俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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流星の滝

 歩くこと更に半日―――漸く流星の滝と呼ばれる岩山、洞窟内部へと通じる入口を見つける。普通の洞窟は秘伝技のフラッシュがないと非常に見通しの悪いところとなっているのだが、ここ、流星の滝は違う。隕石の降り注いだ影響で地質そのものが変化してしまったのか、流星の滝の内部は常に昼間の様に明るく、洞穴内部を流れる水流のおかげもあって常に新鮮な空気が流し込まれ、環境としては非常に良い場所として出来上がっている。

 

 戦闘用に出しておくポケモンは入れ替えておく。スティングとピカネキを戻し、その代わりに再びロトムウマのコンビを外へと出す。警戒用にまだ出そうかと悩んだが、流星の滝の内部は洞窟―――ダンジョンとも言える構造になっている。複数のポケモンを同時に出して走り回るには少々心もとない空間になっている。

 

 故にここで一人が同時に出せるポケモンは一体が上限だろう。

 

「っつーわけで、ほろびのうたは禁止な。反響してここが地獄になる」

 

「!?」

 

 ギュィィン、と抗議の音を鳴り響かせるロトムウマを黙らせつつ、中に入る。やはりロトムウマのレベルが低いせいか、野生のポケモン達の視線がこちらに向けられているのが感じられる。まぁ、別に経験を積む為に戦っても問題はないのだが―――ロトムウマは性格的に調子に乗りやすい。あまり勢いづけると爆音で演奏を始めるかもしれない。そこらへん、要しつけというところだろうか。

 

「で、ここからはどう進むんだい?」

 

「あぁ、流星の滝の奥に流星の民の集落が存在するらしいからな。そっちへとこっちからお邪魔させてもらうさ。特にアポとかとってないから完全に突撃だな。まぁ、地図はポケナビに入れてきてるからそこら辺は問題ないわ」

 

「じゃ、安心して歩けるね」

 

 ポケナビにマップを表示させながら返答する。どうやらこの道は頻繁に使われているらしく、足元は踏み均した形跡が存在している。おそらくは流星の民が外に出るのに使っているからだろう。人が使った痕跡をたどっていけば、多分集落に到着するだろう。そんな事をするまでもなく、地図があるのでそれを見て進めばいいのだが。

 

「ま、とりあえず前に進もうか。夜になる前には到着したいところだしな」

 

「ふぅー、君って結構体力あるよね」

 

 ナチュラルの言葉に笑い声を返しながら奥へ、集落へと向かって歩き出す。奥には梯子が見える―――つまりは人の手が入っているという事だ。奥へと進み、集落へと近づけばもっと楽になるんじゃないかな、とこの先の道を軽く予想しながら、黙々と旅を続ける。

 

 

 

 

 流星の民の集落へと向かう道は途中からやや整備されたものになってくる。と言っても明確に道路があるわけではなく、踏み均された足元が道として機能している、というレベルの話だった。そしてその道が流星の民の縄張りだという事を主張しているのか、野生のポケモンが襲い掛かってくる回数は極端に減っていた。その為、流星の滝を抜ける道のりはそれなりに快適で、スムーズに進んだ。自分としては順調に進んでいたが、

 

 比較的に平地等の方に慣れていたナチュラルとしては結構苦しかったようで、奥へと進めば進むほどその足が重くなってゆくのが見えた。どこかで休憩を入れるべきなのかもしれない。そう思いながらもナチュラルは足を止める事も文句を言う事もなく、それこそ歩くのを楽しむように進んでいたため、此方からは干渉する事無く流星の民の集落を目指した。

 

 梯子を上り、外へと出て、そして山肌を歩んで行くこと暫し、

 

 ―――山肌にテーブル状に広がる空間と、テントなどで形成された集落を発見する。切り立った崖の上から眺める様に流星の民の集落を眺め、それから既に夜になってしまった空を見上げる。結局また一日移動だけで潰してしまった。そう思いながらも振り返り、ナチュラルに発破をかけて前へと進む。それでも集落へとたどり着くには見えてから更に一時間が必要とされた。

 

 漸く集落の入り口へと到着するとナチュラルはさすがに疲れたのか、すぐ近くにあった岩を椅子代わりに座り込んでしまった。その姿を見て苦笑しつつ、視線を集落の方へと向ける。流星の民の集落は本当に集落と呼べるもの―――民族が昔の生活をそのまま維持しているような、そんな外観の場所だった。大きなテントを中心とした住居を建てているが、その奥にチラホラと文明の利器が見える。完全に質素な生活を送っているわけではないようだ。

 

「ま、とりあえず偉そうな人を探すか。そっから話をつなげればいいし」

 

「僕は少し疲れたからここで休んでるよ……」

 

「じゃあ介護にピカネキをつけとくな」

 

「休みにならないっ!」

 

 ナチュラルの悲鳴を無視してピカネキを繰り出し、ロトムウマをボールの中へと戻す。ナチュラルが慈悲を求め始めるが、やはりこれを無視して集落の中へと踏み込む。そこには事前に資料で見た通りの、軽装の民族衣装姿の人間がチラホラと見える。そしてこちらが向こうへと視線を向ける様に、向こうからも視線が返ってくる。ここまで来るのに結構な道を歩き、入り込んでいるところもあった―――正直、ここに目的がなければ来る人はいないだろう。

 

「おろ、行商人のあんちゃんじゃねぇな。あんちゃん、俺らの集落へようこそ」

 

 此方から声をかけようかと思ったが、先に流星の民の子供に話しかけられた。

 

「ん? 何? お兄さん? やっぱり若く見えちゃう? もう三十路前なのにお兄さんってテレちゃうなぁ……やっぱ若々しさは隠せないものか!」

 

「お、オレそこまで言ってない……」

 

「心の中で思ったのならそれは発言したことも一緒だよ」

 

「五秒で理解したわ、こいつやべぇ奴だ。母ちゃん! キチガイだよ! キチガイがいるよ!!」

 

「五秒で人をキチガイって断定して広めるお前の方に才能を感じるよ。まぁ、しゃべる事の出来る相手が来るならそれでいいんだけどさぁ……」

 

『どうどう』

 

 ボールの中の手持ちに窘められつつ、少し待っていると少年が母親らしき人物を引っ張ってくる。その表情は最初、困惑していたものだが、此方の顔を確認すると、少し驚いたような表情を浮かべる。

 

「貴方は……セキエイチャンピオンの」

 

 少し驚いた。ジョウトから離れたこの地、しかもこんな辺境でチャンピオンとして名が通っているとは思いもしなかったからだ。

 

「ん……俺を知っているのか」

 

 えぇ、と母親らしき女性は頷いた。

 

「僅かながらルネの一族だけではなく、フスベの竜の一族とは交流がありますから……ワタル様からキチガイ染みたフライゴンを使うキチガイ染みた新チャンピオンが登場したと数年前に笑いながら」

 

「親子そろって人の事キチガイキチガイ言うのやめない? チャンピオンだって一応は人間なんですよ?」

 

「また御冗談を」

 

「しまいにゃあキレっぞ。おい」

 

 再びボールの中の仲間から落ち着け、との言葉が戻ってくる。唯一、ツクヨミだけが大爆笑しているからアイツはあとでおしおきだよなぁ、そう思いつつも軽く咳払いをし、頭の中をリセットする。とりあえず、と言葉を置く。

 

「―――一番偉い人物と話がしたい。長老か或いはそれに類する人物はいないのか?」

 

「今はちょうど暇―――というか死ぬまで暇ですし長老のテントまでご案内しますね」

 

「お、おう」

 

 流星の民、全体的にエキセントリックな何かを感じられる。なんというか、言葉にしづらいなにかを感じるのだ。なにかを。さすが滝の中でひっそりと暮らしている民族である、秘境で暮らしているとキャラまでおかしくなるのだろうか。ここでならピカネキを野生に解き放っても自然に馴染んでいそうな気がする。

 

 振り返り、ナチュラルとピカネキの方へと向ける。

 

 流星の民の子供たちがピカネキに集まり、ダブリラリアットで広げた両腕の上に数人乗せ、ゴリチュー・ゴー・ラウンドとして子供の遊び場と化していた。そこに乗る子供たちは楽しみながらも悲鳴を混じらせ、そして白目を剥いている様子から確実にブラックアウトしているのに、絶対に降りようとはしない。

 

 それを見て流星の民という存在に対して心底恐怖を感じ始めた。

 

 こいつらもしかしてかなり人間としてヤバイ連中なのでは。

 

 

 

 

「最近の子供はアグレッシブすぎて儂にゃあついていけん」

 

「あ、良かった。アレがスタンダードじゃないのか」

 

 集落の中でも一際大きいテントの中、その奥の床に敷かれたカーペットの上に座る老婆の姿がある。特徴的な民族衣装を何枚も重ねて着たような恰好をする老婆は口にパイプを咥えており、その片目はもう開くことが無い様に見え、閉じている。ただし開いている片目はこちらへとしっかりと向けられている。ともあれ、まずは圧縮して保存しておいた、ジョウトから持ってきた箱に入った土産を取り出す。

 

「あ、此方ジョウト、ウチの近くのモーモー牧場の牛乳です。新鮮な状態で保存しているので今でも絞りたての味の筈です。で、こっちは故郷のトキワの銘菓、トキワリーフパイです。個人的にその牛乳でミルクティーしながらパイを食べると非常に充実したおやつの時間になります」

 

「あ、これはこれはどうも御親切に、歳をとって動けなくなってくると食べるのと煙草以外には楽しみがなくてのぉ……」

 

 嬉しそうに土産を長老が受け取ると、それを近くで控えていた侍女らしき人物へと渡す。台所で茶を入れる姿を横目で確認しつつ、視線を長老の方へと戻す。長老が無言でパイプで対面側、カーペットの敷いてあるところを示すため、そこに座れ、という話なのだろう。遠慮なく座らせてもらおう。

 

 それで、と言葉が置かれる。

 

「儂ゃぁもう若くはない。腹の探り合いとかそういうのはもう疲れる歳でなぁ……それで面倒じゃない話ならいいんじゃが、セキエイリーグのチャンピオン様がこんな辺境へいったいどのような用事じゃろうかのぉ」

 

 長老の言葉に目をつぶり、数瞬の時を置いてから返答する。

 

「此方もあまり其方の手を煩わせるのは本意ではありませんから単刀直入に言います……ガリョウテンセイ―――」

 

 その名を言葉にした次の瞬間、殺気とも言えるものが一瞬で背後から突き刺さった。それに反応し、袖から短刀を、そしてボールの中からポケモンを放とうとした瞬間、カツン、と長老がパイプを床に叩き、響かせる音が聞こえる。それが殺気を止めた。それに応じる様に此方も、刃を手放し、手をボールから遠ざける。

 

 長老へと意識を戻せば、少し、驚いたような表情を浮かべている。

 

「ガリョウテンセイ……それを教えて頂きたい」

 

 その言葉に長老が声を零した。

 

「驚いたのぉ……天空の奥義ガリョウテンセイ。それは我が一族にのみ継承され、そして隠されてきた奥義の名前だ。ホウエンで、それもルネの一族やフスベの一族なら知っている可能性もあるもんだが……さすがにセキエイのチャンピオン様が知っているとなると驚くし、気になるのぉ」

 

 純粋に驚くような、そして思案するような表情を浮かべる長老に対して、言葉を叫ぶ存在がいた。

 

「駄目だ駄目だ! 駄目に決まっているだろう! よそ者にガリョウテンセイを教えるだと? ふざけるな!」

 

 そう声を荒げて言うのは先ほどの殺気の主の一人であった。後ろへと視線を向ければ頭にバンダナを巻いた男が三人見える。太った男、髭の濃い男、そして前髪で完全に目が隠れている男だった。長老の護衛なのか、鋭い視線と屈強な肉体を持っているのが良く見える。代表する様に髭の濃い男が駄目だ、と再び言葉を口にする。が、それを叱る様に長老が言葉を出す。

 

「これ、客人に対して失礼じゃぞ」

 

「長老、ガリョウテンセイは流星の民の使命として受け継がれてきたもの……竜神(レックウザ)様へと儂らが返すべきものだ。それに奥義はそれ単体でも危険なものだ。プライド抜きにしたって許せるものではない!」

 

「それを判断するのはお主じゃなかろう! それは儂、或いは伝承者だ!」

 

「長老!」

 

 主張してくるような言葉に、長老は溜息を吐き、視線を此方へと向けて来る。

 

「こうなってはまともに話す事も出来そうにないのぉ、儂ももうちょっと色々と話をしたかったのじゃが……まぁ、また後で来なされ。その時はもうちょっと込み入った話をしようかのぉ」

 

「……えぇ、解りました」

 

 ここで教えてくれると確約してくれない感じ、長老は完全にこちらの味方という訳でもなさそうだ。解っていた話だが交渉の方は少々難航しそうだ……だからと言って自然の中で暮らすこの人たちにはポケモン協会やリーグの威光は利きそうにない。或いはワタルがいれば話はまた別なのかもしれないが、

 

 現在ゴンさんを連れているあのドラゴンキチガイは一体どこにいるのだろうか。

 

 臨時の休息地を確保する為にも、軽い溜息を吐きながら長老のテントを出た。




 という訳で流星の滝、流星の民。実際奥義教えろよ! って言われてもすごい渋るよなぁ、という感じで。そしてピカネキに順応する流星の民のキッズ、将来が非常に恐ろしい。

 そろそろバトルですかなぁ、という所で

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