俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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隕石跡地

 朝、段々と空気が温かくなってくるのが解る。早めに朝、目を覚まし、寝袋の中から静かに体を抜け出す。横で寝袋にまだくるまっているナチュラルを起こさないように、そしていつの間にか腹の上に覆いかぶさるように眠っていたワルポケ共(ロトムウマツクヨミ)を退かし、静かにテントの外に出る。六人入っても余裕があるほど大きなテントはカナズミシティを出る前に、デボンコーポレーションから貰ったものであり、ポケモンマルチナビ同様先行して頂いたものだ。そんなテントの外へと出れば、テントの前の空間、そこにある切り株の上にナタクが精神統一するかのように座っているのが見える。

 

「夜番、ご苦労」

 

「いえ、元々明るかろうが暗かろうが変わらない身ですし―――あ、ここは笑う所です」

 

「ブラックすぎて笑えねぇよ」

 

 ナタクは盲目のコジョンドの亜人種だ。目という感覚器官を失ってしまった天賦のコジョンド。それ故に残った感覚を発達させ、そしてルカリオがそうする様に生物の波動を感じる様になり、それをセンサー代わりにしている。その為、朝、昼、夜、どんな場所でも関係なく彼女には世界が見えているのだ。だからこそ夜番として彼女程頼もしい存在はいない。どんな暗闇の中でも彼女は常に敵を把握することが出来るのだ。

 

「まぁ、休み入っていいぞ。ボールに入っておくか?」

 

「いえ……少し体を動かしてからボールで休ませてもらいます。まぁ、氷花が朝餉の準備をし始めているようですし、寝るのはその後からでも問題はないでしょう」

 

「あいよ、お疲れさん」

 

 欠伸を漏らす事も、眠気を一切見せる事もなく切り株から降りて鍛錬に入るナタクの姿を見て、やはり姿は人間に近くてもポケモンは強いなぁ、と実感する。

 

「いえいえ、私達からすれば主の方が遥かに強く、頼もしく、そして恐ろしくも愛しく映りますとも」

 

「……」

 

「いえ、心を読んでいるわけではありません。ですが修練を重ねれば波動を通して感情や考えの揺れというものは見えてきます……これをルカリオ達は自然と、息をする様に行え、視力と共に感じられると思うと嫉妬してしまいますね」

 

「はぁ、増々隠し事が出来なくなってきたなぁ……まぁ、基本的に嘘をつく必要のない人生を送っているし、問題はないんだけどな!」

 

 ナタクが小さな笑い声を零して再び鍛錬に戻ると、テントの方が段々とだが騒がしくなってくるのを感じる。振り返れば大きな塊になる様に体を丸めていたメルト(ヌメルゴン)が欠伸を漏らしながら体を大きく伸ばす姿が見え、朝に圧倒的に弱いスティング、ミクマリ、そしてカノンのトリオが顔を洗いに近くの泉へと向かってゾンビの様にのろのろゆらゆらと体を揺らしながら並んで行く姿が見える。砂浜の方へと視線を向ければ海岸に半身を打ち上げたモビー・ディックがしおふきで朝の挨拶を交わしてから朝食の為に海へと潜り、ピカネキがサーフボードに乗ったなみのりピカチュウ―――否、なみのりゴリチュウ状態で通りすがりのペリッパーを生で食べようと捕獲作業中だった。

 

 もうピカネキの事は忘れよう。アレはきっとポケモンじゃない。

 

 そんな事を考えつつ朝食を待つためにテントの方へと戻ろうとすると、足元からポケモンの鳴き声が聞こえてくる。下へと視線を向ければ、黄色いポケモンの姿と、そして黒いポケモンの姿が見えて来る。一匹目は小さなバチュル―――ダビデの姿だ。足に跳び移ると、そのまま定位置を求める様に一気に体を駆けあがって肩の上へと移動し、満足げな鳴き声を零す。そして二匹目、足に身を摺り寄せているのは―――黒いロコンだ。

 

「おはよう黒尾。良く眠れたか?」

 

「こぉーん」

 

「そうか」

 

 再育成に伴い、レベルをリセットするだけではなく、特性等をアップデートするためにも一回黒尾には退化してもらい、ロコンへと戻ってもらった。懐かしいロコンの姿は遥か昔を思い出させる。このころはまだ人の姿をしていないし、すごく弱くて、そして言葉を理解するにも一々辞書を取り出して調べる必要があった。今ではそんなものがなくても、大体解ってしまう。本当に、長い付き合いだと思う。

 

 黒尾を抱き上げ、朝食の準備を進めている氷花の方へと向かう。簡易的な竈がそこには設置されており、小さな台所で人間用の朝食、そしてポケモン用の朝食を分けて用意している。人数的に量はかなり多いはずなのだが、浮遊霊を呼び起こし、それをお手伝い代わりに使役して、一人で数人分の活躍をしているのが見える。

 

「あ……おはようございます。朝食の方でしたらもう暫しお時間を。……つまみ食いは駄目ですよ? ダビデもそこはしっかり見張り、食べそうだったら軽めに忠告する様に」

 

「ちゅらちゅら」

 

 その場合は容赦なく10万ボルトを叩き込んできそうだなぁ、と思い、軽い笑い声を零しながら、急に慌ただしくなったテントの方へと視線を向ける。テントの中から飛び出すように寝間着姿のナチュラルの姿が出現し、此方へと視線を向けて来る。

 

「アレ、どうにかならない!?」

 

 ナチュラルが指先をテントの中へと突きつける。その先へと視線を向ければテントの中にいつの間にか本格的なドラムのセットを構えたツクヨミ、そして演奏を始める気満々のロトムウマの姿が見えた。アレに起こされたのか、と思うと軽くナチュラルに同情したくなる。朝食の前に我がパーティーの問題児たちに軽く説教を入れなきゃならない。その行動を実行に移す前に、軽く空を見上げる。

 

 本日も晴天―――美しい青空がどこまでも広がっているのが見える。

 

 いつも通りの騒がしい朝、いつも通りの馬鹿騒ぎ。

 

 こうやってまた、一日が始まる。

 

 

 

 

 キャンプ地から更に北へと向かって進んでいくと、やがて森、草むらの姿はなくなっていく。ここまで来るともはや水路を通る必要はなく、モビー・ディックをボールの中に戻して徒歩で再び移動し始める。そうすると、足元は段々と荒地へと変わっていく。荒地、とは表現するが大地は生きている―――と言うよりは命であふれている。まるで磨かれた大理石の様に白く、美しい大地、だがそこに芸術の様に刻まれているのは()()()()()だ。

 

 ここは流星の滝の最外周部―――かつて、大昔に隕石が降り注いだと言われる場所。

 

 ここを歩くナチュラルがどこかくすぐったそう、痒そうにしている姿は良く理解できる。隕石から得られるパワーは地上で受けられるエネルギーとはまた質が異なっているのだ。この流星の滝はかつての隕石の出来事により、ホウエン一、いや、この世界で一番宇宙のパワーを集めている場所だと言っても良い。その為、隕石のエネルギーが大地に染み込んでいると表現しても良い場所になっている。

 

 長い時を超えてその力も弱まっている。しかし外付けで能力を補っている己であっても感じられるほどに、この場所にある宇宙の力は強い。

 

「……こういう場所で育成すると普段とは違う進化や変化が発生するんだよな……っと」

 

 歩く先にクレーターがあった。それを避ける様に歩きながら、ナチュラルにそう告げる。それを聞いたナチュラルがあぁ、そうか、と声を零す。

 

「ホロンフィールド、だったかな」

 

「お、ちゃんと覚えててくれたか。そうそう、ホロンフィールドだ。ポケモンってのははかいこうせんぶっ放して生きているのに、なぜか微弱な電磁波を受けると妙な変化をおこしたりする、面白い生き物だ。ホロンフィールドはその中でもかなりおもしろい変化をポケモンにもたらし、ホロン地方全域に発生しているホロンフィールドと呼ばれる磁場、環境はポケモンを全く異なる方向へと進化させる。そしてその因子を保有するポケモンをデルタ種と呼ぶ。ここが発祥の地だからか、デルタ化できるポケモンはこのホロン地方の特性を、デルタ因子を保有しているわけなんだが―――」

 

「大丈夫、ついていけてるよ」

 

 割とマニアックというか研究者向けの話なのだが、やはりナチュラルは全体的に賢い青年だ。完全に一回で覚えているのだろう。話を続ける。

 

「とりわけ、ポケモンの進化って現象は環境や状況に対する適応という行為だって言われている。ポケモンがレベルアップを通して新たな姿へと進化するのは戦闘に適した姿へと己の姿を進化させるため―――それは本来世代を重ねて得る筈だった行動だけど、どうにもポケモンはそのセオリーを無視して世代を飛び越えて姿を変えられる訳だ。だけどそのむちゃくちゃさが不安定だって言われている」

 

「進化というプロセスは不安定、それ故に別の因子によって影響を受け、様々な変化を見せる……という事だね」

 

 正解だ、と言葉をナチュラルに向けつつ、野生のズバットの群れの出現を正面に見る。手を軽く前へと向かって振るえば、後ろの方でなぜかブリッジしながら移動を続けていたピカネキがそのまま、ブリッジの体勢のまま超高速で大地を這うようにズバットの群れへと向かってでんこうせっかを使いだす。それを見て一瞬で発狂したズバットがちょうおんぱを乱射し、群れ内でちょうおんぱが鳴り響いた結果、ピカネキとズバットの群れによるバトルロイヤルが開幕した。

 

 絵面があまりにも容赦なさすぎる。欠片も慈悲がない。なんなんだこれは。

 

「あぁ、だからこういう場所でポケモンを育成すると普段とは違った進化や特性を得たりするんだよな」

 

「あのさ、オニキス君、今さ。凄い育成キチガイの顔をしているよ」

 

 知ってる。物凄く良く知ってる。自覚している。でもこういう場所で育成することが出来れば、多分楽しくなるんだろうとは思っている。それに流星の滝と言えばある種の聖地でもあるのだ。やはりここで黒尾とロトムウマのコンビを育成したい。両方とも具体的なプランはあるのだが、この土地の後押しさえあればもっと愉快になると思うのだが―――まぁ、時間は有限なのだ。

 

 非常に残念ながら。

 

「しっかしズバットが出て来るって事は大分流星の滝に近づいたな。ポケモンの生息地が変わってきてるか……ちょっとだけ警戒上げていくか」

 

 上へと視線を向ければ、上空で警戒を続けるように黒い点が―――遠くを見渡せるようにスティングが飛行し、索敵を続けている。荒地、いわば、山肌となってくると、水路を進んでいた時よりも隠れられる場所は多くなってくる。一応カナズミでの襲撃を警戒しての事だが……まぁ、やらないよりは遥かにマシだろう。

 

 そんな事を考えている間にピカネキとズバットの乱闘が終了していた。満足そうな表情でその場で勝利のブレイクダンスを踊るピカネキをポケモンマルチナビで撮影し、それを一斉にジョウトの知り合いとダイゴへとテロメールとして送っておく。

 

「やべっ、シルフ社長に送っちまった……心臓ショックで死ななきゃいいんだけどなぁ……」

 

「僕、ブレイクダンスで人を殺すトモダチとか見たくも知りたくもないんだけど」

 

 だがピカネキにはまだまだ可能性を感じるのだ。この先もきっと芸の幅を広げながら活躍してくれるだろう―――主にテロ方面で。今、猛烈にくだらない事をしていると自覚しつつ視線を先へと向ける。美しい、芸術の様な大地を台無しにするように点在するクレーター、その遠い先に山肌が見える。

 

 まだ、この段階では流星の滝へと入れる洞窟の入り口は見えない。流星の民も洞窟を通って、そのさなかにある山の中の空間に暮らしているという話だ。……画像とかはないためイメージ的には洞穴式住居なのだが、連中はいったいどうやって生活をしているのだろうか。そこらへん、気にならなくもない。

 

「っと、今度はゴルバットか」

 

 ズバット達の怨念を背負ったゴルバットの集団がやってくる。完全にピカネキにのみその視線を向け、リベンジの様子である。高度的に見えないスティングを呼び戻そうかどうかを一瞬だけ考えたが、ピカネキが割とやる気満々で中指をゴルバットへと向けているので、このまま続行させるか、と判断する。

 

 近くにある岩を握り潰し、次は貴様だとアピールしているからきっと大丈夫だろ。

 

「さて、流星の滝に到着できるのは今夜ぐらいになるか? ピカネキとロトムウマのレベリングを考えて適度に入れ替えながら進みますか」

 

 レベル自体は手持ちのポケモンとスパーリングさせればどうにかなる。だが問答無用、ルール無視の野生の環境で積むことのできる実戦経験だけはスパーリング等ではどうしようもない。ここで鍛えられる野生の勘、或いはセンスとも言えるものは生来の物であり、育成で伸ばすのは難しい領域だ。故にどうにも、野生のバトルは大事だ。

 

「さて……流星の民、どうなってるか……」

 

 期待半分、恐怖半分。先の事を考えると少しだけ鬱になりそうだが、それをこらえながらも先へ、バトルを続けながら流星の滝へと向かう。




 読者も作者も忘れそうだったのに手持ちフルメンバーを出して冒険中、日常の朝。夜、襲われるかもしれないから夜番は必要だし、アサメシは美味しいものが食べたいから朝食を作るやつだっている。朝は苦手って奴がいれば、ペリッパーハントするバケモンもいる。

 そう、バケモンもいる……。バケモン……? まぁ、次回流星の滝という事で。

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