俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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本日3話目注意


vs ダークライ

 自分の体から大事なものが抜けるのを理解した。

 

 ―――魂だ。

 

 黒尾がそれを喰らった。それは黒尾の体内に飲み込まれ、そして彼女の中で同居を果たす。はたしてそんな事は可能だろうか? いいや、可能なはずだ。災花は足りない運命に対する力をその存在だけで分け与えていたし、ゴーストポケモンは死亡したポケモンやトレーナーが霊となったものだ。だから魂は存在する。そしてそこに人間を超えるリソースもちゃんと存在する。ポケモンがありえない進化を遂げて行く姿を見ればその程度誰だって理解できる。だったら話は簡単だ。

 

 足りない分のリソースは補えば良い。

 

 ポケモンで。

 

 なぜ今まで思いつくことすらなかったのか、それが解らなかった。或いは自然に意識から外していたのかもしれない。だがもう遅い。やってしまった。黒尾が飲み込んだ魂が彼女と同調するのを感じる。彼女に波長を合わせられているのを感じる―――そして彼女とそれを共有するのを感じる。絆だけではなく魂という命そのものを通してお互いの目に見えぬものを共有する。瞬間、今までになかった感覚が一気に芽生えるのを感じる。

 

 それは第三の目、それは第三の腕、それは第六の感覚―――異能の開眼。異能を持たない人間では永遠に理解する事が出来ない、新たな感覚器官を得たという感覚。持たぬ者が絶対に理解する事が出来ないというナツメの言葉を肯定する、これはそういう感覚だった。そしてそれ以上の説明も無理だった。当たり前のものを表現する事程難しいものはない。

 

 故に足りなかった最後の壁―――異能の壁、その開花を完了させる。言葉として表現するならば、契約だ。生きている間ではなく死んだ後もポケモンになる事はなく、魂を黒尾に奪われ続けるという冒涜的な契約だ。その対価として彼女の持つ才能の領域をお互いに共有する。収支で見ればマイナスかもしれない所も、そもそもから一生付き合う予定の相手だったのだ、何も問題はない。

 

 だから異能の方向性を作る。まだ目覚めたばかりの力の流れ、それにオニキスという男の本質を捻じ込む。そうやって存在した力の流れは一つの色と形を発揮するようになる。

 

 殺意―――圧倒的な殺意を。理不尽すらねじ伏せて蹂躙する殺意を。()()()()()()()を果たすためにそういう場所を。現実という異世界からやってきたオニキスという男には解るはずだ、異なる環境、異界を、フィールドを支配するという感覚だ。それをポケモン別に適応させて―――殺意を刃に変えて突き刺す。そういう場所が欲しい。

 

 自分が頂点にして君臨する最強。それに相応しい場所を―――生み出す。

 

 

 

 

「―――開け決戦場(しょけいじょう)

 

 気づいた時には眠気は霧散していた。そして右手を前に突き出す様にして、左手で頭の帽子を掴んでいた。格好は元に戻っていた。ボルサリーノ帽にロングコートという格好。場所はトキワの森のまま、正面にはダークライの姿が見える。その表情は己の干渉が破壊されたことに対して驚愕を浮かべている。故に宣言する。

 

絶対王者(チャンピオン)としてレギュレーションとルールの順守を宣言する」

 

「ソレハ―――」

 

 目に見えぬ重圧がフィールドに広がる。チャンピオンに相応しいバトルの下地が生み出される。緊張感が滾り、決戦という名に相応しい状態へと戦闘フィールドが突入する。それに反応する様に、急速に殺意が決戦場に集る。

 

ル ー ル 違 反(殺意カウンター) は 許 さ な い(+6)

 

「ルールを守って楽しく殺しあおう」

 

 ルール違反によって決戦場に最高潮まで満ちた殺意を一気に消費する。刃となった殺意が違反者の力を削り削ぐ―――ダークライからこの戦闘中、世界に対する絶対的な干渉能力が消失し、レギュレーションの範囲内まで弱体化する。

 

「舐メルナ―――!」

 

 ダークライから幻のオーラが放たれる。そのオーラによって決戦場の拘束力がゆるみ、ダークライの力が増す。だがそれでも完全なものとは言えず、最初の無敵状態よりは遥かに弱体化しているとも言える―――ちゃんと戦えれば倒せる、という領域には。だがそれは六体を手持ちにした場合、或いはそれだけ強力なポケモンを手持ちに保有する場合の話だ。故に、

 

「―――お前も、俺に相応しい姿を見せろ」

 

 黒尾が前に踏み出すのと同時にその姿が光に包まれる。獣の、ロコンの姿は二足歩行で立つ人間の姿へと変わる。細く、しなやかな肢体を得て、身長は百五十ほどまで伸びる。昔よりも長い艶やかな黒髪を伸ばし、その体は黒に白い文様が刻まれた、誘う様にやや肌蹴た着物に包まれている。その下には存在を象徴する九本の黒い尾が存在し、頭には黒い狐のお面が斜め掛けにされている。前見たキュウコンの姿よりも更に一回り、此方に合わせる様に歳を取った、艶やかな姿をしていた。

 

 黒尾が横を抜けて、尻尾に埋もれる様に大地に座り込むのを見て、笑みを浮かべ、右手に彼女の入るモンスターボールを転がす。

 

「―――これで文句ありませんよね、私のポケモンマスター様」

 

 その声には魅了する様な色がある。心の弱い人間なら間違いなくその吐息だけで心を惹かれてしまう、そういう危険さがあった。黒尾の進化、それはもはやただの進化ではなく、俺というトレーナーに対して全てを合わせた、専用とも言える種族、存在となった。ポケモンマルチナビやポケモン図鑑を使用してもおそらくは新種とのみ出るだろう。種族に名をつけるとしたら―――そう、黒爪(オニキス)九尾(キュウビ)、とでもなるだろうか。

 

「最高のパートナーだよ、お前は―――そんじゃ、幻を虐殺するとしようか」

 

 黒尾を迷う事無くボールの中へと戻し、そう宣言した。言葉にダークライは迷う事無く戦う事を選んだ―――その判断の速さは育成されたポケモン特有のものだ。だが決戦場のルールに縛られたダークライはポケモンのいない状態では攻撃を繰り出すことが出来ない。故に繰り出す。

 

「初陣だ、殺すぞ」

 

「はい、仰せのままに―――」

 

 脳髄を溶かす様な声と共に黒尾がボールの中から放たれた。繰り出されるのと同時に闇の衣をまとい、疑似ダークタイプ化され、そして黒尾とダークライの視線が合う。魅了する様な微笑みが()()を魅了する。決戦場内外のテンションが、熱狂が上昇し、そしてそれが戦う者たちへと向けられる殺意に変換され、決戦場に肌に突き刺さるような殺意が充満し始める。

 

「私に惚れてはいけませんわよ? 私はあの人一筋なのですから」

 

 嗤いながら黒尾が優先度を奪取し、両手を叩き合わせてきつねだましを放った。ねこだましのタイプを変えたマイナーチェンジ技、しかしそれだけでダークライには十分すぎる。その動きが一瞬だけ止まり、

 

「えぇ、それでは死ぬまでご堪能くださいまし」

 

 すてぜりふを吐き、その言葉に込められた呪詛に決戦場に更に殺意を集めてボールの中へと帰還する。ダークライがきつねだましの反動から動かない。だから戻したボールを左手へと転がす様に動かしながら、紡いだ絆でポケモンを呼び寄せ、そして殺意が混じる異能で統率し、手にする。世界の法則に亀裂が入った今―――ポケモンの入ったボールは呼び出せる。

 

 手の中に、モンスターボールがある。確認せずとも何が中にいるのは理解できている。

 

「―――デビューライブだ、派手にやれ()()()()()

 

 言葉に導かれる様にボールからはなたれ、そして出現したのはロトムウマではなく、一人の亜人種の姿だった。魔女の様な大きな紫色の尖がり帽子に紫色の衣装、しかし瞳は爛々と青色に輝き、そして髪は紫色から毛先でロトムを思い浮かべる赤色に変色している。マントを登場の爆風になびかせながら登場する少女の姿は赤いV型ギターを握っており、ギタリストの魔女っ子、という妙に面白い格好をしている。しかし彼女もトレーナーと相性の良い存在、

 

 それによって覚醒の余波を受けて変質している。

 

R O C K Y O U !

 

「Yeaaaaahhh―――!」

 

 モンスターボールから飛び出すのと同時にトキワの森に潜む観客たちの熱狂を音で一気に引き上げ、そしてそれを殺意として決戦場に充満させながら、ギターを鳴らした。そうやって響く音は一つ―――ほろびのうた。それを登場と共に強制的に押し付ける。

 

滅びのカウントが4刻まれた

 

「アーンド―――! シー・ユー!」

 

「待テ!」

 

 放たれるシャドーボールをロトマージがギターで受け止め、タイプ相性故にダメージを軽微で済ませながらボールの中へと楽しそうな笑顔と共に戻ってくる。それに合わせ、最後のボールを絆で呼び寄せた。滅びの運命がダークライへと刻まれるのと同時に待ち望んでいたかのように震えたボールを、遠慮なく放つ。

 

「その命―――」

 

 氷花がボールから繰り出された。滅びの運命を死神が直死した事によって死のカウントが1刻まれた。

 

「ダガ―――」

 

殺 意 が 死 を 刻 む(カウント2)

 

 カウントがまた一つ削れた。その事実にダークライが何かを言おうとしてしかし止め、そして完全に動きを停止させた。それを見届けて、氷花が優しく笑み浮かべる。

 

「―――美味しくいただきます」

 

殺 意 が 死 を 刻 む(カウント1)

 

殺 意 が 死 を 刻 む(カウント0)

 

滅 び か ら は 逃 れ ら れ な い

 

 決戦場に充満されていた殺意が完全に霧散する。だがそれと引き換えにダークライに押し付けられた滅びの運命は完全に刻まれ、そして切り抜かれた。カウントが0になった瞬間、自動的に敗者が決定し、ダークライの体力が全て消失し、その姿がトキワの森に倒れる。役割を果たした氷花を素早くボールの中へと戻し、森の大地に倒れたダークライを見下ろす様に視線を向ける。その中で、削られた体力をダークライは急速に回復させ、再び立ち上がった。

 

「教えてやるダークライ―――俺は同情も憐れみも求めていない。俺が求めるのは戦いとその舞台だけだ。決戦……そう、それだけが俺の求める場所だ、行き場所だ。おまえが何を知っているのかは知らない。おまえが一体何を背負っているのかは興味もない。おまえの目的もどうでもいい。だが俺を憐れんだな―――俺を憐れんだな、お前は!」

 

 それだけは許さない。

 

「俺の人生、俺の選択肢! 後悔する事も恨むことも俺の、()()()()()()だ! 勝手に登場して殺す気もなく勝負をして勝手に哀れとはテメェ、何様のつもりだ。絶対殺す、お前の領域であるこの夢の中で絶対に、確実にぶち殺す。トレーナーがいない今、交代出来ないお前は()()()()()()()()状態だからな……!」

 

 伝説の様にルールを無効化できる化け物ならともかく、幻は伝説程ぶっ壊れてはいない―――つまり何度も滅びのカウントを0にして追い込めば、殺すことだって可能だ。そして今、この状況、この状態、

 

 決戦場が展開されている間であれば確実にダークライを逃がさずに殺せる。

 

 故に、

 

「今から一切手段を選ばずにお前をルールの範囲内で可能な方法でぶち殺す、覚悟はできたかよ幻如きが……!」

 

「―――」

 

 ダークライが立ち上がり、そして変わる事のない、憐れむような視線を向けて来る。ダークライは変わっていなかった。何かを理解しており、そして諦めてしまっている。それが実に癪に障る。イライラする。それ故に命を異能の燃料へと注ぎ込もうとしたところで、

 

 世界がぐにゃり、と歪む。

 

「今回ハ……私ノ……負ケダ」

 

 そう言って世界が消失し、戦える場所が喪失した故に異能が解除、決戦場がなくなって体が闇の中へと落下して行く。それでダークライは夢を終わらせる事で逃げたという事を理解し、更にイラつく。何よりもダークライが憐れむことを止めていないという事が最大の原因だった。

 

 次は、次こそは絶対に殺す。

 

 それを誓いながら闇の中、落下し続ける。




 という訳でおそらくは最後になる主人公の覚醒イベント。最後と言うかこれが最初で最後かなぁ、と。とりあえず幻なんでこんなんじゃ死なないという感じで、またほら、次回を待って結末をきこうではないか。

あれこれしょうかい
決戦場
 互いに最新のバトルレギュを強制して、それを順守させる。観客の熱狂や一部行動で殺意を充満して、ポケモン別に殺意を消費して効果を引き出せる感じのそれ。チート感知や力技で突破しようとするとペナルティ発動する。つまり”正々堂々と戦おう、俺はイカサマするけど”というクソの様なアレである。

黒爪九尾
 サトシゲッコウガの様な感じ。だーりんといつでも一緒になって有頂天。一部の連中にこいつを食えば……とかあとで思われる。ギリシャ語でオニキスは爪を意味するとかなんとか。やったね、黒尾ちゃん! モテモテだよ!

ロトマージ
 ロトムウマが進化した感じのアレ。案の定酷い事になった。好きなバンドはクイーン。80年代のロックなどがお気に入り。ロトムの人格は統合された、ヤドランタイプの生物。

氷花様
 滅び加速とかいう頭のおかしい効果を引っ提げて戦場に復帰、ロッカーとのコンビ運用でサイクル戦しない奴は地獄を見るハメになる。シバが勝機と正気を失った瞬間であった。

 それではまたみてポケマス

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