俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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流星の集落

 朝が来る。

 

 今朝は手持ちをモンスターボールの中に入れている為、いつもの騒がしさがない。とはいえ、何時までもボールの中に入れっぱなしにしているとストレスが溜まる。そこらへんの管理もトレーナーとしての、率いる者としての管轄の範囲だ。どこかで適当なところで息抜きをさせられればいいのだが、と思いつつ起き上がり、集落の外に流れる川で顔を洗い、歯を磨き、そして朝のルーティーンに入ろうとする。

 

 朝食を用意し、それを食べ、長老からの呼び声が無い為、おそらくは話が難航しているのであろうという事を予想しつつ、あいた時間は流星の滝へと出向いてポケモンの育成に入る。最近、常々思う事が自分にはあった―――それを確かめ、そして実行に移すためにもポケモンの育成は必須だった。故にまだ話が決まらないならそれはそれで良かった。ナチュラルを連れて流星の滝、それも宇宙のエネルギーが近い所を探して歩きまわり、場所を見つけたらそこを拠点にしてポケモンの育成に入る。

 

 単純なランニングからスパーリング、特殊な訓練に瞑想も入れる。人間がやるようなトレーニングをポケモンのスペックに合わせて行い、自分が参加できるものは自分も参加する。ポケモンだけじゃなく、トレーナー自身も身体能力を必要とする環境が出来上がりつつある。それはポケモン協会からのレギュレーション変更等を見れば明白だった。

 

 ここまで連続で発生していたレギュレーション、ポケモンの能力の制限、これはすべて新しい形のバトルに対する()()だと思っている。今まではポケモンがバトルのほぼすべての要素を受け持つものだった。だがこれからのポケモンバトルは変わってくるというのが総意だった。ポケモンがメインの舞台から、トレーナーも最大レベルで重要になってくる、そういう環境を作り上げて行く風に。

 

 今までは強いポケモンをそろえ、火力をインフレさせそれでゴリ押しすれば、多少指示が雑でもどうにかなる、それが全国レベルでの基本だった。だがこれからそのままだとポケモンバトルに成長が見込めない、何よりトレーナーが地味すぎる。故にポケモンの能力を制限し、ポケモンだけで果たしていた役割をトレーナーにも負担させる。そうする事で競技の幅を広げようとしているのが現状だ。

 

 故に自分の体も鍛えなくてはならない。もう既におじさんと呼べるような年齢に入りつつあるが、それでも契約の恩寵で今も肉体は若々しさを保っている。その為、まだまだ体は酷使すれば鍛えることが出来る。

 

 ポケモンのレベルが限界を超えて、その法則が全国に広がったように、

 

 修練に終わりはない―――鍛えれば鍛えるほど人もポケモンも強くなれる。

 

 ポケモンの行うトレーニングにトレーナーが参加すればポケモンとの連帯感も生まれ、息も合わせやすくなってくる。これからのバトルはトレーナーも積極的に動き回る事を考えれば必須とも言える事だし、今まで以上に自分の体を使う事を意識し、ポケモン達と地味な、努力を重ねる様なトレーニングを続ける。

 

 そこにはナチュラルが参加する姿も見える。

 

 最初、連れ出した直後のナチュラルは人間を嫌い、トレーニングを完全に無視し、参加するような姿は見せなかった。だけど言葉で語り合うだけがすべてじゃない。それを最近では理解しているのか、辛い辛いと言葉を吐きながらもしっかりとトレーニングに参加する姿が見えている。元々超人としての素質は誰よりも持っている。その成長は凄まじく、適切な運動を与えてあげれば直ぐに足腰に肉が付いて行くのが見える。

 

 黒尾の新しいスタイルのコンバートを進めつつ、ロトムウマの進化の方向性をしっかりと調べながら育成を施して行く。ロトムウマはサザラの装備法とは違い、所謂ヤドランタイプのポケモンに近かった。サザラは天賦の才でポケモンを従え、そして操っている。だがロトムウマの方は一体化、ヤドンの尻尾にシェルダーが噛みついて一体化するという現象に近い。おそらく進化させればロトムとムウマの意識は統合されるのではないだろうか。

 

 そんな事を調べつつ、

 

 流星の滝へと、流星の民へと接触してから四日が経過する。

 

 

 

 

 四日目の午後、漸く長老の呼び出しがかかる。一部のポケモンのコンバートも終わらせていたので、丁度いいと言えばちょうどいいタイミングでもあった。いつも通りの少しだけ洒落ているロングコートとボルサリーノ帽姿で長老のテントの中へと入れば、何時もごはんを持ってきてくれる女の姿が控える様に長老の傍に、そしてそのすぐ横に三人の流星の民の男達の姿が見える。

 

「……うーん、あんまりいい機嫌じゃないみたいだね、彼らは」

 

 ナチュラルがこちらにのみ聞こえる声で呟いてくる。実際、此方を見る男達の視線にはどこか険悪な感情が見て取れる。それは純粋に認めない、という感情なのだろう。流星の長老と軽く挨拶をかわしながら、ナチュラルと並ぶようにその相対側へと座り、視線を長老の方へと向ける。

 

「いやぁ、時間がかかってしまって悪いねぇ……儂ももう少し早く結論を出してあげたかったんじゃが」

 

「それでこうやって呼び出されたという事は話が纏まった、という事なんでしょうか」

 

 そうじゃのぉ、と声を零しながら長老はパイプを口に咥え、たっぷりと吸い込んでから煙を吐き出す。そこでもう一度そうじゃのぉ、と言葉が置かれる。

 

「簡単に言ってしまえば()()()()()()()()()んじゃ」

 

 その言葉に男達が当たり前だ、と言葉を吐きながら頷く。

 

「他所の者がいきなり”縁なんて一切ないが家宝が欲しい、譲ってくれないか?”と言われてそれを許可する愚か者がどこにいる。しかもこれは代々我々の一族にて継承され、そして返却すべき至宝だ―――ほかの地方のチャンピオンだと名乗ってはいるが、それすら信じていいか怪しい。貴様にくれてやるようなものではない。我が一族でその時が来るまで守り続けるのが最善だ」

 

「何より儂らはガリョウテンセイを竜神様へと返却するために存続してきた。そしてそのために常にドラゴンポケモンと心を通わし、慢心もする事無く修練に励んできた。ここ数日でお前の動きを見てきた。修練を欠かさないその心得は見事なものだ。ポケモンも良く鍛えられている。それだけは認めてもいい。だがそれとこれとは話が別だ。責任と責務の問題だ。余所者の出て来る話ではない」

 

「……と、言う事じゃ。儂も別に手放しでガリョウテンセイを教えようという訳ではない。伝承者の目から見てどんな人物か判断し、信じられるかどうかを試し、その上で儂らの利益を提示できるかどうかで話を決めようかと思っておったのじゃが……存外儂よりも若い連中の方が意固地になって動かんからどうしようもない」

 

 そういう訳で、と長老が言葉を置き、間を一拍挟む。

 

「―――こうやって儂らの処へと来たからにはガリョウテンセイを引き出すだけの交渉材料を用意しておるんじゃろう? ここ数日、ここにいる間に焦らず時間を過ごすのは見えておる。その余裕、儂にゃあ少々気になる」

 

 やはり、と言うべきかこの数日はどうやら監視されていたらしい。となるとあの美人が何度も料理を運んで来たりしていたのは監視の為だったのだろうか。そうなるとハニートラップを思い出して少々悲しくなってくる。勘弁してほしい、男二人旅―――それも子供と一緒だとそういう機会がないから地味に辛いのに。まぁ、それはともあれ、ここからは純粋な交渉だ。提示できる手札を切るべきだろう。

 

 軽く息をのみ、さて、と言葉を置く。

 

「うーん、流星の民の和をもしかして乱しちゃいましたかね? いやぁ、そんなつもりは一切なかったんですけどね……」

 

「……白々しい」

 

 小声で呟くナチュラルの脇腹に軽く肘を叩き込んでおく。ナチュラルが土下座の態勢で悶絶している間に、話を進める―――まぁ、いきなりガリョウテンセイが欲しい、と言えばこうなるのは()()()()()()なのだが―――。

 

「それに俺だって決して悪意でガリョウテンセイが欲しい、なんてことを言っているわけじゃないんですよ? 空の奥義、ガリョウテンセイ。デルタストリームを使って気流を()()()()()した大空の複数の層を再現した攻撃―――そりゃあどんな隕石だって耐えられる訳がない。レックウザのスペックで再現すればおそらくあらゆる生物をその耐久力を無視して粉砕することが出来る。その一撃で殺せなくてもガリョウテンセイの後に残るのは超重濃度の酸素―――つまりは毒。どんな生物だってそりゃあ死ぬ」

 

 昔、ガリョウテンセイを再現しようとしたことがある。だがアレが専用技である所以はデルタストリームを必要とする点にある。デルタストリームで気流を生成し、それがガリョウテンセイを生み出すのだ。だからこそガリョウテンセイは奥義、レックウザしか使えないものとなっている。おいかぜの応用でデルタストリームの再現とガリョウテンセイの作成を一度だけ行ったことがあるが、

 

 結局、不完全で全く駄目だった。

 

「貴様……なぜそこまで知っている!!」

 

「―――それが必要になる事態が将来的に発生する」

 

「っ!?」

 

 怒号を掻き消すように素早く情報を与え、思考を一瞬だけ停止させる。そこから毒を流れ込ませる様にゆっくり、しかしハッキリと通る、解りやすい声色で言葉を続ける。人間、感情的になった瞬間が一番つけ込みやすい瞬間でもあるのだ。

 

「そう、グラードンとカイオーガの復活、これが予知されたんですよ。おそらくはこの地を、ホウエン地方を未曾有の危機が迫っている。もし、古代、ホウエン地方を沈めかけたあの二体がゲンシの姿で蘇ったのなら―――それはもう、空を駆ける竜の神に祈り、その力を借りる必要があるとは思いませんか?」

 

 男衆の声が来る。

 

「だとしたら尚更貴様の問題ではなく我々の管轄だろう! いや、貴様―――我々では実力不足だとでも言いたいのか……!?」

 

 その言葉に唇の端を持ち上げる。口に出さず、それだけで男の言葉を肯定する。実際に言えばこれは安全策―――いや、気遣っているものなのだから。グラードンとカイオーガ、ゲーム内では被害は微少だったが、アレがこの世界のスケールで蘇ったとしたら、おそらく百人や千人単位では足りないレベルで死者が出る。ルギアやホウオウだってゲーム内のデータではもっと小さかった。だが現実に見た彼女たちは理解を超える耐久力と力、そして巨体を誇っていた。

 

 舐めたら虐殺される。

 

 舐めなくても蹂躙される。

 

 全力を尽くしても死ぬ。

 

 それが伝説だ。それに立ち向かうのはごく少数の選ばれた存在、そして生き残るだけの力を持ったトレーナーだけでいい。言い方を悪くすれば―――有象無象が増えた所で死人を増やすだけなのだ。

 

「チャンピオン様や……主は一体どこまで知っているんだい?」

 

「ほぼ全部、と言えば満足でしょうか」

 

「そしてその上で吹っかけようとしているんだから大したタマだよ、お前さんは。育てた奴が相当捻くれてるのか……いや、それよりも今はガリョウテンセイだったね」

 

 長老が言葉を区切る。が、即座に男衆がそれに続く。

 

「長老! ここまで余所者に言われて引く事は男の恥だ!」

 

 だろうね、と長老が呟く。唯一残された片目はこちらへと向けられており、やり口が少し下衆だ、との言葉が聞こえて来る。仕方がない、生憎とこの方法しか知らないのだ。それに正直、まだ生易しい方だと思っている。

 

「ま……しょうがないね。ここまで露骨に実力不足だからガリョウテンセイだけ渡して引っ込んでろ……そう言われて大人しくして居られるほど儂も心が広い訳じゃない。相手はポケモントレーナー。そして儂らもガリョウテンセイの防人としてポケモンと共に生きてきた。となればやる事は一つしか残ってないじゃろう?」

 

 長老の言葉にリーダー格の男が頷き、視線を此方へと向けて来る。

 

「―――勝負だ! 実力不足だと抜かすその口を縫い付けてやる!」

 

「受けて立とう。チャンピオンたる者、常に頂点に立つ者、いついかなる状況であろうと勝負からは絶対に逃げない―――そして敗北しない。しゃらくさい、三人同時でかかってこい」

 

 チャンピオンとは頂点に君臨する絶対者である。

 

「全員纏めて蹂躙してやる」

 

 故に、チャンピオンには逃亡もなく、敗北もない。どんな状況、環境、条件、レギュレーション、

 

 そんな小賢しいものが存在しようとそれでも勝利するからこそのチャンピオンなのだ。




 そろそろ忘れそうな読者向け簡易手持ち解説
黒尾 最近退化した元黒キュウコン
ナイト 一期では受けだったがアドバイザー、亜人種に転向した
モビー・ディック 巨大なホエルオー。趣味は昼寝
メルト 最大サイズヌメルゴン。受け
カノン ハイテンション系ウルガモス。天候適応に特化してる
ミクマリ ナルシスト系ミロカロス。好きなことは自分を磨くこと
スティング トキワ産スピアー。手持ちで一番殺意が高く相性が良い
ナタク 盲目6Vコジョンド。目指せ一撃必殺の境地
ツクヨミ 早くジョウトに帰って
ピカネキ テロのエース。ライバルはゴンさん(ネタ的な意味で
ロトムウマ 妙に相性の良いロトムとムウマのコンビ。ROCK!
ナチュラル 人間。生贄。苦労人。最近キレ芸を覚えた
氷花 作者に忘れられてた子、一番料理が上手。だが影は薄い
ダビデ 超小型バチュル。作者どころか読者にさえ忘れられる

 こう並べると結構手持ち多いなぁ……。

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