俺がポケモンマスター   作:てんぞー

35 / 72
流星と宴

 バトルが終わる。それは当然の様に己の勝利で終わった。ぼろぼろになったポケモンを治療し、そしてそこから再び交渉の続きになろうとしたところで、それは延長するハメになった。

 

 その理由は、

 

「飲めぇ―――!!」

 

 宴が始まったからだ。

 

 流星の民の集落、少ない数の人しか住んでいないその辺境には今、ほぼすべての流星の民が参加する宴が行われていた。集落の中央で巨大なたき火を燃やし、それを囲うように民達が酒を飲み、肉を食らい、そしてポケモン達を自由に放ち、遊んでいる。まさに祭りと表現するのにふさわしい馬鹿さ加減だった。この地方にいない事で珍しがられているメルトは一部のトレーナーや子供たちに人気だし、ピカネキは張り切って遊びまわっている。

 

 見る方向を変えれば異界の内装を改造したのか、ミニライブを生み出したカノンがロトムウマ、ツクヨミ、そして新しくベース係として引き入れたミクマリを含めてバンドに挑戦していた。しかも妙に上手だからイラっとくる。ナイトやスティング辺りは騒がしすぎるのが苦手らしく、少し離れた所で月見をしながら酒を飲んでいるみたいだが、

 

 概ね、自分の手持ちのポケモンも割と好き放題やっている状態だった。なぜこうなってしまったのだろうか。そんな事を考えながらナチュラルを探そうとして思い出す。あの少年は妙に女にモテてたのでリリースしたのだった。明日の朝まで戻ってこなかったらたぶん色んな意味で大人になっているのだろう。

 

 トラウマが残らなければいいけど。いや、そんな事よりも、どうしてこうなっているのだ。

 

「ほら、飲みんしゃい。手が止まっておるぞ」

 

「長老……」

 

 酒の飲みすぎは体を悪くするからいつもは量を控えているのだが、そんな事を気にせず、グラスの中にガンガン度数の高い酒を長老が注ぎ込み、笑いながら背中を叩いてくる。その威力が予想よりも強く、少しだけグラスから零れるが長老は気にするような様子を見せず、ボトルを握ったまま老人の集団に向かって突撃してくる。

 

 凄い婆だ。だがこれはなんだろうなぁ、そんな事を思いながらグラスを口に付けると、

 

「―――これは歓迎だよ、おじさん」

 

「あ゛?」

 

 そんな声が聞こえた。首だけを振り返りながら声を漏らせば、そこには少女の姿が見えた。年代はおそらくナチュラルに近く、顔立ちはシガナに近い、黒髪のショートカットの少女。名乗らなくても彼女の名前は知っている。彼女を探してこの地にやってきているのだから。

 

「お前は―――ヒガナ」

 

「あ、やっぱりバレてた。こっそり監視してたけどチラチラこっちの方を見てたしバレてるんじゃないかなぁ、って思ってたんだよね。あ、でも手持ちの情報を売らなかっただけ感謝してよね?」

 

 違う意味でヒガナの名前を呼んだのだが、彼女はその意図を理解する事無く楽しそうに声を零した。切羽詰まったような焦燥感はなく、気楽に、そして空気を楽しむように笑みを彼女は浮かべていた。それはオメガルビー、或いはアルファサファイアというデータ上の世界では絶対に見る事のなかったヒガナの姿であり、自分の予想があっけもなく裏切られた瞬間でもあった。ヒガナはここにいた。

 

 ―――だとしたらフーパ使いは誰だ。

 

「ま、姉ちゃんに勝てたんだからこれだけ騒ぐのは当然だよ」

 

 そんな此方を察する事もなく、ヒガナは喋り続ける。その当然という言葉に首を傾げる。

 

「うん? 解らない? ウチ(流星の民)って結構閉鎖的なコミュニティでしょ? それでいて独自の技術を保有したり、高いレベルの力を保有しているから解るやつはそれなりに目をつけて来るし、定期的にドラゴン使いとかが修行の名目で勝負しに来るんだよね―――ワタル様もそうやって勝負しに来た一人だし。だけどね、姉ちゃんが伝承者になってから今まで、一度も敗北したことがないんだ」

 

「そりゃああんなクソみたいなチート軍団、倒せるキチガイが限られるわ」

 

 メガボーマンダによる種族値の暴力、BREAKクリムガンの限界突破した強さ、そしてそれを乗り越えた所で出現するメガラティオスというどうしようもない絶望。二枚看板どころか三枚看板だ。天賦でも相当育成した個体か、或いはナタクの様に突き抜けきった異常な個体じゃない限り対処は難しいだろう。そんな事を思っていると、打撃の音が聞こえた。

 

 視線を岩地の方へと向ければ、岩から岩へと飛び跳ねる様に高速で跳躍するナタクの姿と、それに追いつくように空中戦を挑むラティオスの姿が見えた。また戦っているの貴様ら。まぁ、ナタクはナタクでどうやら修羅道に突き抜けてしまったようだし、仕方がないのかもしれない。練習量と休みの比率、再調整すべきだろう。

 

「言っておくけど、私達(流星の民)は別に全方位に喧嘩を売ってるわけじゃないんだよ? ただ姐さんが強いと皆、調子に乗り始めるからね? でもそれって結局は期待の裏返しでもあるんだよね……まぁ、だからお姉さんに勝利したおじさんを見直して、そして外の連中も見直して、ついでにお酒を飲む口実を得たからそれで盛り上がる」

 

「絶対に最後のが大半の理由だろ」

 

 黙ってヒガナが周囲を見て、やや意気消沈しつつうん、と答える。足元でこぉん、と鳴き声を漏らす声に視線を向ければ、ロコンの姿をしている黒尾がいる。抱き上げ、膝の上に乗せる。

 

『―――嘘も演技をしている姿でもないわ。彼女は()よ』

 

「お疲れ様……」

 

 テレパシーを通して教えてくれた黒尾の報告に安心をしながらも、更に深まる謎に少しだけ頭を痛める。とはいえ、敵は敵だ―――出てきたら全力でぶち殺すだけなのだ。実際、ツクヨミから逃げきれるというレベルは油断も慢心もできるレベルではない。場合によっては同格であることを覚悟しなくてはならない。まぁ、今ぐらいはそれを忘れてもいいだろう。

 

「まぁ、個人としてはガリョウテンセイを手に入れればもういいんだけどさぁ」

 

「―――それに関してお答えしましょう」

 

「あ、姉ちゃん」

 

 ヒガナの反対側、つまり自分を挟むようにシガナとヒガナが揃った。酔っている様子はなく、酒の匂いもしない。まだ飲んではいないようだ。それにヒガナがシガナへと向ける表情、相当仲の良い姉妹の様に思える―――シガナが死んだからこそ、原作とも呼べるゲームの世界でヒガナはあんな動きを取ったのだろうか? そう考えるとシガナの存在がどれだけ重要か解ってくる。

 

 ともあれ、シガナが来たのなら話を進めよう。

 

「俺が勝った訳だが……納得できたか?」

 

「えぇ、実に心が湧き立つ、血の滾る熱い勝負でした。その戦いを通して解りました。貴方はどこか闇を背負い、手段を択ばない外道とも言える部分があり、進んで下衆である事を選ぶ人間です……ですが、その本質は誠実さであり、悪に裏付けされた正義です。貴方は信用も信頼も出来る人物です」

 

 なぜなら、とシガナは言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「当然だ。俺に率いられたいという奇特な連中を俺が手放すわけないだろう」

 

「だから私はそれを信じて教えます―――貴方がガリョウテンセイを習得する事は()()()です」

 

 シガナの言葉に覚悟はしていたが、そうか、と呟き、軽く頭の裏を掻く。ヒガナが首を傾げるが、シガナの言いたい言葉、その意味は解っている。

 

「……()()()()()()()()()()って事だな?」

 

「解っていましたか……」

 

「まあな」

 

 カントー時代に最高クラスの異能者、超能力者であるナツメに資質の判別を行われたことがある。その時ナツメは断言したのだ。俺に異能に関する才能は一切存在しない。もし異能を保有する様になるなら、それは一部の特殊なポケモンと契約を行う事によって異能を手にするか、或いは何らかの方法によって才能の器そのものを拡張しなければならない、との事だった。

 

 俺の資質は育成の方向性に振り切れていた。

 

 指示は意識して鍛えれば鍛えるほど磨くことが出来、今でも鍛えている。

 

 統率力は生来のカリスマが全てだ。だからそれを補う様に自分に適応した、適合するポケモンを探し、生み出し、そして率いる。

 

 そして異能だけは伝説のポケモンによる外付け拡張でどうにかしている。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()のだ。自分に異能を使う事は出来ても、それを覚える事は出来ない。他人から異能を受け継ぐ場合は直接異能を覚える、その領域に埋める様にはめ込むのだ。ツクヨミ、カグツチ、ワダツミの異能能力はポケモンの力を借りて、自分の体を媒体に繰り出しているに過ぎず、ちゃんとした習得ではないのだ。

 

「ナチュラルはどうだ」

 

「彼なら覚えられるかもしれませんが、それと引き換えに多くの能力と才能を失うでしょう。少なくとも私達はこの継承でポケモンを育成する能力を大きく失い、ドラゴンポケモン以外に対する大幅な指示と統率力の低下が発生しています。あと場合によっては身体能力までもが……」

 

「クソみたいに重いなぁ……いや、だからこその奥義か」

 

 ガリョウテンセイ、これを確保しておけばレックウザ関連は此方が遥かに有利になってくる。だから出来るならポケモンに覚えさせるなり、自分が覚えるなりで確保したかったが、シガナの話を聞いている限り、ポケモンに教える場合も駄目になるだろう。少なくともメガボーマンダを見ている限り、専用構築をしないと駄目というレベルになってくる。そこまで犠牲になって協力してくれるポケモンは……今、手持ちにはいない。ダヴィンチなら可能かもしれないが、彼女は諸事情故に()()()()()()()()()()()

 

「ですので―――代案を用意しました」

 

「代案?」

 

「えぇ、カイオーガとグラードン、二体の復活が迫るというのが事実でしたら竜神様の力を継承し、伝えて行く我々流星の民であっても決して看過できる事ではありません。こうなってくると本格的に動き出す必要がありますが、その数にも限度がありますし、どうせでしたら事情の解っている方と一緒の方がいいと思いませんか?」

 

 確かにな、と言葉を呟き、シガナの言葉に納得する。

 

「確かにガリョウテンセイさえ確保できてればいいからな―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。という事はお前が来るのか?」

 

「いいえ、私はそこまで体が強い訳ではありませんから……ヒガナにガリョウテンセイを継承し、外の世界へと連れて行ってください。最近暇そうにしているので」

 

「えっ」

 

 予想外の言葉にヒガナが一瞬でフリーズした。その表情はガリョウテンセイの継承に嬉しそうな表情であり、そして同時に姉に一瞬で売られたという事実に対してショックを受けている、複雑そうな表情だった。ただフリーズしているのは間違いなく、膝の上から欠伸と共に黒尾が偽りなし、とチェックを入れた。良い姉妹なのだが、どうやらヒガナの方が若干シガナに振り回され気味らしい。

 

「じゃ、問題ないな」

 

「えぇ、問題ありません。それよりも今度は何時、此方へ来られますか? 敗北するなんて相当久しぶりでして……早くリベンジを挑みたくてはしたないかもしれませんが、今から楽しみにしています」

 

「そうだなぁ……まぁ、しばらくは忙しいだろうから結構後になるな。少なくともホウエンが平和になればチャンピオンリーグまでは育成以外でやる事はなし、選手の調整やスパーリングで遊びに来ても問題はないんだよな。……あぁ、そうだ。ダイゴを紹介するよダイゴ。食らった感じ、アイツの超耐久パ相手にはお前のパーティーが全く通じそうにないからな」

 

「そんな恐ろしいパーティーがあるんですか……?」

 

 ダイゴの耐久パは本当にヤバイ。具体的に言うと一撃必殺や割合ダメージ以外だと削っている感触がしないレベルで硬いし戦いが終わらない。前勝負した時はレギュレーション変更前だったのでまだ黒尾のきつねびが使えた頃の話だ。対面でやけどにして耐久力を割合で削れ続けるのだから、サイクルを有利に保ってダメージを減らせば耐久し返し、勝利するという最悪に残忍な勝負が出来た。

 

 まぁ、今考えるときつねびの火傷条件がガバガバすぎるからレギュレーションに引っかかってもしょうがないよなぁ、という気持ちである。

 

「ま、またバトルしようぜ。今度は6vs6で、な」

 

「能力的にほぼ3体までの育成で私は限界なんですよね……ここら辺、今後の課題でしょうか」

 

「ねぇ、二人ともなんでそこまで私の人権を無視して話を続けられるの?」

 

 他人事だからな、とオチが付いたところで酒を飲み進める。また明日からは移動だ―――しかしその前の小さな宴、小さな休息。

 

 そこで休んだとしても罰は当たらないだろう。




 新たな犠牲者のエントリーだ!!

 という訳でかつてない程にクリーンなヒガナちゃん登場。こいつが黒幕じゃね? なんてことを思われながらもシガナ存命である為に一切の厄ネタなしというエピソードΔが驚愕する事態に。

 次回から移動&コミュのお時間ですよ。さて、だれかな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。