俺がポケモンマスター   作:てんぞー

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カナズミ警察署

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ー……」

 

 息を吐き出しながらソファに沈む。腹の上に容赦なく小さなツクヨミの姿が倒れこんでくるが、それを無視して肺の中から息を吐き出しきる。窓の外へと視線を向ければ既に夜が明けており、朝日が射し込んでいる。いつの間にか朝となってしまった。そりゃあ眠いし疲れるわけだ。そんなことを考えながら片手で顔を覆い、顔にかかる日光を遮断する。欠伸を漏らしながら視線を中へと戻し、そしてここ、

 

 カナズミ警察署内へと戻す。そう、ここはカナズミシティにある治安を守るための警察署。場所はその応接室だが―――一時間ほど前までは完全に取調室の方にいた、という事実がそこにはある。ソファの対面側には応対をする為か年老いたジュンサーの姿があり、彼女がこの警察署の署長であるというのが自分と相対している、という事で理解できる。

 

「すみませんねぇ、今度からは若いものに有名人の顔はしっかり覚えておくように言っておきます」

 

「いや、いいんですよ……ここ、ホウエンですし。まさか事情と身分を説明しようとしたら酔っ払い扱いされるとは夢にも思わんかったけどな……!」

 

 当たり前の話だが秘伝技等を含む一部を除く市街地での技の使用は法律によって禁止されている。その秘伝技だって許可がないと使用する事は出来ないようになっている。ごくごく当たり前の話だが、街中で技を使ってしまえば、ジュンサーからしてしまえば捕まえなくてはならないことになる。しかも状況を客観的に見て、襲撃者がどうあがいても自分の様に見えてしまうと、そりゃあもう仕方がないというレベルになってくる。

 

 実際、チャンピオンになる以前はロケット団に所属していたわけだし。ただ、今回はそれ以前に顔が知られていなかっただけ、という非常にアレな話なのだが。しかしこうやって署長のジュンサーが来なければ今も取調室でひもじい思いをしていたのかと思うと軽く鬱になれそうな気はする。

 

 ―――その間、ツクヨミはしっかり朝食と睡眠をとる為にホテルに戻ってたし。

 

 マジで許さんぞお前。甘えても許さんからな。本当に。

 

 そうはいっても最終的に折れるのが自分だと解っているので絶対に口にはしない。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ー……あぁぁ……腹減った。眠い……」

 

「ほほほ、眠いのでしたら仮眠室をお貸ししますが……」

 

 あ、いや、とすぐに返答する。確かにそりゃあ眠いのではあるのだが、

 

助手(ナチュラル)にメシとか諸々頼んでいるし寝るならまた後でも―――それよりも個人的に調査の件に関してどうなっているのか色々と話しを聞きたくて」

 

 むしろそっちの方が自分にとっては重要なのだ。何せ、命を狙われる理由なんて腐るほどある。フレア団、ギンガ団、プラズマ団等の赤帽子と共に完全に滅ぼした悪の組織の残党が恨みで復讐に走るケースはあるし、他にも才能を妬んだ一般人やトレーナーがフラっと殺しに来るということも実は割とある。そしてそれ以外にもマグマ団やアクア団が自分がホウエンに来ているという事を理由に動く動機にはなるし、伝承者のヒガナだってチャンピオンやデボンの周りには恨みを抱いている。冷静になって考えれば数えきれないほど襲撃されかねない理由は思いつく。これからの活動と報復を考える為にも、相手を出来るだけ絞っておきたいのだ。

 

 そう言葉を口にすると、署長のジュンサーは少しだけ同情するような表情を浮かべてから、申し訳なさそうに声を零す。

 

「それが……実は全く解らないという事が解りまして……」

 

「……解らないという事が解った?」

 

 えぇ、と相手が頷く。

 

「昨夜の出来事前後のテレポート反応を調べましたが反応はなし、マンションのカメラを確認しましたがカメラが一瞬で同時に破壊されたせいで、一切何も映していなかったようでして。男か女か、どういう姿をしていたのか、それこそどうやって来たのか、去ったのかさえも……」

 

 本当に申し訳なさそうにそう言う署長に対して、いえ、ありがとうございますと言葉を置く。カメラが駄目ならテレポートでもないから追えない。そうなってくると、

 

「―――逆にある程度は限定できてきますね」

 

「……そうなんですか?」

 

 ですね、と言葉を置く。若干眠気で考えが怪しいかもしれないから一瞬だけ思考を加速させてメンタルをリセットさせ、しっかりと考えられるように余裕を作りながら自分の持っている情報と知識、それを組み合わせる。

 

「まぁ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね。ここ数年で俺が元は伝説種のみの技とかをポケモンに習得させられるようにわざマシン化とかダウングレード版をポケモン協会通して布教してたりしますからね―――シャドーダイブ使われたかも」

 

「本家本元は私だけー!」

 

 ばたばたと腹の上で暴れるツクヨミを片手で押さえながら考える。別に逃げる手段は複数用意できる。たとえばテレポートみたいに空間から空間へと転移する方法。そらをとぶの様にポケモンに乗って飛行する方法。それ以外にもシャドーダイブの様に影の世界に潜り込むという手段もあるし、フーパの存在を考えればいじげんホールで異次元に穴を空けてそこを通るという手段だって存在する。

 

「と、まぁ、ちょいと特殊なポケモンがいれば問題が無い訳ですが……そう考えるとマグマ団やアクア団っぽくはないですね。ぶっちゃけた話、あの二つの組織はここまで特殊な手段で移動をするような有能さはないし……となると別口かなぁ……ん……まぁ、とにかく狙いは俺の様なんで、街の方は大丈夫かと。……あ、ちなみに自分の心配とかは特に無用なので」

 

 ぶっちゃけた話、半端な実力者だと逆にこちらが気を使わないといけないので、面倒が増えるだけなのだ。ナチュラルに関しては彼一人で割とどうにでもなるからこそ同行者として連れまわしているのだ。

 

「まぁ、此方でも一応調査は続けておきます」

 

「お願いします。こっちは確認とかで予定切り上げて移動を始めますので」

 

「どちらの方へ?」

 

「それは―――ん」

 

 行き先を伝えようとしたところでコンコン、と部屋の扉をノックする音が聞こえた。その向こう側からジュンサーがナチュラルが到着したことを伝えてくれる。やっと来たか、欠伸混じりにそうつぶやくと、署長からどうぞ、との声がかかり扉が開く。

 

 ―――その向こう側にいたのはメイド服だった。

 

 いや、正確に言えば異形のメイドだった。筋肉に満ちた黄色いマッスルボディを上品なミニスカートタイプのメイド服が包んでおり、胸元は大胸筋によってはち切れそうなばかりにアピールされていた。そしてそんな服装に身を包む化け物の頭は決してゴーリキー等ではなく、正気を疑う事にピカチュウの顔をしている―――しかもなんかほんのりと化粧がかかっている感じ、ナチュラルメイクに手を出しているらしい。ミニスカートの方も見えそうで見えないラインを維持しており、てっぺきでも使ったのではないかと思わんばかりのガード力を誇っている。

 

 なんだこの生物は。

 

 そうだ、ピカネキだった。こういう生き物だったよな、そう言えば。

 

 一瞬、視界の暴力というものにピカネキの存在を完全に頭の外へと追い出してしまっていた為、完全にフリーズしてしまった。しかしよく見ればピカネキの肩の上にはナチュラルがまるで荷物の様に担がれていた。そして逆の手には風呂敷に包まれた弁当箱が入っていた。中からはまだそう時間の経過していない料理の匂いが漂ってきて、食欲を刺激してくる。

 

「いやぁ、これを待っていたんだ」

 

 ピカネキが床にナチュラルを捨てると、メイド服の内側からフリップボードを持ち出し、そこに達筆な文字を書き込んで行く。

 

【お腹が空いていると思ってお腹に優しいもので纏めました】

 

「お前は何でそうも芸が細かいんだ。まぁいいか。ここで食っても?」

 

 ピカネキを呆然とした様子で署長が眺めている。どうやらジュンサーさん署長はピカネキ・ショックを受けてしまったらしい。気持ちは良く解る。ただのピカネキでさえ既にテロの範疇に入るのに、それがいきなりメイド服という明らかな凶器を装備していると更に破壊力が高い。しかも何を間違えたのか妙に女子力が高い。今もこうやって食べ始めた弁当も普通に美味い。

 

 アルセウスよ、貴様は正気なのか。なぜお前はこんな生きるテロ生物を生み出したのか。

 

「まぁ、それを嬉々として運用しているのは俺なんだがな。オニキスさんったらお茶目ね」

 

「自分で言うな……!」

 

 床から起き上がり、たっぷり感情を込めながらナチュラルがその言葉を吐き出した。帽子を外し、軽く埃を払いながら帽子をナチュラルは被りなおすと、たっぷりと時間をとってから言葉を紡ぐ。

 

「……僕としては漸く入るべき場所に入ったかぁ、って気持ちだったんだけどなぁ……」

 

「なんだかんだでお前口が悪いよな」

 

「もし、そこに原因があるとしたらそれは間違いなく頭の悪い元凶が傍にいるからじゃないかな」

 

 ナチュラルのその言葉に視線をピカネキへと向ける。その視線を受け取ったピカネキはナチュラルへと視線を向けてから窓の方へと歩み、窓を開けてから外へと向かって痰の混じった唾を吐き出し、軽快なフットワークを披露しつつファイティングポーズを見せる。

 

「ゴリィ……テッカァ……ゴリィ……テッカァー……」

 

「本当に芸が細かいなこいつ」

 

「そんなことを言う前に止めてくれよ。数秒後に僕の頭がそらをとぶかとびはねるしそうな光景が今見えたんだけど」

 

 本当に面白いポケモンだよなぁ、とピカネキの事を評価しつつ、そして名残惜しく感じながらナチュラルからモンスターボールを受け取り、さっさとピカネキをボールの中へと戻す。どこでもツクヨミを出す事が出来ると理解された以上、ほぼ確実に街中などで襲われる事はないだろうとは思うが、それでも警戒する事に越したことはない。

 

 ―――ジョウトに預けている旧面子から誰か取り寄せるのも悪くないかもしれない。

 

 まぁ、そもそもからしてゲンシグラードンvsゲンシカイオーガvsメガレックウザという状況が発生しかねないのだ。純粋に被害と殺戮を起こすという意味ではおそらく伝説最強格の三匹を相手にするのだ、手持ちはこれだけでは圧倒的に足りないだろうとは思う。ただ今のところ手持ちだけでどうにかなっている。鍛錬の意味を含めて尖った面子にしているのだから、問題にぶち当たったからチート使う―――なんてのはちょっと、かっこ悪い。

 

 ま、それはそれとして、

 

「真面目な話、予定切り上げて明日の朝にはここ(カナズミ)を出るぞ」

 

「急ぐんだね?」

 

 そうだな、と指先でピカネキの入ったモンスターボールを回しながら答える。

 

「もうちょっとのんびり出来る旅かと思ったけど、急いで確認しなきゃいけない事が二、三個できたからな。本当は週末辺りに∞エネルギーに関してアレコレ見せて回る予定だったんだけど―――」

 

「いや、僕は無理を言える立場じゃないからね。それに君と一緒にいるだけでも結構色々と考えさせられるからね」

 

「人権とか?」

 

「それが解ってるならもう少し優しくしてくれてもいいんだよ?」

 

 弁当箱の中に残っていた最後のからあげをツクヨミが奪おうとするので、その指をピカネキの入ったモンスターボールではじきつつ素早く箸で口の中へと突っ込む。跳ね返ってきたモンスターボールを掴むと、そのまま口の中のからあげを奪おうとツクヨミが口へと向かって顔を寄せて来るのでその顔面を掴み、窓の外へと投げ捨てる。

 

 直後、天井にやぶれたせかいの出口が形成され、そこからツクヨミが再び登場する。落ちてきたところをアイアンクローで顔面を掴み、そのまま締め上げながらナチュラルに話を向ける。

 

「それでさ、ちょっとやって欲しい事があるんだよ、ナチュラル君よ」

 

「うん、それはいいけど……うん、なにかな」

 

 ある意味悟りの境地に達したナチュラルが色々と気にすることを放棄したところで、返答する。

 

「―――事情聴取とスカウトかな」




 (街中で技をぶっ放せば)そらそうよ。

 別地域だとチャンピオンの知名度は情報を集めているトレーナーやジム関係者じゃないとそこまであったもんじゃないなぁ、というのが個人的にフリーダムに動き回るアイス星人の姿を見ての事。あの残念っぷりとアイスクレイジーっぷりでバレないのか(困惑

 という訳で、カナズミとはサヨナラバイバイも近い

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