれたんだし、少しぐらいハメを外そうか」

 

 ゼクロムからその言葉に対する返答はない。だけど文句を言う気配もない。だが元々からゼクロムはそこまで喋る性格でもなかった。気配は別に怒っているわけでもないし―――大丈夫だろう、と捉える。それじゃ、と小さく声を零してから自分もヒガナの様に、フエンタウンの歓楽街を目指して歩き始める。

 

 

 

 

「ふむ……賑わっているな」

 

 伝説種―――ゼクロム。彼女はそんな事を呟きながら歓楽街を見まわしていた。モンスターボールの中から繰り出した彼女は見たことのある巨大な黒い竜の姿はしておらず、十歳前後の大きさの子供の姿をしている。臍を見せるミニスカートにチューブトップ、その上から黒いジャケットという格好、そしてテラボルテージの色を、ゼクロムが放つ青白い稲妻を思わせるネクタイを装着しており、それを除けばツインテールで纏めてある髪を含め、すべてが真っ黒に染まった姿だった。

 

「まぁ、歓楽街だしね。寧ろ人が居なかったら困るぐらいだよ」

 

「それもそうだな」

 

 ふむ、と息を吐いた子供姿のゼクロムは興味深そうに人の流れを見ていた。そんなゼクロムを、自分は眺めていた。その視線に気づいたのか、ゼクロムは振り返りながらどうしたの、と問いかけて来る。

 

「あぁ、いや、何て言うのかな……なんだかんだで君の姿を見るのも新鮮なものだな、って」

 

「みだりに姿を現すものではないからな、伝説とは―――寧ろあの女帝が異常だ」

 

 女帝―――つまりはギラティナ、NNツクヨミの事だろう。そうなのかい、と言葉をゼクロムに向けて放つ。ゼクロムから返答が返ってくる。

 

「女帝は無駄が多すぎる……というよりもアレは無駄を極限まで楽しんでいる。そもそも人間の姿を取るのは我々にとっては制限・擬態に近いものだ。態々一番力を振るう事の出来る姿から無理やり形を落としはめているのだからな。だからフォルムチェンジ毎に本来の姿ならまだしも、擬態に必要はない。無論、性格の変調もありえない……つまりアレはあの女帝が遊んでいるだけだよ」

 

 まぁ、とゼクロムは言葉を付け加える。

 

「……子供の姿は力を抑え込むのには丁度良い。しかし力の大半を封印しているのにそれでもあの姿を維持しているのはただの趣味か性癖だろう」

 

「そんな話聞きたくなかったよ……」

 

 溜息を吐きながらゼクロムと並んで歩く。すぐ隣にいるのはイッシュ地方に名を残す伝説のポケモン・ゼクロム。しかし、フエンタウンにいる人間はまるでそれに気づくことなく楽しげに歩んでいるのが解る。今までは伝説のポケモンを自由にするのは狙われたり、変な注目を浴びたりするから止めておいた方がいいかもしれないかと思っていたが、黒い悪魔、そして今の光景を見ている限り、本当にイッシュ出身で伝説に詳しい人間か、或いは相当伝説に詳しい人間ではなければ気にしなくてもいいのかもしれない。

 

「ふむ……いつの時代も人はそう変わりはしないな」

 

 出店を見ながらゼクロムがそんな言葉を口にする。それはどこか、遠い時代の事を思い出す様な発言であり、どこか、過去を悔いているような、そんな色さえも感じる様な言葉だった。そんなゼクロムにどんな言葉をかけようか、一瞬だけ困った。カリスマ、会話、予知、様々な異能を持っていて、最強の統率者だなんて言われてはいるが―――結局はそれだけの話なのだ。自分は、そこまで凄くはない。こういう時、あの人はどうするだろうか、最近よく見る背中姿を思い出して、

 

 適当に話題を変えようと、適当な店を指差す。

 

「ねぇ、ゼクロム、見てみなよあのお店」

 

「ん?」

 

 ゼクロムがこちらの指差した店へと視線を向け、それに合わせる様に此方も視線を向けた。そのお店は本当に普通の射的の店だった。なぜそれがそこにあったのかは不明であり、祭ではなく温泉町なのに射的ってどうなのか、という言葉を思い浮かべてもいい―――だが問題はそこではなかった。

 

 スーツ姿のどこかで見たことのあるチャンピオンがいた。

 

 というか具体的に言うとホウエンチャンピオン、ツワブキ・ダイゴだった。

 

 ダイゴは射的を二丁も銃で構えると、必死に命中させようと頑張っているのが見える。射的の屋台の店主が二丁流じゃ絶対に当たらないと言い続けているが、本人はそんな事よりもかっこよさを追求しているらしく、落とせるまで挑戦するつもりらしく、札束で店主の頬を三回程叩いてから再び射的を続行する。いつものパターン的にここでピカネキの登場かと思ったが、

 

「そっかぁ……ここでダイゴさんかぁ……」

 

「奇妙な運命の中で生きているな、ナチュラル」

 

 それはすごい実感している。傀儡からフリーダムすぎるこの人生、どうしようかと凄い悩んでいる。そこで少し、足を止めてしまったのが悪いのだろうか、ポーズを決めながら構えていたダイゴの視線が此方へと向けられ、完全に動きがフリーズした。ダイゴがおもちゃの銃を握ったまま停止し、そして此方もチャンピオンの見てはいけない暗黒面を見てしまったような気分で、完全に動くことができなかった。

 

 数秒間、互いに無言で佇み、ダイゴが先に口を開いた。

 

「君は何も見ていない。君は何も見ていない―――いいね? 何もなかったんだ。そう、何も……何も見てないんだ……」

 

「あ、はい。何も見てません。ダイゴさん、こんなところで奇遇ですね」

 

「うん! 散歩の途中だったんだ! 散歩の―――散歩のね!!」

 

「どう考えても無理がある」

 

 ダイゴが感情を無くした視線をゼクロムへと向け、それを受けてゼクロムが思わず構える。それからゼクロムが構えてしまった事に気づき、驚きながらも少し、恥ずかしがるように腕を降ろした。それで少し気分を良くしたのか、ダイゴが頷く。そんなダイゴの様子を見て首を傾げる。

 

「あれ……ダイゴさんは此方へ何を」

 

「ん? 僕かい? 当たり前だけど仕事だよ。僕は普段から協会の方へデボンを通して()()しているからね。そこらへんお仕事とかめんどくさいから免除させてもらっているんだけど―――ほら、最近友人が無様にも悪夢に囚われるとかクッソ恥ずかしい事をしているじゃない? 友人としては仕事にかこつけて煽るチャンスを逃せないよね」

 

「それ、本当に友情って呼べるのか」

 

 ゼクロムの言葉にダイゴが笑顔でもちろん、と答える。ダイゴとオニキスの友情、いろんな意味でカオスだなぁ、何て事を想っていると、ダイゴがひらひらと手を振る。

 

「それじゃあ僕は散歩を……散歩を! 散歩! ……を、続けるからね。うん、散歩だから。明後日のフエンジムでの戦い、期待しているって。いやぁ、アイツ負けてくれないかなー」

 

 最後に最低な事を呟きながら去って行くダイゴの背を見送って、ゼクロムが口を開く。

 

「今の時代、畜生じゃなきゃチャンピオンになれないなどという法則でもあるのか?」

 

「い、イッシュのチャンピオン・アイリスはすっごいまともでいい子だったから……」

 

 なお、その前のチャンピオンであるアデクという人物はどちらかというと畜生だったらしいと黒い悪魔が主張している。やはりチャンピオンは畜生の素質がないと辛いのかもしれない―――そう考えるときっと、イッシュチャンピオンも畜生化するのではないかと思ってしまう。

 

「ま、まぁ、深く考える事じゃないよ! うん、僕の未来にかかわらなかったらいいなあ……」

 

「ただの願望だな」

 

 ゼクロムの言葉が非常に辛い。だけどこうやって相手をしてもらえるという事は見捨てられていない、見限られていないという事だ―――その事に安堵を覚えてしまうのは悪い事なのだろうか。そうじゃない事を祈りたい。

 

「とりあえず……観光めぐり、再開しよっか」

 

「そうだな。それはそれとして、いい匂いがするな」

 

「お小遣いも貰っている事だし、はっちゃけても大丈夫だと思うよ」

 

 そういうとゼクロムが軽く睨んでくるが、食欲に負けたらしく、素直に食べに適当なところへと向かい始める。その背中を姿を追いかけて、

 

 何でもない、休日を過ごす。




 Nとゼクロムとダイゴなコミュ回。中身は特にない、けどどっかでやっておきたい感じのコミュ。ともあれ、次回は準備パート、アスナにサポダイゴでのバトルよー。

 確定枠は黒尾シドとして、皆も誰が選出、持ち物は何かを考えてみると楽しいかもしれないわね。

 あ、あとインターネットに3DSがつながる様になったので、ORをネットに繋げました。その内フレコを活動報告に投げ捨てるかも

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