俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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vsシガナ C

 思考を加速させる。世界がスローモーションに入る。一秒を十秒へ、一分へと引き伸ばし、引き延ばされた時間の中で思考する。

 

「―――あとどちらかが一体でも倒れれば6vs6視点からすれば後半戦に入る。勝つためにはここから一気にペースを上げて巻き返す」

 

 誰にでもない、自分自身に呟く。現状、相手の見ている手札は二連ガリョウテンセイ、BREAKクリムガン、そしてメガボーマンダだ。改めて留意しなければならないのはドラゴンポケモンの体力種族値だ。ドラゴンポケモンと言う種族は非常に種族値が高く設定されているのは実機の時代からあったことだだが、こうやって現実化されている環境となるとそれが遥かに解りやすくなってくる。なお、一つの特徴として、

 

 ドラゴンポケモンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という特徴がある。

 

 BREAKによって天元突破したクリムガンよりもおそらくはメガボーマンダの方がまだ狙えるターゲットだ。ボーマンダのタイプはメガ化されても飛行・ドラゴンである事に変わりはない。弱点で一番狙いやすいのは4倍でダメージを通す事が出来る氷タイプだろう。ここで耐性+ヤチェの実という組み合わせであれば一発までは氷をほぼ等倍で受けることが出来るだろう。

 

「―――だけどそれはないと思うよ。もちものは一つまで。それはボーマンダを進化させるためのメガストーンで埋まっている。そして僕が感じ取る限りクリムガンもボーマンダも僕がトモダチ達と力を借りる時と同様、潜在能力を引き出し、覚醒させて強化している。一般のトレーナーや君との育成とは全くスタイルが違う」

 

「人の思考加速になんで平然と割り込んでいるんだお前」

 

 まぁまぁ、とナチュラルが言葉を置く。実際”ナチュラルだから”で割と納得できるのでもあるが―――時間を無視してアドバイスできるのは実際便利だ。今度からこいつにはもっとバトルに関する事を勉強してもらおう。それを感じ取ったのか、ナチュラルから少しだけため息が漏れ、言葉を続ける。

 

「僕たち異能に特化したトレーナーはトモダチ達の潜在能力を覚醒させたり、本質を引き出したり、レベルをブーストしてあげることが出来るし、普通は目覚める事のない能力を覚えさせることだって出来る。だけど僕たちが出来る事はあくまでも普通の育成では出来ない事だよ」

 

 それはつまり、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ……。流星の民は少数の部族でコミュニティ全体が一つの大きな家族に見える。そして……ほぼ全員が伝承者として継承する為の資質を先天的に保有しているみたいだね。ドラゴンポケモンを保有すること自体にトレーナーとして統率能力を必要としてくる。そうなるとトレーナーのタイプとしては統率、そして異能に秀でている。流星の民全体がおそらくこの傾向だと思う」

 

 つまり、

 

「流星の民に育成専門のブリーダーを用意するのは無理、って事か」

 

「うん。外部の人間がいれば話は変わるけど今までの流星の民を確認した限り()()()()()()()だ。誇りの象徴とも言える竜を他人に触れさせるとは思えない」

 

 ここまで情報を纏めればほとんど答えは決まっているようなものだ。持ち物を警戒する必要はなく、氷耐性もない。だとしたら選択は一択だ。それを認識した所で思考加速を解除する。そのまま次のボールを手に取り、素早くそれを繰り出す。

 

「イッツ・ミー・アゲイン!」

 

「てめぇ……!」

 

 モンスターボールからカノンが放たれ、再び古城の異界が展開される。そこから災厄が溢れ出し、絡みつくようにメガボーマンダの動きを押さえ込む。既に限界まで能力が強化されているメガボーマンダにこれ以上の能力強化は発生しない。ただただ激怒させるのと同時に、カノンが先制を奪って温度を一瞬で極寒と言えるレベルまで下げ、古城そのものを凍り付かせる様にふぶきを発生させた。

 

「ダーちゃん!!」

 

「流れろカノン」

 

 極められた回避力でメガボーマンダが超反応のごとく回避能力を発揮する。だがその動きを既に一手早くこちらは予測していた。故にメガボーマンダの動きに合わせる様にふぶきは流れて行き、その全身を凍える風で包み、反対側の壁まで運んで叩き付ける。古城の壁に叩き付けられ凍らされるメガボーマンダが纏わりつく呪いを引きちぎりながら動き出そうとする。さすがに全能力が最大まで強化を受けていると一撃では落ちないか、

 

「もう、許さねぇ……!」

 

「あら、そうなの? でもごめんね、踊り子には触れちゃいけないルールなのよ!」

 

 古城をカノンが崩落させる。破壊され、降り注ぐ瓦礫の中をカノンが逃げる様に、楽しそうにボールの中へと戻ってくる。それによって異界の古城が消え去り、フィールドがクリアになる。そして再び、メルトを繰り出す。

 

「お前が一番うぜぇ! 落ちろォ!!」

 

 ドラゴンクローがはなたれ、受けの姿勢に入っていても体力的に、そして精神的にも限界を迎えていたメルトが一撃を食らって戦闘不能になる。それでも仕事を果たし、ボールの中へと瀕死になりながらも戻ってくる。能力の上昇は一旦途切れる。だからそれも意識し、ナタクを繰り出す。

 

 登場と共にすかさずねこだましが炸裂する。止まりたくはない―――そんな意志とは関係なく強制的にメガボーマンダが怯む。

 

「次に回します」

 

 怯んだ隙を突いてナタクが素早くボールの中へと飛び込むように戻って行く。そうやってメガボーマンダが動きを停止している間にボールをスイッチ、ナタクからカノンへと入れ替えて再び異界の展開と共に出現させる。ほしぞらは未だに輝いている。交代によって上昇が発生し、そして効果が累積する。そして再び、メガボーマンダの動きが古城に阻まれる。

 

「クソ、クソッ! 俺様が―――」

 

「じゃあねー! ばいばーい!」

 

「こんな軽そうなやつにぃ―――!!」

 

 二発目のふぶきが古城を凍らせながら発生する。能力は最大値まで上昇してはいる。だがそれを入れても4倍弱点、それも耐性を保有しないポケモンとなると、よほど狂ったと表現できる体力を持っていないと耐えきれない。そしてこのメガボーマンダは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――ガリョウテンセイを放つ事に特化している。

 

 明らかにキャパシティオーバーの奥義だ。それを十全に放つというのであればポケモン側にも犠牲を強要する必要がある。つまり削らなきゃ二連ガリョウテンセイなんてもん打てるわけがないよ、という話だ。故に、

 

「く……そ―――」

 

 メガボーマンダが二発目のふぶきを受けて倒れる。低威力ではあるがねこだましが一発入っている事を考えればかなり耐えた方だと判断することが出来る。ともあれ、異界を崩壊させながら再びカノンがボールの中へとモンローウォークを披露しながら戻ってくる。楽しそうに鼻歌まで響かせる。軽い笑い声を零しながらカノンをボールへと戻し、その上昇効果を引き継ぐ。ここで繰り出せるのはナタクのみとなる。だけど繰り出すその前に軽く息を吐き、

 

「―――2:2、イーヴンだ……!」

 

「っ、クーさん!」

 

「殲滅するぞナタク」

 

 BREAKクリムガンが黄金の残光を散らしながら再び場にボールから放たれ、登場する。通常のクリムガンの限界を突破した姿は雄々しく、そして美しく映る―――だからこそ散らす事に楽しさがある。乱気流が渦巻くように発生する。あらゆる速度差を無視した優先度の先制によって場に出たBREAKクリムガンが奥義を放つ準備を整えた。

 

「見飽きました。芸がないですね、貴女」

 

 放たれる奥義、ガリョウテンセイ―――そのタイミングをボールの中から何度も観察し、確認していたナタクがみきりでその攻撃を回避する事に成功する。ガリョウテンセイを放った直後のがら空きの胴体に外れる訳もなく、一瞬でばくれつパンチを叩き込み、わずかにクリムガンの体を打ち上げ、そこから更にインファイトを繰り出し、その体を後方へと吹き飛ばす。

 

 が、それで倒れないクリムガンが咆哮を響かせながら大地を揺らし、そして天からりゅうせいぐんを呼び起こす。

 

「喰らえば確かに落ちるでしょう―――が」

 

 跳躍し、足元のじしんを回避する。それを狙い打ったかのようにりゅうせいぐんがナタクめがけて落ちて来る。冷静にそれを見据えたナタクが両手に波動を集め、はどうだんを放ってその進路を変える様に弾く。そうやって攻撃を繰り出した直後のナタクに接近する様にBREAKクリムガンが一気に竜のオーラを片腕に溜め、動けない瞬間のナタクを狙って的確に攻撃を叩き込んでくる。

 

「―――」

 

 

 

 

 果たして天賦の才とは何だろうか。

 

 それを一言で表現するなら6V、そのポケモン、その種族における最高の個体値を保有したポケモンと表現できる。だけど世の中、それだけで終わりはしない。それはあくまでも()()()()()()()()()()()()()()()だ。そう、才能とは決して数値で語ることが出来ない領域でもある。個体としての能力が高い、振る事の出来る努力値の量が多い、そういう事も確かにあるだろう。

 

 だが天賦の才、つまりは6V個体とはその種族における一種の最強の称号でもある。

 

 6Vとはつまりその種族の頂点に立っているという証でもあり、自然な環境では生まれたとしても世界全体で二、三体程度しか生まれる事はない。かつて、まだタマゴに関する法律が整備されていない時に大量生産で6Vポケモンが環境に増えたこともあった。だがそれでも本来は希少な存在であるのは6V個体、天賦の才はその種族の本気、とも表現できる個体だからだ。

 

 その種族は天賦の個体を見る―――そしてそれが己の届ける限界、進めるべき道を見るのだ。

 

 私達のトップはあんな所まで上り詰めた。

 

 私達はあそこまで行ける。

 

 天賦の活躍を見てそれを同族のポケモン達は抱くことが出来る。それ故に時折、自らの才能を理解し、それを見て、トレーナーに売り込むポケモンがいる。通常のポケモンでもそういう上昇思考の持ち主は存在する。

 

 ―――ナタクもまた、自分から売り込んだそういうポケモンの一体であった。

 

 天賦でありながら盲目。強くなるためには犠牲が必要であり、天賦でありながら満足する事無く目を捨て去り、武を磨いた。そんな彼女を同族は理解できず、光を失ったと嘆いて失望した。

 

 それが彼女―――ナタクだった。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 ナタクに指示は必要なかった。

 

 そもそも天賦と言う領域は一種のブラックボックスだ。6Vと言う言葉では表現できない()()()が存在する。ワタルの異常な天賦ドラゴン軍団、サザラの適応力、数値だけではどうやっても表現できない領域が天賦のポケモンには存在する。それはあえて表現すれば―――仕様外の仕様とも言えるだろう。

 

 計算上、BREAK状態のクリムガンの攻撃を受ければ乱数次第だがおそらく一撃だろう。故にナタクの最優先事項は生き残る事であり、回避こそが最善だった。だがタイミング的にそれが不可能であると理解していたからこそ、

 

 ナタクはそれを受けた。

 

 メルトがやるような止めて回す動きではない。受けて、体を曲げ、そして衝撃を逃がす様に脱力し、ダメージを受けた点ではなく全身で分散する様に流し、()()()()()()()()()()()()。それは決して自分が育成で教えた事でも、ナチュラルによる覚醒で施された部分でもなく、

 

 純粋に、純然たる才覚から生じるセンスから発生する生存能力。

 

 必殺に届くドラゴンクローをそうやって無理やり威力を受けて殺し、ナタクは吹き飛ばされながらも紙一重で生存する。攻撃を受けた服の腹部は大きく破れているが、それを一切厭う事も、気にする事すらせず、当然のことを成し遂げたようにバックステップで戻ってくる。BREAKクリムガンが着地し、その黄金の視線をまっすぐ、ナタクへと向ける。それを受け、紙一重で体力を残したナタクが視線を返す。

 

「―――一撃で落とせぬのなら落ちるまで攻撃を続ける。行けます」

 

 覇気に充満させるナタクの姿を見て、まだ体力を残すクリムガンを見て、ダメージレースは負けているが―――次からの動き、一気に勝負の終了まで持っていく時だな、と判断する。

 

 状況は2:2でこちらがダメージで負けている―――が、負けは絶対にない。

 

 なぜなら、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()だからだ。




 今回で終わると思ったけど終わらなかった。たぶん残ったポケモンと手札の数を考慮すると次が最後だといいなぁ。まぁ、バトルが進むよりは余計な情報挟んで話が長引いている感じあるので、それが原因かなぁ、って。そろそろコミュも挟みたい。

本日の選手紹介
カノン
 スカウトの経緯は秘密、ウルガモスの中でも特に変わった個体でほとんど準伝等の固有種に近い個体。先祖返りで環境や空間に力を発揮するとかなんとか。だけど本人はそんな事よりもアイドルだったり踊り子だったりハイテンションだったりする。目立つ事第一。なおツクヨミを抜けばこの場で一番のおばあちゃんらしい。

クリムガン
 ポケカ産BREAK進化を発揮するキチガイ。メガシンカ出来ないポケモンにとってのメガシンカ互換とも言える現象なので単純に考えてシガナさんはメガシンカを二回やっていると考えるとすっごい楽。何が凄い、とかは特にないのだがドラゴンで全体強化と限界突破やってるんだからそりゃあ種族と個体値の超ゴリ押しよ強いという事で。受けポケでもなきゃほぼ確定確一火力というすさまじい恐怖。

 Dパにつづく

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