俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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110番道路

 ボールベルトにちゃんとモンスターボールが装着されているのを確認し、白いコートと、黒いボルサリーノ帽を被る。肩の上には何時の間にかダビデの姿がある。しっかりとポジションを確保しているらしい。荷物に関してはキャリーケースとバッグの中に押し込んで、ナチュラルに運ばせている為、一切の問題はない。何も忘れていない事を確認しつつ、ホテルのチェックアウトを完了させ、カイナシティのホテルから出る。朝の陽ざしを全身で感じつつも、不快な暑さも寒さを感じない、ワダツミとカグツチの加護の存在に感謝する。

 

 カグツチやワダツミと出会ってから既に三年が経過している。あの時は受動的に加護の効果を受けるしかなかったが、慣れて、成長した今、ある程度なら能力型のトレーナーの様に力として振るう事が出来る様になった。まぁ、万能という訳ではないが、それでも武器は増える―――チャンピオンになっても、成長は終わらない。俺も、ワタルも、シロナも、そしてレッドも、まだまだ強くなっている最中なのだ。

 

『―――しかし一番最初に合流するのは俺か。他の連中には悪いが、久しぶりの旅だ。一足先に楽しませてもらうとするか』

 

 ボールの中からナイトの声がする。再育成を通してナイトはポケモンバトルの選手としてのスタイルを驚く程に切り替えた。受けというスタイルでは亜人種の姿よりも、原生種のポケモンらしい姿の方がまだ有利だったが、そのスタイルから変わった今―――ナイトの姿は亜人種のものへと変貌している。その為、普通に人の言葉を喋る様になっている。嬉しいような、寂しいような、昔を思い出すと不思議な気持ちだが、多分コイツ、受けに戻そうとすればまた原生種へと変化すると思う。

 

『先達が合流されましたか……これは益々恥ずかしい姿を見せられませんね』

 

『アンタそう言うけど、普段と全く気配が変わらないわよ』

 

『何時も通り身も心も美しくあれば問題ないわね』

 

『今世代も濃いなぁ……』

 

 ナイトの呟きに小さく苦笑し、荷物を運びながらついてくるナチュラルへと視線を向ける。荷物持ちを任せていた最初の頃は少し歩いただけでも大汗を掻いていたナチュラルも、すっかりパシリの姿が似合うようになった、たくましい男子に成長してくれた。良きかな良きかな、そう思いながら視線をナチュラルから外し、カイナシティの外へと向かって歩き始める。

 

「で、どうやってカナズミへ行くんだい?」

 

「カイナを北へ出ると110番道路に出る。そっから103番道路へと抜ける。途中で湖が道を塞いでるけど、飛ぶか波乗りすりゃあ問題解決だからな。103番道路抜けりゃあコトキタウン、トウカ、トウカの森、んでカナズミって訳だ。まぁ、ミシロに立ちよってカナズミの前にオダマキ博士に挨拶しておくのも悪くはないだろうけどな」

 

 なお空を飛ぶで移動する、という選択肢は残念ながら存在しない。ナチュラルに世界を見せるという事を決めている為、空を飛んでショートカットするのは選択肢から排除している。一度行った事のある場所、通った事のある道を再び行かなきゃいけない場合は話が変わるが、それでも新しい土地へとやって来たのに、それを無視して空を飛ぶという選択肢はちょっと選べない。

 

 ともあれ、カイナシティを出て110番道路へと出る。

 

 少し歩けばキンセツ近くまで繋がっているサイクリングロードが110番道路の上を超える様に存在しているのが見える。空を飛べるポケモンがいると、すっかりサイクリングロードの存在を忘れてしまうのは仕方のない事だよなぁ、と一人、苦笑しながら並んで110番道路を歩く。護衛用のポケモンにボールから繰り出して横に歩かせるのは―――スピアーだ。

 

 スピアーのスティング、自分の出身地、故郷であるトキワの森出身のポケモン。

 

 ”オニキス”の生まれ故郷のポケモン。であり、現在のパーティー構成における”エース”だ。

 

「……」

 

 ボールから放たれたスピアーは無言で横に浮かび上がり、極限まで羽音を鳴らさず、ほとんど気配を殺し、ステルスしている様な状態でホバリングし、何時でも守れるように動けるように構えている。まぁ、人の手が大きく入っている地域だ、百級のスピアーが出ているだけで野生のポケモンは寄り付かないし、半端なトレーナーも戦う気は失せるだろう。

 

 肩の上でダビデが護衛は自分で十分だときぃきぃ鳴いて主張して来るが、レベル100のポケモンであっても、進化済みのレベル80や70に劣るレベルの火力しかないので、やっぱりダビデだけじゃ不安なのだ。

 

 スピアーを護衛代わりに連れながら、ナチュラルとコトキへと繋がる103番道路を目指して歩き始める。現状、そこまで必死になって焦る必要はないため、歩みのペースは普通なもので、しっかりと大地を踏みしめて前へと進んで行く。

 

「そういえばミシロへオダマキ博士に挨拶に行くって言ってるけど、何か面識でもあるのかい?」

 

「いや、オダマキ博士に面識がある訳じゃないよ。つか俺が知っている博士ってオーキド博士ぐらいだからな」

 

 そのオーキドにしたって出会いに関しては最悪だった。何せ、出会いの原因がロケット団としての活動で拉致したりだったりするからだ。まぁ、それでも今はチャンピオンという立場だ。昔の事はそれなりに流してある感じだ。ずっと拘っていては好き勝手動けないのもある。まぁ、過去は過去だ。それはそれとしておき、

 

「オダマキ博士はホウエン地方におけるポケモン研究の権威だからな。挨拶する事自体は悪くはない。こういう権力や顔の利く人達に伺いを立てる事で、顔を立ててるんだよ。そうすると別の所で交渉や協力を要請する時、”お、オニキスって良い奴だった記憶があるな”って程度には記憶に残ってくれるからな、色々と物事がスムーズに運ぶんだよ」

 

「ふーん、面倒だね」

 

「そりゃあな……お、プラスルとマイナン」

 

 草むらの方へと視線を向ければ、プラスルとマイナンが窺う様に此方へと、そしてナチュラルへと視線を向けていた。少し恐れる様な所はあるが、それでもプラスルとマイナンは友好的なポケモンらしく、草むらの中から出てくるとおずおずと言った様子で近づいてくる。その姿をナチュラルが膝を曲げて迎えると、笑顔になったプラスルとマイナンがその姿に飛びつき、足元と肩の上へとやってくる。

 

「相変わらずモテるなぁ、お前は。羨ましくなるぐらい」

 

「君だってトモダチには割とモテ―――いや、なんでもない」

 

 たぶんナチュラルは首輪を装着した異世界ストーカーの存在を思い出しているのだろう。狭い世界しか知らなかったナチュラル。彼にとって人間はポケモンを虐げる存在であり、ポケモンはバトルを通して虐げられる存在だった。だからモチベーションを持ったポケモンや、自分からスカウトされるためにトレーナーに接触するポケモン、

 

 そして愛を拗らせた結果ストーキングするポケモンなんて存在はまさに未知だったのだろう。ナチュラル、ちょっと現実を知って大人になる時だった。

 

「んで、プラマイちゃんはなんだってさ」

 

「いや、僕に興味があるからちょっと顔を出しただけみたいだよ。うん……そうだね、103番道路までは一緒に行こうか。……うん……君達の見る世界を僕を教えてほしいんだ。頼めるかな?」

 

 プラスルとマイナンが嬉しそうに跳び上がりながらナチュラルの足元を駆けまわり、そして興奮した様にそれぞれの言葉で早口に喋り始める。プラスルとマイナンの言葉も一応勉強してはあるが、流石に早口すぎて聞き取りづらい。これが怪獣言語だったら割と聞き慣れているのだが、違うグループな為、聞き取るのに失敗する―――が、ナチュラルにはちゃんと、プラスルとマイナンの言葉が伝わっているらしく、笑みを浮かべながら二匹の話す事に耳を傾け、歩いている。その姿を後ろからゆっくり追う様に歩く。ナチュラルの腰にぶら下げられている唯一のモンスターボールへと視線を向け、笑みを浮かべる。

 

「ご苦労様」

 

 ナチュラルに悟られないようにボールが小さく揺れ、そしてそしてその姿を見て小さく苦笑する。ナチュラルの護衛は―――彼のポケモンは強い。それも物凄く。ナチュラル自身はそのポケモンに対して”トモダチ”として接しているから解らないだろうが、そのポケモンはその友情に応え、静かにナチュラルを守り続けている。プラスルとマイナンを引き寄せたのも、間違いなくその縁だろう。

 

 無邪気に野生のポケモンと語り合い、そして先頭を往くナチュラルの姿を後ろからひっそりと眺める様に歩き、進んで行く。

 

 

 

 

「―――流石にひっかけ過ぎだ」

 

「……ごめん」

 

 丸一日を使って110番道路と103番道路の境目までやってくる。しかし時間はもう遅く、空は暗くなってきている。夜通し歩く理由もないのでキャンプをセッティングするのだが、キャンプ地が問題だった。別に、キャンプする事に問題があるのではない。持ち運びが便利なキャンプキットはあるし、野営をするのだって初めてではない。夜番を立てて、交代でポケモンに見張りをさせながら眠るのは旅の間に良くやる事だ。ただ今回は、

 

 少々ナチュラルが自重しなかったのが悪い。

 

 キャンプ地を見れば周りには大量の原生種のポケモンがいる。プラスルとマイナンを始め、ゴクリン、ラクライ、ライボルト、オオスバメ、コイル―――つまりは付近の野生のポケモンが大量に集まっていたのだ。そのどのポケモンもが友好的であり、ナチュラルを中心に、そのカリスマというべきものに集まっていた。流石に20を超えるポケモンが集まっているこの状況に、ナチュラルも困ったような表情を浮かべる。が、

 

「お前が呼び寄せたんだからお前がどうにかしろよ」

 

「う、ぐ……いや、それが正しいんだけどさ……」

 

「自分のケツは自分で拭く! はい、以上、お疲れ様解散! 眠くなったら適当に寝ろよ、明日も一日中移動予定だからな」

 

 中身の詰まったポロックケースをナチュラルへと投げ渡す。ただ話すのもつまらないし、集まったポケモン達に軽くポロックでも食わせてやれば、それなりに良い時間になるだろう。ナチュラルから視線を外し、焚火の近くに設置した簡易スツールの上に座る。

 

「うん、解った。じゃあ、良し皆、今夜は僕が見てきた地方の話をしようか。そこには君達とはまた違うたくさんのトモダチ達で溢れているんだ」

 

 観客であり友人である野生のポケモン達へと語り掛け始めたナチュラルの姿を横に、焚火を光源にしながら、軽く息を吐き、そしてメモ帳を取りだす。その中には自分が記憶している限りの”イベント”が記録されている。正真正銘、オニキスが保有する荷物の中で、唯一、元の世界に関連するものであり、これが最後だ。

 

 これ以外、持ちこんだものは全て処分を完了させてしまった。これも、昨日の夜から何度も何度も読んで確認し、そしてその内容を頭へと叩き込んだ―――といっても、もはや情報的アドバンテージはこのホウエンに関する物語のみになる。ここ、この一年。これを乗り切れば完全に”足が抜ける”状態となる。そうなれば、本当の意味で過去からは自由になれる。

 

 となると、

 

「こりゃあもういらねーな」

 

 焚火の中へとメモを投げ捨てて焼却する。これで、過去へと繋がる情報は、そして未来のヒントは全てなくなった。だがそれでいい、ナチュラルの姿を見れば、彼が本来辿るべきだった道筋から大きく離れて、全く別人へと変化し始めているのが解る。だけど、そっちの方が幸せなのだから、それでいいものだと思う。

 

 ―――宇宙へと上がる手段を用意しねぇとな。

 

 将来、ゲンシカイキの死線を乗り越えた後で発生する世界消滅の危機。それを乗り越える準備を同時に進めなくてはならない。ツクヨミ、ワダツミ、カグツチでは駄目だ。メガレックウザへと俺が進化させられるとは思えない。宇宙へと飛翔できるポケモンは非常に限られている。ジラーチなんかが見つかればまた話は楽なのだろうが―――奇跡には祈れない。

 

 役者を仕立てないといけないかもしれない。

 

 運命力と実力を考えればルビー、サファイア、レッド、ナチュラル―――この四人あたりが隕石破壊の為のメガレックウザのパートナー候補になるだろう。

 

 まぁ、それ以外にもフーパを捕まえて、”隕石おでまし”でもさせれば解決するかもしれない。そう考えるとフーパとの出会いも悪くはないのかもしれない。そこらへんはナチュラルの天運が呼び込んだ幸運かもしれない。

 

「ま、なんとかなるか―――」

 

 本来は自分が存在せずとも丸く収まるご都合主義の舞台だ。それでも動き回るのはチャンピオンの肩書き、そして世界に生きる人間としての義務だろう。そう思いながら焚火の中でゆっくりと燃えて消えて行く、メモ帳の姿を眺める。

 

 旅はまだまだ続く。




 スティング(スピアー)
  エース枠でメガシンカ枠。故郷であるトキワの森のポケモンならどれだけ上手く扱える? という試みで育成を開始、予想外の相性の良さにエース級まで育てられたスピアー。キョウからアドバイスを貰って幾つかの毒殺技を伝授してもらっている。夢はミュウツーをタイマンで撃破する事。

 そういえばNってポケモンと話しあうだけじゃなくて未来と過去が見えるとかいう死に設定があったよな。

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